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「ア゛ア゛ァ!!」
それは、あまりに野性的な雄叫びだった。
人間の声と言うよりも、獣の咆哮に近い。
銀城蓮は、その長い金髪を振り乱して藤四郎に殴りかかった。
その顔に今までのようなすました様子は見えない。
限界すれすれの身体に鞭を打ち、蓮は攻撃を続けた。
眼をギラつかせ、藤四郎に攻撃の隙を一瞬たりとも与えまいとしていた。
藤四郎も戦い慣れているとはいえ、ここに来るまでに身体を酷使し過ぎていた。
薬で強化された蓮の攻撃は重く、一撃毎に確実に藤四郎の体力を削っていくのだ。
長くは持たない。
お互い少しでも気を抜けば動けなくなる。
それが分かっていたからこそ、今こうして一騎打ちへと縺れ込んだのだ。
「ッ!?」
蓮が放った拳が藤四郎の額を僅かに逸れた。
焦燥に駆られ放った一撃。
手応えが無いことを感じ、蓮の表情が歪んだ。
藤四郎によって上手く誘い込まれ、そうなるように誘導されていたのだと。
「――ウラァ!!」
そして藤四郎は反撃に転じる。
大ぶりをしてしまったことで甘くなった脇腹に藤四郎の膝蹴りが入る。
「・・・・・・カハッ!」
蓮も咄嗟に庇うように動いたが、それでは間に合わなかった。
苦悶の表情を浮かべ息を詰まらせ、蓮は仰け反る。
「おい、もうギブアップか?」
額の汗を拳で拭い、藤四郎が言った。
蓮は大きく肩を揺らしながら、藤四郎を見上げるように睨んでいた。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・僕を・・・・・・見下すなァ!!」
飛び跳ねるようにして蓮が再び殴りかかった。
咄嗟に藤四郎は腕を使い、その攻撃を防いだ。
その衝撃が、彼の身体を揺さぶる。
「見下す? ハッ、ふざけんなよ。クソ野郎が」
防御の姿勢のまま藤四郎が口を開いた。
「上も下もねぇ。これは、俺とお前どっちが強いかの殴り合いだ。勝って信念を貫くか、負けて折れるか。俺は口が上手くないからな。お互い解りあえないっていうなら、こうするしかねぇだろ」
藤四郎は薄汚れ、疲れを見せながらもその顔に不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
この街を護り続けてきた父やその仲間達。
彼等の想い、護ってきたものが今、藤四郎の背にものし掛かっていた。
もし負ければ、これまで桜花組や多くの街の人々が大切に受け継いできたものを壊してしまう。
その重圧と戦闘の高揚感、未だ目の前で立ち上がる難敵。
それら全てが藤四郎にかつて感じたことがないほどの“生”を実感させていた。
両親を亡くし、抜け殻のように生きていた。
空っぽになった何かを埋めようと、必死にもがき、身近な存在を真似するように源六の背中を追っていた。
それで本当に良いのか。
常に自分自身に突き付け続けてきた葛藤。
その全てを払拭する程の熱い想いが、今、藤四郎の胸の中にあった。
彼の進んできた道は、間違っていなかった。彼の心臓の高鳴りが、それを証明していた。
「・・・・・・反吐が出る考えだよ。だったら無様に負けて、僕に跪け!!」
苦いものを噛んだような顔をして蓮が再び攻撃に移る。
その動きは、かなり鈍くなっていた。
それだけではなく藤四郎と蓮、お互いにガードが甘くなっている。
一発殴っては、殴られの繰り返しだ。
泥仕合の様相を呈し、戦いは体力勝負となった。
日も沈み、冬の暗闇が辺りを覆っていく。
まばらに点灯した街灯の明かりだけでは、街全体を照らすことは出来ない。
満身創痍の藤四郎と蓮。
どちらもいつ倒れても可笑しくないほど疲弊している。
楓や街の人々、自体を聞きつけやって来た者達が辺りを囲んでいた。
そんな中、二人の顔が月明かりに照らされた。
その表情には、もう余力は残されていないのが感じ取れる。
勝敗を決するときが来たのだ。




