07:神の残照
大精霊ジュピトリナの助言とは……
「少し話が長くなる。そこに腰をかけるとよいぞ」
大精霊様が、人差し指をくいっと上げると、シュルシュルと蔓が動き出す。
次第に這ってくる蔓は椅子とテーブルの形を作り出した。
大精霊様が座るのに合わせて、お姉様も自分も蔓で出来た椅子に腰かける。
「さて、どこから話をするべきか……そうよのう……其方等は、既に幾つかの精霊と会い加護を受けているようだのう。」
精霊の加護か……確か、自分は湖の精霊と冬の精霊、後、ユグドゥラシルの樹にいた精霊は知っている。
お姉様は、光の精霊の眷属ニーフを従えているよね。
「この世界は、神と聖柱、そして精霊の力で維持されているのは知っておるか?」
神様は分かる。聖柱は、火の神の暴走を防ぐために、造られたんじゃなかったかな。精霊が世界の維持に必要なのは、初耳かもしれない。
チラリと横目でお姉様を見ると、大精霊様に頷き返していた。
ふむ、お姉様くらいの歳であれば、知っている事なのか……流石ですね、お姉さま!
「ふむ、其方は勤勉であるようだな。良い事であるの。神はこの世界を礎を創り、聖柱は世界を歪ませず維持するためにある。我等、精霊は、神と聖柱の間に立ち、神の力を世界に行き渡らせ循環させる存在であるのだ」
神様が社長で、聖柱は部下。
その間で、両方を取り持つ存在……いわゆる、中間管理職的な感じかな?
でも、ユグドゥラシル様を敬称で呼んでたから、上下関係は無いかもしれないね。
心臓で例えた方がいいのかな……神様は脳みそ、神の力が血液、そして、精霊が心臓。身体の各所を聖柱に……。
むむ、その方がしっくりしてきたかも?
それが正解かは分からないけど、そう理解してみよう。
「既にこの世界は、二本の聖柱を失った。その影響で世界に少なからず歪みが生まれておる。其方等にはまだ実感は無いであろうがな。神と聖柱の間におる、我等の同志は既に被害を受け始めておるのだ」
世界が歪むとどうなるのかは想像がつかないけど、血液を循環させようとしたら血管が塞がって通れなくなるイメージかな?
そうなると、身体は壊死しちゃうよね……ふむ、これは良くない話だ。
「其方等が持つユグドゥラシルの種を持ってすれば、この地の歪みは無くなり、我等も安心して使命を果たせるという訳であるの」
始祖様より分かりやすく説明してくれたから、概ね理解しましたよ大精霊様!
自分如きに大それた話だけど……。
「して、ユグドゥラシルを芽吹かせる方法であるが、それは知っておるのだな」
神の力をどうにかすると、種が発芽する事は知ってます!
お姉様の頷きに合わせて、自分も胸を張って頷いた。
「うむ、芽吹かせる力に必要な神の力。そのひとつは、其方等がいるここにある」
「えっ!」
お姉様と自分は思わず、驚きの声を上げてしまった。
始祖様もお父様や王様達も探していた事が、こんなふらりと立ち寄った場所で見つかるなんて……話が上手過ぎやしませんか?
でも、最初にお会いしていた時に言ってましたね!
探し物はここにあると……そう言う意味ですか!
あっ、でもそのひとつって事は、まだ他にあるって事だな……。
どれだけ必要なのか分からないから、楽観視もできませんね。
「言ったであろう? 我等、精霊が神の力を循環させているのだ。我等がいる場所こそ、神の力が淀みなく溜まっているのであるぞ」
凄い! これは大発見なのではないでしょうか!
