011:騒がしい朝
もうお家についたの?
太陽の日差しを受けたふかふかの布団。
甘い匂いと、ひと肌の温もり。
このまま起きるには勿体ない気持ちが勝り、意識ははっきりしているが目を開けず、しばし感触を味わう事にした。
お母様の胸に顔を埋めながら、心臓の音を聞く。
確認する必要なんてないのだけど、そうすると、不思議な事に心は安心を覚えるのだ。
ドグッ、ドグッと穏やかに脈打つお母様の心臓。
この鼓動はお母様に間違いない……そう思うと嬉しく感じて、胸をすりすりしながら悶えた。
まだ、お母様は起きていないようなので、惰眠を貪る行為の継続を決定する。
たぶん、ここはお家なんだと思うんですよ。
ボルゲウスさんと別れてから、馬車で急行したんじゃないかなぁと。
眠ってしまうと、完全にそこら辺の記憶は無いので、推測でしかないけど、こうしてお母様の温もりに包まれているって事は、そうに違いないのだ。
皆んな、きっとお疲れだろうから、自分が目覚めて起してしまうのも忍びない。
でも、ちょっと喉を潤したい気持ちが沸いてきた……。
お乳を飲みだしたら、お母様起きちゃうかな?
んー、どうするかなぁ……。
ちょっとだけ飲ませてもらうくらいならバレないかも。
お母様の薄く透けた布をちょっと捲れば、お目当ての物が出てくるのだ。
そーっと、そーっと、お母様の襟元を下にずらそうと試みる。
少しだけ、先端が零れ落ちたので、急いで口を宛がい吸い付く。
少し姿勢に無理があるけど、飲めればいいのだ。
たぶん、お母様は目覚めてないと思う!
身体を少し捩って、襟元が上に上がってくるのを手で押さえながら、必死にお乳をいただいた。
いつもより、ちょっと飲みづらいが、今日は気を使っての事だ。
我慢するしかない。
「ふふ、アリシアはおっぱいが好きなのねぇ。そんなにがっついちゃって、可愛いわねー」
後ろから、聞きなれた女性の声がする……ええ、たぶんナーグローア様ですよね。
「ほら、こうすると飲みやすくなりますわよ」
自分の顔の横から、ニュッと手が現れ、お母様の襟元がガバッと下に開かれる。
その途端、バルンッと胸が剥き出しになり、両胸の圧力で顔が埋もれてしまった。
「いっぱいお飲みになって大きくなるのですよ、アリシア」
ナーグローア様のアシストで、さっきまでの飲みづらい姿勢は解消され、両手を胸に当てていつもの飲む吸引体制が整えられた。
口の中にビシュッとお乳が入り、甘い香りが鼻を抜けていく。
デリーシャーッス!
そこからは、背中から感じるナーグローア様の視線もお構いなく、お乳を一心不乱に飲みだした。
ナーグローア様は、そんな自分をどう感じて見ているのか分からないけど、細く繊細な指で自分の髪の毛を梳きながら撫でてくれている。
正直ね……自分、子供で良かったなぁと思うわけですよ。
まだ考えたくないけど……乳離れしたくないなぁ……ずっとこのままで良い……。
――ひとしきりお母様のお乳を味わい、再び惰眠を貪ろうと思い眠ろうと思い目を閉じる。
だが、それは許されなかった……昨晩の夕食に合わせて、今飲んだお乳でお腹がぽっこりしているのだ。
尿意と便意を同時に感じる、緊急事態が発生した。
太ももに力を入れて、我慢しようと試みるが……そんな簡単に止められたら苦労しませんよね。
敢え無く、ショワワッっと、おむつが染まっていく……。
尿意の開放によって、若干緊張が解ける。
同時に、お腹の張りも……無くなり、身体が軽くなったように感じられた。
お尻に感じる不快感は置いといて。
このまま不快感に黙って堪え、お母様が起きるまで待つか……否か。
眠ってしまえば、感触も何も感じないからなぁ。
そう思って、再び眠りにつこうと思考を遮断する。
……。
人間、そんなに都合よくないですよね。
しっかり眠って起きた後に、ごろごろお母様の胸で惰眠を貪ったせいで、まったく眠くないのだ。
おまけにぼっこり膨らんだ下半身と、お尻のグニッとした感触で身動きが取れない。
もぞもぞと、不快に感じない方法は無いか、お尻の位置を足を動かしながら調整する。
この気持ち悪ささえ解消されれば、ロングステイも余裕なのだ。
角度をあれこれ調整していると、おもむろに後ろからガシッとお尻が捕まえられた。
「あら、アリシア。おむつが膨らんでますわよ。これはいけませんわね。私が替えて差し上げますわ、こちらにいっらしゃい」
げげ、ナーグローア様が後ろにいる事を忘れていたよ。
うぬぬ……ナーグローア様の言葉に甘えたいところだが、誰かれ構わず、おしめを交換させるのもどうかと思ってしまうわけで……。
「あら、私とアリシアの関係ですものね。遠慮はいりませんことよ、ふふふふ」
ナーグローア様の言葉に、お風呂での粗相が思い出される。
それをネタにされると、抵抗しようがない。
観念して、お母様の胸元から顔を離して、ナーグローア様に振り向き身を任せた。
抱きかかえられて布団からゆっくり出ると、メリリアがおしめの替えを持ってやってくる。
