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「あいつが……。でも、そのことを何故アンタが知っている?」
「それは……」
自分のことは殆ど明かさないこの少女の言葉が、どれほど信じられるものなのかも分からない。
なによりあの銀城とかいう男の目的が、藤四郎には分からなかった。
「――それは、私が旧家の人間だからです。銀城家とも浅からぬ付き合いがあり、」
一呼吸置いて、彼女が答える。
そして、おもむろに眼鏡を外すと右目に手を当てた。
「緋色……。アンタも天使の血族か」
コンタクトレンズを外した彼女の瞳は、銀城蓮と同じ色。
いや、彼よりも更に濃い緋色をしていた。
色の濃さは、血の濃さを表すという話だ。
即ち、彼女は銀城蓮よりも家格が上の人間。より濃い天使の血を受け継いでいるのだろう。
「あの、それだけですか……?」
期待していた反応と違ったのか、彼女が困惑気味に問うた。
「旧家の人間ってのは分かったが、銀城の話は確かなのか?」
「……銀城家とは浅からぬ関係にあります。勿論、私自身銀城蓮本人とも面識があります。
彼の悪行の数々も耳に入ってきますが、決して表沙汰にはならないのです。
小さな町ですが、それ故に天使の血族というのは神聖視され、不都合なことなど揉み消されるのです」
彼女は不満げな態度を覗かせつつ、早い口調で銀城について語った。
その姿に、藤四郎は何処か既視感を覚えた。
「なあ、もしかして何処かで会ったことがあるか?」
「はぁ……」
ため息を一つ零し、彼女はおもむろに後ろ髪を掻き上げた。
「これで、流石に分かりますか?」
「アンタ、委員長だったのか」
それだけで、彼女に感じていた既視感の正体がはっきりとした。
先ほどからの冷めた態度も、正体が分かってみれば納得する。
「もう少し早く気付くかと思っていましたけれど……」
「いや、委員長が満面の笑顔でパンケーキ食べてるなんて思わないって」
「あっ、あれは忘れてください!!」
語気を荒げる彼女を見て、藤四郎の顔に自然と笑み浮かぶ。
学校の中だけでは、彼女のこんな一面を見ることはなかっただろう。
「それよりも、銀城蓮の件。引き受けていただけますか? 協力していただけるのであれば、宝来家の人間として貴方の後ろ盾となりバックアップいたします」
楓の言葉が全て真実なのかは分からない。
だが、今の桜花組に力は無く、問題への対応が後手に回ってしまっているのが現状。
それを差し引いても、後ろ盾を得られるというのは魅力的な話だった。
なにより、藤四郎は宝来楓という人物が嫌いではない。
態度は冷たいが、その行動は生真面目で根底には優しさが感じられる。
先ほどは人間的な部分を垣間見、むしろ親近感すら抱いていた。
「――分かった。この話、受けよう」
彼女の正体が宝来楓だと分かった次点で、既に藤四郎の中で答えは決まっていた。
藤四郎は、そっと右手を彼女の方へと差し出した。
一拍置いて、楓もまたそれを受け入れ手を差し出すと、彼の手を握った。
かつて袂を分かった血筋の二人が、再びこの町を守るために手を取り合う。
この先、二人を待ち受けるのは幸か不幸か。
未だ分からぬ未来を切り開くため、その手は固く結ばれたのだった。
「ところで、紅葉ってのは偽名か?」
「お忍びで外出をするときは宝来家の人間だと知られたくありませんので」
会話を切り出されたことで、どちらからともなく手は解かれた。
「なるほどね。格好も随分と女の子っぽいしな」
「……それは、普段は女の子らしくないということですか? 失礼な方ですね」
「あー、いや! そういう訳ではなくてな。私服のイメージがなかったからさ、似合ってるよ」
つい見たままの感想を述べてしまい、慌てて訂正をする藤四郎。
実際、制服姿しか見てこなかった相手の私服というのは新鮮だった。
「似合ってる、ですか――そうですか。まあ、貴方に言われたところで嬉しくもありませんが」
藤四郎の言葉に顔を背けながら応える。
そんな彼女の声は、いつものように冷たいものではないように感じた。
その日は、いくつか情報を交換し合い解散することなった。




