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013:魔王の提案 その2

魔王のもうひとつの提案とは?

 ナーグローア様が、久々に見せる真面目な表情。


 いつもの女の子を狙うような表情ではなかった。


 そんな緊張が漂う中、テーブルの向こうで待機しているメリリアが、カートを押してこちらにきた。


 そのままテーブルの側にカートを止めると、無駄の無い動きで、テーブルの母様とナーグローア様のカップを受け皿と一緒に取り、お茶を入れ替えていく。


 何か本で知った事があるが、話の内容が変わる時にはこうして入れ替えるんだっけ?


 あまり詳しく覚えていないけど、貴族の習慣だとかなんとか……本当に、自分の知識は曖昧なところが多すぎて、あまり役にたってないな。

 

 メリリアが、温かいお茶を入れ替えテーブルから下がると、お母様とナーグローア様がひとくちお茶を口にする。


 カップを受け皿に置いて、ナーグローア様が改めてお母様を見て口を開く。


「ユステア、エルステアとアリシアについて、お伺いしたい事がございますの」


 ん? お姉様と自分の話なの?


 あの力の話はお父様達の箝口令が出ているので、お姉様のいる前は話はしないと思うけど。


 少し不安に思い、ちらりと、ナーグローア様に視線を向ける。


 彼女は、自分の視線を感じてか、こちらを見て口の端を上げて微笑みを見せた。


 その笑顔から、今回の内容には関係ない気がする。

 

「以前にもお伺いした事はございましたけど、ここ数日、二人と共にして確信しましたの。アリシアはまだ幼女ですから致し方ございませんけど、エルステアは、聡明な上に美貌も兼ね揃え、日常の立振る舞いだけでなく、知識量も魔力量も同世代の子に比べると抜きんでておりますわ。私、彼女の将来を考えると、このままサントブリュッセルに留めておくのは惜しいと思いましたの」


 うんうん、お姉様って凄いよね。


 流石、ナーグローア様! 良く見てらっしゃる!


 でも、サントブリュッセルから出た方が良い的な話には……ちょっとそれは無いかな。


 お姉様と離れ離れになるなんて、考えたくありませんので!


「ナーグローアは、そこまでエルステアの事を見ていてくださっているのね。ええ、確かにエルステアは、同世代の子供達と共に学んで得られる物は何も無いでしょうね。より高度な教育と同水準の子供が集まる場所で学ばせる方が、彼女のためには良いと考えます。」


 この話は、以前にも聞いたような気がするな。


 幼児院じゃなくて、お母様とナーグローア様が通った学校の話に繋がるのかな?


「そうお考えになって、敢えてサントブリュッセルの幼児院に通わせるには、他に理由がございますのよね。幾つか思い当たる節もございますけど、私で力になれる事がある気がしますの」


 ナーグローア様が、キラキラした目で前のめりでお母様を見つめる。


 その表情は、「何でも私を頼ってくださいまし」と言わんばかりに笑顔なんですが。


 嫌な素振りも見せず、微笑み返しているくらいだし、お母様も、ナーグローア様の好意を受け止めている感じがする。


 お母様はお茶を一口飲み、ゆっくりカップを置いて、ナーグローア様を見つめた。


 唇がほんのり濡れた柔らかいお母様の口が開く。


「ナーグローアと私が通った、聖霊院はとても素晴らしい教育施設でしたわね。本来であれば、エルステアも通わせあげたいと考えてはいましたのよ。ですが……今は、あまり良い話を聞きませんの。ナーグローアはご存じないかしら」

「ユステアと過ごした聖霊院の思い出は、私にとっては王国の宝以上の物ですもの。本当に良い場所と時間でしたわね。もう、数百年前の話ですけど、貴女と共に学んだ事は、今でも鮮明に覚えてますわ。」


 ナーグローア様は、お母様を見ながらうっとり目を細めて見ているが、心ここにあらずといった感じで、回想に耽っているようだ。


 アナトさんが、咳払いして意識を戻すナーグローア様。


 ちょっと、顔が紅くなってますけど、何を思い出したんでしょうね。


 お母様を見る目が、さらに熱くなっている気がしますよ?


