010:精霊との晩餐
お父様の案内で向かった先には……
お父様の案内で、進路が少し変わった。
これから、大精霊がいると言われている場所に向かうのだ。
前回、皆んな消息不明になったり、お母様達が眠らされた事もあるので油断できない。
お姉様は、既にブレスレットに魔力を込めて、何時でも武装が展開できるようにしているようだ。
「大精霊の仕掛けてくる術は、我々の魔法とは違うようですわね。何かご存じかしら、ユステア」
そうなのだ、お母様もナーグローア様も凄い強いのに、大精霊に眠らされていた。
魔王でも、大精霊の事にはあまり詳しくないようです。
「そうですわねー。精霊ですもの、自然の力を自由自在に操れますもの、眠らすという方法は容易かもしれませんわね。魔法よりは、どちらかと言うと物理かもしれませんわ、ナーグローア」
「私達が眠らされたのは、物理的要因……。考えられるのは、あの一帯に、眠り作用の草花が生息していた事になりますわね。眠りの花粉が空気に紛れてしまえば、この馬車でも防ぎようがございませんし。」
「ええ、馬車の隙間から社内を充満させる事は、大精霊であれば容易でしょうね」
うわー、大精霊様は微粒子レベルで、馬車の中に攻撃出来たって事になるよね……。
もしかして、途方も無く強い部類に入るのではないだろうか。
ある意味、細菌兵器を持っているようなもんですよね。
今回も遭遇した時に、何が起こるのか不安に思い、顔から血の気が引いてきた。
「ふふ、アリシアちゃん、今度は大丈夫ですよ。そんなに不安そうな顔をしないでくださいな。お母さんが取って置きの魔法を馬車に掛けてありますから、もう眠らされたりしませんわよ」
そうですよね、お母様が黙っているわけありませんよね!
その言葉を聞いて、希望が開けて気がします!
「おかあさま、てっておきのまほうはなんですか?」
少し舌が上手くまわらずに、お母様に問いかけてしまう。
まぁ、これは幼女特有の愛嬌という事で、上手く喋った振りをして表情は変えない。
「うふふ、アリシアちゃんは、本当に可愛らしいですわー。一生懸命、難しい言葉を話すのを頑張りましたのねー」
「本当に、可愛いですわー。アリシアちゃんは、言葉を覚えるのが早いですの」
「ピピィッ! ピッ!」
そっそんな自分の事よりも、取って置きの魔法の話をですね……。
自分の思いとは正反対に、お母様は自分をギュッと胸に押し付けて抱きしめてくるし、お姉様もナーグローア様もそれを笑って見てたりと、結局話が有耶無耶になってしまった。
その場の雰囲気に流されて、聞けぬまま目的地に到着したのだ。
お母様が取って置きと言っているくらいだから、心配する必要もないけど、せっかくだから知りたかったなぁ。
「この先に、大精霊がいると言わていた洞窟があるのだ。先ずは腹ごしらえを済ませよう!メイノワール準備は出来ておるか?」
「はい、旦那様。あちらに、席をご用意させていただいております」
お父様の言葉を聞いて、皆んなで馬車を降りと、目の前に長い木製テーブル席が用意されている。
幾つものランタンに照らされて、金色の装飾や銀の食器、白いお皿がキラキラと輝いていた。
森の中なのに、その一角だけお洒落に演出されている不思議な光景だ。
「がははは、旨い物の臭いに釣られて、大精霊がこちらに来るやもしれぬな」
「うぬ、わしも精霊じゃが、呼ばれて良いかのう?」
「おぉ、精霊であれば、喜んでお招きしようじゃないか! んん?」
お父様の後ろから、突然お爺さんの声が聞こえる。
ご機嫌のお父様は、一瞬で真剣な顔に変わり素早く振り向き戦闘態勢になった。
その場に居た全員に戦慄が走り、お父様の向こうにいる声の主を睨む。
森の影から、声の主がゆっくり近づいてくる。
「ふぉふぉふぉ、何をそんなに警戒しておる? ただの草臥れたしがない精霊じゃ。わしは美味しい物に目が無くてのう。夕食に招いてくれたのは、その方であろう?」
