042:進路変更
お母様達と濃厚なスキンシップを終え、普段と変わらずメリリア達にドレスを着替えさせてもらう。
今日は、フリルとレースが多めで、ライトブルーの生地に白いラインの入った裾、さらに金糸で刺繍が施された豪華なドレスを身に纏っている。肌着もドロワースもやたらレースが多かった。
いわゆる、見えないところにもお洒落をするといった感じだ。
おむつカバーはいつも使っている物なので、特に嫌な感じはしない。
「皆さん、準備は出来たかしら? ディオス達が、待ちくたびれているかもしれませんわ」
「はい、お母様。支度は整っておりますわ」
お母様も、いつものとちょっと形が違う深い緑色のドレスを着ている。少し胸元が大きく開けていて、大きな胸がちょっと覗いているのだ。背中も大きく開けていて、お母様の色白で綺麗な肌が露出してセクシーです。気になったのは、以前の戦闘で使用していたアクセサリー類を身に付けている。
ユグドゥラシルに行くので、何かあった時用なのかもしれない。
お姉様も、フリルとレースがふんだんに使われたドレスだ。赤い生地に施された金色の刺繍がとても映えて見える。お母様と同じく魔力を高める肌着とブレスレット、何時でも取り出せるように腰にステッキをぶら下げている。明日の祈念式では、ステッキは魔力を込めた銀色の杖にして向かうようだ。今日は下見なので変形はさせないらしい。
「お待たせしましたわ、皆さん。どうかしら、このドレス。今日は少し控えめにしてみましたわ」
黒と赤の生地が重ねられ、胸元をクロスするように仕立てられたドレス。前にも後ろにも大きく開かれて、少しおっぱいがはみ出ている……。魔王らしい、妖しくて妖艶なドレスと言えばいいのだろうか。実際、朝のキスで瘴気に当てられて魅了されたわけだが。青少年には刺激は強いと思うぞ。
「ナーグローア様にぴったりな、素敵なドレスですわ」
「そうでしょう。この日のために、我が国一の仕立て屋に作らせましたもの。」
ナーグローア様が得意げに髪を後ろに流すと、おっぱいがぶるんと揺れる。この格好で一緒に歩いたら、変な男が寄ってきちゃいそうな気がして不安なんですけど。まぁ、アナトさん達がいるから問題ないと思いますがね。
「ふふ、ナーグローア、張り切っちゃってますわね。」
着替え終わった事を確認したメリリアが、下の階まで案内してくれる。やはりここでも、階段が急で、ひとりで降りられそうにない。お母様に抱っこしてもらって、下で待つお父様と合流した。
「おかあさま、ありがとうぞんじます。まだ、かいだんはむずかしかったです」
「まだ、ひとりでがんばらなくていいのよ、アリシアちゃん」
お母様はこちらを見て微笑んでくれる。その笑顔を見てなんだか嬉しくなり、お母様の首に腕を回して抱き着いた。
「ふふ、アリシアちゃんは、いつもより甘えん坊さんになっちゃいましたわね。いいのよ、お母さんにもっとギュってしてちょうだいな」
ギュッと抱き着く自分の髪に、お母様は指を通して撫でてくれる。
お母様の繊細な指が髪を通す度に、とても心地が良い……うっかりするとまた眠ってしまいそうだ。
「アリシアの体調はどうだ、ユステア? 大事ないか?」
心配そうな顔でこちらを見るお父様。温泉街で錯乱し吐いた自分を、心配してくれている。ここはちゃんと問題ない事を、自分で伝えないといけない。
「おとうさま、しんぱいしてくれてありがとうぞんじます。このとおり、なんともないです!」
お父様を見習って、力こぶなんて出ない細腕でポーズをして見せた。その姿をみて、お父様は目を細めて嬉しがっている。叔父様もランドグリスお兄様も、自分の無事を喜んでくれていた。夜更けに泣きじゃくってお母様に慰めてくれていた事は、誰にも知られていないようです。
「ディオス、いい話を聞かせてあげましょうか?」
お母様が唐突に、お父様に耳打ちをした。何の話をしているのか、顔を近づけると二人が自分を見て笑顔になる。何か嫌な予感がする。まさか夜更けの話を、お父様に伝えらえてしまったのだろうか。
うぅ、お母様、その話はしないでほしかったよ……さすがに恥ずかしいぞ。
「あーうぉっホン! んーアリシアよー良く聞け。我もアリシアが大好きであるぞ」
あぁーぁあー、あ? あーあーそれ? いや流石に、お父様にもキスしないといけないの? お母様もチラリと横目で見ると、何も言わずに笑顔で頷くだけだった。
あー、はい。やります。やりますよ! お父様にも! キスすればいいんですよね!
