041:大好き!
白の世界の続き……です
温かくて柔らかい……。
その感触に覚えはある。
いつもの匂い、いつもの温かさ、いつもの感触、いつもの寝息。
何故か、頬に涙が伝っている。
あれは夢だったのだろう。
皆んなと離れ離れになって一人ぼっちになる夢。
今感じている感触は、夢じゃない。本物だ。
薄めを開けて確かめる。
紛れもなく、お母様が横にいた。
怖い夢だった。辛かった。切なかった。
「おだあさまぁ……。」
喉の奥がつかえて、声にならない声が唇から漏れる。
お母様がいる。全部、夢だったんだ。そうに違いない。
今、ここに自分は存在している。
「気分はいかがですか、アリシアちゃん?あらあら、怖い夢でも見たのですね。お母さんはここにいますよ」
お母様は自分を抱き寄せて、優しく背中を撫でさすってくれる。自分は、お母様のネグリジェを力一杯握ってしがみ付く。怖い夢から解放され、ここに存在している安心感から、お母様の胸元で泣きじゃくった。
鼻水と涙で顔がぐしゃぐしゃだけど、そんな事は些細な事。
生きている実感をお母様の温もりで感じられ、糸が切れたように泣き続けた。
「良い子、良い子。怖かったのね。大丈夫ですよー。」
お母様は、優しく背中をさすり続けてくれる。
「おかあさまぁ、わだじごごにいだいぃ、ずっとみんなといだいずすぅ」
喉の奥がひりひりとする。込み上げてくる感情を、拙い言葉でも伝えたくてしょうがなかった。
「ええ、ずっと一緒ですわ。アリシアちゃんは、お母さんとずーっとずーっと一緒よ」
「えぅー。えぅぅ、わだじ、はなれまぜん、こごぉからばなれないずぅす」
子供だけど、子供のようにお母様に訴えかける。このどうにもならない感情。不安で押し潰されそうな心を、全部吐き出したい。安心する言葉がもっと欲しいのだ。お母様に何度も感情のまま言葉を投げかけ、優しい言葉をもらった。ささやき続けてくれるお母様の言葉で、少しずつ心が穏やかになっていく。
大の大人が大泣きするなんてみっともないと、誰かが言うかもしれない。
大人になって社会人になってから、泣きたい事、悲しい事が沢山あった。でも、その度に堪えるしかなかった。男が泣くもんじゃないとよく言われ、耳にもしてる。それが当たり前なのだ、男であり大人なのだから。
今は違う。今は、頼りなく非力で魔法も使えない、本当に小さい子供だ。
世間体とか、常識振る必要なんてない。もっと感情を解放して自由に生きても、まだ許されるはず。
そう思い始めた時、さっきまでの不安な気持ちと違う、吹っ切れたような感情がせり上がってくる。
「うわぁぁん、おがあざま……だいすきですぅ。おねえさまも、おどうさまもみんな、だいすきですぅ」
今まで、一度も口にした事のない言葉が口から溢れでる。こんな言葉を発した事は、大学生の時の彼女や、中学生時代の青い思い出くらいかもしれない。男だった時、両親にすら言ったことは無い……。大人になると気恥ずかしい、いまさら面と向かって言えない言葉。
「だいすき、だいすき……だい……すきなのぉ……」
「お母さんもアリシアちゃんが大好きよ。お姉さんもお父さんもメリリアも、皆んな貴女が大好きですよ」
思いのたけを呟き、お母様の言葉を聞いて心が整理され穏やかになる。
力いっぱい泣いてしまったせいで、身体も心も疲れきってしまった。お母様の胸元が鼻水と涙でべちょべちょになってしまっている。だけど、そんな事おかまいなしに顔を胸に埋めて、お母様の温もりを感じ続けた。今はこうしていないと、また良くない感情が自分に押し寄せてきそうで怖い。
「今度はいい夢が見られますよ、アリシアちゃん。おやすみなさい」
お母様の言葉に安心して、そっと目を閉じ意識を切った。
「おかあさま、だいすきです」
太陽の陽をいっぱい浴びたような心地良い布団の香りと、お母様から香る肌の匂い。そして、いつもお世話になっているお乳の匂いで目が覚める。もう、諦め掛けていた場所に確かにいる。一度起きた時に、感触を確かめていたけど、念のためお母様の胸を触り実感した。
昨日、どうなった記憶が曖昧だ。思いっきり泣いて叫んだ事は覚えている。思い出しても、恥ずかしいことをいっぱい口走った気がする。今は、お母様の顔を直視できないな。
取り敢えず、お母様はまだスースーと可愛い寝息をたてているので、お乳だけこっそりいただこう。すごくお腹が空いているのだ。
いつも通り、お母様のネグリジェの胸元をずり下げて、ボリュームのある胸を露わにして吸い付く。シュッと喉もにお乳が当たり喉をジワっと通過した。甘美である。これこそ誰もが憧れる嗜好の飲み物だ。もう一度、大きく鼻で息を吸ってお乳を吸い出す。今度は、口の中いっぱいに含んで飲み込む。鼻の中までお母様のお乳の匂いで満たされる。そこからは、無我夢中でお乳を飲んだ。もう、味わう事が出来ないと思っていたから、今日は息が続く限り勢いよく吸った。
「おはよう、アリシアちゃん。もう、すっかり元気になったようで良かったわ。いっぱいおっぱい飲んで、大きくなってね」
お母様は、自分の寝癖のついた髪を撫でならがら、優しく語りかけてくれる。
「アリシアちゃん、大好きよ」
「ぐふっっ!」
突然のお母様の言葉に噎せた。
あー、そうでした。一度起きた時に、泣きじゃくりながら言ってましたよね。意識がはっきりした状態で聞くと、やはり気恥ずかしいものがある。
「アリシアちゃんは、お母さんのこと大好きですか?」
その返しはズルいですよ、お母様。これ、言わないといけない流れだよなぁ。うーん、どうしよう。もの凄く心臓がバクバクしてきてるのですけど。困った、困ったぞこのシチュエーション。
「あれぇ? アリシアちゃんは、お母さんのこと好きじゃないのかなぁ? 悲しいなぁー」
お母様はどんどん言葉を投げかけて、自分を追い詰めていく。このまま応えないと、お母様が悲しい顔になってしまうかもしれない。
やるしかない。いっぱい昨日の夜、慰めてくれたお母様の期待を裏切れない!
