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044:ユグドゥラシル

銀髪エルフはだーれ?

 銀髪のエルフがこちらに腕を広げ招いている。


 まだ祭壇まで距離があるので、表情までは伺い知れない。


 お母様は、銀髪のエルフの声に戸惑う事なく、祭壇に続く中央の道を進んでいく。


 部屋の中には神殿の関係者らしき人がいる。


 皆んな祭壇に向かって跪いている。


 あの銀髪のエルフが、上位者であるのは間違いないようだ。


 お母様の顔をチラッと横目で見ると、いつもと変らない笑顔をこちらに向けた。そのまま、お姉様にも視線を降ろすと、少し緊張しているようで顔が強張っている。人見知りはしない方なので、初対面でも上手く立ち回れる自信はある。


 けれど、この聖域っぽい静寂な雰囲気にのまれて、声が出なかったりする可能性は否定できない。


 ゴクリと生唾を飲む音がする。


「ふふ、大丈夫ですわよ、二人とも。獲って食べられたりしませんから」


 お母様に抱えられているので、正直、逃げ場なんてない。


 笑顔だけ崩さないようしよう。


 幼児の笑顔であれば、多少失敗しても許されるはず!


 それよりも、お母様の抱えてくれている手と腕が、お尻と股間に当たってちょっとむずむずしている。そう言えば、今日は馬車の中で一回くらいしか、おむつを取り替えていない……。感覚的には、いつでも放出できる状態だ。


 時間がかなり経っているので、一度でおむつはいっぱいになるだろう。


 さぁ、どうする自分。この生理的現象を、いかにして回避すべきだろうか。


 お母様の首に回した腕に力を入れ、ギュッと抱き着く姿勢を取った。意識を違う事に向ける事で、生理現象を堪えるのだ。お腹が下りやすい体質だったので、朝の満員電車ではたまに途中下車して用を足す事があった。遅刻しそうな時には、途中下車なんぞしてられないので、スマホで経済やら政治のニュースチェックやら、ゲームをして気を紛らわせて乗り切る。


 それでも、堪えるのが大変な時には、手すりに思いっきり力を込めて、気を紛らわせ何事もなく乗り切ったのだ。この程度、堪えるのはたやすい事ですよ。


「あら、アリシアちゃん? おしっこですのね」


 えーと? お母様。 いま自分必死に堪えてますから、お構いなしで問題ないですよ?


「メリリア、そこの長いすでいいかしら?」


 お母様に促され、メリリアは壁際に置かれている椅子に向かい、神殿の関係者らしき人に、何か話かけているようだ。


「エルステア、ちょっとあちらに寄りますわ」


 あれー? どうしてこうなっちゃうのかな? 凄い気合入れて堪えようとしたのに。目の前にいる銀髪のエルフさん、まだ腕を開いたまま待ってますけど、いいのですか? 


 壁際の長いすに小さい毛布が掛けられ、問答無用に横に寝かせられた。


「我慢はだめですよー、はい、ちっちしましょうねー」


 お母様は、自分の気合と心配を他所に、おむつにおしっこをするように促してくる。おむつをさすってくれる手が温かくて気持ちいい。神聖であろう場所なのに、さすられる度に、いつものお母様の雰囲気に呑まれ、気が緩んでいく。


 こんな荘厳な場所で放尿。一歩間違えれば不敬ですよね? 普通怒られると思うのですけど。いや、怒られるだけならまだましだ。


 下手すると死罪とか言われちゃうのでは……そんな事を考えたら、身体がブルっと震えた。


 余計な事を考えたばかりに、一瞬の身震いがきっかけになりおしっこが出てしまった。


 おむつがどんどん湿っていく……蛇口を全開で捻ったように放出しているのだ。


 終わった……ついに、こんな所で……。


 頭の中が真っ白になる。


「はい、よくできました、アリシアちゃん。もう大丈夫かなー? おむつ替えますわねー。」


 お母様の言葉で我に返る。この事態を早く収束して欲しいと、願うしかなかった。


 幸いな事に、周りにはお母様、お姉様にナーグローア様とメイド達の女性しかいない。ランドグリスお兄様やルードヴィヒ様はいないようだ。


 盛大におしっこをしたので、おむつからズシッとした重さを感じる。お母様とメリリアは素早い手つきで濡れたおむつを処理していく。湿った脚の付け根やお尻を綺麗に拭いてもらい、幾重にも重ねた布をあてがわれた。


「ふむー、其方らわしを待たせ過ぎではないか?」


 えっ!? と視線を上にあげると、銀髪のエルフが頭の上の方に立っている。


 うぉっ、ちょ! なんでそこにいる、ですか?


「あら、始祖様。乙女の着替えを除くなんて、あまり趣味がよろしくなくてよ」

「そうであったか。それは失礼した。其方らがちっともこちらに来なくて、嫌われたと思ったぞ」 

「ふふ、いま嫌いになりましたわ、始祖様」


 銀髪のエルフさんは、お母様の言葉を聞いて後ずさりし、青ざめて絶望したような顔になった。


「おぉ、すまん。すまんかった、リュステア。わしは見ておらんぞ、見ておらぬから安心してくれ」

「私、お婆様ではございませんことよ。もう名前も覚えてらっしゃらないのかしら、悲しいことですわ」


 お母様は、目元をハンカチで拭うようにして悲しんでいる振りをしている。お姉様は突然の出来事にあっけにとられていた。とっとりあえず、お母様、おむつ丸出しは恥ずかしいのですけど。


 しどろもどになった銀髪のエルフさんと、お母様のやり取りをしばらく続いた。その間、ずっと下着も履けず晒されていたわけだが……これは何て羞恥プレイ? おむつを付けられていない状態だったら、たぶん恥ずかしさで立ち直れなかったかもしれない。


