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「おい、起きろ。お前達を指示していた茶髪の男はどこに行った?」
「ぅ……ぅぅ……」
バイク同士が衝突したことにより吹き飛ばされたスキンヘッド達は、僅かに呻き声を上げながら校庭に横たわっている。
藤四郎は、倒れた男達に近付き揺さぶり起こすが反応は返ってこない。
バイクから投げ出された衝撃により、しばらく彼等が目を覚ますことはないだろう。
「クソ……まんまと足止めされちまったな」
辺りを見回しながら藤四郎が言った。
楓の居場所を知っているだろう茶髪の男の姿は見当たらない。
とうに学園外へと出てしまっているのだろう。
こうなっては、少ない情報を頼りに楓を探し出すしかない。
だからといって、猶予はなかった。
相手の目的が明確でない以上、時間を掛けるのは危険だ。
「桜花君!」
焦りが藤四郎の
騒動を聞きつけて、校舎から何人かの生徒が藤四郎の元までやってきた。
「春彦……それに皆も。無事だったみたいだな」
春彦の声に振り向くと、そこには彼以外にもクラスメイト達が顔を並べていた。
「うん。桜花君が外に向かったって聞いて、そしたら凄い音がしたから心配になって来たんだけど……」
春彦が倒れている男達へ視線を向けて、言葉を濁した。
おそらく藤四郎の助けに入るつもりで駆けつけたのだろう。
春彦の後ろに続いて出てきたクラスメイト達は、一様に箒などの棒状の物をどこからか持って来ていた。
些か頼りない姿だが、それでも護身用としてはないよりはマシな物だった。
「こっちは今片付いたところだ。それよりも今は、連れ去られた楓を取り戻さなきゃならない」
「えぇっ!? 宝来さんが……!!」
藤四郎の言葉に春彦を始めて、何人かの生徒が驚きを露わにする。
直接の関わりは少なくても、この学園に通う生徒で彼女を知らない者はいない。
そんな存在の宝来楓が、学園を襲撃した者達に攫われたと聞いた生徒達は困惑したようにざわついた。
「ああ……だから、俺はこのまま奴らを追う」
「桜花君……分かった! なら、ここは僕達に任せてよっ!! 少しでも桜花君の負担が減るようにって皆と相談して来たんだ」
春彦がそう言うと、クラスメイト達も同意するように頷いて見せた。
「そうだぜ! 俺たちにも少しは格好いいところ残しとけっての!」
「あんた喧嘩とかしたことあんの~? さっきまで腰引けてたじゃん」
「は、はぁ~? あ、ありますしぃ? いざという時はやる男だしぃ?」
クラスメイト達の間にいつもと変わらない笑いが飛び交う。
この非常時にあっても団結し、気を許しあえる仲間。
戦力という観点で言えば、藤四郎から見れば頼りないものである。
だが、彼等のそんな何気ない日常のやり取りが、藤四郎に忘れかけていた心の余裕を思い出させた。
「よし、お前達に任せた。あそこに倒れてる奴らは、中に居る親父達に引き渡しておいてくれ」
藤四郎は口元を緩め、クラスメイト達に後を託した。
今までの自分であれば、彼等のような素人を厄介事に巻き込むことなどしなかっただろう。
それは桜花組の人間として育てられた藤四郎にとって、彼等が庇護対象だからだ。
時に協力を仰ぐことはあっても、その手を汚させるようなことはしてこなかった。
危険と分かっていて、進んで望み出る者もいなかった。
だが、何故だろうか。
彼等は勇気を振り絞り、名乗り出た。
自分と変わらない年頃の少年少女は、大人でも躊躇するようなことを買って出た。
本来ならば断るべきなのだろう。安全を確保した場所で待っていてもらうべきなのだろう。
そう思っていた藤四郎は、クラスメイト達の強い意志の籠もった瞳を見た。
彼等にだって矜恃がある。
待ち望んでいた宝来祭を壊され、学園を好き勝手荒らされた。
大人しく縮こまっていることなど出来ないのだ。
短い間ではあったが、共に準備に励んできた仲間の意志を尊重したいと藤四郎に思わせるには充分だった。
「……よいしょっと、コイツを借りてくか」
藤四郎は倒れているバイクの一台を起こし、壊れていないか車体を確認する。
このまま徒歩で楓の行方を捜索するのは些か辛い。
そこで、折角ならとスキンヘッド達が乗っていたバイクを利用することにした。
藤四郎に返す保証などどこにもなかったが、本人達が気絶しているのをいいことに借りていくことにしたのだ。
「あっ、桜花君! これを持って行って!」
車体の確認をしていると、春彦が駆け寄ってきた。
そう言って、差し出された彼の手には新たな変身ベルトが握られている。
「これは、また変身ベルトか?」
「うん! 今度は装着者の安全を考慮して、ヒーロースーツに実態を持たせたんだ。これは新たに研究されている技術で粒子状にした装甲を――」
「待て待て、その話長いか……? とにかく、前より強いってことだな……?」
ヒーロースーツの概要について、事細かに解説を始めようとした春彦の話を押しとどめる。
「あっ、ごめんね! 前よりは、桜花君の役に立てると思うんだ。僕に出来るのはこんなことだけだけれど、それでもこの街を守るために出来る事はないかって」
ハッとした表情で申し訳なさそうに春彦は謝った。
「こんなことじゃねぇよ。こんなに立派なもん作れるじゃねぇか。これは春彦にしかできない、春彦の力だ。いつもありがとな」
「へへへ」
落ち込んでいる春彦の頭を乱暴に撫で付けると、彼から貰ったベルトを装着した。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、桜花君」
藤四郎はバイクに跨がり、エンジンを回すと威勢の良い音を鳴らし、バイクの車体が動き出した。
春彦達、クラスメイトに見守られ、藤四郎は騒乱が巻き起こる街へとハンドルを切った。




