012:魔王の提案 その1
寝室でナーグローア様に振り回された後、朝食の席では、お姉様がお父様に振り回されてしまいました。
「がははは、我が娘は本当に美しく育っておるな! エルステアも、いよいよ幼児院に入学か。たくさん友達が出来るとよいな! いや、其方であれば、良き友を見つけられるであろう!」
キラリと白い歯を見せ大笑いしながら、お姉様を肩に乗せて跳びあがるお父様。
「おっお父様、ちょっと激しいですの。目が回ってしまいそうでっす」
お姉様の悲鳴にも似た声に耳を貸さず、いつも以上に、お父様がはしゃいでいます。
一緒に跳びあがるお姉様が、振り落とされてしまわないか心配だよ。
「ディオス、そのように騒ぎますと、エルステアのお洋服が乱れてしまいますわ。少し落ち着いてくださいまし」
流石にお母様も、お姉様が目を回しているのを見て声を掛けるのだけど、なかなか興奮が冷めないようで、絶賛継続中だ。
浮き上がる度に、お姉様のスカートがぴらんぴらんと捲れあがって、可愛いおパンツが見えそうなんです。いつもの裾の長いスカートではないので、今日は油断すると見えちゃうと思いますね。
ひらひらと揺れるスカートに、自然と視線を向けてしまう癖は未だ健在。
盗撮の趣味は無いが、駅の階段でスカートが揺れると目で追ってしまう癖が男の時にあった。
揺れるスカートに、女性の魅力を感じる奴なのだ。
なるべく視線がいかないように意識していたなぁ……と、しみじみ思う。
そう思いながら、自分のスカートを見るのだが、やはり当事者が履いてもピンとこない。
客観的視点の重要性に気付き、跳び上がり揺れるお姉様のスカートをしばし眺めていた。
あれだよ、あれ。あのフワッと浮く感じ!
お姉様! とても可愛いです!
ほどなくして、お姉様が開放された訳だが、すっかり血の気が引いてしまって青い顔になっていた。
「ディオスは、もう少し女の子の扱いを覚えた方がよろしくてよ。エルステアが、こんな顔色になっているではありませんか。本当に、昔から粗雑なところは変わらないのですね!」
お姉様は抱きしめるナーグローア様が、ぷりぷりとお父様に怒りをぶつける。
うん、お父様はちょっと前より加減はするようになった気がするけど、まだ足りてないって事ですね!
「おっおう、エルステアすまんかった! 其方の成長を喜び過ぎて、加減が足りなかったようだ。本当にすまない。」
お父様は、お姉様の前に行き、片膝をついて心配そうな表情で様子を伺う。
「私、大丈夫ですよ。お父様に、こんなに喜んでいただけて、嬉しく思いますわ」
お姉様は、なんて優しいのでしょうか!
あれだけ振り回されても嫌な顔ひとつしないで、お父様の気持ちを有難く受け止めるなんて。
うーん、五歳とは思えないくらい、よく出来たお姉さんですよ。
純粋な心を持つお姉様に、少し引け目を感じてしまった。
「ふふ、エルステアは良い子ですのね。ディオス、これからは気を付けてくださいまし!」
ナーグローア様は、お父様をひと睨みしてお姉様を伴って朝食の席に着く。
「うっうむ、精進しよう。これから娘達が成長する度に、我を失って喜びそうであるからな」
――久しぶりに自分の家でご飯です。
今日は、我が家の料理人達が、自分達の無事の帰還を祝って、腕を振るって料理を作ってくれたようです。
旅先の料理も美味しかったけど、やっぱり家族皆んなと揃って家で食べるご飯が一番ですね!
朝食の席では、今日からの予定をお父様とお母様から教えられました。
お姉様は、午前中は家庭教師エドル先生のお勉強時間で、午後はお母様とナーグローア様から魔法を教えていただく時間になるそうです。
ナーグローア様が滞在している期間限定の、魔族の魔法講座が行われるのだ。
参加したい気持ちお母様とナーグローア様に視線を向けてアピールしたけど、相変わらずまだ早いようでお呼びはかかりませんでした。
悲しいけど、幼過ぎて魔法の話になると相手にされませんですよ。
自分の方は、相変わらずリッチェル先生と、絵本や言葉遊びのお勉強だけ。それ以外は、特に決まりもないようで、自由時間がかなり多いのだ。
遊び仲間と言えば、ガイア、ライネ、光の眷属のニーフと……人の言葉を話さない獣と精霊だけ。
メリリアやリリアのメイドさん達と遊ぶこともできるけど、何か気を使われている感じがして、遊んだ気にならないのだよ。
この機会に、何か新しい遊びを考えようかな……。
ぼんやりとそんな事を考えていると、王都に移動する日程が会話に出て来た。
危うく聞き逃すところでしたよ! 危ない、危ない。
一か月後にここを出発して、王都にあるお屋敷に移動です。
「ここ数年は使っておらぬ故、少し補修が必要になるかもしれぬな。我とメイノワール、リフィア、料理人の数人は先に向かう事になる。其方等の王都までの経路は、一度レオナールの屋敷に合流して向かってもらうと思う。ユステア、その段取りで良いか?」
お? 久しぶりいグレイに会えるわけですかね?
レオナール叔父様の家を経由する理由は、地理が全然把握できていないので分からないけど、お父様が考える最善の手だろうから文句はない。
自分と同じくらいの歳の仲間と会える気持ちの方が、気持ちは勝っているので、細かいところは気にならないのだ。
「おとうさま、グレイのおうちにいくのですね」
「うむ、そうだぞ、アリシア。レオナールが治まる領地と、王都の領地は隣であるからな。其方等は安全に向かう事ができるのだ」
ほほ、グレイとの再会は確定ですね。
ははは、どのくらい成長したのか楽しみじゃないですか。
自分もこの度でいろいろ覚えたから、グレイにいっぱい自慢してやろう!
