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「行かせるかよぉ!! 追えッ!!」
何人かの男達が、駆けていく藤四郎を追おうと声を荒げる。
目の前に居る得体の知れない老人よりもまず、自分たちの作戦の邪魔をしに行った藤四郎の足止めを優先したのだ。
茶髪の男、彼らの仲間である玲太の元に向かわせまいと、数名が後を追おうと野次馬を押しのけていく。
「ぎゃっ……!!」
「ふぐぅ……」
突如、男達が次々とその場に倒れていく。
意識を失って倒れた者、痛みに呻き身を丸めている者。
仲間の異常事態に、男達は騒然としていた。
「なっ……!? 一体、何が……!!」
状況を理解出来ないでいる者達が、突然として倒れていく仲間の姿に狼狽え始める。
「ガキ共が……悪戯が過ぎたな。こうも派手にやられて、儂らが黙っておると思うたか」
源六が地を這うような声で言い、鋭い眼差しを彼らに向ける。
痩せ細り、骨と皮を残すのみとなった身体であって尚、源六から放たれる威圧感は衰えていなかった。
睨まれた彼らは、その時ようやく気付いた。
周りに居る野次馬だと思っていた者達の中に、明らかに雰囲気の違う人間が紛れ込んでいたことに。
先ほど攻撃された仲間達も、おそらく彼らにやられたのだと。
ついさっきまで囲む側だった自分たちが、今や囲まれる側となっていた。
「う、うわあぁあぁ!!」
男達の中の一人が恐怖に駆られ、源六へと突っ込んでいく。
その手にはナイフが握られ、源六に刃を向けている。
このままでは、あの枯れ木のような老人が刺されてしまう。
様子を伺っている者達は悲鳴を上げ、その瞬間を見ないように目を閉じた。
「……は?」
源六へ突き立てられようとしたナイフは、甲高い音を立てて弾き落とされた。
目の前で起こったことに困惑の声を上げた男は、視線を自分の手元と落ちたナイフの間で動かして呆けている。
「ジャスミン。あとは、お願いするわ」
源六の脇に控えていた女が、この場に相応しくないほど柔らかな微笑みを浮かべていた。
だが、見る者が見ていれば気付いたであろう。
彼女はその一瞬前、常人ならざる速さで男のナイフを叩き落としていた。
それも誰にも見られないように隠し持っていた短刀を抜き、人目に触れるより速く再び隠すという離れ技だ。
「――フゥンッ!!」
荒い鼻息を立てて、固まっていた男の身体を野太い豪腕が捉え、軽々とその身を吹き飛ばした。
「まったく……またこうして貴女と肩を並べて戦うだなんて、思わなかったわよぉ~!」
肩を回しながら大柄の男が、見た目に似つかわしくない話し方で答えた。
ワイシャツの上からでも、はち切れんばかりに鍛え上げられた身体が見て取れる。
その一撃を食らった男は昏倒し、立ち上がることも出来ない。
「そうね。でも、今回の相手は素人よ。手加減をするのが大変だわ」
華子が頬に手を当てて、そんな風に言ってのける。
平然と何でもないことのように、まるで意に介していないような物言いだった。
「な、なめやがってぇ……!」
そんな会話を始めた目の前で始められた男達は、あからさまに馬鹿にされているのを察して怒りを露わにした。
これまで銀城蓮の元、この街で好き勝手にやってきた。
この街の革命に関わっているという大義が、彼らの自尊心を増長させていたのだ。
あからさまにコケにされて黙っていられるほど、男達は大人ではいられなかった。
「……このジジイが、イキってんじゃねえぞ!! さっさとくたばれやぁ!!」
隙を伺っていた男が飛び出した。
その手には金属バットが握られている。
隙だらけだ。そう思って、男は源六に向かって全力でバットを振り抜いた。
こんな今にも折れそうな身体で避けられまい。
その驕りが、彼の間違いだった。
ユラリと源六が動いたと思ったときには、既に懐に入り込んでいた。
男は、一瞬の出来事に驚愕する。
あまりに近付かれ、この距離ではもうバットを振るうことは出来ない。
「グゥエっ!!」
源六の手に握られた杖が男の鳩尾を突き刺し、潰れた蛙のような呻き声を上げる。
「華、テツ。仕事の時間だ。ついて来い」
「ハッ……!!」
カンと床に杖を一突きすると、源六は側に使える二人にそう言い歩き出した。
次々と仲間が倒されていく男達には、源六の姿がまさに幽鬼のように映っていた。




