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桜花組解散を告げられた日。
あの日から源六と藤四郎の関係はぎくしゃくとしていた。
「……」
華子に言われるがまま、藤四郎は源六の部屋の前までやって来たが、中へ入れないでいた。
藤四郎は最初、病気などと言う源六の言葉が信用できずにいた。
何歳になっても腕っ節に優れ、もう還暦をとうに過ぎて古希を迎えようとしている関わらず、今まで病気とは無縁の人であったからだ。
そんな親父が命に関わる病気の筈がない。
そう思い、自分に桜花組を継がせたくないが為の方便なのではないかと思った。
だが、次第にその考えは間違っていたことに嫌でも気付かされた。
徐々に源六の身体は病に蝕まれていき、起きている時間のよりも寝ている時間が長くなった。
思うように身体が動かせなくなった源六の世話を華子が甲斐甲斐しく面倒を見てくれていた。
あの日から源六と碌に話し合う時間すら作れない。
そうこうしているうちに容赦なく病気は進行していく。
憧れだった源六の弱っていく姿は、藤四郎の足を更に遠ざけた。
藤四郎もこのままではいけないと思っていた。
「親父……」
障子を挟んで声を掛ける。
人の気配はするものの中から返事はなかった。
「親父、俺はなんと言われようと桜花の人間として生きていくから。この家に来た日から、それだけは変わらないから……」
――親父のようになりたいから。
面と向かっては言えない言葉。
壁一枚を挟んで伝える想い。
「じゃあ、行ってくるよ」
「……藤四郎」
去ろうとした瞬間、源六の声が藤四郎を呼び止めた。
低く力強い声。衰えなど感じさせない声。
「――おめぇの人生だ。好きに生きてみろ」
源六の言葉を聞き、藤四郎は見回りのために家を出た。
まだ肌寒い夜空の下で、藤四郎は源六の言葉を反芻する。
「好きに生きろ、か……」
十代の若者は、誰しも将来に漠然とした不安を感じるときがある。
ふと一人になった時、この先も、この日常が、この関係が続くのか。
自分は、誰と何をして生きていくのか。
今まで藤四郎は、桜花組を継ぐことだけを考えていた。
桜花組を継がない場合など考えていなかった。
解散を宣言された日から心が落ち着かない。
一人の十代の人間らしい、将来への悩み。
先ほど源六に言われた言葉の意味を、藤四郎は考えていた。
「はぁ……」
考えが煮詰まり吐き出された息は白く、星空へと登って消えた。
その日の見回りも成果は得られず終わった。
日付が変わった頃、藤四郎はベッドへ倒れるように横になった。
明日になれば、この心の靄が晴れるだろうか。
そう思いながら、徐々に意識を手放していく。
「あー……何か、忘れてるような……まぁ、いっか……」
考えようとしたが、睡魔には抗えず瞳を閉じた。
明日、学校へ行ってから考えよう。
この時の藤四郎は忘れていた。
風紀委員長、宝来楓と交わした約束を。




