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020:魔王の贈り物

019:魔王の訪問理由の続きです。

「おっお待たせしましたわ。先ほどは危険な目に合わせてごめんなさい。エルステア、アリシア、お怪我はなかったかしら。」

「少し驚きましたが、大丈夫ですわ。」

「なにもなかったです。」


 ホッと胸を撫でおろしたナーグローア様でしたが、アナトさんの視線は冷たいままです。無言の圧力が彼女に向けられ続けているようです。


「そうそう、祈念式がもうすぐでしょう。私、用意させた物があるの受け取ってくださいます。」


 ナーグローア様はそう告げると、黒い鎧の騎士達とメイドさんが大小4つの箱を持って入って来た。


「まずは、エルステアにこちらを。魔族の代表より友好の証として贈らせていただきますわ。」


 メイドさんが箱から取り出したのは小さなステッキだ。


「これは、魔力の成長に合わせて形を変え、魔力を高めることができる道具。魔法の練習を始めた貴女にはこれから必要になる物ですわ。どうぞ持ってごらんなさい。」

「ありがとうぞんじます。ナーグローア様。」


 お姉様は箱からステッキを手に取る。見た感じ丸眼鏡の少年が剥げた化け物と戦う映画で使った棒に似ている。あのステッキを持って呪文を唱えると、先端が光って魔法がでる感じなのかな?


「その杖に貴女の魔力を込めてごらんなさい。今の貴女に相応しい形になると思うわよ。」


 ナーグローア様の言葉に従って、お姉様はステッキに魔力を込め始める。お母様はそっとお姉様の後ろに来て両肩にやさしく触れて支えている。


「いつものようにゆっくり魔力を引き出すのよ。慌てないで込めてごらんなさい。」

「はい、お母様。皆に見られているのでちょっと緊張しますわ。」


 ステッキを持つ手が光り始め、徐々にステッキも光を帯びる。


「やっぱりこの子も全属性ですのね。悲しい事にどこかのエルフの属性が強く出てるみたいですけど。」

「ははは、不満そうだなナーグローア。我の娘だぞ当然である。」


 お父様は両腕を組んで得意げな顔だ。


「あっ、杖が変化し始めました。」

「そのまま魔力を流し続けるのですよ。途中で止めてはいけませんの。」

「さすがですわね。ユステアの娘に相応しい魔力量ですわ。ちょっと杖の形状が気に入りませんけど。」


 ステッキがスッと大きな杖に変わっていく。先端には大きな宝石が付き、周りには煌びやかな装飾が施されている。魔力の光を帯びているので神々しい感じだ。


「エルステア、もう魔力を込めなくても大丈夫ですよ。」

「まぁ、小さい杖がこんなに素敵な形になるなんて。」


 お姉様は自分の手にしている杖を見て驚いている。自分も変形していく杖が姿をはっきり現したのを見て驚きを隠せない。魔法のある世界って本当に何でもありなんだな!


「立派でしたよエルステア。貴女に相応しい杖になりましたね。この杖はまだ未成熟なの。貴女が成長していく度に本来の姿に近づいていくのよ。」

「さすが我の娘だな!光の女神エルフェスデュールが持つ杖にとても似ておるぞ。」

「おねえさまとってもすてきですわ。」


 皆が口々にお姉様を褒めたたえると恥ずかしそうに頬を染めて照れ始めた。照れた顔のお姉様は可愛いのだ!


