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03:王達の集い

使命を全うするにはどうすれば……

 始祖様と最後の別れを終えた後からの記憶がない。


 突然の使命を託された話や、始祖様の脳内コミュニケーション、仕舞には、悲しみからお姉様と号泣してしまったりと体力はほぼ使い切っていた。


 お母様に抱き締められて、安心して意識を落としたのだろう。


 目が覚めると、既にお昼を回っていたようでベッドにひとりだった。


 起き上がって、まず、お母様の姿を探す。


 が、見当たらない。


 いつもは大体隣で添い寝してくれているのだけど……ちょっと気持ちがざわつき始める。


 いや、このくらいでは泣きませんよ? と、思っているが身体は正直だ。


 勝手に涙が目を覆い出した。


 はは、ダメみたいっす。お母様、早くきてー! この身体、言う事聞いてくれないのです!


 メリリアがすかさず駆け寄ってきてはくれるが、感情の爆発は数分と持たないだろう。


「リンナ! 奥様をお呼びになって。アリシア様がお目覚めです」


 リンナが部屋を飛び出してから、数分も待たずにお母様が来た。


 スーッと涙が引いて、胸が温かくなる。


「おはよう、アリシアちゃん。はい、良い子、良い子」


 お母様は笑顔で自分を抱きかかえ、椅子に腰かけると、胸を露にしてお乳を飲む姿勢を作ってくれた。この滑らかなムーブで、自分の意識はお母様がいなかった不安を忘れさられる。目の前のお乳に、完全に意識を支配されているのだ。


 あー、このひと時が生きていると実感できる……甘い匂いが鼻いっぱいに広がり、喉を潤していく。お母様が飲んでいる自分の頭を、優しく撫でてくれるので、さらに夢見心地である。


 しばし時を忘れて、甘美な時間を過ごした。


 午前中から、お母様もお姉様も、昨日の始祖様から託された使命について、話し合いの場を設けていただそうだ。自分も、着替えが終わったら参加する必要があるみたい。


 始祖様が、お姉様にどこまで話していたのかを知るいい機会だ。自分には教えてもらえなかった情報が、お姉様にはあるかもしれないからね。


 お母様のお乳を飲んだから、寝室に用意された昼食を食べさせてもらい、皆んなの待つ部屋へ移動した。


「おぉ、アリシア! 元気になったようだな、安心したぞ。眠りが深いのは良い事だ。しっかり食べて、たくさん寝る! エルステアのように大きくなるのも、あっという間であるな!」


 お父様は、自分の顔を見るや上機嫌です。いつもと変らないお父様の顔を見て、この部屋に緊張が張りつめているような雰囲気ではない事を悟った。


 部屋の中には……早々たる人たちが顔を揃えているのですが……。


 ひとりひとり、お母様に抱っこされながら挨拶しにいく。


 えーと、皆さん座っているので、頭が高くて失礼に値しませんか?


 と、思ったけど、なんか別に良いっぽいので、そのまま笑顔を振りまいて挨拶していった。


 まず、中央の席に座っている、エルフ族の国の王であるサントブリュッセル様。その後ろには、騎士団長に新たに任命されたバハムートさんがいる。団長だったツヴァイスタ様は、甥っ子のルードヴィヒ様の件に責任を感じて辞職してしまったそうだ。誰も悪くないと皆んなで引き留めたそうだが、やる事があると言って出て行ったらしい……。


 その次は、エルフの王様から右側の列を移動していく。獣族の王アヴィニョン様、その隣には竜族の王バリンシュタイン様、さらにその隣にお馴染みの方、魔族の王様ナーグローア様……座っている人達、王様しかいないんですけど? この家、どうなってますのん?


