050:聖女誕生
白の世界から
「まぁ、貴女の世界では魔道具も無いのに、扉が勝手に開いてくれるのですね。素晴らしいですわ」
白の世界に閉じ込められている間、目の前の少女とたわいもない会話をして時間を潰している。
お母様の昏睡魔法が解けるのは、何時になるのだろう……。
少女は、やたら自分の前世の話に興味を示しているので、自動ドアやエレベーター、電子レンジ、水道やガス、電気の話といろいろ語って聞かせた。
魔法が無くても生活できる事に、興味津々で相槌を打ちながら聞いてくるので、気分は悪くない。
次第に、「それは魔道具でも似たような物がありますわ」と言葉を返してくるようになった。
思った以上に、元いた世界の物が魔道具で代用されているようだ。
流石に電子レンジはない。爆弾は魔道具であるが、戦闘機や戦車はない。
代わりにゴーレムがあるので、どっちもどっちだ。人が乗って動かすゴーレムもあるらしい。彼女も存在は知っているが、見た事はないそうだ。ちょっと興味あるんですけど! どこに行けば見られるのかな……もしかしたら、お母様は知っているかもしれないね!
そんな話で語り合っていると、少女の顔に焦りが見える。
「体調がすぐれませんか? 少し顔色が悪いよ?」
「ええ、あまり良い感じではありませんわね……」
焦りから、狼狽え始める少女。さっきまで見せていた笑顔が、突然消えてしまったのだ。
青い顔をした少女は、こちらに視線を向けて口を開く。
「まだ直接、アリシアちゃんには影響は出ないと思いますけど、知っておいた方がいいでしょうね」
少女の真剣な表情で、辺りの空気が重くなっていく。いきなりどうしたと言うのだ。今回で三度目の交流だが、今までに見たことがない表情をしている。
その表情に気圧されて、唾を飲み込んだ。
「さきほど、エルフ族の拠り所、聖柱ユグドゥラシルが消滅しました。あーそうね、こう言えば分かるかしら。貴女が始祖様と呼んだ人が死んだのです」
えーと、話が見えないのだけど。消滅? 死んだ? そのフレーズがやたら強く頭に残った。
ユグドゥラシルってあの超巨大な樹だ。消滅って事は消えた? あんな天まで上っていけそうな大樹をどうやって消せるのか。
おまけに始祖様が死んだ事と何の関係があるの?
言葉が少なすぎて、理解に苦しむな。
「聖柱ユグドゥラシルは、そんなに簡単に消せるものなのか?」
「普通では、傷を付ける事すらできませんわ……ただ、ひとつだけ神自身が造られた物を除けば」
ふむ、神が造った物でユグドゥラシルが壊されたと……どんな超兵器なんだ……あんなデカい樹を壊しにいけば誰か止めるだろう? お父様や叔父様がいるのに、そんな事態になるとは思えないけどなぁ。
どうしてそんな事が、突然分かったのか知らないけど、思い過ごしじゃないの?
「そうね、思い過ごしであれば、私も慌てたりはしませんわ。でも、これは事実なの」
とは言え、ユグドゥラシルが無くなって、何の影響があるのかは分からないんだけど。確か、火の神様が悪さした時に造ったものだよね。二十本以上、世界にあるんじゃなかったっけ? あんなデカい樹が二十以上あるんだよ? とんでもないスケールだよ、この世界は……。
「ユグドゥラシルは、エルフ族の平穏を約束した神からの贈り物ですわ。消滅してしまった事で、もう神の祝福が受けられませんの。このまま時を経ていくと、人々の心が荒んでいき欲望に支配されるようになりますわ。その醜い心が互いを傷つけ、争いや諍い事が絶え間なく続いて行き……最後は、種の滅亡までいくでしょうね」
何か、前世の世界とそんなに変わらないような気がするな。この世界も大概だよね……家にいた時は、安全だったけど、外出たら襲われまくるし散々だったよね。お外は怖いところだって、トラウマレベルで
記憶に残ってますよ!
「その事に関しては、私からは申し上げません。お父様達に聞いてくださいな。アリシアちゃんにとってはあまり難しい話ではないのですね。強いのですね……少し驚きましたわ」
なんか微妙に褒めれてる? 良く分からないけど、快く受け取っておこう。
「それで、ユグドゥラシルの事は分かったけど、始祖様が死んだ事との関係は?」
少女は自分の言葉を聞いて、目を見開いていた。
あれ? なんか不味い事聞いた?
