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037:温泉魔王

魔王ナーグローア様は待っている間に……

 豪華な宿をナーグローア様とお姉様と手を繋いで出る。


 目的は、お肌スベスベつるつるの温泉だ。


 正直、自分にその効用が必要かと言われると、たぶん必要ない。昔のように、顔にニキビ痕がある訳でもないし、水に濡れてベタッとしたり、ゴツゴツした岩のような手や足でもなく、水が弾けるほど繊細でキメ細かいぷにぷに肌をしているからだ。


 お姉様もたぶん必要ないだろうね。もちもちぷにぷにの肌をしてますから。


 とは言え、皆んなで入る初めての温泉!


 楽しまなくては損である!ふふんっ!


「三番温泉は、本当に残念ですわねー」


 ナーグローア様が、工事中の温泉であろう場所に視線を向けた。確か、ナーグローア様のおススメ温泉だったはず。今は、湯も張られておらず、底が露呈している。絶賛! 内装工事中といった感じだ。


「また機会はございますわ、ナーグローア。アリシアちゃんの祈念式にも来られるのでしょう?その時には、入れるようになってますわよ」

「気の長い話ですわ、ユステア。アリシアの祈念式まで待っていたら、お肌ガサガサになってしまいますの」

「あら、やだ。では、その前に行きましょうね、ふふふ」


 お母様とナーグローア様のたわいも無い会話を聞きながら、三番温泉、四番温泉と通過していく。


 エルフ以外の人達とすれ違う度に、チラチラ見てしまう。人の顔を興味深く見ることは、お行儀が良いとは言えないけど、今日は許してほしいです。


 猫耳が付いてる女の子が尻尾をふりふりして歩いていたり、雄々しくデカい水牛のようなツノを付けていてる男の人、ナーグローア様と同じように黒い翼が付いている人などなど、本当にいろんな種族がここに集まり、思い思いに温泉を利用しているのだ。


 見るなと言う方が無理なのです! 目に入ってきちゃいますから!


「エルステアもアリシアちゃんも、他の種族が気になるようですねー」

「あら、他の種族と接触はあまり無かったのかしら?」

「そうねー、この子達に何かあったら困りますもの。あまり接触させませんでしたわ。魔族ではナーグローアが初めてですわよ」


 お母様の言葉を聞いて、ナーグローア様なんだか満足気だ。


「まぁ、そうでしたのー。それは光栄ですわねぇ、初めてですの、あらあら、ふふふ。二人とも、私が初めてですのよ。覚えておきなさいね」


 おっおう……なんだこの圧力は……ナーグローア様が目を細めて、自分とお姉様を見ている。


「ナーグローア様が一番ですわ。私ずっと思い出として覚えておきますわ。」

「んまぁ、エルステアはなんて可愛いことを仰るのでしょう。一番ですって……あぁっ、んっ……」


 お姉様の言葉に、ナーグローア様はビクッビクッと悶え身体を震わせている。


 この後、裸のお付き合いになるのですが、以前よりハッスルしそうでちょっと怖い……。お姉様をナーグローア様から守らねばなりませんね!


 そんな事を思い気合を入れて歩いていると、温泉の前に立ち並ぶ屋台から甘い匂いが風に誘われてきた。


 匂いのする方へ視線を向けると、蒸籠のような物を置いた屋台があった。たぶん、あのお店で売っている物から匂いがしているので間違いない。店の前には数人の観光客らしい人達が並んでいた。


「へい! お待ち! 熱いから気をつけてくれよ!」


 店員さんらしきおじさんが、葉っぱで包まれた何かを渡している。ちまきかな? 甘いお団子が入っているならちょっと食べてみたいかも。食事の後なので、出来れば甘くない食べ物は遠慮したいところだ。ほら、甘い物は別腹って言うじゃないですか。


「おかあさま、あれはなにをうっているのですか?」

「あのお店ですわね。あれはユーリスの葉で包んだお菓子ですわ。中にはマセの粉を丸めた柔らかくて甘い物が入っているの。マセの中にとても甘い蜜も入っているのよ」


 食感的にはちまきっぽいな。中に蜜が入っているのはここオリジナルって感じがする。うーむー、ちょっと食べてみたい気もする。温泉から出たらお願いしてみようかな。


「おかあさま、あとでたべてみたいです」

「ふふ、アリシアちゃんは食べ盛りですものね。良いですわよー。帰りに買っていきましょうね」

「ピッピィッ!」


 快くお母様が承諾してくれました。ライネも嬉しそうに声をあげる。ありがとう、お母様! せっかく苦労して温泉街に来たんだし、食べ歩きで楽しむのもありだよね。お母様に笑顔を見せて、お礼を述べた。


「ここは五番温泉ですのよ。ここは世界でも有名な温泉で、戦いで傷ついた者や、大怪我をして治癒魔法では完治できなかった人々が利用しているの。ユグドゥラシルの影響を一番受けている温泉ですわね」

