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Side:Winder

 藤四郎が警察署を去った後、一人の警察官が裏口からひっそりと外へ出て行く姿があった。

酷く怯えたような表情をして、頻りに視線をキョロキョロと動かしている。


  男が辿り着いたのは、警察署の近くにある脇道。

人通りは殆どない。シャッター街になっている通りだ。



「――こっちッスよ。こーっち」 


 そこに止まっていた黒いワゴン車の窓が開き、軽薄な声が警察官の男に掛けられた。

煙草を口に咥えた茶髪の男だ。窓枠に肘掛けている腕をプラプラとさせながら彼を呼び寄せる。



「今日捕まった奴らは、どうッスかねぇ。何か喋ったりしてます?」


 スマートフォンを片手で弄りながら煙をふかし、茶髪の男はそう訪ねた。



「い、いえ……」


「そッスか。じゃあ、いつもの場所で離しといてくださいね。こっちで適当に回収しとくんでぇ」


 表情の強張る警察官をまるで気にも止めず、茶髪の男は話を進めた。

 


「れ、玲太さんっ……い、いくらなんでもこんなに頻繁に逃がすことなんて出来ません……! 彼らも問題を起こしてますし……」


 警察官は縋るように、茶髪の男、玲太へ抗議の声を上げた。

その言葉を聞き、玲太は横目に彼を睨み付ける。

やる気の感じられない態度だが、その視線は底冷えするような恐怖を感じさせた。



「そーれーを、考えんのがアンタの仕事でしょぉーが! うっぜぇなぁ……仕事出来ないなら辞めても良いッスよ?」


「そ、それは……」


 辞めても良いという彼の言葉に、警察官の男は素直に頷けない理由があった。



「ハァ……うぜぇ。毎回言わせんでくださいよぉ。ストレス解消したくなっちゃったなぁ、コレは」


 玲太がスマートフォンを操作し、画面に映し出した写真を男へ見せる。

小綺麗な女性と中学生くらいの女の子の写真。

そこに映っていたのは、彼の愛する妻と娘の姿だった。



「も、申し訳ありませんでしたッ!! この件は、なんとかっ……なんとかしますので、どうか妻と娘だけは……どうかっ……!!」


 画面の中で笑う彼女達の姿は、今朝見た格好と同じだ。 

彼らの息が掛かった人間が、いつでも彼女達を見張っているということだろう。



「奥さんイイ身体してんじゃないッスか。人妻を滅茶苦茶に壊すのが、オレ好きなんスよねぇ~。

 娘さんもまだ食べ頃じゃあないッスけど、そういうの好きな奴らも居るんで問題ないッスよ」

 

 車の窓枠に縋り付くように懇願する男を無視して、画面の中の彼女達を品定めするように玲太は言う。



「アンタも楽になりたいッスよねぇ? この女達を捨てて、オレらの玩具にしちゃえば楽になれますよぉ~? アンタの代わりは、いくらでも用意できるんでぇ。はい、辞めてどうぞ~」


「お願いしますっ……それだけは、勘弁してください……私はどうなっても構いませんからっ……!!」


 涙を滲ませ、必死に頭を下げる警察官の男。

ホストのような軽薄な見た目の男に、警察官の男が必死に謝る。

 

 警察官の男は、長年のキャリアもプライドもある。

警察署内では、それなりの地位で権力だってある。

それなのに今は、年下の男の前で無様を晒し、乞い願っている。



「オレも鬼じゃないんでぇ~、やることやってくれるんならいッスよ。……やってくれるんスよねぇ?」


「は、はい。指示通りに……」


 玲太は、笑顔で警察官の男に確認を取った。

その笑みには、優しさの欠片も見られない。搾取する者の笑いだった。


 その顔に警察官の男は震え上がる。

彼らの後ろ盾の強大さは身に染みていた。この街に住む者ならば、誰だって知っている権力者。

 