「んまぁ。あれだけいろいろしていただいたのに、気付いてませんでしたの? あーそうですわね、気絶してましたものね。しょうがありませんわ。始祖様こそが、聖柱ユグドゥラシルですわ。エルフ族を創り、繁栄を築いたその人、本人ですの」
えぇぇぇ!? あの毎度、毎度、お母様とお婆様に怒られていた始祖様がユグドゥラシル?
神殿の神官長とか、そんな感じの偉い人かなと思ってたんですけど。大樹が始祖様って、どうやってそんな人のような形までコンパクトになれるのか……。
「ユグドゥラシルの心を世界に合わせて顕現させたのが、始祖様ですわ。ユグドゥラシルの力は人には過ぎたものですもの。貴女は少し特殊ですから、力の影響が受けやすかったみたいですわ」
で、始祖様、ユグドゥラシルの心を失って消滅したって事になるわけだ。
きっと、やつれてた顔をしていたのは、エルフ族のために今まで力を尽くしてきたからなんだろうね。もっといろいろ話を聞いて見たかったなぁ……。
そんな、感傷的な気持ちに浸っていると、少し胸が痛んだ。
どうして、始祖様が死んじゃったのだろう。力を使いすぎて老衰しちゃった? いや、でも神様なんだよね。死ぬことってあるのだろうか?
「やつれた顔は元からですわ。死んでしまったのは、もう理解できてますわよね? 神を殺す道具があの場所に存在したからですの」
始祖様は殺された……。
その考えは、正直避けていた。神とは言え、自分が合った始祖様は人だ。そんなに簡単に殺すという言葉を使いたくなかった。
胸の痛みがさらに増し、呼吸が苦しくなっていく。
同時に、始祖様を殺した何者かを憎む気持ちが沸きあがってくる。
「アリシアちゃん、その心に染まってはいけませんわ! 憎しみの心を膨らませれば、相手の掌に乗っているようなものですの!」
少女は少し声を張り、自分を諫める。その表情は、悲しく困惑しているように見えた。
そんな悲しい顔をしないでくれよ。そんな顔で見られたら、こっちまで辛くなる。
少女の悲しい表情が見ていられなくて、憎しみの気持ちを無理やり心の奥にしまい込んだ。
やり切れない気持ちだけが、心に残る。
「ありがとう、アリシアちゃん。でも、覚えておいてくださいね。これからも決して、憎しみや怒りに心を支配されてはいけませんわ。貴女まで心が悪意に染まってしまえば、皆んなが悲しむ事がおきてしまいますの」
そうだね、少女の言う通りだ。憎しみや怒りの感情に押しつぶされてしまえば、誰かが不幸な目にあう。自分のいた世界がそうだった……年がら年中、世界のどこかで戦争やテロが起きていた。あの連鎖は、止められないのだと思って、他人事のように見てたな。
他人事だった事にいざ直面すると、負の感情って簡単に出てくるものなんだと理解できた。
「努々、忘れてはなりませんよ、アリシアちゃん。私との約束ですの」
少女の真剣な表情に、黙って頷いた。
そうだな、この愛くるしい身体になったんだ。
背一杯、身近な人達に幸せのエールを贈ってあげようじゃないか。
何か、良く分からないけど気分がスッキリしてきたぞ。
「ふふ、流石ですわね。貴女はやっぱり強いですわ」
今度の少女の言葉は、疑いようのない誉め言葉だな。悪い気しないぞ。
「そろそろお母様の魔法が解けそうですわ、アリシアちゃん」
少女は、少し残念そうな顔をしてこちらを見ている。その顔を見て、自分もなんだか寂しさを感じる。でも、またここに何度も来るような気がするんだよね……。
寂しい気持ちと、少女を慰めたい思いから、こちらから手を握り笑顔を向けた。
「ふふ、優しいのねアリシアちゃん。そんなアリシアちゃんに、助言をして差し上げますわ。いいですか、目覚めた時に何が起こっていても、良くない感情を出してはダメですよ。どうしても、自分で何ともならないと思ったら、迷わずあの言葉を使うのです。きっと、貴女がしたい事を叶えてくれますわ」
少女はそう言い切ると、首を傾げて笑顔を返した。
本当に、こんな場所で無ければ友達として良い感じだと思うのにね……。
「あら、私たちはお友達ですわよ。ねっ、そうでしょ?」