「失礼しました、ちょっと昔を思い出してしまいましたわ。それで、ユステアが懸念する聖霊院の現状ですけど、私、存じあげませんの。アナト、貴女何かご存じかしら?」


 首を傾げたナーグローア様を見て、アナトさんがスッと一歩前に出てきた。


「主に変りまして、私が知っている情報をお伝えしたく思います。よろしいでしょうか」

「ええ、私達が知り得る情報を補完する上で重要ですわね。教えてくださいまし」


 キリッとした表情で、ナーグローア様とお母様に向き合い、アナトさんが語り始める。


「我が国の諜報機関からの知らせですと、ここ数年で我々の知る聖霊院とは大きく異なっているようでございます。現在、高名な指導教官は一人も残っておりません。後任の指導教官においては、疑問を呈する授業が多いと報告にございました」


 あらー、ストライキか何かが起きて、有名な先生が居なくなっちゃったって感じかな?


 学校が崩壊しちゃったような印象を受けますね。


 お姉様、通わなくて良かったんじゃないかな?


「んまぁ、それは何時からの話ですの、アナト? では、魔法学や薬草学を押していただいた教官は、どしているのかしら?」

「ナーグローア、そこからは私が話しましょう。アナト、報告ありがとう存じます。私達が知る情報も、良かったらお持ち帰りくださいまし」


 アナトさんは、お母様の言葉に頷くとナーグローア様の後ろまで下がっていく。


 本当に女性なのに、何であんなにカッコいいんですかね……動きに無駄も無いし、余計な言葉をあまり言わない。


 アナトさんの動作を目で追いながら、改めて関心してしまった。

 

 クール系女子って良いな!