「メリリア、今日は私が替えて差し上げたいと思いますの。助手をお願いしてよろしくて?」
「かしこまりました、ナーグローア様。では、こちらにアリシア様をお願いいたします。」
ソファに寝かされてからは、あとはされるがまま……おむつを脱がされ、大人のような匂いを放つ物をメリリアが素早く回収し、ナーグローア様にお尻から脚の付け根までしっかり拭いてもらった。
「ナーグローア様、こちらの繊細な箇所は丹念にお拭き願います。被れたりしますと、なかなか治療がしづらいのでございます」
「そうですのね、勉強になりますわ。この辺からでよろしいかしら?」
「はい、そのまま拭き取っていただければ問題ございません」
両脚首を吊り上げられたまま、メリリアが真剣な表情で拭き方を指南している。
あーのー、本当にこの姿勢のまま話し合うの辞めてもらえませんか……。
しばらくの間、二人に晒されたながらおむつを交換は終了した。
出した後の爽快感はどこ吹く風。
気持ちが上下に振り回されぱなしで、酷く心が疲れてしまったよ……。
そんな草臥れた感じに浸っていると、お母様もお目覚めになられました。
「おはよう、アリシアちゃん、ナーグローア。皆さんお早いのですねー。しっかり眠れましたの?」
「おはようございます、おかあさま」
「おはよう、ユステア。ええ、ここのベッドは、本当に寝心地がよろしくて。おかげ様でぐっすりでしたわ」
ナーグローア様は、こちらを見てすこぶる良い笑顔を見せてくる。
うっ、なんでそんなに嬉しそうなのですか。
妙な笑顔に、少し後退りしたい気持ちになりますよ……ソファで横になっているので出来ませんけど。
「あら、アリシアちゃんのおむつを替えてくれたのですね。ナーグローア、ありがとう存じますわ」
「ユステアが良い寝顔をしてましたもの、起すのがもったい……いえ、このくらい、私にかかれば容易い事ですのよ。良い体験をさせて貰いましたの、ふふふ」
ナーグローア様が、お母様を起こさなかった理由やら何やらが透けてますが。
ソファからそそくさと身体を起し、逃げるようにお母様の胸元で顔を隠した。
どこで選択肢を誤ったのか……やっぱり、お母様を起こすべきだったのではないかと猛省。
「エルステア、そろそろ起きましょうね」
「おはようございます。お母様」
お母様の横で眠っていたお姉様が、眠そうな目を擦りながら挨拶をしている。
「今日は、貴女にお見せしたい物がありますの。早く起きられた方がよろしくてよ」
「まぁ、私にですか、お母様? 何でしょう、とても楽しみですわ」
眠そうだったお姉様が、お母様の言葉で目をぱちくりさせ、笑顔で起き上がってきた。
帰ってきたばかりなのに、サプライズを予感する。
自分の事ではないけど、期待からワクワクする気持ちが沸きあがった。
さっきまで、しょぼくれた感じになってたけど、お母様の言葉で期待を裏切れた事はないのだ。
今日は、何が起こるのかな?
「おねえさま、はやくおきがえしましょう。わたしもみたいです!」
「そうですわね。こうしてはいられませんの。リリア、着替えをいたしますわ」
お母様は、自分達の様子を見ながら微笑んでいるようです。
「あら、私も参加したくてよ、ユステア。アナト! 私も着替えますの。よろしくて?」
ナーグローア様も、我先にと言わんばかりに、アナトさんを呼んで着替えのために部屋を出て行く。
お母様のたった一言で、皆んな大慌てで支度を整えていった。
「皆さん、そんなに慌てなくもよろしいのに……せっかちさんですのね。ふふふ」
いつも通りベッドから出て優雅に着替えを始めたお母様。
皆んなの様子をみて、何だか嬉しそうな表情を浮かべていた。
――程なくして、お姉様もナーグローア様も着替えを済ませて戻ってくる。
「ユステア、エルステアに見せたい物ってなんですの?」
部屋に入ってくるなり、開口一番ナーグローア様がお母様に問いかける。
妙に鼻息が荒いのですが、少し落ち着かれた方が良い気がしますよ。
「ふふ、勿体ぶったりはいたしませんよ。メリリア、あれをお持ちしてちょうだい」
メリリアは、一旦部屋を出てから大きな箱を持って入ってくる。
「エルステア、こちらを開けてご覧なさい。これから必要になるお洋服がございますのよ」
「まぁ、お洋服ですか。ありがとう存じます、お母様」
お姉様は、いそいそと箱を開けて中を取り出す。
パッっと広げると、紺よりも少し重い色のドレスが出て来た。縁取られた金色の刺繍がお洒落で、レースやフリルも控えめながら付いていて、華やかな印象を受ける。
「まぁ、素敵なドレスですわ。あら? 同じお洋服が三つもございますの。これは予備かしら?」
「ふふふ、このお洋服は制服と言いますのよ。夏の王都で、貴女が通う幼児院では、皆、この制服を着て通いますのよ」
「そうでしたのね、お母様。皆、同じ格好でお勉強するのですね。わぁ、何だか行くのが楽しみになってまいりましたわ」
両手で持つドレスをふりふりとさせながら、お姉様は上機嫌です。
制服で登校なんて……やはりこの家は上流なのか?