そうだな、ここまで話が弾む相手だ。友達だな。
「ありがとう、アリシアちゃん。また会いましょうね、ごきげんよう」
少女の別れの言葉を聞くと、意識がぼんやりし始めて目の前が暗くなっていく。
「またね、名前も知らない美幼女さん。今度合ったら、今度は名前を教えてほしいな」
目覚めると、いつものお母様の匂いはするけど、身体がゆさゆさと揺れている。薄く目を開けると、眠る前にいた部屋ではなく、長く続く廊下を動いているようだ。お母様の顔は眉間を寄せて厳しい表情をしている。
天井や廊下を見渡すと、あちこちに亀裂が入っていたり、壁に穴が開いていたりと壊れている。眠る前はとても綺麗だったのに、この荒れようを見るにまるで廃墟と化している。
これも少女の言っていた、始祖様が亡くなったせいに関係するのだろうか……。
ざわりと心が騒ぎ始める。良くない事が、この先で起こっている事を予兆させるかのように。
「おかあさま、そんなにいそいでどこへいくの?」
自分が起きている事に、お母様は気が付いていなかったようで、驚いたように目を見開きこちらを見た。
「起きてたのですね、アリシアちゃん。もう少し寝ていても良いのですよ」
お母様の言葉に、少し戸惑っているようにも感じられる。たぶん、始祖様の事を知られたくないようのかもしれない。少女から聞いた話の真偽は、定かではない。その話をして、お母様を混乱させるのも良くないだろうし、黙ってお母様の胸に顔を埋めて寝たふりをした。
廊下を速足で駆けていく揺れを感じながら、しばらくジッとする。
「お母様、あそこに怪我をしている人がいます。私が回復にいきますわ。リリア、一緒に手伝ってくださいまし」
「エルステア、ここは貴女に任せます。私達は、先を急ぎますわ」
お姉様の声が聞こえてきた。どうやら、皆んな無事なようで安心した。
この壊れようだ、巻き込まれて怪我をした人を癒しに回っているんかもしれない。
「奥様、こちらから行きましょう。」
身体がグンッと揺さぶられ、さらに速足になっていったように感じる。こんなに急いで行く先は、始祖様がいる祭壇だろう。始祖様が亡くなった事を知ったら、お母様はどれだけ悲しむのだろう……そう考えると、胸がギュッと締め付けられていく。
こんなに悲しい事が、どうして起こってしまったのか……その原因は自分では分からない。
しばらくして、人のすすり泣く声があちらこちらから聞こえてくる。
中には、大声で泣き叫んでいる人や、小さい子供の声もした。
どの声も、午前中に聞いた喜びの声ではなく、悲しみと絶望に満ちている。
その声を背中に感じ、辺りの様子を伺いたいと考えた。だが、耳にする声の数があまりに多く、凄惨な様子が安易に想像できてしまい、振り向く事ができなかった。
行けども行けども、人々のうめき声が耳に響いてくる。
辛そうな言葉に耳を塞ぎたくなった。
いつまでも続く苦悶の声で不安が増長していく。たまらず、状況の把握だけでもしないとと思い、意を決して目を見開き周囲を眺め見た。
「ヒッ!」
自分が目にした光景に思わず悲鳴を上げた。
天井や壁、床は無数の亀裂と穴が空き真っ黒に焼けただれている。豪華だった金属の装飾は見る影もなく、全て溶け垂れている。
床には、肌が爛れ黒く汚れ、髪は縮れて血を流している人たちが倒れている。誰もが息も絶え絶えに助けを求めているようだった。お母様は、自分を片手で抱えながら、もう片方の手に持つ杖から魔法を放っている。
杖から迸る魔法が、倒れている人達に触れると、爛れた肌が癒されていくように見えた。
しかし、完全に回復に至っていないように見える。倒れた人達の黒くなっている肌は元に戻っていないのだ。
まるで、爆弾が落とされたような光景に戦慄を覚える。
こんな悲惨な状況を、前世と合わせても、生まれてこの方目にした事はない。
胃の中の物が逆流してくる。吐き気が収まらない。
だが、いま吐けばこの切羽詰まっている状況で、迷惑をかけてしまうのは間違いなかった。
なんとか堪えようと、再びお母様の胸に顔を埋め視線を外す。
