014:規格外のボーリング
丸い物は見つかりました……?
稀少な獣から取れた魔石、複数。
お父様の武器からもぎ取った鉄の塊、ひとつ。
階段の装飾で使われていた金色の宝石、十個。
たぶん何かの魔物の頭蓋骨、たくさん。
お父様を筆頭に、家中探して見つけた丸い物が玄関ホールに集められた。
どれも、完全な丸にはなっていない。
「どうだ? アリシア! 其方が望む丸い物がこんなに集まったぞ。これで十分であるか?」
お父様の問いかけに首を振る。
これでは転がした時に、想定しない転がり方をしてしまいボーリングにならない。
ここは心を鬼にして、再度注文を付けてみようと思った。
「おとうさま、ここのなかには、ありませんでした。もっと、きれいなまるいものがほしいのです。」
「ふむぅ、ここに集めた物は確かに綺麗とは言い難いな。丸い物を使って何をしようと思ったのだ? 其方の思い描く物が見つかるやもしれぬ」
お父様が顎を撫でながら、自分へ視線を向ける。
ボーリングと言っても通じないだろう。皆んなに伝わるように、かみ砕いて説明をしてみる事にした。
玩具箱から持ってきた、ピンになりそうな細長い積木を三本立てて置く。
とりあえず、一番転がりが良さそうな金の丸い装飾を手に持った。
「ここから、まるいものをころがして、つみきをたおすあそびです」
簡潔な説明をして、積木から少し離れて金の装飾を転がしてみる。
触ってみるとでこぼこしているので、少しカーブを思い描いて転がしてみた。
「ははは、アリシア。それでは積木には当たらぬぞ?」
お父様が、金の装飾が積木から大きく外れた事に笑ってツッコミを入れてくる。
ころころと転がる金の装飾だったが、予想通りでこぼこによって軌道が変わりだした。
「おぉ? アリシア、軌道を読んでおったか。これはたまげたぞ!」
軌道が変わり積木へと向かって行く金の装飾を見て、お父様が驚きの声をあげる。
ふふん、そうでしょう、そうでしょう。
逆方向に曲がって行かなくて本当に良かったよ……。
と、安心したところで、またしても金の装飾のでこぼこが軌道を変え、積木の横を逸れて行ってしまった。
ノー! 何故そこで曲がりますか! せっかく良いところが見せれたのに!
「おぉ! そこで曲がったか! これは流石に予想できぬな! ふむ、アリシアのやりたい事は理解したぞ。これは、面白そうじゃないか。綺麗な丸だな、ユステア達にも相談して探してみせよう」
積木の直前で逸れた金の装飾のおかげで、お父様が少し興奮を覚えたようです。
思わぬところで、お父様の前面協力を得られたので結果オーライですね!
探し出してもらった物が使えない事を理解してもらったので、後片付けに自分も参加して昼食を取る事にした。
出したら片付ける! これ、基本ですよね!
メリリアの片づけを手伝っていると、談話室から、お母様とナーグローア様が出てきた。
お母様はいつも通りにニコニコ笑顔だが、ナーグローア様の顔色は良いようには見えない。
背を少し丸くして、肩を落としている。
お母様とのお話は、ナーグローア様にとってあまり良い内容ではなかったのかもしれない。
ナーグローア様のしょんぼりしている様子は、見ていて居た堪れなかった。
「ナーグローアさま、ごきぶんがすぐれないのですか?」
少しでも励ましになれればと思い、側に駆け寄り声を掛ける。
「ええ、少し疲れただけですわ。アリシア、心配させてしまってごめんなさいね。」
自分の言葉を聞いて、ナーグローア様は、少し胸を張って息を吐くといつもの威厳のある姿に戻った。
これですよ、ナーグローア様が落ち込んでいる姿は見たくないのですよ。
「それよりも、先程からこちらが騒がしかったようですけど、何事ですの?」
お父様の声が大きかったので、きっとボーリングの実証実験の声が聞こえていたのかな。
せっかくなので、ナーグローア様にも披露しようと考え、手を取って片付けた積木まで案内した。
ナーグローア様に、積木を倒すところを見せたい一心で、「今度は失敗できない!」と意気込み金色の装飾を転がす。
今度の軌道は、でこぼこの予測不可能な動きを想定し、最初より少しカーブを狭くして転がしてみる。
「まぁ、このような遊びをアリシアは考えたのですね。的当てと違って難しそうですわ。」
反応は上々のようで、ナーグローア様も金色の装飾の軌道を目で追っていた。
今度は、コツンと積木に金の装飾が当たり、一つ倒れると、後ろに置いた積木も一緒に倒れてくれた。
ふふふ、今度は成功です! どうですか、ナーグローア様!