「それと、もうひとつ大事な物をエルステアに。」


 ナーグローア様は黒い騎士が持っている箱をお姉様の前に差し出させます。


「これは貴女の家族より依頼された品になりますの。手に取って身に着けてごらんなさい。」


 お姉様は少し頷くと箱に入った物を取り出す。


 見た感じ宝石が散りばめられた金色のブレスレットだ。


「ナーグローア様、こんなに贈り物をいただいてありがとう存じます。」

「んー、こちらのお礼はそこにいる者に言ってさし上げるといいですわ。私は頼まれて作っただけですから。」


 ナーグローア様が指を差すと、お父様はちょっと咳払いしてお姉様を見ている。


「まぁ、こんな素敵なブレスレットをお父様が用意してくれたのですか。ありがとう存じます。私とてもうれしいです。」

「うむ、其方ももうすぐ5歳であるからな。祈念式に立派な姿で参加できるように手配したのだ。」

「貴方がユステア以外にまともな贈り物をするなんて、私、信じられませんでしたわ。でも、その子の晴の舞台ですものね。お役に立てて嬉しいですわ。」


 お姉様は感激のあまり目が潤んでいる。お父様も満足げな顔でお姉様も見つめ、ナーグローア様から贈られたブレスレットをつけてみるように促した。


「そのブレスレットも魔力が必要なの。貴方の魔力量はまだ十分あるみたいだから込めてごらんなさい。」

「はい、ナーグローア様。」

「中心の大きい魔石が光ったら、アシュールと唱えなさい。」


 ナーグローア様に頷き、お姉様はブレスレットに魔力を込める。魔力を動かす練習を一発合格しているお姉様だけあって直ぐにブレスレットは魔力が満ちて光る。


「アシュール!」


 お姉様が呪文を唱えた瞬間に、毎週日曜朝に始まる女児向けアニメ張りに身体が光に包まれていく。


 光が収まると、お姉様の洋服が別物に変わっていた。


 お姉様の頭には煌びやかな装飾がなされたティアラが冠され、銀色に輝く軽装な鎧に金色に輝くドレスを纏っている。エルフで美少女なお姉様がカッコいい鎧まで纏ったら、まるでゲームに出てくるような戦乙女じゃないですか。あ、武器は杖だから魔法騎士かも?でも、そんな事はどうでもいい。


 とにかくお姉様は本当にすごい!


「おねえさますごくかっこいいです。」

「どうですディオス。私の腕によりを掛けて拵えたこの装備、ご満足いただけましたか。」


 ナーグローア様は自信満々にお父様を見ると、お父様もニッと笑い返した。まぁこんなに素敵にお姉様が変わってしまえば文句なんて出るわけないですよね!ナーグローア様もすごい!


「お父様、お母様、ナーグローア様、私のためにこのような贈り物をくださり何と御礼を申し上げたらよいか。本当にありがとう存じます。」


 何とか泣かないように我慢していたお姉様も、さすがに堪えきれなくなって涙が目から溢れ出た。

 お父様はお姉様にそっとハンカチを渡す。こういう事を自然と出来ちゃうお父様もやっぱり紳士なんだよねー。


「気に入ってくれて何よりですわ。そちらを仕舞う言葉を教えてませんでしたわね。そちらの杖は、出す時は、シャルマ。仕舞う時はマシャル。鎧を出す時は、アシュールで、仕舞う時はルシューアですわ。この言葉を忘れちゃうと出し入れ出来なくなるから覚えておくのですよ。」

「はい、ナーグローア様。忘れないようにいたします。」


 お姉様はハンカチで涙を拭いながらナーグローア様に返事をする。感極まったお姉様の涙はなかなか止まらないようです。こういう時こそ何かしてあげたいと思った自分は、お姉様の隣に行き黙って小さい手で背中を撫でた。


「アリシアにもありますけど、どうすれば良いのかしら?」


 お!?自分のもあるんですかナーグローア様!!見たい、見たいですよ!!チラッとお母様の顔を見てみると微笑み返してくれる。貰っていいのですね!と解釈した。


「まだこの子には早すぎますから、私が預かっておきますわ。ナーグローアありがとう。」

「どういたしまして。ユステアの娘達のためですもの気になさらないで。ニンフル、マイオニー、そちらをメリリア達に渡してちょうだい。」


 ちょちょちょ、えーお預けですって?せめて、ちょっとだけ触らせて!お母様とナーグローア様に上目遣いでおねだりするような視線を向けたら見せてもらえないかな。


「ふふ、アリシアちゃんそんな顔をしてもだめですよ。お姉ちゃんみたいに大きくなってからね。」


 やっぱりだめだよね。うぅこんなに小さな身体でなければ、自分もお姉様みたいにカッコかわいい姿になれたかもしれないのに。スカートをギュッと掴んで、口を引き結んで悔しい気持ちで泣きそうな気持を我慢した。