「ナーグローア! 生きてますの? 返事をしなさい!」
お母様の緊迫した声が耳を刺す。
「ふふ、ユステアですわね。少し甘く見てましたわ、まさか神器を使って自爆するなんて。私の方は、そのうち回復しますので、安心してくださいな。それよりも早く祭壇へ、ディオスが待ってますわ」
ナーグローア様の声を聞いたお母様は、そのまま勢いを上げて駆けだした。
「あなた! 無事ですの?」
「ここだ、とりあえず命はあるぞ」
お父様の声が耳に入る。その姿をちゃんと確認したく、声のする方へ振り向いた。
身体中に火傷を追っていて、両腕と両足の一部が真っ黒でひび割れている。肌色の張りのあったマッチョな姿のお父様の面影はなく、ひどく傷ついている様子だった。
「おとうさま……」
喉が詰まって声がうまくでない。お父様の辛そうな表情に涙が溢れてくる。
酷い、酷いよ……。
どうして、皆んながここまで傷つかなければいけないのだ。
お母様がすかさず魔法で唱えると、お父様と側にいた人達の肌に生気が宿る。さっきまで苦悶の表情だったお父様も少し楽になったようで、穏やかな表情でこちらを見た。
「すまない、ユステア。我は、ユグドゥラシルを守り通せなかった。本当にすなない」
お父様は床を見つめ、悔しさを滲ませ呟く。
表情はこちらからは伺い知れないが、自分を責めるように項垂れている。
「始祖様も随分長生きしましたもの。最後に託されたのでしょ? 私達の出来る事をがんばりましょう、ディオス」
お母様はお父様に前に座り、顔にそっと手を当てる。
「ああ、確かに受け取ったぞ。そうだな、ここから始めようか」
「ふふ、私の旦那様は立ち直りが早くてうれしいですわ。この命がある限り、進んでいけますわ」
お父様はお母様の顔を見て、目を細めながら微笑み返した。この二人の間に挟まれて、自分も勇気をもらった気がする。
「ディオス! そこから退け!」
お母様の背中から、男の怒声が聞こえてくる。
お母様は、とっさに振り向き杖を構えると、ギィィィンッと前方で何かが弾けた。
「オォォォォォ、オォォォ」
自分の目の前には、黒い靄が掛った何かがいる。黒い雲のような存在に目を疑った。
「しぶとい奴だ、まだ生きているのか! アヴィニョン! バリンシュタイン! 動けるか?」
「おう! 先ほど回復してもらったからな。まだいけるぞ!」
「さすが、ユグドゥラシル様の縁深き女神よ。万全ではないが助太刀する」
お父様達の力強い声が部屋に響く。思わず身震いするほどの覇気を感じた。
「メリリア、アリシアちゃんをお願い。祭壇まで下がっててくださいまし」
メリリアに抱かれ、お父様とお母様の後ろに下がった。黒い靄から目がぎょろりと浮き出ると、自分に視線を合わせてくる。あの目と合わせてはいけない気がして、視線をお母様に向けた。
「凍てつく氷で全てを閉ざせ! グランニューバイト!」
お母様の杖が青く光り、黒い靄に向けて振り下ろす。その瞬間、地面と頭上から氷の柱が何百も現れ、黒い靄目掛けて挟み込んでいく。
しかし、間髪入れず、氷の柱は縦に切れ崩れ落ちていった。黒い靄から銀色に輝く剣が妖しく光る。
お父様の仲間と思われる人達は、身体を大きくしてライオンとドラゴンの姿に変って、黒い靄に攻撃を仕掛けていく。
実体が無いということもあり、うまく相手を捉え切れていないように感じた。
徐々に押され始め、ライオンの人は壁に打ち付けら動けなくなっている。お父様は、手が思うように動かせないのか、黒い靄の剣を受け続け苦戦していた。
「ユステア、ここは退け! まだ我らに余力のあるうちに、アリシアを連れていくのだ!」
お母様はお父様の言葉に頷き、自分の下に駆け寄ってくる。
メリリアも、ゆっくりお母様の側に近づいた。
お母様に手が自分に触れる。
「ユステア!」
ズスッ
目の前で微笑むお母様が突然苦痛の表情に歪み、口から血が零れだした。
「おかあさま!」
触れられていたお母様の手は、スッと下に落ち、メリリアに伸し掛かるように膝から崩れ落ちた。
お母様の姿が視界の下に映ると同時に、目の前に黒い靄が現れる。
ドッ!