「むむ、確かに。我の名はディオス。其方の名を聞かせてはくれぬか?」
テーブルに置かれた証明に照らされ、少しよぼよぼして杖を突いたお爺さんの姿が現れる。
「おふぉふぉふぉ、すまんすまん。わしは地の精霊がひとりボルゲウスじゃ。この通り、今は力も頼りない年寄りじゃよ」
「ボルゲウス、お会い出来て光栄だ。其方を、我が家の夕食にお招きしよう。」
お父様がメイノワールさんに目配せをすると、テーブルに椅子が一つ追加された。
同時に、メリリアがボルゲウスさんを席に案内する……ご招待客とお父様が決めたので、皆んな躊躇なくもてなしを始めるのだ。
未だ突然の事で、口を開けてみている状態の自分とは違うのです。
毎度の事ながら、その動きに感嘆せざるを得ない……。
「さ、お客様が席にお付きですわよ。美味しい料理をいただきましょう」
お母様に促されるまま、お姉様も自分も席につく。
自分の向かい座るボルゲウスさんは、何とも興味深そうな顔で、自分とお姉様を交互に見ていた。
「ふぉふぉふぉ、これは何とも奇遇じゃのう。神の御子が揃ってお出ましなられるとは。長く生きてみるもんじゃのう。其方等、この爺に名前を教えてはくれぬかな?」
ボルゲウスさんの問いかけに応えて良いものか、自分では判断できない。
お父様へ視線を向けると、頷いているようなので名前を名乗って良いと判断した。
「私、ディオスの娘、エルステアと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
「ごきげんよう、ボルゲウスさま。わたしは、アリシアです。」
好好お爺さんのような優しい表情で、自分達の言葉を聞くボルゲウスさん。
しわくちゃな目元がさらに細くなって、視線を自分達に向けて見ている。
ジッと見られ続けると、こちらが恥ずかしくなる……ボルゲウスさんの視線から逃れたくて、お父様へ視線を送り助けを求めた。
お父様は、自分の様子を察してくれたのか、続いてお母様やナーグローア様も紹介していく。
ボルゲウスさんの視線がこちらから逸れた事に、ホッと安堵の息を吐いてから、お父様に感謝の気持ちを込めて笑顔を向けた。
会う度に見つめてくる精霊達。
自分は、あの目を警戒するようになっている。
あの見透かされたような目は、自分の深層まで触れてきそうで怖いのだ。
あの視線からは、できれば逃れたい……自分の素性が暴露されたくない……。
「ほほほ、何とも面白い出来事じゃ。魔族の王に、聖柱の末裔もいらしゃるとは。いやー愉快ですじゃ、愉快ですじゃ」
自分の思いとは他所に、ボルゲウスさんは上機嫌だ。
こちらにはもう関心がないようで、目の前に出された料理に舌鼓を打っていた。
料理を一口食べる毎に「うまい! こんな美味しい料理は久しぶりじゃ!」と言いながら、感動している。
精霊って自然から栄養を取って生きるイメージだったけど、ボルゲウスさんの食べっぷりを見ていると、常識が覆っていく。
人と同じ物を食べて、味まで分かる精霊……この世界にはいるのだ。
「そうじゃ、其方等は、ここ数百年誰も訪れた事もない、こんな辺鄙な場所に何用で来たのじゃ?」
「うむ、我等は大精霊がこの先にいると聞いてな、知恵を借りに来たのだ」
「ほう、大精霊様に会いに来たとな。そうじゃったか」
ボルゲウスさんは顎髭を撫でながら、訝しそうな表情を浮かべた。
「残念じゃがのう、大精霊様はこの地には存在しておらぬじゃよ」
「なんと! そうであったか。この地で伝わる話であったのでな、半信半疑であったが残念だ。ボルゲウスよ、ひとつ聞きたいのだが、この奥におられる精霊はご存じか?」
「いかにもじゃ」
ボルゲウスさんは、そう言うと席から立ち、少し後ろに下がって目を閉じる。
すると、ボルゲウスさんの地面から、赤茶色の岩がボコボコと現れて始め、彼の姿を覆っていく。
赤茶色の岩で、ボルゲウスさんの姿が見えなくなり、何事かと思い唖然とした。
いつも唐突に事が起き過ぎて……本当に反応に困るなぁ。