「おかあさま、くちびるに?」
そう尋ねると、首を横に振るお母様。
「ディオス、その位置ではアリシアちゃんは出来ません事よ?」
「おぉ、そうであるな。」
お父様は、お母様の前に跪いて右を向いた。
「どうぞ、アリシアちゃん。お父様にも幸せを分けて差し上げてくださいな」
なるほど、左の頬にキスをすればいいのね。唇じゃないだけマシだわ! お母様に降ろされて、お父様の顔に近づいていく。もう、散々さっきまでお母様達にキスしたので、ドキドキ感も無くなっている。
チュッ
お父様の左の頬にキスをしてあげた。あーごめん、やっぱり恥ずかしいわ。直ぐにお母様の元に走り、スカートに顔を埋めた。耳の先まで真っ赤になっているのが分かる。お父様の顔は直視できないです。
「うぉぉぉーっ! アリシアに褒美をいただいたぞ! ユ! ス! テ! ア! 素晴らしい助言であった! たすかる! 我は幸せ者であるな!」
興奮したお父様の雄たけびが、室内に響き渡る。想像以上に興奮しているようだ。あまりの音量に耳を塞いでしまう。
「よし、次はエルステアだな! 大好きであるぞ、エルステア」
今度はお姉様におねだりですか、お父様? 思わずお母様のスカートから顔を離し振り向いた。
お姉様は、特に困った顔をする訳でもなく笑顔のまま、跪くお父様の右頬にキスをした。
いやー! お姉様の口づけをする仕草が、めちゃくちゃ可愛い!
どこかのプロのカメラマンが撮った写真のワンショットのよう!
あぁ、さすが自分の天使様!
何でこの瞬間を収めるカメラとかスマホないのかなぁ……すごいショックだよ。
しょうがない、心のメモリーに永久保存だ。
お父様の興奮はさらに高まり、雄たけびの振動で身体がブルッと震える。どこまでも規格外だ。今にも上着がはち切れて、むきむきマッチョな上半身が露になりそうです。
「ディオス、あまり興奮すると、エルステアもアリシアちゃんも驚いてしまいますわ。少し落ち着いてくださいまし」
そろそろ止めたほうがいい、と思ったらお母様が嗜めた。お父様は少し咳払いして、興奮を抑える。どうやら理性までは失っていないようで、すんなりお母様の言葉を受け入れた。あのまま暴走し続けたら、このお宿がヒビだらけになったかも……お父様、恐るべしです。
「ランドグリス様、少しよろしいでしょうか」
お父様の若干暴走気味の様子を見て、皆んなで微笑み和んでいる中、護衛にあたっていた騎士団のひとりがお兄様に近づき耳打ちする。少し眉を寄せて舌打ちをした。そのまま、隣にいたレオナール叔父様やメイノワール、メリリア、アナトさんを手招きし、離れたところで何やら話し合っている。
メイノワール、メリリアは、リリアやリンナ、リフィアに目配せして指示を出している。アナトさんは、そのままナーグローア様に何かを伝え始める。「んまぁ、忌々しい事。あと三つで踏破でしたのに」と少し怒った様子を見せるナーグローア様。マイオニーさんはそれを見て、何かを察したのか上の階にすぐ上がっていく。周りが突然慌ただしく動き始めた。
「ディオス、朝食を済ませてしまわないか?」
「そうだな、レオナール。皆の者、ユグドゥラシルへ向かう前に、朝食をいただこうではないか。」
お父様の手招きで、朝食会場に入る。そういえば、ルードヴィヒ様は、ここに来てから一回も見かけてませんね。そとの護衛にでもついているのかな? お仕事熱心なのはいい事ですね、社畜だった自分なので好感が持てますよ。頑張ってください!