「おぉ、このように連続で倒れるのも良いのか、アリシア? ふむ、ますます我も試してみたくなったぞ。一度、我にやらせてみてはくれぬか?」
ナーグローア様の反応より早く、お父様が食い気味で声を掛けてきた。
この連続で積木が倒れるのが醍醐味なのですよ、お父様。
お父様がキラキラ笑顔でこちらを見てくるので、そっと金の装飾を手渡してあげる。
でっかい手の平に金の装飾が乗ると、物凄く小さく見えた。
メリリアが積木を立て、準備が整うと、お父様は勢い良く金の装飾を投げよう腕を振りかぶる。
「おとうさま、うえからなげてはだめなんです。ゆっくりころがしてください」
慌てて、お父様を制止する。
ちょ、お父様、今、全力で投げようとしましたよね!
そのまま投げたら、積木ごと粉砕されかねないのですけど!
「おぉ? 投げ方にも決まりがあるのだな。其方を真似て、下から転がせばよいという訳か。理解したぞ、アリシア。次は大丈夫である」
お父様は、胸に手を当てて答えると、すぐさま、積木を睨むように相対した。
こんな、思いつきの遊びでめちゃくちゃ真面目な顔をしてますけど……大丈夫かな……。
「ゆっくりだな……」
ぼそぼそと呟きながら、そっと、指先から金の装飾を離し転がす。
力任せに転がしていないので、金の装飾のでこぼこが引っ掛かり、積木に向かわず逆方向に曲がっていった。
「ほほほ、ディオスは、アリシアには及びませんのね。大人を負かしてしまうなんて、アリシアは本当に優秀ですこと」
ナーグローア様が目を細め、口の端を上げてお父様を笑っていた。
さっきまで青ざめていた顔を打って変わり、物凄く嬉しそうな表情をしているのですが。
「はは、まだ我は本気をだしてはおらぬぞ。これは試作品であるからしょうがないのだ。のう、アリシア?」
「はっはい! おとうさま。まだ、ちゃんとできてないのでしょうがないのです」
「あら? 子供に気を使わせるなんて、いけない大人ですの」
お父様の言葉をフォローするように説明した事が、返ってナーグローア様を刺激してしまったようです。その後、しばらくお父様はナーグローア様に弄られてしまった……。
皆んなが揃ったところで昼食の席に向かう。
昼食の席では、お父様がお母様に綺麗な丸い物がないか相談していた。
「そうですのねー。先ほどの遊びには綺麗な球が必要なのね。でしたら、ゴーレムの素材で球を作ってみましょうか。それでしたら硬さもありますし、ディオスが投げても直ぐには壊れませんわ」
なるほど、ゴーレムの素材なら、硬さも大きさも丁度いいですね!
流石、お母様ですよ!