消えたボルゲウスさんを心配しつつ、岩を見つめていると、少しずつ岩肌が動き出している事に気付いた。
ジーっと凝視していると、岩肌に人の顔のようなものが現れ、カッと目を見開く。
「ヒッ!」
「ピィゥ!」
自分とライネが思わず声を上げて驚くと、赤茶色の岩が人の形になり、のそっと動き出す。
「おっおかあさま、ボルゲウスさまがゴーレムに?」
「ふふ、あれはボルゲウスさんの真の姿ですわ。地の精霊ですから、あのような姿も納得ですわね」
「そうですのよ、アリシア。地の精霊は、大地にある様々な物に宿ってますのよ。彼者は、土に由来がありそうですわね」
お母様とナーグローア様は、平然とした様子でボルゲウスさんの状況を説明してくれる。
そう言われても、さっきまでの老人の姿は見る影もないわけで……。
赤茶色の岩のゴーレムをボルゲウスさんと同一視するには、なかなか受け入れ難いものがあった。
「ふぉふぉふぉふぉ、娘っ子は驚いているようじゃのう。ふぉふぉふぉふぉ」
ボルゲウスさんらしきゴーレムが、こちらに話しかけてくる……少し野太い感じがするけど、口調はボルゲウスさんだ。
「ディオスとやら、創世以来、この地はわしが任されておるのじゃよ」
「ボルゲウス、其の方が、伝説の精霊だったか、これは失礼した」
「良い良い、数千年振りに、人の食事を味合わせてもらったのじゃ。こちらこそ礼を言おう。其方等が探している地の大精霊はこの近辺にはおらぬのじゃよ。我は、中精霊であるからのう。神の力は持っておらぬのじゃ」
こちらの事情は、既に察しているような口振りだ。
「我等の目的は、既に存じているようだな。話が早くて助かる」
「うむ、我等は治める地からは動けぬのでな、連絡手段は豊富じゃぞ。そこの娘っ子達は、今や、我等精霊達の話題の的じゃよ。数千年振りの刺激に震えておるわい。ふぉふぉふぉふぉ、皆に自慢せねばと考えておるくらいじゃ」
精霊の連絡網ですか。
前回の事が話のネタだとすると……。
いろいろと粗相もしたようね……変な形で伝わって無ければいいのだけど。
「娘っ子達や、わしには其方等が期待する力は持ち合わせておらぬ。だが、わしにしか持ち合わせておらぬ力もあるのじゃ。どうじゃ、年寄りの気まぐれじゃが、わしの加護を授けてもよいかのう?」
ごつごつの岩の顔にある目が細まり、お姉様と自分を見つめ語り掛けてくる。
横にいるお母様も、その隣にいるナーグローア様も笑顔で頷きみせた。
お姉様に視線を向けると、こちらに顔を見合わせて頷く。
「エルステア、アリシアちゃん。行ってらっしゃいな。ボルゲウスの土の加護は、貴女達が成長した時に役立つ時がきますわ。」
「お二人とも、精霊が加護を授けるなんて滅多にありません事よ。胸を張っていってらっしゃいな」
お母様は、自分を座席から抱えて降ろし笑顔で後押しする。
お姉様の手を握り、ボルゲウスさんの下に近づいていく。
赤く巨大な岩のゴーレムの圧迫感の姿が、少し怖い感じがする……ボルゲウスさんが、そのまま倒れ込んできたらぺしゃんこですよ……。
「ふぉふぉふぉ、ほんにめんこいのう。神の御子よ、そう緊張せずともよいぞよ。どれ、右の手の平をわしに向けるのじゃ」
お姉様の動きを真似て、ボルゲウスさんに右手をパーにして向ける。
ボルゲウスさんは自分達の様子一瞥すると、自分達の前に跪き、大きく太い腕を自らの胸に埋め始めた。
一連の行動に自分は目を背けずジッと見つめていると、ボルゲウスさんは太い腕を抜き出しす。
ぽっかり空いた胸から、眩い光線が現れ、一瞬目が眩んでしまった。
右手を盾に、目を細めて光の中を見ると、溶岩のようにドロリとした物体がある。
「恐れず、そのまま、わしの胸の中に手を差し入れるのじゃ。出来るか?」
間近で溶岩のような物体を見ているが、熱が出ている感じではない。
大精霊様の時と同じように、手を入れると加護が受けられるのは何となく理解したけど……。
溶岩じゃないと思うけど、これは勇気がいるぞ!