 彼は、そんな者達の悪事の片棒を担がされることになった己の不運を嘆くことしかできなかった。



 警察官と別れた後、玲太はスマートフォンを操作して通話を掛けた。

 


「あ、もしもしぃ? オレッスよ、オレ。えぇ~? 詐欺とかじゃないですってばぁ~、玲太ですってぇ~」


 親しげに通話をする声。

先ほど警察官の男に見せていた態度とは全く違うものだ。



「やっぱ、その辺から引っ張ってきたチンピラじゃあ使い物にならないッスわぁ~。えぇ、一応離してもらうようにはしといたんでぇ」


 玲太は、捕まっていた男達のことを電話相手に伝えた。 

捕まっている彼らを解放するように要求をしていたが、それが仲間意識からくる行動ではなかった発言した。

 


「――そッスね。どうしようもないヤツは、保険掛けるなりなんなりして外国にでも飛ばしちゃいましょうよ。薬代くらいには役立つんじゃないッスかねぇ? ハハッ」


 玲太は、そう言うと子供のように無邪気に笑った。

良心というものが欠落しているのか、表情からは罪悪感を微塵も感じさせない。



「あー、それと報告が一つあるッス。今日捕まった奴ら桜花藤四郎ってのにやられたみたいでぇ。え、あぁ、コイツ知ってんスか? んじゃあ、そっちはお任せしますわぁ~。はーい、じゃあ」


 通話を終え、一仕事終えた玲太は新しい煙草を取り出して火を点ける。

煙を味わうように飲み込み、吸い込んだ息を深く吐き出した。



「ふぅー……。どうなるかと思ったけど、あの人も大したもんだよなぁ、まったくぅ~」


 一度は、壊滅しかけた。 

謎のヒーローによる襲撃があった夜、逃げ出した者達を匿うために新たな隠れ家が用意された。



 自分たちのボスの手際の良さと、事後処理の速さに玲太は舌を巻くばかりだった。



「あーあ、働いたら疲れちゃったなぁ。現代社会で上手く生き残るにはぁ~、ストレスを溜め込んじゃダメダメ~っと」


 煙草を咥え、大きく伸びをすると玲太はさっきとは別の番号に通話をかけ始めた。

 


「もしも~し、オレッスけどぉ~。今から行くんで“準備”しといて下さいッス」


 軽い調子で放った言葉に対して、電話の向こうから難色を示す声が帰ってくる。



「はぁ~? 分かってますぅ~? 別に全部バラしてもいいんスよ? 旦那が不正をしてることも、その旦那に奥さんがオレ達と、どんな遊びしたのかもさぁ?」


 電話口から泣いて縋る声が聞こえてくる。

その声を聞き、玲太の顔が愉悦に歪む。



「今日は、アンタの旦那に苛々させられちゃったしぃ~、それを鎮めるのも妻の役目ッスよねぇ? そういうことで、またあとでぇ~」


 玲太は矢継ぎ早に責め立てると、通話を切って会話を終わらせた。 

 

 彼は電話越しで終わらせるのは、勿体ないと思ったのだ。

早くその絶望に歪んだ顔を拝みたかった。  

口では苦痛を訴えながらも、強制的に浴びせられる快楽に悶える身体を弄びたかった。 



 スマートフォンの画面には、先ほど警察官の男に見せた写真。

それを指で横に滑らせると、複数の男達に弄ばれ、ぐちゃぐちゃに陵辱された彼の妻の姿が映し出された。

その情景を思い返し、玲太は下半身がいきり立つ興奮を覚えた。

 

 

「ハハハッ……!!」 

 

 哀れな男の姿を思い浮かべ、玲太は思わず笑い声を上げる。

彼が守ろうとしたモノは、既に無残な姿へと変えられていた。


 

「それもこれも蓮さんに感謝ッスねぇ~。まだまだ愉しませてもらわないとなぁ。ハハッ!」


 満面の笑顔で、玲太は車を走らせた。

この街で起こるであろう、悲劇の数々に胸を躍らせながら。




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