お金持ちのお嬢さんやら、坊ちゃんみたいなのと勉強するのかぁ。
庶民感覚が意識として残る自分では、上手くやっていける気がしないねぇ。
「エルステア、早くそれを着て見せてくださいな。幼児院とは、いえなかなか良い制服ですのね。でも、このお洋服、ちょっと素材が……」
「ナーグローア、問題ございませんのよ。少し改良する程度でしたら許容範囲ですの、ほほほほ」
「ほほほほ、流石ですのね、ユステア。相変わらず器用ですこと、私にも作って欲しいくらいですわ」
お母様とナーグローア様が、お姉様のドレスの生地に触れながら話しをしている。
このドレスに、ナーグローア様が羨む程の何かが隠されているようで……お母様の妖しい笑いに、苦笑いしてしまった。
また凄い魔法が、このドレスに隠されているんでしょうね。
学校という事は、家族の目が届かなくなると考えるのが普通だな。
と、なれば……何か起きた時の自営手段は必要だ。
防御的な機能とか、姿を捉えさせない認識阻害とか……何だか自分で思いつく機能は普通に付いてそうで怖いな。
お母様は自分の何百倍も先を行く人だし。
「皆様、どうかしら。私、似合っておりますか?」
いつものスカートよりちょっと短い、膝下のスカートをちょっと上げて挨拶するお姉様。
「おねえさま、とってもかわいいです!」
お姉様の姿を見て、誰よりも早く称賛の声を上げて微笑んだ。
ふごふごと鼻息が荒くなっている気がするけど、気にしないのだ。
紺色のドレスに白いスカート、ドレスの上に纏ったマントの様な羽織も、お姉様の愛くるしさをさらに印象付ける。
側で光りを発して踊る光の眷属ニーフによって、お姉様の美しさを演出していた。
流石お姉様の眷属、なかなか分かっているじゃないですか!
グッドですよ! 制服姿のお姉様、どこからどう見ても、可愛くて素敵!
ナーグローア様も黄色の声で、お姉様を誉め讃えた言葉を述べた。
自分と共に、グルグルと前から後ろからと、お姉様の姿をじっくり見るために回り出す。
「んまぁ、エルステアは、何を着せても美しいですわね。私、幼児院の入学式に着いていけないのが、本当に悔やまれますの」
目を細めながら、お姉様の姿に見惚れるナーグローア様は、少し憂鬱そうな溜息を吐いた。
「ナーグローア、しばらくは幼児院生ですもの。貴女の国にお誘いいただく際には、こちらを着ていきますのよ」
「そっそうでしたわね。ユステア、後でご相談させていただきますわ、ご都合よろしいかしら」
「ええ、貴女の誘いを断る理由がございませんよ。お時間は貴女の都合に合わせますわ」
ナーグローア様は、何かに気付いたようでもう一度お姉様の姿をジッと見つめた。
「やはり、この子達は……ここでは……」
一瞬、真剣な顔になったナーグローア様はぼそりと何か呟く。
自分の視線に気づき、再び笑顔を見せるナーグローア様。
そっと口に人差し指を付け、「ないしょですの」と合図を送ってくる。
うっ、こんな幼児に内緒もへったくれも無い気がしますが……ちょっと油断しちゃいましたね。
ナーグローア様の表情が可愛かったので、自分もこっそり人差し指を口に付けて、返事を返してあげた。
「まぁ、もう本当に可愛くってよ」
突如、ナーグローア様は、自分を抱きかかえてくるくると回転し始める。
ちょっと迂闊すぎたか……ナーグローア様の歓喜の回転は止まらない……。
一回転、二回転、三回転……
床に降ろされた時には、前に歩く事も適わず、その場にヘタレ込んでしまった。
限度! 限度を忘れないで! ナーグローア様!
朝から自分、ナーグローア様に振りまわされっぱなしじゃない?
終始ナーグローア様のペースでアリシアちゃんたじたじ。
お姉様もいよいよ幼児院ですね。
また、祈念式のように人気者になっちゃうのかな?
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