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22

 血管が浮き出た腕を振り回す男。

藤四郎とて、先ほどのような威力の攻撃を何度も受けられない。 

間髪入れずに叩き込まれる攻撃を躱し、藤四郎は反撃の機会を伺った。


 

「どうしたどうしたァ!!」


 攻めに転じられずにいる藤四郎に向かって、男が煽りの声をあげる。

 

 男はまさに身体を動かすことで血液が回り、最大限まで薬効が現れている状態であった。

全能感に酔いしれ、化け物と恐れていた相手を圧倒している状況。

男の顔には、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。



 猛攻をかいくぐっていた藤四郎の動きが僅かにぶれる。

男の拳がその一瞬を捉えようと、迅速な一撃が顔面へと叩き込まれた。



「ッ!?」


 だが、男の拳には手応えが無い。

 

 藤四郎は、すんでの所で状態を反らして攻撃を躱したのだ。

拳圧で切れた頬から血を流しながら、藤四郎は体勢を戻す勢いを乗せて拳を突き出す。

 

 

「――この一撃。耐えられるもんなら耐えてみせろ!」 

 

 男は、イクシオンの副作用によって靄が掛かった思考回路を必死で回す。 


――躱すべきか?

――防ぐべきか?

――それとも……。

  

その答えが出るよりも早く、男の鳩尾に衝撃が走る。


「ウ゛ッ……ァ……」


 強烈な一撃は、電撃と共に男の身体を貫いた。  

男は意識を手放し、そのまま手足を放り出しながら後ろへと倒れていった。




 藤四郎がイクシオンを服用した男との戦いを始めた頃。

その隙に店外へと逃げようとする者達がいた。



「やってらんねぇよ! サッサとずらかっぞ!!」


「おう、逃げるが勝ちだ」


 二人組の男が我先にと店の外へと飛び出す。

軽薄そうな見た目の彼らは、腕っ節を振るいたいというより銀城蓮の権力にあやかりたい思いでやって来ていた。

今夜もこの店で女遊びに耽り、楽しい一夜を明かそうと画策していたのだ。


 

 勿論、そんな二人は争いの臭いをかぎつけた瞬間、逃げることを第一に行動した。

その浅ましくも逞しい生存本能によって、こうして藤四郎の手から逃れられたのであった。



「どーするよ、これさぁ。蓮さんと合流すればいいわけ?」


「知らねーよ。取りあえず此処を離れ――」


 男の一人が気怠げにもう一人に問いかけた。

その返事を返そうとしていた男の声が、不自然に途切れる。



「……え?」


 何事かと隣を確認すると、先ほどまで元気だった男は糸が切れたように倒れていた。

躓いて転けたようには見えない。明らかに意識がない倒れ方をしている。



「なっ、な、なにが――」


 狼狽えて叫びだしそうになった瞬間、その男も静かに意識を手放した。



「弟くんも詰めが甘いわね~。そういうところも可愛いのだけれど。まだまだお姉ちゃんが付いててあげなきゃダメかしら?」


 不良達のたまり場となっている店が見て取れるビルの屋上。

凡そこの国の日常には相応しくない狙撃銃を構えた美女が一人、愛すべき弟への想いを口ずさんでいた。



 流れるような動作で麻酔弾を再び装填し、華子は再びスコープを覗く。

何やら一人で始めようとしていた弟を心配し、姉として何も相談されなかった悲しみもあり、こうして遠くからひっそりと援護をすることにしたのであった。


 この場から一人たりとも逃がしはしない。

次第に身体と銃との感覚は一つになり、まるで自分の手足のように馴染んでいく。

この状態の華子が引き金さえ引けば、縦断は寸分の狂いなく目標へと当たるであろう。



――そう、あの頃はこんな風になるだなんて思っていなかったわね。 

  

 スコープを除きながら、その懐かしい感覚に華子は感慨を巡らす。

血で血を洗う闘争の日々。

己の過去は決して誇れるものではない。



「……!!」

 

 昔の自分へと引き寄せられる感覚。 

その感覚が、一瞬で身体を横っ飛びに跳ねさせた。


 極小の発砲音が響き、先ほどまで狙撃銃を構えていた場所を抉る。

少しでも反応が遅れていれば命はなかったであろう。

華子が用いた麻酔弾とは違う。それは、確実に相手を殺す攻撃であった。



「鈍ってはいない、か。エルフリーデ」


 かつての自分の名を呼ぶ声。

声の主は、油断なく銃口を突き付け、足音を鳴らさずに近寄ってくる。

 

 

「あなたは……」

 

 華子の目の前まで来ると、顔を隠すように被っていたフードを上げた。

その顔が、雲の隙間から差し込む月明かりに照らされた。



「エルフリーデ。お前を殺しにきた」


「ブラック……」


 顔に大きな傷を持つ女。

勇ましく冷血な風貌。 

獲物を狙う猛獣のように鋭い瞳が、闇夜に煌めいていた。


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