017:いざ夏の館へ
いよいよ夏到来!
王都への大移動が始まります!
太陽の光を浴びてきらきらと木々の緑が輝いている。
窓から入ってくる風で髪が靡くと、熱が逃げていくようで心地良い。
眩しい日差しと、心地よい風を身体に受けて窓辺で微睡んでいた。
黄緑色の芝生を眺めていると、大きな木の下にガイアがいる。
日陰で居眠りをしているのだろう。
ついこの前まで暖炉の前から梃でも動かなかったのに、気付けばあんな所で寝るようになったんだね。
さすがに、この日差しの中で暖炉の前にいたら熱中症になるから、当たり前といえばそこまでだが。
ライネは、暑さに強いのか普段と変わらず、ニーフと部屋の中を駆け回っている。
あまり派手に走り回ると、メリリア達に叱られちゃうから気を付けるんだよー。
「ピィッ!」
「リーン、リーン」
自分の視線を感じた、ライネとニーフが少し立ち止まって返事を返してくれる。
心の中で思っている事が通じているかは、定かではないが、了解したと受け止めておいた。
とは言え、今日はメリリアを筆頭にメイドさん達は割と忙しく動き回っているので、ライネ達に構っている余裕はなさそうなんですけどね。
家の玄関前には、ナーグローア様の黒い馬車と、お父様やお母様の馬車、それと荷馬車がズラリと並んでいるのだ。
側には、ナーグローア様の軍隊から数十人待機していて、かなり物々しい。
黒い馬車に横付けされた荷馬の側には、アナトさんが騎士達に指示を出して運ばせている姿も見受けられます。相変わらず、凛々しくてカッコいいなぁのだ。
そんなアナトさんの様子を見ていると、サーシャやリーシャもアナトさんの側に寄って何か会話をしているようです。あの二人の騎士のおかげで、お姉様と合流出来たんだよねぇ。双子の力を、この目で体験できたのはいい思い出ですよ。
そんな事をしみじみ思うのは、今日でこのお父様の冬に住むための家から、王都にある夏の家に移動する日だからなのだ。ちょっとだけ、おセンチな振りして感傷に浸っている。
女の子だからな、おセンチな姿が似合うっぽいね!
男の姿だったら、ただボケっとしてる風にしかみえない……この違いはデカいな!
「奥様、そろそろご支度をいたしますが、よろしいでしょうか」
「ええ、お願いしますわ。アリシアちゃん、お洋服を着替えましょう。こちらにいらっしゃい」
お母様がニッコリ微笑み、手招きしている。
その奥には、メリリアがテーブルに、沢山のドレスを広げて待っているのだ。
どこからそんなに沢山ドレスを用意してきたのか……。
「今日は少し暑いですわね。肩が開いているドレスを中心に選んでみましょうか。メリリア、良さそうなのを幾つか選別してちょうだい」
「はい、奥様。でしたら、ここからこの辺りがご希望に適っているドレスかと存じます」
メリリアは、お母様の希望を予め察していたかのように、既に肩の開いたドレスが選り分けられていた。うーん、流石、出来るメイドさんだ……全てを察したように準備しているんだよねぇ。恐れ入りました、本当に。
「この肩紐にリボンが付いたドレスが良いですわね。んー、でも、こちらの緑のドレスもアリシアちゃんに似合いますわね」
お母様は、自分のドレス選びにすごく真剣に向き合っている……パッと見で、自分はどれも違いが無さそうだけど、これも女性の醍醐味なんですかね。
「決めましたわ、こちにいたしましょう。髪飾りはこちらが似合いそうですわね」
悩みに悩んでお母様が決めたドレスは、薄い水色の生地で、肩紐が四つに分かれていて、胸元には大きな青い花が付いる。スカートも薄い緑色の布が巻かれていて、全体的に涼しそうな印象を受けた。
髪飾りは、これまた大きな青いリボンに、銀細工の留め金が付いている。
余所行きの装いともなると、お母様達の気合も少し違うようですね。
ぱんぱんになったおむつを替えてもらい、ドレスを着せてもらった。
うん、これはなかなか涼しいかもしれない。
特に肩が開いているので、汗を掻いても蒸れなさそうだ。
スカートの中は、おむつとドロワースの丈のせいで、あまり涼しくはなってないけど。
こればかりは、今の自分にはどうにもならん……。
「おかあさま、このおようふくはすずしくて、とてもいいです。ありがとうぞんじます」
お母様とメリリアに、着飾ったドレスを披露して会釈をする。
「ふふふ、良くお似合いですよ、アリシアちゃん。早速、エルステアとナーグローアにも見せてあげてくださいまし。きっと貴女の姿を見たら、大喜びしますわよ」
ナーグローア様は、女の子が可愛ければ何でも喜びそうだから置いといて。
お姉様が喜んでくれるか……うむ、そう考えると着飾る自分も悪くはないな。
あの可愛いく美しいお姉様の笑顔を一目見られただけで、その日一日、自分は幸せな気持ちで過ごせるのだ。
最早、自分の生活基盤と言っても過言ではない。
浮足立った気持ちを乗せて、隣の部屋の扉へ向かった。
「おねえさま、このおようふく、にあってますか?」
スカートの摘まんで広げて見せると、お姉様の顔がパッと明るくなるように柔らかい表情を見せた。
うん、ナイス笑顔です! お姉様!