 王の後ろには、全員一人ずつ護衛が付いていて、どの人達も屈強で渋みのある顔だ。なんだか、物凄く彼らに見られている気がして、居た堪れないのだが。


「其方等、あまり女子を物色するように見るのは、如何なものか? 無礼であるぞ!」


 ナーグローア様は、自分の顔色を見て察してくれたようで一喝する。王の護衛はその言葉にハッとしたような表情になり、一斉に顔を横に向け視線を逸らした。


 唇の角を上げ二っとするナーグローア様。


 自分は、頭を下げて御礼を返した。ナーグローア様の機転の利かせ方は流石ですね……女の子限定だけど、臨機応変な立ち振る舞いを勉強するには、打って付けの先生なのだ。


 挨拶が終わると、王様達の向かい側に移動した。お父様、お爺様、お婆様と続いてお姉様とお母様が座る。自分はお母様の膝の上に座った。


 手持無沙汰になって、遊ばないように見張られているような気がしなくはない。


 自分、お利巧なのでちゃんと話を聞きますので、安心してください!と言わんばかりの笑みを、お母様に見せてアピールしてみた。


「ふふ、おりこうさんでしたねー」


 笑顔で挨拶をした事は誉めてくれたが、抱える腕が緩むことはなかった……がっちりガードです。


 幼児ですものね……何するか分かりませんよね。しょうがないと思います。


「サントブリュッセル王、全員揃ったところだ。早速、話を進めたいと思うがよろしいか」


 王様は静かに手をパッと上に上げると、お父様はこちらに視線を向けて話始めた。


「エルステアの話はここに居る皆が理解しと思う。だが、情報がまだ足りない。そこで、同じ場所にいたアリシアの話も聞きたいと考えている。ユステア、問題ないだろうか?」

「ええ、問題ありませんわ。でも、その前に、エルステアの話を整理して教えて頂けますか?」

「うむ、そうであるな。不必要な情報まで混ざっていると、ここに居る皆が混乱するであろう。」


 あー、そう言えば話しちゃいけない事もあるよね……。


 上手く説明しないと、大変な事になっちゃいそうだなぁ。


 ちょっと不安を感じ、お母様を見上げると笑顔を向け、頭を撫でてくれる。


「心配しなくて良いのよ、アリシアちゃん。お母さんに任せてね」


 お母様の言葉に、何か余計な事を言って、失敗しそうになった時には、すかさず止めてくれるような安心感を覚えた。そのまま、後頭部をお母様の胸に当て、緊張を解いた姿勢で話を聞く始める。


 お姉様が話した内容は、概ね自分が教えてもらった内容と大差なかった。


 始祖様はちゃんと、お姉様とも脳内会話を行っていたようだ。


 自分とお姉様には、ユグドゥラシルの大樹を復活させる種が託されている。その種を芽吹かせるためには、神様達の力が必要。ただ、神様の力とは何なのか、どこにあるのかは分からない。


 芽吹かせるために、どれだけの時が必要なのかも、始祖様は存じていなかったと、お姉様は言っていたそうだ。


 もしかしたら、相当気の長い話なのかもしれない……けど、エルフ族に取っては大事な樹。


 出来るだけ早い方が良いに決まっている。


 お姉様の話を総括して、お父様は説明をしてくれた。


 自分の説明の番になり、お母様に確認をするために見上げる。小さく頷くのを確認して、前を向いて話を進めた。お姉様が話した内容と同じであることを伝え、それ以外で思い出せる事を話していく。


「しそさまは、ユグドゥラシルのきをふっかつさせるために、たくさんのよくないことがおこるといってました」


 一瞬、ざわっとする王様とその護衛達。


 障害とか、邪な者、悪しき者と言われてたけど、それが何なのか分からないので、「よくないこと」でまとめて伝えてみたけど……ちょっと表現が過剰過ぎたかな?


「やはり……関係してくるか……あの時の様にはいかぬようであるな」


 お父様の言葉に、王様達が深刻な顔を浮かべている。皆んなには、よくないことに思い当たる節があるようだ。それが何なのかは、誰も話に出してこなかった。


「他に、始祖様が仰ってはいないかったか?」


 お父様の問いかけに、首を横に振る。ほぼ、聞いた内容は網羅されたからだ。


 考えてみると、本当に情報がすくないよね。


 お父様も王様達も、それぞれ考え事をし始めた。


「まずは、神の力とやらを探さねばなるまいな。」


 エルフ族の王様が口を開くと、お父様達もそれに同調するかのように、神の力が受けられそうな場所や物を話し始めた。


「神の力となれば、神器か、まだ現存している聖柱の何れかが濃厚であるな。他の類はどちらかと精霊の加護であろうな」


 竜族の王様が、話を集約して説明を始める。神器と言えば、ルードヴィヒ様が持っていたそうで、既に失われてしまったらしい。


 ん? もしかして、あの力を使った時に吸い込まれていった剣の事?


 お母様に確認をしようと思い口を開こうとすると、スッと口元に手が回り塞がれてしまった。


 あー、これは口にする事すらいけない事なのですね……口を塞がれたまま、お母様に理解した事を示すため頷いた。自分の行為を見て、お母様はニッコリ笑顔を向ける。口元の手も下げて、何事も無いかのようにまた前を向きなおした。


 なるほど、お母様に抱かれて座らされたのは、うっかり防止ですか。納得しました!