おっぱいから口を離して、お母様の顔に視線を上げる。
あぁ、お母様の顔を見ると顔が赤くなっていく。顔を上げた先には、お母様の艶のある唇が目に入る。すごく期待されている目で自分を見ているお母様。
「おっおかあさま、だい……すきです」
「まぁ、アリシアちゃん! 可愛いですわー。」
チュッ
お母様が嬉しさのあまり、自分のおでこにキスをしてくる。
なっ、何をされるのですか、お母様。突然の事に動揺して手脚をバタバタさせてしまった。
バタバタした手がお母様の頬に触れる。
「あら、アリシアちゃんもちゅーしてくれるのかしら? どうぞ、アリシアちゃん」
お母様は目を閉じて、唇を差し出してきた。
いやいや、親子ですよ、お母様? そんな破廉恥な事して良いのですか? 差し出されたプリッとした艶のある唇を直視する。もう心臓の鼓動がドクドク音を立て、顔も耳もどんどん熱くなっていく。
これ、やらないとダメ? もう、自分の精神は限界ですよ……。
チラッとお母様が自分を見ると、さらに唇が迫ってくる。届かないと思ったのかな、最早ちょっとでも動けば触れる距離にお母様の唇がきた。
親子だから良いよね。スキンシップの一環で、タレントさんが娘とキス自慢するのを、キモいと思ってたこともあるけど、ごめんなさい。意を決して目を閉じて、身体をお母様に近づけた。
チュッ!
「うふふふふ、アリシアちゃんのファーストキスは、お母さんですわね! うふふ、嬉しいですわー!」
目を閉じていたので、どこに触れたか分からないけど、プニッとした柔らかな感触と瑞々しさは間違いなくお母様の唇だ……。なんとも言えない後ろめたさを感じる。お母様に至っては、頬に両手を当てて満面の笑みを浮かべて自分を見つめている。
「お母さん、今とっても幸せよ。アリシアちゃん、ありがとう。これで二人とも私が初めてをいただきましたわ」
あっ、お姉様のファーストキスをいただいてたのですか。うん、まぁ……自分のお腹を痛めて産んだ子供ですし……中身はともかく女同士ですもんね。とは言え、胸のドキドキは収まらず、お乳を吸い直そうとしても思うようにいかない。
「お母様、アリシアちゃんにキスしていただいたのですか? 私も欲しいですわ! アリシアちゃん、お姉ちゃんにもキスして欲しいなぁ」
「エルステア、アリシアちゃんに大好きって言ってあげると、キスしてもらえますわよ」
「ゴホォッ!」
何ですか、その取ってつけたようなルール! お母様、もう自分の心は限界ですよ?
「アリシアちゃん、大好きですわ! どうぞキスしてくださいな」
お母様から身を乗り出して、お姉様が目を閉じて唇を近づけてくる。整った顔立ちのまだあどけない美少女の小さい唇がどんどん近づいてきた。
あぁ……こうなるなんて聞いてないよ……。
動揺で鼓動がさらに早くなっていく。せっかく鎮まってきた、顔の熱が再び上がった。
「アリシアちゃん、あまりお待たせしては可哀想ですよ。お母さんの時のように、ソッと触れて差し上げてるといい話ですわ」
お母様の催促で、もう逃れられないのだと悟る。
緊張で脂汗が出てくる。お母様の時は、少し身体を寄せる程度だったけど、今度は少し身を乗り出さないといけないのだ。少し身体を起こして、お姉様の唇に近く。
目を閉じて、ソーッと唇を寄せる。
ブチュッ!