「おねえさま、すごいはっけんです」
「ええ、大精霊様のお力添えで、ユグドゥラシルが再び蘇るかもしれませんね」
お姉様と顔を合わせて、両手を握り喜びの笑顔を送り合った。
「其方等は、心から互いを思い合っているようであるのう。その心無くしては、ユグドゥラシルは育たぬ故、努々決して忘れてはならぬぞ、良いか?」
「はい! 大精霊様。私は、アリシアちゃんが世界で一番大事な妹ですもの。安心してくださいまし」
「おねえさまがいないと、いきていけません。だいじょうぶです!」
大精霊様は、お姉様と自分の言葉を聞いて、目を細めて頷いた。
「もうひとつ助言を送ろう。精霊にも種類がある。我のように古くから存在する大精霊に中精霊、其方等が目にした精霊は、属性を得た小精霊であるの。其方等が探さねばならぬのは、大精霊が存在する場所になる」
あらー、ちょっとハードル上がっちゃった……。
大精霊の場所なんて、そんなに簡単に見つかる気がしないのだけど……。
「案ずるでない、運命は動き出しておる。図らずとも其方等を導くであろう。今日、我が会ったのと同じようにな」
なるほど……今日みたいに、いきなり連れて来られて怖い目に遭遇することが……まだある!?
全然、喜ばしい事に思えなくなってきたんだけど……。
こんな事ばっかり起きたら、命が幾つあっても足りませんよ?
「大精霊様、お言葉を申し上げてもよいでしょうか」
「うむ、話すがよいぞ」
「他の大精霊様にお会いするためには、私達は何をすればよいでしょうか」
そうだ、今回みたいに無防備な状態じゃなくて、会うって心構えでいけば不安もすくないですね。
お姉様は本当に賢いよね……すごい!
「先にも申したが、其方等姉妹が心を通わせていれば良いぞ。大精霊達が、自ず導かれやってくるであろう。備えなどしようが無い、出会いは突然であるの」
どうやら回避できない縁が、自分達と大精霊様の間で出来てしまっているような印象だ。
突発的な遭遇で、今日のような事があと何回起こるのか……少し胃が痛くなってくる。
「物はためしであるのう。其方等の最初の神託を、ここで執り行う。我についてくるがよい。」
お姉様がこちらを向き、手を差し出してくれる。
その手を取り、大精霊様が向かう場所へ移動した。
大精霊様が歩くと、木々が次々と避けるように広がり、道が拓ける。
不思議な光景を目にしながら、この先に待ち受けている事に緊張した。
お姉様の手が自分の汗でべったりしている。
「アリシアちゃん、大丈夫よ。お姉ちゃんが一緒ですもの」
すこし強張った表情のお姉様。
それでも、自分を励ましてくれる事に嬉しさを感じた。
木々の中を突き進むと、空を覆いつくほど木々で囲われた小さな場所で、大精霊様は立ち止まる。
大精霊様の前には、幾つもの太い蔓で作られた台座が置かれていて、その上には、光輝く水晶の球が浮いていた。
なんだか、水晶の球がドクッ! ドクッ! と脈を打っている感じがする。
「ふむ、少し背が足りぬか。では……」
大精霊様の言葉に、台座の蔓がシュルシュルと小さくなり、水晶が目線の高さまで降りて来た。
なんて心遣い! 大精霊様は、悪い人ではないのですね!
「丁度良いか? では、そのまま其方等は手を握ったままで、これに触れるがよいぞ」
お姉様が頷き、前に進む。
その歩みに合わせて、自分も水晶へ向かった。
「いきますわよ、アリシアちゃん」
何が起きても、お姉様と一緒だ。
今日も一緒に乗り切れたんだ、自分達なら大丈夫……。
お姉様の言葉に頷き、触れる覚悟を決める。
同時に水晶に手を差し伸べると、お姉様と自分の手が水晶の中に入っていった。
「そのまま動くでないぞ。神の力が種に注ぐであろう」
川の中に手を入れたように、液体が中で動いている。
気持ち悪い感触ではないので、黙って手を突っ込んだままにした。
差し入れた手に、液体が吸収していくような感覚でどんどん入っていく。
そのせいで身体が熱を帯びたり、気分が悪くなる感覚もなく、ただ吸い取っている感じだ。
「ほう……其方等、もう十分であろう。手を出すがよいぞ。」
大精霊様の言葉に合わせて、水晶から手を抜き出した。