「ナーグローア、ここからの話には少し覚悟が必要ですの。エルステア、アリシアちゃん、お母さん達はちょっと難しい話をしますので、お部屋にお戻りなさい」


 おっと、ここからの話は聞かせてもらえないのですね……聖霊院で何が起こったのか興味あったんだけどなぁ、残念だ。


 リリアとリフィアに促さるように、お姉様と部屋を出る。


 部屋の扉が閉められ、二階の部屋に上がっていくと、さっきまでいた談話室からナーグローア様の憤慨した声が聞こえてきた。


 よっぽどの話なのだろう……。


 子供の自分が首を突っ込んではいけない話だと察し、それ以上は推測しない事にして部屋へ向かった。


 部屋に入ると、暖炉の側で寛ぐガイアと、側でじゃれついているライネとニーフがいる。


 自分達を見かけたライネは「ピィッ!」と人鳴きして、よたよたとこちらへ向かったきた。


 丸々と羽毛で包まれたライネの歩く姿が、何とも可愛らしのだ。


 お姉様に抱きかかえられて、ご満悦のようです。


「ライネはグレイとおあいするのは、はじめてになりますね。きっとおどろくとおもいます!」

「ええ、ライネの可愛さに、見惚れてしまうかもしれませんわね」

「ピィッ!」


 ライネに続いて、ニーフもリーンと音を鳴らして、お姉様を一周すると肩に乗った。


 ガイアだけは、暖炉の前から微動だにしない。ちらりとこちらを見て、尻尾をパタッパタッとさせる姿は「はよ、こちらへくるのだ」と言わんばかりの様子だ。


 お望みとあらば! と、スカートを摘まんでガイアに駆け寄り、お腹目掛けて跳びこんであげた。


 女児の体当たりに怯むガイアではない。


 毛並みに埋もれた自分は、大きくてふさふさした尻尾で覆いかぶせれ、もふもふに包まれてしまった。


 このまま、ガイアと寝っ転がっていたら貴重な時間が……と、心は抗おうとしたが身体は言う事を聞かない。そのまま、毛並みに身体を預けもふもふを堪能した。


 ――気が付けばガイアにくるまれたせいで、うたた寝してました。


 口元の涎を拭って、辺りを周囲を見回すと、ニーフを追いかけて走り回るライネがいる。


 まだ飛べないライネは、とてとてと歩き回るだけだ。


 ライネも、いつか凄くデカくなって飛べるようになるんだよなぁ。


 お姉様と背中に乗って、遠くまで行けたりするのかな? と、ライネの姿を見ながら、まだはっきりしない意識の中、妄想に耽っていた。


「アリシアちゃん、お目覚めですのね。ガイアが動けなくて震えてましたのよ」


 お姉様の言葉で、ガイアを見ると、こちらに視線を向けて顎を上げる。


 ん? そこを早くどけって事かな? まだ、横になってても良いのにと思いながら、ずっしりした腰を持ち上げて立ち上がった。


 自分が立ち上がるのを感じて、ガイアは直ぐに部屋の外へ出て行く。


 あー、ガイアは用を足したかったのか、これは悪い事をしちゃったね。


「アリシア様、お召し代えをいたしましょう」


 あ……はい、自分もですよね。


 リリアの招きに従い、おむつを替えてもらうためソファへ移動し、仰向けで待機した。


 ガイアに寝っ転がっていた時間は、そこまで長くはないようで、まだ昼食の時間ではなかったようです。危うく、午前中を睡眠で消化してしまうところだったよ。


 さっと、リリアにおむつを替えてもらい、残りの時間を有意義に使うために立ち上がった。


 お姉様は刺繍に集中しているので、邪魔はできないよなぁ……。


 とりあえず、玩具の入った箱を漁りながら、何をして遊ぶか考える。


 ボールみたいな物があれば、置物を立ててボーリングで遊べそうだな。


 丸くて自分でも投げられそうな物はないだろうか……玩具箱には投げ輪はあったけどボールの様な物は入っていない。


 んー、どこかに無いかなと思い、部屋の中をうろうろして探してみる事にした。


 箪笥の中や、衣装箱の中、化粧台の上、ベッドの下やら見たけど、やっぱり無い。


 部屋中の探索が終わり、該当する物はここには無い事がわかり肩を落とした。


「アリシア様、先程からこの部屋を調べているようでございますが、何かお探しの物がござますか?」


 あっちこっち開けたり締めたりしている様子を見かねて、リリアが心配そうに声を掛けてくれた。


 もしかしたら、リリアなら何か知っているかもしれない!


「こう、まるっこくて、てでもてるものをさがしてます」


 自分の小さい手を重ね、ボールと分かってもらえるように身振り手振りで表現して見せた。


 リリアは首を傾げて、考え始める。


 その様子を見て、お姉様もこちらに来て考えてくれた。


「丸い物であれば良いのですか? そのような装飾品は、見かけた事がございませんわね」


 お姉様とリリアが、あれこれ思案していると、リフィアも仲間に加わり該当する物が無いか探してくれる事になった。


 気が付けば、丸い物探しの連鎖が、メイノワールさんにも伝わり、料理人の人達から下働きの人まで家中に拡がっていった。


 あれ? 何か大事になってませんか?


 二階の階段へ出てみると、皆があちこちで探し始めているのですが。


「おぉ、アリシア! 何か面白い物を探しているそうだな! 我も参加するぞ! 何が欲しいのか説明するのだ」


 ドカドカと駆け上がり、自分の元に向かうお父様。


 ニカニカとご機嫌の笑顔を見せている。


「このように、まるくてころがるものがないかとおもいまして……」


 流石に、家中巻き込んでの大捜索になってしまったので、これ以上、皆んなを巻き込むのが申し訳ないと感じ、言葉尻が弱くなった。


「ほほ、丸い物が欲しいのか。して、それを何に使うのだ? ん、まぁ良い。先ずそのような物がないか探す事を専決にしよう」


 お父様は、自分をひょいっと抱き上げて肩に乗せる。


 いきなり視線が上になり、落ちる恐怖を感じて少しちびった……言っても、降ろしてくれそうにないお父様だ。頭と髪の毛をしっかり掴み、振り落とされないように必死にしがみ付く。


 まっまさか、ボーリングをやろうと思った事が、ここまで大袈裟な事態に発展するとは……。


 想定外の大捜索。


 未だに丸い物は見つかっていない……この世界に丸ってないのか?


 お父様の肩の上で命の危険を感じながら、昼食まで捜索は続いた……。

ナーグローア様のもうひとつの提案の

行方末は分からず仕舞い。

子供が立ち入れない事情は明かされるのでしょうか……。


そして、丸い物が簡単に見つからない!

大騒動の行方は如何に?


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いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も非常に助かっております!


表紙作業快調です!ご期待ください!


読んで面白いと感じていただけましたら、

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