「ええ、アリシアちゃんがもっと可愛く見えましたわ。素敵なドレスですのね。とてもお似合いですわよ」
お姉様からお褒めの言葉をいただき、今日の一日のお姉様エネルギーの充電が完了し大満足です。
そのまま、感激のあまりお姉様に抱き着いて、上目で感謝の言葉を口にすると、お姉様がさらに喜びの笑顔を見せながら頭を撫でてくれました。
うーん、兄弟姉妹がいなかった自分には、このひと時が本当に幸せに感じます。
お姉様は偉大ですね! ふんふん!
――しばらく、お姉様が持っている髪飾りや装飾品を見せてもらいながら、時を忘れて姉妹だけの時間を過ごした。
あ、ナーグローア様にもお披露目するんだっけ……と、気が付いた時には、出発の時間になっていた。
玄関ホールには、お父様とお母様、ナーグローア様が既に揃っていて、自分達が来るのを待っている様子だ。
「んまぁ、エルステアとアリシアは、今日は一段と素敵ですわね。もっと近くで見せてご覧なさい」
ナーグローア様は、自分達を見るや顔を紅潮させて興奮している。
素直に感情を露にして喜んでくれるのは、光栄に思わなくちゃいけないね。
「ナーグローアさま、どうですか? にあってますか?」
少しだけサービスで上目で感想を聞いてみる。まぁ、皆んな自分より目線が高いので、勝手に上目になるんですけどね、そういう気持ちって事なんですよ……と、自分に言い訳してナーグローア様の様子を伺った。
「もう、ユステア。アリシアを持ち帰ってもよろしいですか。私、我慢できませんの!」
ナーグローア様の気持ちを煽り過ぎて、相変わらずのトンデモ発言が飛び出す……どうどう、ナーグローア様、少し落ち着いてください!
「グッァ」
すかさず、アナトさんの伝家の宝刀がナーグローア様の首にヒットし、ぐったりと崩れ落ちた。
「ゴフッゥ!」
アナトさんは倒れそうなナーグローア様を背中から抱え背中をドンッ!と叩いて覚醒させたのだ……。
この流れは、いつ見ても慣れないな。
「少し戯れが過ぎましたわね。ゴホン、では、私達は本国へ帰りますの。学院の事もありますから、また近々お会いしましょう。エルステア、アリシア、しっかりと学んでくるのですよ」
気を取り直したナーグローア様は、目を細めながら自分達の頭を撫でてくれる。
「ナーグローア様、次にお会いできる日を楽しみしてますわ。教えていただいた魔法を、もっと上手に使いこなせるように、しっかり練習しておきますの」
「ええ、貴女は私の優秀な弟子のひとりですわ。しっかり復習しておいてくださいまし。次にお会いする時には、もっと複雑な魔法を教えてさしあげますわ」
お姉様が目をキラキラさせて、ナーグローア様の見つめている。
そうだよね、ナーグローア様がいる間、お姉様の魔法はかなり沢山の種類を習得したそうですし、師匠と弟子の関係と言っても過言ではないですね。
演習場が半壊するほどの魔法まで覚えたそうですし……お姉様の才能に限界が無さそうです。
「ナーグローアさま、たくさんあそんでくれてありがとうぞんじます。さびしくなりますけど、おからだにきをつけてください」
「んもぅ、何て立派な挨拶をするのでしょう。貴女も、笑顔を絶やさずに元気に過ごすのですよ。寂しくなったら、ユステアに頼んで手紙を出してくださいね。直ぐに返事を出しますわ」
少し膝を曲げて、視線を下げてくれるナーグローア様。
今回の旅と、家の滞在中には、初めて会った時以上の思い出をナーグローア様と作れた気がする。
しばしのお別れとはいうものの、心のざわめきは払拭できそうにない。
そのまま、ナーグローア様の首に抱き着いて、少しだけ涙を流した。
「ふふ、まだまだお子様ですのね、アリシア。女の子は人前で涙を見せてはいけませんよ」
ナーグローア様は、自分を抱き締め返して優しく髪を梳くように頭を撫でてくれる。
ほんの少しの間、ナーグローア様の匂いを記憶に留めるために、背一杯力を入れなおして抱き着いた。
「では、そろそろ出発といこうか。ナーグローア、息災でな。次は夏の館にも来るのであろう? 王都の旨い珍味を用意して待っているぞ」
「あら、随分と気が利くようになったのね、ディオス。そうね、夏の館には一度お邪魔したいと思ってましたの。こちらの処理が終わったらお伺いいたしますわ」
ナーグローア様が、立ち上がり少し背を反ってお父様と向き合う。
そっかー、夏の館でも会えるかもしれないんだ……その言葉に少し胸が弾み、お姉様と視線を合わせて喜び合った。
「ナーグローア、くれぐれも無茶な事はしないでくださいね。一人で全部やってはいけませのよ。私達にも報告をちゃんとしてくださまし」
「ええ、ユステア。今回の事は、私だけでは難しい事は理解してますの。安心してくださいまし、昔の私ではございませんことよ」
お母様は、ナーグローア様の手を取り、笑みを見せずに真剣な顔で見つめている。
「だ、だいじょうぶですよ、ユステア。本当に、無茶はしませんから……もう」
ナーグローア様は、顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。
おぉ? なんかナーグローア様が可愛い顔になっちゃったよ? お母様、凄いですね!