二人の会話を嬉々として聞いて、ふとピンも作れないかと思いたった。
「おかあさま、つみきでない、たおすものもつくれますか?」
「ええ、出来ますわよ。どんな形が良いのかしら?」
ピンになりそうな造形物ってなんだろう、しばしご飯を食べる手を止めて考えてしまった。
とりあえず、細長い円柱状の物に獣を模して作って貰えないか聞いてみると、あっさりお母様に快諾いただけた。
「天使や、竜なんかもいいかもしれませんわね。いろいろ作ってみましょう」と、お母様もちょっと乗り気になってくれたようで、昼食の席がボーリングの話で盛り上がった。
だんだん、自分が知っているボーリングからかけ離れていくような……。
――昼食後、お父様の気持ちの昂ぶりは抑えられないようで、お茶の時間を割愛して、お母様のゴーレム部屋に移動した。
最早、誰もお父様を止める事は出来ないようです。
ボーリングの球とピン作りは、お父様とお母様が担当する事になりました。
その間、お姉様は隣の演習場で、ナーグローア様に魔族の魔法を教えていただくそうです。
どちらも気になるのだけど、残念ながら、自分はどちらにも参加させてもらえないのだ……。
このまま待っていると、いざ遊ぼうと思った時に体力の限界がきてしまうとお母様に言われ、メリリアにおしめを替えてもらい、しばしお母様のゴーレム部屋のソファでお昼寝するのです。
お父様とお母様の成果を心待ちにしながら、夢の中へと入っていった。
二人が造る物ですからね。多分凄いカッコいいボーリングになると思うのですよ!
――お母様の匂いで目が覚める。
少し喉が渇いているので、薄目を開けてお母様の胸を弄りおっぱいを探した。
「おはよう、アリシアちゃん。お乳はこちらですよー」
お母様の声が後ろから聞こえてくる……と、いう事は?
「あら、ユステア、もう少し楽しみたかったのに、残念ですわ」
目の前の胸は、ナーグローア様のものでした。
「あわわ、ごめんなさい、ナーグローアさま」
「良いのよー、ほらもっと触ってごらんなさい。ユステアより大きいですのよ。お乳が出ないのが残念ですわ」
ギュッと息を吸うのもままならないくらい、ナーグローア様の胸に顔が押し付けられる。
柔らか……苦しい……。
「ナーグローア、その辺でお仕舞にしてくださいまし。アリシアちゃんが苦しそうですわ」
ナーグローア様の熱烈な抱擁で、顔が火照ってきてしまった。
少し緩んだ腕をすり抜け、お母様へ駆け寄る。
「ふふふ、こちらがお母さんのおっぱいですわよー。いっぱいお飲みなさい」
ぽかぽかした顔に構わず、お母様のお乳を貪るように飲んだ。
寝起きで、ナーグローア様のおっぱいをまた揉んでしまうとは……あの感触は癖になりそうですよ。
それにしても、ナーグローア様からお母様の匂いがしたのですけど。
また、お母様の香水でも付けてたのかな……紛らわしいです!
お母様からお乳をいただいている間、テーブルを見ると二十近くの小さいゴーレムが並んでいた。
側には、台座に大中小と三つの大きさの、曲線の美しい球が置いてある。
おぉ? まさかここまでの完成度とは!
流石、お父様とお母様です。素晴らしい器用さですね!
はっ、早く遊んでみたいです!
今日は、ボーリングで遊びたい思いが勝り、お乳もそこそこに切り上げた。
「おかあさま、できたのですね! わたしのおもったとおりのものです!」
「ふふ、喜んでくれて良かったですわ。早速、遊んでみましょうね。ナーグローア、せっかくですから貴女も一緒にいかがです?」
「ええ、ご一緒させていただきますわ。ディオスをこてんぱんにして差し上げますの。おほほほ」
手の甲を口に当てて高笑いするナーグローア様。
お父様とナーグローア様のボーリング対決ですね!
これは、見ものかもしれません!