メリリアとエリエスさんが給仕に就いて、朝食が始まる。お腹に溜まる物が何も入っていないので、野菜もスープもお肉もしっかり胃に収納した。ちょっと前より、ご飯の食べる量が増えた気がする。沢山食べて良く寝る! これでバッチリ成長ですよ!
しっかり朝食を取った後は、いつも通りお茶を飲みながら小休憩。ふかふかのソファーや、金銀、宝石で彩られた煌びやかな家具が備え付けられた部屋で寛いだ。自分はライネと一緒に、ガイアのお腹をもふもふしながら遊んでいる。これがなかなか快適なのだよ。
「ユステア、すこし頼みがあるのだが、良いか?」
「ええ、何なりと仰ってくだいまし」
「明日の祈念式は、其方の実家から向かおうと思う。急な話ですまぬ。確認を取ってもらえないだろうか」
ほぇー? お母様の実家はここにあるんだ。それは初耳ですね。という事は、お爺さんとかお婆さんやら従妹みたいな人達もいるのかな? 親戚と言われる人達には会った事ないや。
「まぁ、お母様の実家に行けるのですか?」
「そうですわね、祈念式の後に寄る事は伝えてありましたし。少し早まる程度ですもの、問題ございませんよ、ディオス」
お母様の言葉聞いて、お姉様が凄く良い笑顔になった。そうと決まれば善は急げですね! 早く行きましょう! お父様!
「レオナール、ナーグローア。手筈は整った、迷惑をかけて済まぬが一緒に来てはくれないか?」
「断る理由はございませんわ。ユステアの実家であれば、それ以上最良な場所はありませんものね。良い判断だと思いますわよ、ディオス」
レオナール叔父様も、ナーグローア様も同行に賛同してくれたようだ。なるほどね、突然の宿泊場所の変更で皆んなバタバタしていたのね。いやはや、文句のひとつも言わないで、キビキビ支度を整えていくメリリアやアナトさん達は本当感心するよ。自分のいた世界だったら、何か頼めば「えーそれやるの?」「いま、忙しいんで!」とか嫌な顔して渋々やる人が多かったからなぁ……。
「旦那様、レオナール様、ナーグローア様。全て支度が整いました。いつもで出られます。」
まだお昼にもなっていないのに、支度が完了したそうだ。レオナール叔父様は、既に騎士団数人を先行させてお母様の実家までの道の警戒にあたらせている。どうやら、その先頭をルードヴィヒ様が担っているようだ。今回は、叔父様が車列の最後尾を警備するようです。
宿の前に、自分達の馬車とナーグローア様の馬車が横づけされる。ナーグローア様の馬車は、真っ黒な外装に、赤いラインと長剣と斧の交差したエンブレムが付いていた。馬車を引く馬は、馬じゃない。何かデカい角と、所々赤い炎を纏っているような馬らしき獣だ。眼も鋭くてちょっと怖いぞ。
まさしく魔王の馬車ですという主張が随所に溢れ出ていた。おまけに、うちの馬車よりも三倍大きい……この前、乗って来た馬車は普通だったのに、どうしちゃったのですかね?
「どうです? この私専用の馬車。素敵でしょう? アナトが私が退屈して空を飛んでいかないように、わざわざ作らせてくれたのですよ」
なるほどね。さすがですねアナトさん!
「さっ、皆さん、今日は私の馬車でいきますわよ。乗ってくださいまし」
うわぁ、これに乗って良いの? お姉様と目を合わせて喜び合った。チラリとお母様の顔を見ると頷いてくれた。それを確認して、またお姉様と目が合い笑顔を交わす。お姉様の手を取って、ナーグローア様の手招きに誘われ、巨大な魔王の馬車に乗り込んでいった。
突然の宿泊場所の変更
ユグドゥラシルに行かないの?
でも、次の宿泊場所は
お母様の実家です!
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白の世界は夢だった?
お母さんに心の底から甘えられるように
なったアリシアちゃん。
この幸せがずっと続くといいですね!
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いつもお読みいただきありがとうございます。
ユグドゥラシル編はまだまだ謎の現象がいっぱいです!
本日、もう1話更新します!
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