完全に乙女の顔になったナーグローア様に、なんだかちょっと嬉しく思ってしまった。
ふんふん、美人が乙女な表情を見せると、ここまで強力ですか……これは貴重な場面です。
二人の表情を交互に眺めながら、感じ入っていた。
――ナーグローア様が国に帰る方向と、自分達が向かう道は方向が異なる。
先に、ナーグローア様の一団を見送った。
祈念式から護衛騎士に就いてくれていたサーシャとリーシャは、本人の希望もあって、そのまま護衛を継続して行うそうだ。
二人とも、すっかり我が家の一員として溶け込んでいるので、メリリアも直ぐに承諾してくれた。
まずは、叔父様の領地へ移動し、数日停泊してから王都へ入る。
ママ母様やグレイも、この機会に夏の館へ移動するそうで、かなりの人数が移動する事になるのだ。
各領地からも領主一族が王都に集まってくるようだけど……領主不在で大丈夫なのかね?
子供がそんな心配してどうするって感じだけど。
さり気なく、お母様に聞いてみると、各地の領主様には副領主がいるそうで問題ないんだとか。
考えてみれば当たり前の事だよね……。
つまらない疑問は、ポイっと投げ捨てて王都の家や街並みに思いを馳せる事にした。
あと、成長したであろう、グレイの事もね。
叔父様の家に行く前に、以前に一度だけ立ち寄ったマシスの街で一泊するようです。前回は、夜中に市長の息子が寝室に立ち入りそうになった、怖い思いをした街だ。
そんな不安を感じている事を、メリリアが感づいて助言してくれた。
「アリシア様、マシスの市長は既に代わっていますのでご安心ください。現在の市長はレイクリースでございます。彼の父は、ニーチェの前に市長を勤めてございました」
ニーチェと言えば、小太りの市長だっけ……確か、イケメンエルフの養子を二人抱えていたんだよね。
そっか、あの後、お父様が凄い怒ってたもんね。多分、ニーチェさんは更迭されただろう。
ここら辺は、大人の事情だろうから深くは聞かないようにした。
何でも聞きたがる子供は、薄気味悪く感じてしまうだろうし。
マシスの街には少し夜が訪れる間際に到着。
夏も近いせいか、待ちを行き交う人も少し薄着で明るい色の服を纏っていた。
お店や酒場らしきところでは、陽気な人達が、木のグラスを高々と掲げて談笑しているのが目に入る。
お父様の領地の人達は、皆んな幸せそうで良かったよ。
「がはは」と笑いながら、偶に仕事をほっぽって自分と遊んでくれるお父様だけど、ちゃんと領主としての仕事はしているようですね。
この街の雰囲気を見てお父様を誇らしく感じます!
「領主様、無事の到着何よりでございます」
市長の家に到着すると、レイクリースさんとレイアスさんが扉の前でお父様を出迎えてくれました。
レイアスさんは、自分と同じくらい小さいからさん付けもないか……。
彼は自分に視線を送ってきたので、ニッコリ微笑んであげたら、顔を赤らめてもじもじし始めた。
おぉ、あんな小さいのに恥ずかしがるのかい?
なかなかなオマセさんですね。
マシスの街では、以前のような問題もなく一晩明かして叔父様の家に出発した。
もうちょっとゆっくりする機会があれば、レイアスとも遊んでみたいな。
「こんどきたときは、ゆっくりあそべるといいですね、レイアス」
彼の手を取って、ちょっと首を傾げて別れの挨拶をしてあげたら、めっちゃ顔が紅くなり黙ってしまった。おふっ、ちょっとサービスが過ぎましたかね……いけない幼女だぜ……ははは。
この調子で、グレイにも接したらどんな顔をするのか……。
馬車に揺られながら、対面する時の接し方を模索し始めた。
ナーグローア様としばしの別れ。
ちょっと悲しいけど、また会えるよね?
そして、グレイとは一年振りの再会かな。
どれだけ成長したのでしょう!
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