お姉様の唇に勢いよく触れた。プルプルの唇にほんのり湿った感触が、自分の唇にも伝わってくる。胸の高鳴りで鼻で息を吸うのも苦しくなっていく。
思考と身体が思うように反応せず、しばらくお姉様と唇で繋がっていた。
お互い息が途切れて自然と離れる。
あぁ、キスなんて何十年振りだろう……おまけに相手は美少女だ。こんな体験は、昔じゃ絶対体験できなかったよ。お姉様の顔を見ると、少し顔が赤くなっている。こちらも負けじと耳まで真っ赤だ。
「あらー、とっても可愛いキスシーンを見てしまいましたわー。本当、貴女達は可愛いですわねー」
「アリシアちゃん、ありがとう。これで私もお母様と一緒ですわね」
お姉様も自分にキスされて、興奮の色が隠せていない。
もう、二人の熱に絆されて意識は完全に疲労困憊だよ……。
「ふふ、本当に可愛かったですわね、ユステア。で、次は私の番ですよね、アリシア?」
どうも、後ろ側にも視線を感じると思っていたら、今日は、お母様とナーグローア様に囲まれて寝ていたようだ。後ろを振り向くと、胸元をワザと肌蹴させられるようなネグリジェで、ナーグローア様が横たわりこちらを見ている。その目は、いつでも来なさいと言わんばかりに誘っているようだ。
「ナーグローアも、アリシアちゃんに魔法の言葉を伝えないと、貰えませんのよ」
「あら、そんな事でいただけるのですね。ふふふ、容易い事ですわ。アリシア、愛しているわ。こちらにいらっしゃい」
ちょ、ナーグローア様? さらにグレード上げた言葉で誘わないでください。もう、目を細めて艶かしい雰囲気を漂わせないでもらますか……お母様やお姉様と違う緊張感があるよ!
ここまで来てナーグローア様だけ拒否ってしまうと、間違いなく落胆されそうなので、仕方なく振り向いた。
「さぁ、私にその唇を味あわせて頂戴。しっかり堪能させて貰いもらいますわ!」
ナーグローア様は鼻息を強くして、目を閉じ唇を近づけてくる。
顔を少し近づけると、ナーグローア様から薔薇のような妖しい香りが胸元から上がってきた。匂いを嗅いでいると、だんだん頭がぼんやりしてくる。ナーグローア様にキスしなくちゃ。
チュッ
ナーグローア様と唇が触れた瞬間に、頭に電気が走ったようにビクッとなった。何が起こったのか分からないが、徐々に身体が痺れてくる。この感覚はなんだ? ナーグローア様の唇に触れただけなのに……。
「あら? もうお終いですの? ふふ、アリシアちゃんの小さくて柔らかい唇。とても甘美でしたわ。なんだから三十年くらい若返った気がしますの」
「ナーグローア、余り刺激を強くしないでくださいまし。アリシアちゃんには強すぎてよ」
「いけませんわ、少し私の瘴気が溢れてましたわ。ごめんあそばせ」
そう言ったナーグローア様は、自分の額に指を当てて何かを唱えている。多分、魔法だと思うけど、意識がはっきりしないので何を言っているのか分からない。
唱え終わると共に、頭がスッキリして身体の痺れも無くなった。
「本当に、ナーグローアには困ったものですわ。お気をつけてくださいまし」
お母様がちょっと怒った感じで、ナーグローア様を責める。魔族の体質らしく、近づく物を虜にする瘴気が常に出ているそうだ。ナーグローア様は普段は制御しているそうだが、気分が高まると溢れでてしまう。こればかりは、抑えようにも抑えきるのは難しいそうだ。
「ごめんなさいね、アリシア。私がこんな体質のせいで混乱させちゃって」
ナーグローア様が申し訳なさそうに、こちらを見ている。体質じゃしょうがないですよ。いきなりの事でちょっと驚きましたけどね。この世界で起きることに、だんだん耐性ついて来てますし。
「ナーグローアさま、なおしてくれたから、わたしなんともないです。あんしんしてください」
「んまぁ、本当にアリシアは優しい子ですのね。やっぱり、持って帰っていいかしら?」
「ナーグローア、それは叶いませんわね。アリシアちゃんは、ずっと私と一緒ですの。ね?アリシアちゃん」
お母様とナーグローア様のやり取りに挟まれて、首を右往左往。お姉様は側で和かに笑って見ている。
幸せな空気が、寝室に満ちてくる……。
昨晩起きた出来事で、この幸せがもっと近くなった気がした。
「エルステア、いよいよ明後日ですわね、貴女の祈念式。今日は、ユグドゥラシルに下見に行きましょう」
「はいっ!お母様。ナーグローア様も一緒に行きませんか?」
「もちろんですわ、エルステア。ここに一人でいてもつまらないですもの。同行させていただきますわ」
今日は、いよいよユグドゥラシルへ。
きっと、驚くような事が待ち受けているはず!
白の世界は夢だった?
お母さんに心の底から甘えられるように
なったアリシアちゃん。
この幸せがずっと続くといいですね!
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いつもお読みいただきありがとうございます。
ユグドゥラシル編はまだまだ謎の現象がいっぱいです!
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