 男であれば、こんな事が起きても何とも思わないけど、流石にこの身体では勘弁願いたい。


「あーごほんっ。 アリシアとやら、わしは見ておらぬから心配はいらぬぞ」


 銀髪のエルフさんは、咳払いして見てない主張を続けている。いや、もう良いですよ。お母様に相当弄られたので、くたくたになってますよね。


 初対面だけど、なんだか可哀そうに思えましたよ。


「始祖様? それだけですか?」


 お母様は、銀髪のエルフさんを冷ややかに見て問いかける。


「いや、あー、うぉっほんっ。んー、ここで話すのも何であるから、あちらに行こうではないか」


 はぁっと大きく溜息を吐くお母様。銀髪のエルフさんの前では、お母様の表情がころころ変わって新鮮だった。まるで、お父様を相手にしているような感じだね。


 銀髪のエルフさんに続いて、祭壇の前に大人しく移動する。まだ、まともに顔を見ていないが、銀髪のエルフさんは、金のラインが袖や裾に施された司祭が着るような真っ白な服を纏っていて、腰より長い髪を後ろで簡単にまとめている。全体的に細見で、少しやつれた好青年といった印象だ。


 イケメンだった、というのが正しいのかもしれない。正直年齢は不詳、若いように見えて、かなり歳をめされている様にも見えるのだ。エルフ独特の長い耳は健在なので、この神殿の偉い人なのかもしれない。


 祭壇の前に着くと、神殿の関係者らしき人が集まってくる。


 ちょっとしたセレモニーでもするのかな?


 階段状になっている祭壇の上には、一体の彫像を中心に周りに七つの彫像が置かれている。祭壇を囲う壁には、空洞が幾つもあり、その中にひとつひとつ彫像が置かれていた。まるで、祭壇を守っているような構図だ。


 銀髪のエルフさんは、その祭壇の下に立ち、こちらを振り向く。


 神殿の人たちは、銀髪のエルフさんの前に整列した。


「聖柱ユグドゥラシルの下へ、集まりし我が子達よ。美しく幸福に満ちた健やかな毎日と、亭々たる繁栄を願い、最高神ハルヴェスマールの祝福を与えん」


 金髪のエルフさんが唱えると、全員が一斉に両腕を上にあげ、そのまま下に降ろしていく。うん、背伸びの運動ですね。背中が凝った時に、良くやってましたよ。結構、血が流れていく感じがして、頭が少しすっきりします。


 祭壇の前で、背伸びの運動を数回行って、そのまま地面に肩肘と両手を付いた。クラウチングスタートの姿勢ですね。昔、動画で参上シーンのまとめを見たのを、思い出してしまいましたよ。


 その姿勢から、そのまま顔を上げるんですよね?


 と、思ったら、本当に銀髪のエルフさん達が、一斉に顔を上げこちらを見てきた。


「ぶぶふっ!」


 本当にこっち見たよ! マジですか? 想像通りのポーズに思わず吹き出してしまい、慌てて手で口を覆った。皆んな、超真面目にやっているから、笑ってはいけないのだ。いけないけど、真剣な眼差しをこっちに向けられると、笑い堪えのがしんどいよ。


 こっち見んなー、お腹がよじれて呼吸が……。


 銀髪のエルフさんが、再び地面に視線を戻すと、彼の触れる地面から青い光が無数に走っていく。


 さっきまで腹筋崩壊寸前だったが、青い光にあっけにとられてしまった。


 光は、祭壇にある彫像や、その周りの彫像目掛けて進んでいく。


 全ての彫像に埋め込まれている宝石が灯った瞬間、祭壇の遥か上部から光が降り注ぐ。同時にキラキラと輝く粒子が降りてきて、身体に纏わり付いてきた。


「そのまま、全身で受け止めると良いのですよ」


 お母様の言葉に従い、降り注ぐ粒子を全身で受けた。


 お姉様もライネも、素直に指示のまま顔を上げて受けている。


 温かい光が、身体の隅々まで染みてくる。まるで、温泉に浸かっていたような気持ちよさ。徐々に身体の奥底から熱が上がってきた。その熱は、どんどん全身に広がり、まるで湯上りのような火照った感じ。


 その熱が外に出てこないせいか、身体がさらに熱くなり汗が噴き出てきた。


 お姉様の様子を横目で見降ろすと、ブレスレットを起動し武装状態になっている。ステッキは、これまで見た事がない巨大な宝石を付けた、銀色の杖に変化していた。


「おかあさま、あつくてくるしいです」


 自分の汗だくでホカホカの状態を見て、何も言わずに手に何かを握らせた。


 スーッと熱が引いていく。でも、完全には引いていかなかった。


 熱が身体の奥から絶え間なく湧いてくるせいだ。


「あら、足りませんのね。ナーグローア、貴女のも借りていいかしら?」

「まぁ、恐ろしいほどの量ですわね。どうぞ、ユステア。いっぱい込めてくださいまし」


 ナーグローア様が、もう片方の手に何かを握らせてくれる。冷たくて気持ちいい。夏のコミケで必需品の保冷剤みたいに気持ちいいです。


 お母様とナーグローア様に手を握ってもらい、火照った感じが消えていく。


 熱が冷めてくると共に、身体から力が抜けていく……なんだかすごく眠いです。


 二人の手を取ったまま、意識が薄れていった。

ユグドゥラシルの祭壇で


お母さんとナーグローア様の

おかげで熱は冷めたけど

意識を失うアリシアちゃん。


さてさて……


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いつもお読みいただきありがとうございます。

ユグドゥラシル編はいよいよクライマックスに

近づいております!


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