70
蓮の指示を受け、藤四郎の前に何人かの男達が行く手を阻む。
だが、藤四郎はそれらを無視して蓮の元へと駆け込んだ。
「このッ・・・・・・!!」
近付いてくる藤四郎に対して蓮が銃を乱射する。
バンバンと立て続けに銃声が響く。
放たれた銃弾は藤四郎の身体を僅かに掠めるが、その動きを止めることは出来なかった。
「銀城蓮ッ!! てめぇの企みも此処で終わりだッ!!」
「グハッ・・・・・・!!」
距離を詰めた藤四郎の拳が、蓮の胴体を深く抉った。
藤四郎の一撃を受けて、蓮は肺に溜まった空気を吐き出し膝を着いた。
蓮の服からは僅かに煙が立ち上がっていた。
殴られた衝撃だけでなく、雷電を帯びた一撃は重く、直ぐに動くことは出来ない程のダメージであろう。
膝を屈した蓮は力無く腕を落とし、顔を俯かせていた。
「ふぅ・・・・・・」
一つ息を吐き、藤四郎は呼吸を整えた。
主犯格の蓮が行動不能となり、その手下達の動きが止まっているのを確認すると、藤四郎は囚われている楓の元へと向かった。
「楓、すまん。遅くなったな」
藤四郎は楓を縛っている縄を解きながら謝罪の言葉を述べた。
蓮の行動を察知出来ていれば、まんまと校内への侵入など許さなかった。
過去を振り返ったところでどうにも出来ない。
だが、それでもキツく縛られ赤い痣を残している楓の細腕を見ながら、そう思わずにはいられなかった。
「いえ、来てくださって・・・・・・ありがとうございます。藤四郎」
縛られていた手首を擦りながら楓が答えた。
その表情には、どことなく安堵が見て取れる。
「おう、何度だって駆けつけるさ。俺達は“協力関係”だろ」
「ふふ、そうでしたね」
この街を陥れようとしている者に対抗するためにお互いが手を取り合おうと、楓は藤四郎に協力関係を持ちかけた。
そこから始まった二人の関係は、当時は想像出来なかったほど深い繋がりとなっている。
未だにその頃の言葉を覚えていて、口にする藤四郎に楓は僅かに笑みを溢した。
「――すまないが、私達の縄も解いてもらえるかね」
楓の隣にいた初老の男が、申し訳なさげに口を開いた。
「お、お父様っ。申し訳ありません・・・・・・!」
見られていたことに顔を赤らめた楓が、初老の男の縄を慌てて解き始めた。
彼の人相は、洗練された仕事人の雰囲気を纏っているが、よく見ると楓の面影を感じられる。
「いや、これは見て見ぬ振りを続けてきた私達の責任だ。お前達、次の世代が負うべき物ではなかった」
縄を解かれた楓の父、宝来榊はゆっくりと立ち上がると同じく拘束されていた天使の血族達へと向き直りながら言った。
「罪には罰を。私達は長く古い慣習に囚われていた。これからこの街は、新たな一歩を踏み出さねばならぬだろう。何故この様なことが起こったのか、努々忘れてはならない」
榊の視線に思わず数人が視線を逸らし、気まずそうな顔をしている。
これまでにしてきた後ろ暗い行為に心辺りがある者達だった。
それらを明るみに出すときが来たと、榊は静かに決意を固めていた。
「――ハハ、お得意の綺麗事、じゃないか・・・・・・」
囚われていた天使の血族達が解放されていく中、藤四郎は咄嗟に振り返った。
そこには、肩で息をしながら立ち上がる蓮の姿があった。
「まだやるつもりか、銀城蓮!!」
藤四郎が蓮を睨みながら言葉を溢す。
確かに動けないほどのダメージを追わせたはずだったのだ。
こんなにも早く回復されるとは思ってもいなかった。
「僕がやらなくちゃ、いけないんだ。甘い汁を吸い続け、肥え太った貴様等が、変われるはずがない・・・・・・何度だって、繰り返すさ」
満身創痍の身体で蓮は譫言のように喋り続けた。
未だに拳銃が握られている方とは逆の手、その手に持っている物に藤四郎は見覚えがあった。
「だからさぁ・・・・・・そんな雑草みたいな貴様等は、根っこから焼き殺さないと・・・・・・意味が無いんだよッ!!」
蓮が勢いよく自分の腕に振り下ろしたのは、一本の注射器だった。
中に入っている液体が、蓮の腕へと流れ込んでいく。
彼の腕の血管が異様に浮き出て、見るからに薬物の効果が現れ始めていた。
「ハ、ハハハ・・・・・・まだ終わらない。終われないんだよ。僕はァ!!」
蓮は、ふらつきながらも銃を構える。
虚ろな瞳を向けながらも、ボロボロになった身体で尚、藤四郎の前に立ちふさがったのだ。