 この後も、議論は続いていたが、結論らしい話は出なく解決の糸口は出ない。


「ユグドゥラシルの芽が存在する事となれば、ミッドヘイズも何者かに芽が託されている可能性があるのではないだろうか?」


 獣族の王様が唐突の言葉に、他の王様達やお父様達もハッとするような表情に変わった。


「その可能性は否定できぬな。しかし、探し出す方法が無い。アレサンディウェールの現状を鑑みても、調査は難しそうだ」


 エルフ族の王様の言葉に、一同は再び沈黙してしまった。


 ミッドヘイズってなんだ? 始祖様みたいな存在かな。芽が託されたかもしれないって事は……既に、この世にはいないってことになる。可能性の話だけど、自分達と同じ境遇の人がいるかもしれないならば、力になってあげたいよね。


「ふむ、その話は別で動かした方が良いかもしれぬな。皆の間者から、まず情報を探ろうではないか。」


 王様達は頷き、後ろにいた護衛に目配せをする。護衛達は、その様子に黙って頷き返すだけで理解しているようだ。何とも、頼もしい姿に感心してしまった。


 これが阿吽の呼吸ってやつですね! 自分もロアーナともっと仲良くなって、こんな関係になれたらいいなぁ……と、この場所で考える事ではないが、ぼんやり思ってしまった。


「神の力については、この場で議論しても結論は出ぬな。一先ず持ち帰り、情報収集から始めたいと思うがどうであろう?」


 エルフ族の王様の提案に、皆んなが賛同する。


 そうだね……ここで長く話していてもしょうがないですよね。名案だと思います!


「アヴィニョン、バリンシュタイン、ナーグローア。其方等の聖柱も、同様の危険があると考えている。我等のように抜かるなよ。」


 その言葉には、護り通せなかったお父様のやるせない気持ちが含まれていて、心が痛んだ。


「何かあれば、ディオスにも声を掛けさせてもらいますわ。借りはそこで晴らしてくださいまし」

「うむ、ナーグローアの言う通りであるぞ、ディオス」

「その方の重苦しい顔は、ここだけにしてくれ。辛気臭くて適わんぞ」


 王様達は口々にお父様を労わるように声をかける。


「うむ、ディオスよ。我が国の被害が最小限で済んだのは、其方等のおかげであるぞ。誇ってよいのだ。この先、我等の力を必要とする国のために尽くそうではないか」


 エルフ族の王様の言葉に、お父様は頭を下げる。


「お父様には私達がいますもの。私も五歳です! 微力ながらお手伝いしますわ」


 お姉様の頼もしい声に、お父様の表情が綻んだ。


「皆、すまない。」


 お父様は、真剣な眼差しで周りを見渡し、感謝の言葉を告げる。


 その表情は、一瞬見せた沈痛な面持ちは無く、いつもの威厳に満ちたお父様の顔だった。


 会談の内容を各々持ち帰る事になり、王様達が帰るのを順番に見送っていく。


 ナーグローア様は、自分達がいる間はここに滞在するそうなので、見送り側だ。お国の心配は大丈夫なのだろうか……と、思ってたけど、弟が執務を全部やっているそうなので、心配はいらないそうです。


 ちょっと、弟さんが不憫に思われたけど、それで国が回るなら良いのだろう。


 獣族と竜族の王様を見送り、最後にエルフ族の王様を見送る。


「エルステアは、今年で幼児院であるな。ディオス、こちらへはいつ頃くるのだ?」

「クネヴィスタの月には、夏の館に向かうつもりだ。まだ、こちらも領地もやる事があるのでな」

「そうか、着いた時には一報を頼むぞ。」


 お父様は、エルフ族の王様と硬い握手を交わした。


 夏の館って……何? お父様の言葉に疑問を感じながら、王様の馬車が小さくなるまで見送った。

王様の知恵をもってしても

解決には至りませんでした。

各自持ち帰りの宿題です!


次回から少し様子が変わる兆し!?


------------------------

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も非常に助かっております!

五月には表紙も出来上がると思いますので、

お楽しみ頂ければと思います!


読んで面白いと感じていただけましたら、

ぜひ、ブクマおよび評価、レビューなど

いただけますと幸いです。

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