「おねえさま……」
「大丈夫よ、アリシアちゃん。お姉ちゃんと一緒にやりましょうね」
お姉様は、あまり恐怖感とかないのかな……溶岩っぽいですよ? もしかして、溶岩そのものを知らない可能性もある?
こんな時に、前世の知識が恐怖感を煽るとは……今のところ真面に本当に機能してないな!
「はい! おねえさま!」
溶岩でないと目の前の光を凝視し、お姉様の動きに合わせて手を差し入れる。
光に近づけば近づくほど、顔から脂汗が噴き出た。
半身になり、片目で見ながら、恐る恐る手を光に触れる。
ぐにょりとした感触が手を覆っていく。
熱くないし、手の感覚もある。
やっぱり溶岩じゃなかったね! いや、本当にビビらせちゃって!
左手で額の汗を拭い、深呼吸する。
「おねえさま、できました!」
「ふふ、お利巧さんですよ、アリシアちゃん」
ボルゲウスさんの中に手を入れると、ドロリとしたゼリー状の物がズゾォォォッと勢い良く手に吸い込まれていく。
この感覚は、大精霊様とほとんど同じだ。
「ふぉふぉふぉ、二人とも良くやった。わしの力を其方等に託せたようじゃのう。大事に使うのじゃぞ」
ボルゲウスさんが、身体を起こし始めると、差し入れた手が自然と抜け出る。
手の平には、薄っすらと紋章のようなものが刻まれていた。
その印も次の瞬間に一瞬光を発し、消えていく。
「其方等の中に、土の秘術が刻まれたろう。今は、大きな力にはならぬが、其方等が成長する度に、大地に関する様々な知識が解き放たれるのじゃ。しっかりと生きるのじゃぞ」
「はい! ボルゲウス様、ありがとう存じます。いただいた力が活かせるように、がんばりますわ」
「ボルゲウスさま、ありがとうぞんじます。がっがんばりましゅ」
あちゃー、また噛んでしまった……ふむ、何か身体の調子が良くないのか……。
「ふふ、アリシアちゃん可愛いわねー。」
「本当に、可愛らしいですわ。私、着いてきたのが間違いでないと確信いたしましたの」
背中から、お母様とナーグローア様が自分をネタに微笑んでいるようですね。
ええ、ネタとして存分に使って頂ければ……。
「ふぉふぉふぉ、ディオスよ。わしに機会を与えてくれた礼を言う。其方にはこれを託す。神の御子を、自分の子を手放すでないぞ」
「ボルゲウス、ありがたく頂戴する。案ずるな、我もまだまだ成長途中である。この子達を護るためには手段は選ばぬよ」
「そうじゃ、その意気じゃぞ。久しぶりの人との会話にわしも疲れが出たのう。では、皆の衆、さらばじゃ」
ボルゲウスさんは、お父様に一振りの大きな剣を渡し、下がっていく。
徐々にボルゲウスさんの身体は、崩れて砂のようになり風と共に消えていった。
お別れの挨拶をする余裕も与えられない去り際。
お姉様の手を取り、最後まで消失した場所を眺めていた。
「ボルゲウスさま、またあいましょうね」
ボソッと呟くと、お姉様が手をギュッと握りかえして笑顔を向ける。
「ふふ、そうね。またボルゲウス様とお食事しましょうね」
二人でしばし微笑み合った後、手を繋いでお母様達の待つテーブルへ駆け寄る。
お母様とナーグローア様、お父様も加わり、ボルゲウスさんからいただいた加護の説明をした。
夕食後のお茶を飲みながら、皆んな嬉しそうにお姉様と自分の話を聞いてくれる。
笑顔に包まれた団欒の中……意識が途切れていった……。
大精霊様ではなく中精霊様でした!
でも、土の力が貰えて良かったね。
精霊の間では有名人な二人?
次はどんな精霊がまってるのかな。
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