「ナーグローア、随分詳しくなられたのですね」

「ふふ、私、お待ちしている間、ここの温泉のほとんどを巡りましたのよ。あと残るのは三つで完全制覇ですわ!」


 ナーグローア様は鼻をツンと上に上げて、胸を大きく張り仰け反った。物凄く得意げな表情をしている。


「アナト! あれを見せて差し上げて」

「はっ! 皆様、こちらをご覧ください」


 アナトさんが手にしたのは小さな本だ。中をパラパラと開いて見せてくれると、そこには赤いインクで押された絵があった。どのページも絵柄が違う。


 これは、御朱印帳? いや、スタンプラリー帳ではないだろうか……。


「どうです、皆さん。素晴らしいでしょう。私、もうすぐ温泉マスターの証を得られるのですわよ」


 全ての温泉を巡り、絵を集め、集めきって温泉協会に持っていくと、記念品と温泉マスターの称号が得られるそうだ。ナーグローア様はあと少しらしいので、今回の宿泊でコンプリートを目指すそうだ。


 この催しは、以前は無く、最近になって導入された仕組みらしい。


 ナーグローア様は、退屈しのぎで始めたのだけど、思った以上に温泉巡りが楽しくなったそうだ。毎日、朝、昼、晩と違う温泉に浸かり続けた結果、残すところ後三箇所になったと言うわけです。


 ここの温泉は五十五番まであるらしいけど……ハマるととことんやる人なんですね……自分から、ナーグローア様に温泉ガチ勢の心の称号を贈らせていただきますよ。


 あれ? でも、三番温泉は工事中だけど……温泉入れないよね。この場合どうするんだろう。まぁ、その時は温泉協会がなんとかすると思うから、無粋な話をするのは辞めておこう。魔王が温泉マスターの称号に躍起になるって、なんだか想像するだけで可笑しいな。庶民感覚な魔王様だけど、親しみを感じやすいのでこのままでいて欲しいかも。




「皆さん、十五番温泉はこちらですわー」


 ナーグローア様に各温泉の効用を聞きながら、目的の十五番温泉に到着した。絶好調のナーグローア様の温泉解説のおかげで飽きもせず着けた感じだ。子供の足ではちょっと大変だったので、途中からお母様に抱っこしてもらったのはどうでも良い事です。


 十五番温泉の入り口には、日本の銭湯のような番頭さんが座っている。最初にアナトさんが中に入り、番頭さんと入浴料のやり取りをしている。しばらくして、アナトさんが戻ってくると、銭湯の奥に案内された。


 銭湯の中にはいくつも部屋が区切られていて、自分達が利用するのはこの中でも一番大きい個室だそうだ。まぁ、同行する人数が結構多いですからね。お母様、お姉様、自分に、メリリア、リリア、リフィア、さらに護衛が四人……いる。ナーグローア様とアナトさんと護衛騎士二人、メイドのエリエスさんと、総勢で十五人だ。


 護衛の人達は入浴はしないけど、部屋の外、休憩室、脱衣所、浴場とそれぞれ警備にあたる。今回は、メリリアとリリア、アナトさんが一緒に温泉に浸かるそうだ。まさかのアナトさんまでご一緒になるとは、想定外です。我が家の使用人でも一緒にお風呂に入る習慣が、ナーグローア様に影響を及ぼした可能性は否定できない。彼女としては、良いきっかけが出来たと喜んでいたのでは無いだろうか……。


 アナトさんも特に抵抗する様子もなかったので、日常的に一緒に入る習慣が出来ていると推測した。


 通された部屋に入ると、まず広い休憩室だ。ここでは飲食も出来るそうで、さながらスーパー銭湯のような雰囲気だ。木造造りの部屋に、掘りコタツ風のテーブル、側にはドリンクコーナーや軽食が置かれている。だけど、ドリンクコーナーと軽食は食べてはいけないとメリリアに言われた。解せぬ……何故ダメなのかは説明してくれない。


 代わりに、リリアとリフィアがお菓子とジュースを持ってきてくれているようで、コーナーに置き換えてくれた。相変わらずの手際良さに、驚きが隠せなかった。本当にうちのメイドさん達は凄いね。


 ここで、ゆっくりしてしまうと、次の温泉に行く時間が無くなってしまうので、直ぐに脱衣所に向かった。


「こちらで服を脱ぎますのよ、さぁいらっしゃい」


 ナーグローア様の目が怪しく光り、皆んなを招く。もう少し感情は抑えた方が良いのではないだろうか……。


 メリリアに服を脱がせてもらって、お母様が脱ぐのを待つ。待っている間、いつものように時間潰しにライネとはしゃいでいた。ナーグローア様も素早く一糸纏わぬ姿になり、浴場へ移動するが、アナトさんに止めれて脱衣所で待機する。


「中の様子を見て参ります、皆様はここでしばらくお待ちください。」


 アナトさんはそう告げると、リーシャとサーシャ、ロアーナを連れて浴場に入っていった。用心に越したことはないですよね。護衛騎士のチェックが終わるまで、皆んな大きなタオルを身体に巻いて待機した。


 お母様もメリリアもナーグローア様も、タオル越しだからだろう……巨大な胸がめちゃくちゃ主張していて目のやり場に困る。お母様の胸はいつもお世話になっているので、ガン見する事に抵抗はない。メリリアも一緒にお風呂に入る機会が多いので問題ない。


 ナーグローア様の色っぽい仕草で待つ姿は……さすがに慣れろというのも無理がある。前回は密着させてもらったけど、薄い記憶が蘇ってきてしまった。今回もそんな感じになるのか、鼻血とか出さないかな自分……少し心配だ。

魔王なのに温泉マスター!

全てを温泉を手中にできるのか!?

次回から魔王様と温泉めぐりです!


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いつもお読みいただきありがとうございます。

少し読みやすくなるように分割しました。

本日もう1話アップいたしますので、お待ちくださいませ。


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