くくく、楽しみじゃないですか。
来るグレイとの再会にあれこれ考えているうちに、お父様とお母様の話は終わった。
今日は、帰って来たばかりなのでお勉強は無いそうです。
やったね! お姉様と遊べちゃいますね!
グレイとの再会で、何を見せるかも相談しないといけないね!
うきうきの気持ちで、お姉様の手をとり、朝食後のお茶をいただくために談話室に移動です。
談話室に着くや否や、嬉しい気持ちを爆発させるように、ランドグリスお兄様にいただいた、巨大な熊のぬいぐるみに身体ごと体当たりしてもふもふを堪能した。
お母様とナーグローア様は、向かい合うように椅子に腰かけて話を始める。
「ユステア、今朝の相談の件ですけど、お話してもよろしくて?」
「ええ、もちろんですわ、ナーグローア。貴女の国にお招きいただく話ですわよね。私は、喜んでお受けいたしますわよ。エルステア、アリシアちゃん、ナーグローア様がとっても良いお話をしてくれますの。こちらへいらっしゃいな」
熊のぬいぐるみに飛び込んで間もないうちに、お母様から声が掛った。
ナーグローア様が良い話をしてくれるとな!
直ぐにもふもふから顔を出して、お母様の側に駆け寄った。
期待の眼差しをお姉様とナーグローア様に向け、話が切り出されるのを待つ。
「あら、やだ。そんな大層な話ではございませんことよ。二人の期待に応えられるか心配ですわ」
「ふふふ、二人とも貴女が好きなんですもの、仕方の無い事ですわよ。」
「そうですのね。短い時間でしたけど、ここまで好意を寄せていただけるなんて。私、幸せ過ぎて天に昇ってしまうそうですの」
ナーグローア様がうっとりした視線で、お姉様と自分を眺め見ている。
そりゃそうですよ、ナーグローア様! こんな面白くて優しい魔王様が、自分達にいろいろしてくれるのですから、好きになってしまうのもしょうがないですよ。
自分、魔王ナーグローアの一派です!
「エルステア、アリシア。魔族の王として、私の国に招待いたしますわ。時期はまだ決めておりませんけど、エルステアの幼児院が終わるくらいかしらね。どうかしら、ユステア?」
なんと、ナーグローア様から正式に招待いただいたちゃいましたよ!
思わず、お姉様に視線を向けると、柔らかいほっぺを丸くし、満面の笑みを見せている。
「おねえさま、ナーグローアさまのおうちです!」
「ええ、私達がナーグローア様の国に訪問できるのですね。私、お伺いした事がないので、とてもたのしみですわ」
二人で笑顔を向き合って、喜び合っていると、ナーグローア様が続けざまに言葉を掛ける。
「アリシアの誕生日は冬頃でしたわよね? こちらの国で、盛大に祝って差し上げたいわ」
「ナーグローア、貴女も少し落ち着いた方がよろしくてよ。あまり目立つと困ってしまいますの。時期については、そうですわね、アリシアちゃんの誕生日前後が良いかもしれませんわね」
お母様の言葉で、ナーグローア様も興奮している事に気が付き、胸を押さえて深呼吸した。
「ふぅー、ごめんなさいね。ちょっと興奮が抑えられなかったようですわ。私の国が安全とは言え、まだ盛大に行うには悪目立ちしますわね。私の城で、おもてなしするくらいに抑えますわ」
「ふふ、ありがとう存じます、ナーグローア。この子達も、きっと貴女と国を気に入ってくれると思いますわ。エルステア、アリシアちゃん、ナーグローア様に御礼を忘れてはいけませんよ」
突然の嬉しい話に、うっかり御礼を言うのを忘れてました!
向かい合って喜びあっていたお姉様と自分は、ハッとしたようにナーグローア様に身体を向ける。
「ナーグローア様、お誘いいただきありがとう存じます。このような機会を巡り合え、私、大変嬉しく感じております」
「ナーグローアさま、ありがとうぞんじます。おしろにいけるの、いまからたのしみです」
スカートを少し摘まんで、腰を少し曲げて丁寧に会釈する。
顔をあげて、ナーグローア様へ視線を向けると、口に手を当てて目に涙が溢れていた。
「ああ、なんて喜ばしいことでしょう。私、これまで生きて来た中で、素晴らしい時間を過ごしていますわ。ユステア、貴女の娘達は、これほど私の心を満たしてくれるなんて……あぁぁ……」
ナーグローア様は、アナトさんが差し出すハンカチで目元を拭う。
涙を拭うナーグローア様が、いつもと違う艶っぽさを感じ、ドキッとしてしまった。
美人の涙って、凄い魅力的ですね……おまけに魔王様だし……。
しばらく、ナーグローア様の涙した姿が脳裏に残る。
心臓の高鳴りが収まるには、少し時間がかかりそうだ。
「ユステア! やはり、私、ご提案を差し上げたい事がありますの。聞いてくださいますか?」
涙を拭ったナーグローア様は、姿勢を改めてお母様に真剣な眼差しを向けて切り出す。
その視線をお母様も、真剣な顔で返した。
え? え? 今度は何の話ですか?
二人の間に生じる緊張に、思わず唾を飲み込んだ。
お姉様の入学。グレイの再会。
そして、魔王城への招待。
アリシアちゃんの楽しみは加速度を上げて
いっぱいですね!
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