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プロローグ



 かつて、この世界には数多の英雄が存在した。

 彼らはこの世で生き、数多くの民を救い、また数多くの闇を打ち滅ぼしてきた。

 まさに『英雄』

 だが、その英雄たちも今や命亡き者。

 彼らはこの世で生き、この世に希望を残して散ったのだ。

 ……………………

 ……………………

 ……………………そう、思われていた。


―〇〇〇―


 西暦2067年。

 突如蒼空に巨大な未知の『大穴』が開き、人類は……いや、地球は未曽有の危機に瀕した。

『大穴』から現れたのは伝説や神話に出てくる悪魔や魔獣に酷似した謎の怪物。

 その怪物たちは人を見つけては貪り喰らい、地上を血で赤く染め上げた。

 その光景を見て、とある神父はこう嘆いたそうだ。

 ……終焉の日(アポカリプス)が来た、と。

 その時は、誰もがその神父の言葉を『事実』として受け取った。

 凄惨なる光景、まさにそれは地獄のようで……。

 ……だが、その最中でも、希望は決して消えていなかった。


 誰かが言った。『英雄が来た』と。


―〇〇〇―


 西暦2337年。

 天使、神、悪魔、魔獣などの、かつて空想の中だけの存在であったものが完全に実在するものとして認知された現代。

 澄み渡る蒼空には、270年経っても未だにあの『大穴』がある。しかし、270年前とは違い、今はまるで瞼を閉じているかのように『大穴』が閉じている。よって空にはかろうじて見えるくらいの薄い一本の線が見える。あれが閉じた『大穴』だ。

 だが、完全に閉じたわけではなく、2067年から今に至るまでの間、約10年周期で何度も開いている。その都度、『大穴』からは悪魔や魔獣が飛び出し、人々を襲わんとするが、とある者たち(・・・・・・)によって被害は抑え込まれ、『大穴』も大人数ではあるが、10年周期で閉じてくれている。

 ……なぜ突然あのようなものが出現したのかは未だにわかってはいないが、一説によれば、別世界……いわゆる異世界の扉が何者かによって開かれたのではないかと言われているが、原因は依然として不明。

 俺……真宮寺大(しんぐうじまさる)は朝日に照らされる道を行くサラリーマンや生徒の中に混じりながら、視線を『大穴』へとじっと向けていた。

 10年前、『大穴』再び開いたのは俺が7歳のころだった。

 西暦2327年に起きた『第26次境界聖戦』

 俺が初めて経験した、世界の終わりを一瞬でも感じた人類の攻防戦。俺はその人類と魔なるものの攻防戦の余波で両親を失った。

 あの『大穴』出現したせいで……あの『大穴』さえなければ……。

 ぎりぃ……! と周囲に鳴り響くほどに歯軋りをし、両手の拳を爪が食い込むほどに握りしめる。

 目の前で死に伏せる父と母。その光景を見ることしかできない無力な少年。

 いまだに脳裏に残っている鮮血の記憶。

 あの『大穴』が……両親を殺した。

 拳にさらなる力が籠められる。

 と。

 ――気持ちはわかるけど、あまり頭に血を登らせない方が良いと思うよ。周りが見えなくなっちゃうからね。

 突如として脳内に響く可憐かつ活発な無邪気な声。

 その声にハッとし、周囲を見ると、道行く人たちが怪訝そうな顔をして俺だけを避けて歩いていた。

 それほどに怒りに満ちた歪んだ顔をしていた、という事だろうか。

――マスターの悪い癖だよ。マスターが経験したあの出来事をバネに成長するのならまだしも、それに囚われて怒りを優先して動いてしまうといつか痛い目を見るよ。

 先ほどの声。

 俺は脳内に響くその声に感謝しながら、謝罪を述べる。

「ごめん。いつもの悪い癖が出た。『大穴』を見るといつもこうだな、俺」

 怒りに身を任せてはならない。なるほど、今の俺にばっちり突き刺さる言葉だ。

――忘れろ、とは言わないけど、公衆の面前では控えた方が良いよ。マスターとボクの二人きりの時になら、いくらでも怒っていいから。

「……ありがとう。それとごめん。いつも迷惑かけて……」

――気にしなーい気にしなーい。ボクが必要と判断したからそうさせてるんだから。むしろ強要してしまってすまないね、マスター。

 謝るのはこちらの方なのに、どこまでも気を使わせてしまっていることに心底申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

――……はぁ。マスターはネガティブ思考過ぎるよ。もっと明るく! その方がマスターには合ってるし、ボクはそんなマスターのほうが……個人的に好きだ。

「……ありがとう。できるだけ心がけてみるよ」

 見えているかはわからないが、少しだけ表情を柔らかくする。

――うんうん。その調子だよ! ……ところでマスター。

「ん? 何?」

――今日は入学式じゃなかったっけ? こんなところで悠長にしてていいのかい?

 …………………………あ。

「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 忘れてたああああああぁぁァァ!!!!!!」


 澄み渡る晴天に、絶叫が響いた。

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