鈍い音が下から聞こえると、メリリアから力が抜け跪いた。
「オォォォォォォ! オオオオオォォッ!」
倒れるメリリアとお母様に手を差し伸べてると、目の前に黒い靄が呻き声を上げて立ち塞がる。
「逃げなさい、アリシアちゃ……ん」
苦痛で倒れるお母様は、手を振り払い逃げるよう言葉を告げる。
メリリアも自分の身体を押して、この場から去るに促してきた。
黒い靄は、行く手を阻むように身体を広げて覆い被さってくる。
重たいお尻を上げて、キッと睨む。
許せない……大事な人達を傷つける彼奴が許せない……
「どうして? どうしてこんなことするのさ!」
『酷いよね、誰も悪い事してないのにね』
「おとうさまも、おかあさまも、メリリアも、ここでないているひとたちも……」
『みんな彼奴に傷つけられたんだよ、許せないよね』
「もう、きずつけるのはやめてよ!」
『そうね、彼奴にみんな殺されたくないよね』
「かえってよ! もうたくさんだ!」
『さぁ、全てを終わらせて、元に戻しましょう』
「おまえだけは、ぜったいにゆるさない!」
『時は動きました、さぁ誓いの言葉を』
「ガイズ」
『君の望む世界を創るため、我等は共にある』
少女に教えてもらった言葉を唱えると、身体が燃えるように熱くなる。
意識ははっきりしているが、自分では思うように身体が動かせない。
小さい手を見ると、はっきりと黄色い光を帯びている。
黒い靄は眼下に映る。お父様も仲間達も、口を開けて自分を見ていた。
空中に浮いてる?
黒い靄がさらに身体を広げて、自分目掛けて跳びあがってきた。
左手を掲げると、黒い靄目掛けて光の筋が幾重にも降り降り注いだ。
黒い靄は光の筋で寸断されて、元の形に戻れなくなり、だんだんと小さくなっていく。
続けざまに、右手を上げると、細切れになった黒い靄を眩しく光る門が頭上に現れた。
そのまま、右手をゆっくり下げる。
門の扉が徐々に開かれ、黒い靄が吸い込まれていく……。
黒い靄の中に、銀色に光る剣が見える。
そのまま、剣と共に黒い靄は門の中へ吸い込まれてく。
両手を掲げると、門が締まり姿が見えなくなり、辺りが静寂が訪れた。
自分は、傍観者のようにただ見ているだけ。
何が起きているのか、自分が一番わかってない……ただ、目の前の彼奴を皆んなから遠ざけたかった。
その思いだけ強く強く願った。
黒い靄の居なくなった部屋を見渡す。お母様もメリリアも倒れたままだ。お父様もライオンの人もドラゴンの人も苦痛で顔が歪んでいる。
まだ、終わってない。
本当に自分が願うのはこの先だ。
背伸びの運動って馬鹿にしてたけど、両手を大きく掲げる。
頭を上に上げて仰ぎ見る姿勢を取ると、強く光る大きな球が現れた。
そのまま、両手を下げる。
光る球が一気に弾け、光の帯を付けながら四方八方に飛んで行った。
光がお父様に当たると、黒い腕や脚が元に戻っていく。
お母様に光が当たると、さっきまで倒れていたのに起き上がってくる。
メリリアにも光があたり、すぐさまお母様の無事を確認し始めた。
光はどんどんと弾けては、降り注いでいく……。
最後に、少し小さな光が床に落ちている布に当たる。
ぽうぅと布から銀色に輝く玉が、上空に上がっていく。
その銀色の玉は、自分の前まで上がってくると静止して、ぼやっと人の形に変っていった。
だんだんと形を現すと、見覚えのある人、ルードヴィヒ様だ。
『アリシア様、もうしわけありません。このような事態を招いてしまい、深くお詫び申し上げます。貴女をお助けするために遣わされたにも関わらず……。』
ルードヴィヒ様の影は、辛そうな表情をみせ謝ってくる。
彼は、温泉街での調査任務中に、アレサンディウェール軍に拘束され、拷問の末に殺された。その身体に悪意増幅の魔石を埋め込まれて、憑依魔法で操られここに誘導されたそうだ。
あとはご覧のあり様といった感じだそうだ。
『サントブリュッセルの騎士でありながら、任務に失敗し多くの被害を追わせてしまい……』
もう、大丈夫ですよ。たぶん、皆んな回復したと思うし。
そんなに悔やまなくても大丈夫。上の世界でゆっくりお休みしてください。
ルードヴィヒ様の常世の暮らしに、憂いがありませんように。
そう願うと、ルードヴィヒ様は微笑み、姿が銀色の玉に吸い込まれていく。
音もなく銀色の玉は、行き先をしっているかのように空高く登り消えていった。
最後に、彼も良い笑顔になれて良かったよ。
ぽっかり空いた天井の向こう側。太陽を見つめて意識が途切れた――。
アリシアちゃんがついに?
まだ1歳と半年くらいで力の片鱗を見せる!
でも、これ魂削る力でしたけど……。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
ユグドゥラシル編を無事完了です。
明日から3章がスタートします、乞うご期待!
読んで面白いと感じていただけましたら、
ぜひ、ブクマおよび評価、レビューなどいただけますと幸いです。