 お母様はそんな自分を見て、パンッと手を叩く。


「せっかくナーグローアから贈り物をたくさん貰いましたから、皆でお返しを作りましょう。ナーグローアのお城にぴったりなゴーレムとかどうかしら?」

「ユステア、私にゴーレムを作っていただけますの?本当であればとても嬉しいですわ。」

「エルステアとアリシアちゃんに形を作って、後は私が担当しますわ。あまり大きなゴーレムは作れませんけど、貴女の身辺警護には使えると思いますわよ。」


 ゴーレム制作ですか!そう言えばここに来るときに作ってくれるって話してましたね。


「なーぐろーあさまのゴーレムがんばります!」


 ナーグローア様のお城で使うゴーレムですって!すごい強そうなの作ってあげなくちゃ!どんなゴーレムにしようか思考が切り替わったので、暗い気持ちもどこかにいってしまったみたい。


「ユステア、私もゴーレム作りのお手伝いしてもよろしくて?せっかくなので私も参加してみたいわ。」

「ふふ、ナーグローアが使役するゴーレムですものね。良いですわよ、皆で作りましょう。」


 お母様はメリリアにゴーレムに使用する材料を準備するように指示を出す。その間、お母様とナーグローア様、お姉様とどんなゴーレムを作ろうかで話が盛り上がった。


 ゴーレム作りには、魔力を持つ粘土ルナルサイトを使って自由に形を作る。子供でも粘土遊びの要領で作れるらしく、造形センスさえあれば良い。美術の成績は良かったのでここはちょっと自信がある。その後、稼働させたい箇所に魔石を埋め込んでいく。腕、脚、頭、羽と動かしたい目的に合わせた魔石が刻印されているようで、それを粘土にはめ込むだけなのだ。最後に動力となる魔石を埋め込んでゴーレムのベースは完成。


 これ、キットにして販売したらすごい売れる気がする。と思っていたら、昔、これを悪用して王国がひとつ滅んでしまった事があり、一般には作り方を普及させてはいけないらしい。今ではゴーレムの作り方をしっている人は数えるほどしかいないそうだ。


 お母様もゴーレムを稼働させる最後の仕上げは、ナーグローア様でも教えられないと言っていた。


「あれはいつだったかしらね。私の国にも飛空艇でゴーレムをどんどん空から落としてきて更地にされて、本当にいい迷惑でしたわ。あれも結局、勇者の仕業だったのよね。私達が廃棄したゴミを嬉々として拾って再利用してくるから厄介すぎますわ。」


 ナーグローア様は勇者にとても怒っていらっしゃるようです。この世界の勇者の装備が、実はゴミの寄せ集めでしたってちょっとウケるんですけど。勇者の装備が廃棄物という事は、完成品は別にあるって事だよね。そういうのは誰が持ってるのかな、気になるなぁ。


「エルステア、貴女に贈った杖と鎧は本物ですから安心してくださいね。そこら辺の未完成品とは違うので大切にするのよ。」

「はい、ナーグローア様。私、ずっと大事に使わせてもらいますわ。」


 ですよねー。魔王様から賜った物だから完成品ですよねー。そう考えると......お姉様は勇者より凄い装備を身に着けているって事に......。自分が貰った装備もそういう事だよね!くぅ、早く大きくならないかなぁ。


「アリシアちゃん、ゴーレム作りの前におしめ代えましょうね。お尻が膨らんでますわよー。こちらにいらっしゃいな。」


 いろいろ興奮しすぎて、おむつがぱんぱんになってるのに気が付かなかったです。いけませんね、こんな事を繰り返していたらいつまで経ってもおむつが取れないじゃないですか。


「ごめんなさい。おかあさま。」

「いいのよー。アリシアちゃんはまだ小さいのだから、お母さんにいっぱい甘えてくださいな。」


 お母様の笑顔がとても眩しい!のと同時に皆の前でちょっと恥ずかしいかも。


 またナーグローア様がおしめを代えてもらっている自分をジッと観察する。だから、そんなに見つめないでください。本当に恥ずかしいんですから!!


「子供の肌って本当に綺麗ですべすべですわね。」


「ひゃぁっ!」


 徐にナーグローア様はお尻を指でなぞってきて変な声がでた。無抵抗な状態でそういう事はやめてください!!


 羞恥プレイに晒され、不意打ちのボディタッチまで受けたせいでナーグローア様の顔が見れない。早くおむつが取れるようにがんばらないと!