お母様に小さい球を渡され、手でその感触を確かめた。
これは、まごう事なき球です! 「よくこんな物が造れたなぁ」と感心と喜びで顔がニヤケているのを感じる。
大事に球を抱えて、お母様とナーグローア様と共に玄関ホールへ向かった。
「おぉ、アリシア、起きたか! どうだ、その球は? よく出来ているであろう?」
「はい! おとうさま、ありがとうぞんじます。これがほしかったのです!」
早速、メリリアとリンナに魔物や天使が彫り込まれたゴーレムを並べてもらう。
魔物のゴーレムは、全て二本足で立つように、前足が上を向くポーズで造られていた。いや、凄いダイナミックな彫刻なんですけど……これをピンにして良いのだろうか……。
天使と、ドラゴンの彫刻は一回り大きく造られている。
むぅ、これはどうやって並べたいいのだろうか……。
しばし、ゴーレムの目で睨めっこ。
とりあえず、中心に天使か、ドラゴンのどちらを設置して、ボーリングのように三角を描くように魔物を配置してみた。
美術館にあってもおかしく無いような彫刻が、ずらりと並ぶ光景は異様です。
これを今から、球を転がして倒すわけですが……。
「準備はできたようですね。アリシアちゃん、試してみてくださいな」
お母様は、優しく自分の背中を押してくれた。
と、同時に、何故か自分の目の前に、風の盾が現れる。
「おっ、おかあさま? これは?」
「ほら、ゴーレムが球をはじき返しちゃうと危ないでしょう。念のためですのよ」
ちょ、待って? あの並んでいるゴーレムは普通に動くゴーレムなの?
リクエストと全然違う物が、出来上がっていますけど!
「アリシア、早く試してみるのだ。次は、我の番であるぞ」
驚きを隠せない自分を無視して、急かすお父様……もう、どうなっても知らないですよ……。
両手で持った小さい球を、少しだけ股の下まで勢いを付けて真っすぐ転がした。
転がる球が、直立するゴーレムに近づいて行くと……青い光を帯びてるんですけど!
いやいや、そんな機能はボーリングには無いから!
心の中で突っ込みを入れながら、ゴーレムとの接触を固唾を飲んで見守った。
球が接触するまであと少しといったところで、ゴーレム達が一斉に動き始める。
あはは、本当に動くゴーレムだよ。誰ですかこんなギミック付けたの……驚きと呆れから口が開きっぱなしです。
その瞬間、球がゴーレム達に接触し青い火花が散り目を閉じてしまった。
ガガガ、ゴゴッ!
硬い物がぶつかり合う音が玄関ホールに響く……うん、音だけはボーリングらしいですね。
球の軌道上に立っていたゴーレムは、パタリと倒れている。
どこから破損している様子はない……奥でひとつだけゴーレムが揺ら揺らしている。
片足が浮き上がり、そのままパタリと倒れるゴーレム。
なんかボーリングのピンらしい倒れ方で、思わず笑ってしまった。
まさか倒れる演出まで、ゴーレムの機能に付いているのですかね?
「ふふ、どうかしらアリシアちゃん。よく出来ているでしょう。これなら、子供でも危なくないと思うの」
いや、さっき球をゴーレムが弾き返すって言ってましたよね、お母様?
目を見開いて、お母様を見つめる。
「でも、私かメリリア達がいないところで遊んではいけませんよ」
ですよね……違う意味で意図を察してくれて何よりですよ……。
その後、お父様が続きボーリングを楽しむ。
大きい球がゴーレムに勢いよく向かって行く。その瞬間、天使の彫刻が翼を広げ剣を振りかぶると、バッドを振るように球を弾き返した……弾き返したんですよ!
弾き返された球は、お父様目掛けて飛んでいく。
バッチッ!
と、ちょっと痛そうな音に目を瞑ってしまった。
進めを開けてお父様を見ると、シューッっと音を立て手から煙が出ている。
手の中には、弾き返された球が収まっていた……ねぇ、なんで受けた方の手から煙でてるんですかね?
これは、直撃したら……自分、死にますよね。
規格外の家族ボーリングはこの後、ナーグローア様やお母様、お姉様、さらにはメイノワールやメリリアも参加し、夕食まで玄関ホールは歓喜の声で満たされた。
うん、うちの家族が絡むと、ボーリングも別物になるんですね。
これはこれで良かったかな。
新しい遊び方を、皆んなで作れたんだし!
ボーリングでお父様とナーグローア様が白熱している様子を眺め見ながら、心が温かくなり幸せを感じた……。
思いつめるナーグローア様も、
ボーリングで白熱ししばし時を忘れたようです。
戦うピン達に二人とも苦戦。
もしかして、球の大きさに秘密が?
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