01:後始末と
3章の始まりです。
アリシアちゃんの聖女生活は?
ユグドゥラシル様が消滅して数日。
意識を失ってから丸二日、死んだように眠っていたらしい。
起きた時には、お姉様が涙ながらに抱きついてきて、もう起きないと思って心配してくれたそうだ。
お母様もお婆様もナーグローア様も、起き上がる自分を見て喜んでいた。
あの日、自分が起こした変化について、すぐに箝口令を敷かれているようで、誰も語ろうとはしない。
その場に居たのは、お父様、お母様、メリリア。
そして、獣族の王様アヴィニョン様と竜族の王バリンシュタイン様。ナーグローア様も気付いたらしく、触れ回らないようにお母様からお願いして承諾したようだ。
お姉様にも、今回、自分の身に起きた事は話さないようです。
当然、自分も喋っちゃダメと、お父様とお母様に真剣な顔で言われた。
言いません……いや、言えないよなぁ……むしろ自分も俯瞰で事の成り行きを見たくらいだし。勝手に身体が動いて、魔法みたいな力でドス黒い霧を倒したり、致命傷を負った人達まとめて回復させたなんて……正直、夢でも見てるんじゃないかと思うくらいだ。
でも、あの力が無かったら、お母様もメリリアも、お父様達だってどうなっていたか分からなかった。教えてくれた少女のおかげで、皆んな救えた。
それだけで、自分は十分だ。
これ以上、あの力を使う気はないので、このまま黙っていようと誓った。
祭壇には他にも王族やその従者、神官達もいたが、全員瀕死で意識がなかったおかげで、自分の力には気づいていない。これは不幸中の幸いだったと、お父様は話していた。諸外国の首脳陣が、自分の力を知ったらさらに騒動になり、家族と一緒にいられなくなる可能性もあるそうだ。
その言葉を聞いて、なおさら死んでも話すものかと思った。
お父様ともお母様とも、お姉様とも、絶対に離れたくないのだ。自分の居場所を失うくらいなら、こんな力はいらない。誰か欲しい人に譲って、トンズラしたいくらいだ。
手放す方法は無いものだろうか……また、白い世界に行ったら少女に聞いてみよう。
過ぎた力は身を滅ぼすのだ。この幼女の身体の自分には不要。
事情を知らない人達から追求を避けるために、お父様達は、ユグドゥラシル様の最後の祝福が起きたと触れ回ってくれたようだ。それを信じない人は誰ひとりおらず、徐々に朽ち果て崩れ落ちる大樹にを見て涙を流しながら祈りを捧げていた。
記憶の片隅に力の事を全部押しやって、いつも通りの生活に切り替える。
爆発で壊れた神殿だったが、この神聖な場所はエルフ族の象徴として残す事が、サントブリュッセル王の命令で決まった。ユグドゥラシル様が居なくても祈念式は行うそうで、今後は王様が神官長として儀式を行うそうだ。
とりあえず、3.5年後の自分の番まで続いてくれると良いな。
今回は酷い目にあったけど、次は穏やかに迎えたい……本当に……。
神殿の修復は、お母様とお婆様ゴーレムが大活躍している。
お婆様の姿を見ていなかったけど、なんと超巨大なゴーレムの中で操縦しているのだ。主に穴が空いて崩れそうな天井付近の修復を担当していてる。
当然、子供達に大人気だ。男の子達が一眼見ようと集まってくる。そうだよね、男の浪漫だよね! 気持ちは分かるよ!
お婆様が休憩に入ると、手の平に乗せてもらえる事を知ってからは、さらに集まる子供が増えていった。親子同伴に限りと決められ、皆んな父兄を連れ立って来ている。どの子も、最初はびびっていたけど、降りた後は満面の笑みを浮かべ興奮を隠せないくらいはしゃいでいた。
自分もお母様と一緒に手の平に乗せてもらったけど、まるで鉄の人間二十何号、もしくはビッグなオーさんを肌で体験してしまったような変な興奮を覚えた。
アニメじゃ無い、これは現実だ……そう考えさらに興奮してしまい、お母様に落ち着くように諭されてしまう。
お母様のゴーレムは小さい人形を無数に展開し、祭壇の中から順に修復を行っている。
小人の妖精みたいに可愛いゴーレムで、こちらは女の子に人気だった。
小さい身体なのにやたら力持ちで、崩れた壁を壊しては壁材をヒョイっと持ち上げて新しく作り替えていく。修復で手配された人達も、その姿に呆然と立ちすくんでいたのが印象的だった。とは言え、彼らも職人だ。小さいゴーレムに負けるものかと奮起し、どんどん修復を進めて行った。
叔父様や王都から来ていた騎士団は、郊外で暴れていた勇者達を殲滅した後、護送車の護衛として王都に出発して行った。お父様が、「彼奴らは、よく分からない言葉が多く、何を言っているのか理解できぬ」と言っていたが、聞いてみると……自分の前にいた世界のゲームの単語がちらほら出てきた。
もしかすると、自分のような境遇の人なのかもしれない……。
自分の場合は、生まれ変わりみたいな感じと推測すると転生? 彼らはどうなんだろう。一回会って話を聞いて見たい気もする。勇者達と言うことは、沢山いるのだろう。ひとりくらい穏健な人がいても、不思議じゃないと思うのだけど。
叔父様達が王都に向かった後、これまた存在を見かけなかったガイアが、ひょこひょこと姿を見せる。身体には血のりが付いていて、前足には一度何かに切断されたような傷跡が目に入った。
「おつかれさま、ガイア。もういたいところはない?」
「ウォンッ!」
ガイアは前脚をちょっと上げて、地面をドンッと叩いて、傷の心配はいらないよと言っているようだ。
「ガゥッ!ガゥォォンッ!」
ひっくり返って腹を見せると、幾つか穿ったような傷跡を見せてきた。どれも傷は塞がっているけど、痛々しかった……その様子から想像を絶する戦いだったのだろう。
ガイアのお腹をゆっくり撫でて、労わって上げた。背中を地面に擦り付けながら、気持ち良さそうにしていて逆にこちらが癒されてしまう。もふもふ恐るべし……。
ベッタリ付いた血のりは、お母様の洗浄と優しい風の魔法で綺麗さっぱり落とされ、いつもの毛並みにしてもらったようだ。元の毛並みに戻ったガイアは、お母様に伏せをしてお礼を言っているように見えた。獣なのに、こういうところで律儀なのだ……本当に獣なのか? 少し疑いの目を向けると、「アホな事を言うな」と言わんばかりに、大きい口を開けて欠伸された。
くそう、完全に舐められている……。
とは言え、ガイアと主従関係に無いので、何も言えないんだなぁ。
お姉様のライネは、ちゃんと言う事を聞くように躾が出来つつある。まだ、言葉を理解していないので、たまに粗相するけど、ライネなりに頑張っているのだ。
ガイアの主人って誰なんだろう? 叔父様の家に居たから、やっぱり叔父様かな?