「ユグドゥラシルの種に、しかと神の力が注がれたようだの。まだ芽吹くには、力が足りぬがな。其方等の関係と、精霊達の関係を良好に保つのだぞ」
「ありがとう存じます。大精霊様。まだ、実感はありませんけど、頑張りますわ」
お姉様の返答に、大精霊様も満足したのか、蔓を身体に巻き付けて上空へと上がって行った。
「其方等の行方末に、最高神ハルヴェスマールの加護があらんことを。さらばだ、幼きエルフの姉妹よ」
大精霊様の言葉を耳にするのと同時に、視界がぐらりと歪み眩暈を起こした。
立っているのもままならず、お姉様と一緒に土に膝をついて倒れこんだ。
「おねえさま、だいじょうぶですか」
「ええ、すこし立ち眩みがしたようですわ。心配ありませんよ」
しばらく四つん這いになって、二人で立ち眩みが収まるのを待った。
視界が回るのが収まったのを見越して、土に落とした視線を上げ周囲を見渡すと……。
さっきまで囲われていた木々が無くなり、瓦礫の中に自分達はいた。
「ここは、どこですの……」
一変した風景に、お姉様も困惑しているようだ。
遠くの方から、人の声が聞こえてくる。
その中には、聞き覚えのある野太い男の声がした。
「おとうさまのこえ?」
「ええ、お父様の声が聞こえますわ!」
声のする方へ、視線を向けると大勢こちらに向かって来ているようだ。
「お父様こちらですわ! アリシアちゃんもいっしょですの!」
お姉様が声を張り、居場所を伝えると、お父様の声が返って来た。
あぁ、元の世界に戻って来たんだ。
「エルステア! そこを動くんじゃないぞ!」
「はい! お父様!」
大きくガタイの良い男の人が、群衆の中から飛び出してこちらに向かってくる。
「おとうさま!」
お姉様と一緒に、大きな男の影に走りだした。
暗がりの中、月明りで照らされた男の影は、間違いなくお父様だ。
ヒシっと足元に抱き着き、お父様との再会に喜びの声を上げた。
「おとうさま! ぶじでよかったです!」
「其方等が突然居なくなって慌てたぞ! どうやって、こんな奥地までこられたのだ。我は驚いたぞ。ユステアも、間もなくこちらにくるであろう。話は、後で聞かせてもらうぞ」
お父様は、お姉様と自分の頭を慎重に撫でながら、優しく言葉を投げかけてくれる。
こちらはこちらで、突然皆んな居なくなったり、一緒にいたお母様やナーグローア様、メリリアが眠って大変だったことやら……大変な目にあった……。
大精霊様から聞いた話も伝えなきゃいけないし……とんだ寄り道になっちゃいましたよ……。
「エルステア! アリシアちゃん! 無事でしたのね、怪我はしてませんか?」
「お母様!」
お父様の後ろから、お母様もこちらに着いたようで声を掛けてくれる。
すかさず、お父様から離れお母様に抱き着いた。
「けがはしてません、おかあさまもだいじょうぶでした?」
自分の言葉を聞いたお母様は、目をきょとんとさせてこちらを見た。
あれ? なんか言い方間違えた?
「ええ、お母さんは大丈夫ですわよ。そうね……二人とも大冒険だったみたですわね、ふふふ」
お母様は、自分の髪の毛に触れると、黄色に光る何かを指に馴染ませていた。
「お母様、私、アリシアちゃんをちゃんと守りましたの!」
自身たっぷりに、お姉様はお母様に語り掛ける。
その姿を見て、お母様は笑顔で頭を撫でた。
「奥様、向こうでアリシア様の……」
メリリアが布で包まれた何かを、お母様に見せる……。
ん? んんん? それ……。
「まぁ、ふふふ。アリシアちゃん、早く場所に戻りましょうね。女の子がそのままではいけませんわよ」
お母様がこちらを見て、自分を抱きかかえる。
お姉様も気が付いたようで、「まぁ」と声を上げた。
三人の視線に……顔が赤くなっていく。
すっかり忘れていたが……あの布に見覚えが……。
恥ずかしさから、お母様の首にしっかり腕を絡ませ、真っ赤になった顔を隠す。
メリリアが持っている布に視線がいかないように……素知らぬ顔で……馬車へ向かった。
精霊の事を知った二人。
世界の理が少しずつ明らかになってきました。
でも、アリシアちゃんはちゃんと覚えていられるのかな?
これで、お家に到着できるかな?
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