 メリリアがゴーレム作りの準備が整ったと知らせを受けて、お母様を先頭に演習場の隣の部屋へ向かった。部屋に入ると、大きな粘土の塊が置いてあり、壁際には小分けされた魔石がいっぱい入っていた。


「こちらの粘土を作りたい形に合わせて取ってくださいな。今日はあまり大きな形は出来ないので、この箱に収まるくらいにしてくださいね。」


 そう告げるとお母様はバスケットボールがすっぽり入りそうな箱をテーブルに乗せた。自分からする大きく感じるのだけど。


 早速、お姉様とナーグローア様と粘土を取りに行く。まだ何を作ろうか決まってないので、粘土の前で蹲って考える。お城に置いても不自然じゃない物ってなんだろう。お姉様もナーグローア様も作る物が決まっているのか、粘土を取ってテーブルに向かって行った。お母様も後ろから来て粘土を取っていく。


 ナーグローア様がピンチの時に助けるゴーレムにしたいなぁ。うーん、ガーゴイルとかドラゴンならイメージ出来そうだ。火を噴いて空が飛べるゴーレムなら頼りになりそうじゃない?


 そう決めたので粘土を取り出す。取り出そうとしたけど、粘土が結構重くて運べない。そっとメリリアが近寄ってきて粘土を運んでくれた。メリリアやさしい!ありがとう!


 テーブルに運んで貰って、メリリアがスッと椅子を用意し座らせてくれた。何から何まですいません。


 気を取り直して、空飛ぶモンスターを作り始めた。手で大きな形を作ってからヘラで成形していく。子供の力でも柔らかい粘土なので形が作りやすいので、自分でもそれっぽく出来てきた気がする。


 お母様は、お姉様そっくりの剣と盾を持った騎士を作っている。圧倒的な造形技術に声もでなかった。才色兼備なお母様に隙はないようです。


 お姉様は、いつも大事にしているフィニョンを作っているようだ。見慣れたものだから上手に出来ている。可愛いゴーレムになりそう。


 ナーグローア様は、盾に手足が生えている謎の物体を作っている。本人は凄く楽しそうなので良いのだろう。


 で、肝心の自分だけど。身体が重そうで中年オヤジみたいなドラゴンもどきになった。カッコよくて強そうなのを想像していたのに、これは何か違う。


「はい、皆さん形が出来て来たようですね。それじゃ、魔石を付けていきましょう。」


 お母様はひとりひとり動かしたい内容を聞いて、それに合った魔石を用意してくれた。口から火を出したいと言うと、在庫がないそうなのでその場で即興で作ってくれた。攻撃系の魔石は危ないのでお母様がはめ込んでくれた。ちょっと見た目はダルそうなおっさんドラゴンだけど火噴けるんだぞ!


 皆のゴーレムに魔石の埋め込みまで終わったので、いよいよ仕上げだそうだ。


 仕上げの工程は誰にも見せられないそうなので、一旦部屋から出て談話室で待つ事になった。


 ゴーレム作りで一生懸命になり過ぎたせいか欠伸が出てくる。ナーグローア様の身体に寄りかかって眠らないように必死に堪える。だけど、堪えれば堪えるほど眠気がどんどん襲ってくる。


 まだゴーレム作りは終わってないのに眠っちゃダメだ!


「あら、この子、眠ってしまいそうですわ。メリリア、私が抱いて寝かせても良いかしら?」

「ナーグローア様、それでしたらアリシア様をこう抱いていただければ問題ございません。」


 メリリアが自分の頭を胸につけるようにして身体を抱き上げてくれた。メリリアの心臓の音を身体で感じるとなんだか心が安らいでいく。


 困ったなぁ、そんな事されちゃうと抗えないじゃない......。

すごい立派な物をいただいたお姉様。

自分も貰ったのに見せてすら貰えなくてがっかり。


代わりにゴーレム作りを皆で出来て楽しかったようです。

やっぱり、遊び疲れて眠ってしまいましたね。


起きた時にはどうなってるのでしょう。


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いつも読んでいただきありがとうございます。

読んで思いおもしろい、続きが読みたいと感じていただけましたらブクマもしくは評価いただけますと幸いです。


合わせて、誤字報告もいつもありがとうございます。

非常に助かっております!


毎日1話更新を継続中です。

引き続きの応援、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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