欠伸をしてダラけた表情を見せるガイアを見ながら、ぼんやり考えた。
「皆さん、祭壇の奥の部屋をお片づけをしますわよ。」
お母様の言葉で、お姉様がこちらに駆けつける。ガイアは疲れているのか、そのまま神殿の側にある木陰で寝息を立て始める。戦士の休息といったところだろう、そっと寝かせてお母様に抱っこを要求して連れてってもらう事にした。
「ふふ、アリシアちゃん、大好きよ」
このフレーズは未だ健在だ。ここに来てから、お母様のある意味おねだりは頻度が増している……後ろめたさを感じながらも、要求には応えなくてはならない暗黙の了解が存在している。
「お母様ずるいですわ! 私もアリシアちゃんが大好きよ」
二人のおねだりを断る手段は無い。
いつも通り、ソフトにキスをしてやり過ごした。顔と耳が真っ赤かで、精神をごっそり削られたのは言うまでもない。
ぐったりとお母様の胸に顔を埋めていると、祭壇のある部屋へ到着していた。まだ、記憶に残っている惨劇の傷跡が所々に見えてゾワリとする。お父様が言うには、ここで始祖様が殺された。お母様もメリリアも、命を落とす危険な状況だったのだ。
そう言えば、ここでおむつも交換してもらったんだよね……なんか色々複雑な場所になってしまって……見てて辛くなってくるよ。
祭壇の横にある扉から、細い通路を抜け突き当たりの部屋に入る。
ここは始祖様が降臨した際に使用する部屋で、ここにある場所に入るための鍵があるらしい。始祖様が、散り際に託された遺言とも言える言葉を実行するために必要なんだそうだ。
お母様が、大きな机の引き出しから、中心から青い光を放つ四角い魔石を取り出す。
中心には、丸い球状のような物が入っていて、綺麗な輝きに目を奪われてしまった。
「ここでの用事は済みましたわ、先を急ぎましょうね」
お姉様を連れ立って、再び狭い廊下を移動していく。壁や天井の被害は、ここまで及んでいないようで、どこもひび割れたり崩れ落ちたりしていなかった。
廊下を奥へ進んでいくと、大きな扉のある場所へ辿り着く。
いやはや、これは歩いては到底たどり着けなかったね。お母様に抱っこしてもらって正解でしたよ!
扉の横にある石板に魔力を流すお母様。
あれ、別の部屋でも同じような仕掛けあったよね。
と言うことは、ここも何かしら重要な場所なんだろう。
お母様の魔力の流れに合わせて、大きな扉がゆっくりと開いていく。
何が中にあるのだろうと、開く扉を凝視した。
扉が開き切ると、目の前には、朽ち果てて崩壊が始まっているユグドゥラシルの樹の幹が目に映る。
幹の下には小さな祠が建っていた。神社によくある白木の社とは、ちょっと形が異なるけど、ご神体が祀られてそうな厳かな雰囲気がこの部屋にはあるのだ。
お母様が手にしている青い光を放つ魔石は、あの祠で使うのかな。何となく想像できてしまったけど、何が起こるのかは分からない。嫌なことだけは起きて欲しくない。お母様が行うことなので、そんな心配はいらないと思うけど……。
「エルステア、こちらにいらっしゃい。アリシアちゃんもそこの前に立ってくださるかしら」
お母様は自分を祠の前で降ろすと、立って待っているように指示を出す。お姉様は自分の横に来て、同じように立つように言われた。
二人で立っていると、お母様は手にしている魔石を両手で掲げる。
魔石の光が急激に強くなり、眩しさから思わず目を伏せてしまった。
目を背けてから、光が収まるまでジッと動かずにしていると、キーンっと強い耳鳴りが始まる。思わず、隣にいるお姉様の手を取り、視線を向けた。
お姉様は眩しさに堪えて、前を向いていたようだ。
だが、お姉様の表情はいつもの笑顔は無く、何かに驚いているようだった。
眩しい光に目を細めながら、お姉様の視線を辿ると目の前にはーー。
「ふむ、思ったより早くこちらに来れたようだな。さすがわしの孫達であるの」
なんで、ここに居るの?
お姉様と同じように、目の前の光景に自分も驚きが隠せなかったーー。
お父様達はアリシアちゃんが危険な目に
合わないようにあの手のこの手。
そして、最奥の間に現れたのは……
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