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「……そうか。ひとまず、祐美が無事で良かった」
祐美の話を聞き、やはり楓の身柄は既に敵の手中にあることが分かった。
そして、祐美が聞いたという楓の行き先“中央”。
誰の思惑で、何の為に、何処に連れ去られたのか。
「ごめんなさい……。楓先輩は祐美のために身体を張ってくれたのに、祐美、何も出来なくて……」
藤四郎が考えを巡らせていると、祐美が気落ちした様子で口を開いた。
「大丈夫だ、よく教えてくれたな。俺が、必ず楓を連れ戻す」
決意の籠もった強い眼差しが、祐美を見据えている。
祐美は、瞳に映る自分の姿を見ながら思った。
その先には、一体何が見えているのだろうか。
自分だけを見ていて欲しい。自分だけの王子様でいて欲しい。
そんな黒い感情が、グルグルと胸の中で渦巻く。
「……無事に帰って来てください。楓先輩と二人で、絶対に帰って来てくださいね」
祐美は沸々と湧き出る感情を押し込め、藤四郎を見つめ返しながら言った。
行かないで欲しい。危ないことはしないで欲しい。
欲望は止めどなく溢れる欲望を、彼女は口に出さず飲み込んだ。
きっとそれは、彼を苦しめるだけの言葉なのだから。
「ああ……」
短い返事を残し、藤四郎は先を急いだ。
立ち去っていく彼を見送りながら祐美は、未だに混乱を極める学園で一人、耐えるように自分の腕を抱いた。
「――アナタ、良い女になれるわよぉ。強かな良い女にね」
突然、声を掛けられたことに祐美は驚き振り返る。
「えっと、あなたは……? オカマさん……?」
「誰がオカマさんよっ!! んもぅ、失礼しちゃうわねぇ~。アタシのことは、ジャスミンとお呼びっ!」
野太い声に屈強な身体をした大男はジャスミンと名乗り、祐美に詰め寄った。
「あ、あの……祐美に何かご用ですか……?」
見知らぬ奇妙な大男に迫られ、その圧迫感から祐美は怖ず怖ずと尋ねた。
「あら、ごめんなさいねぇ。藤四郎ちゃんの知り合いみたいだったからつい声を掛けちゃったのよぉ~、怪しい者じゃないわよ?」
「はぁ……」
怪しい者じゃないと言われて、素直に納得できるほど祐美も考え無しではない。
ましてやこんな状況で、こんな相手が目の前に居るのだ。
自然と身体は、身構えてしまっていた。
「アナタ、藤四郎ちゃんのこと好きでしょう?」
「なっ、なんで分かるんですかぁ!?」
「そんなの見れば分かるわよぉ、恋する乙女の顔をしてるもの」
ジャスミンはウィンクをしながら、祐美の緊張をほぐす様に話しかけた。
「あの子は、昔から不器用な子なのよぉ~。何でも一人で抱え込んで、一人で進んで行っちゃうの」
「昔から先輩とお知り合いなんですかぁ?」
「ええ、そうよぉ~。こーんなに小っさい頃から知ってるわ」
そういうとジャスミンは、自分の膝くらいの高さに手を伸ばして言った。
「だからね、あの子を想ってくれるのなら支えてあげて欲しいのよぉ。平気そうな顔をしていても、まだまだ危なっかしいんだから」
「……はいっ!」
話を聞いていた祐美は、先ほどまでとは違った顔つきで返事を返した。
祐美から見て藤四郎は、何でも一人で出来てしまうような人というイメージが何処かにあった。
自分に出来る事なんてないんじゃないか。そう思わずにいられなかったのだ。
だが、少しでも彼の力になれることがあるのなら頑張りたいと想った。
こんな見ているだけの悔しい思いは、これで終わりにするのだと。
「良い子ねぇ。……おい、そこに居るのは分かってんだ。出てきやがれぃッ!!」
先ほどまでとは一変、ジャスミンが唐突にドスを効かせた声を発した。
声を掛けられ、直ぐ近くの曲がり角から一人の男が姿を見せる。
「チッ……オッサン何者だよ。物音なんて立ててなかったろう」
ジャスミンに居場所をバラされ、渋々と曲がり角から姿を現したのは、楓を連れて行った男だった
「な、なんで、此処に……」
祐美はその姿を見て、おもわず声を漏らす。
「特別手当を貰い損ねてたのを思い出したんだわ。やることやったしよぉ。ヤり残したこと済ませたいだろぉ?」
男の視線は、祐美の身体へと向けられている。
その濁った瞳が、ただただ祐美には気味の悪さを感じさせた。
さっき遭ったときとは違う異常な顔つきに、祐美は違和感を覚えた。
「まったく、下品な男ねぇ~。そんなんじゃモテないわよぉ、アナタ」
ジャスミンが祐美を庇うように立ちはだかった。
「おい、オッサン。気持ち悪ぃ話し方してんじゃねぇよ。用があんのはそこの女だからよぉ、痛い目見る前にさっさと失せなァ!!」
男が威勢良く声を上げると、ゾロゾロと彼の仲間と思わしき男達が現れた。
その誰もが皆、揃いも揃ってドロドロと濁った瞳をしている。
「あ゛ぁ? 誰がオッサンじゃ、コラァ!! かかって来んかい!!」
ジャスミンの口調が様変わりし、戦闘態勢に入る。
隆起した大胸筋が、張り上げた声と共に踊り出した。
「――さあ、アナタは離れてなさい」
ジャスミンは、振り返らずに祐美へ声をかける。
その声は、男達に向けられているものとは違う優しげなものだ。
「こういう荒事はね“アタシ達”の役目よぉ~」
肩を大きく回し、迫り来る男達を目前にジャスミンは笑いながらそう言った。




