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 朝一から風紀委員長に絡まれるというトラブルを乗り越え、藤四郎は自分の所属するクラスへと向かっていた。

比較的新しい作りの校舎の中、始業前のこの時間は各々が友人達と立ち話したり授業の準備をしたりと好きに過ごしている。


そうした人並みを縫って自分に指定されているロッカーの元へと藤四郎は歩いていた。


――おい…・…。


――あっ……。


歩いていると何人かの生徒が藤四郎に気付いたようで、友人に道を空けるように促したり短い声を上げた。

その表情は気を遣ってというにはあまりに硬く、怯えから来る行動なのだと分かる。


桜花組の若頭。

その肩書きは藤四郎がこの宝来学園へ入学してすぐに広まった。


ヤクザの息子だから近付くな。


そう言われているのを聞いたとき、藤四郎は血が沸騰しそうなほどの怒りを覚えた。



 桜花組がヤクザと名乗ったことはない。

親父、桜花源六(げんろく)が先祖の意志を継ぎ立ち上げた何でも屋だ。

幾らかの謝礼を受け取ることはあるが、桜花組は義理と人情を重んじた仕事をしている。


そんな家族達のことを何も知りもしないでヤクザと呼ばれることが、藤四郎には許せなかった。



 だが、どんなに陰口を言われようが藤四郎が手を出すことはなかった。

幼き日、藤四郎が陰口に傷付き、泣いて帰ってくると源六が言った。



「おめぇ、分かってるな? この町に住む人間を守る。それが桜花組だ。だが勘違いしちゃいけねぇ。

儂らは、その為に後ろ暗いことだってしてきた。世間様から見ちゃヤクザ者よ。

藤四郎、自分たちが正義だなんて思っちゃいけねぇ。それだけは肝に銘じとけ」


そう話しながらゴツゴツとした手で乱暴に頭を撫でてくれる源六のことが藤四郎は好きだった。

世間になんと言われようと、彼の中では源六達はこの町を陰から守っているヒーローだから。


だからこそ、藤四郎が軽率に暴力を振るうことはない。

それこそ桜花組を指定暴力団のように思っている者達の思うつぼだという事を理解しているからだ。



「ふぅ……だからといって、毎日こんなんじゃ疲れるけどなっと」


「――おはよう、桜花君。朝からお疲れだね」


 ロッカーから一限目に必要な教科書を取り出していると、背後から唐突に声を掛けられた。



「うおっ……春彦(はるひこ)か、驚かせんなよ」


彼の名前は、緑川春彦。

この宝来学園で藤四郎とまともに話すことが出来る数少ない友人だ。



「驚かせたつもりはなかったんだけど……」


無造作に伸ばされた前髪を弄りながら、春彦は困ったように答えた。



「相変わらず長い前髪だよな。今日の風紀チェックはどうだったんだ?」


「それが大変だったんだ。新しい風紀委員長が宝来さんでしょ? 厳しくて有名な人だから……」


「おー、切るのか? まあ、元々顔は良いんだから隠さなくても良いって思ってたけどな」


「え、えぇ!? な、なに言ってるのさ! 桜花君にそんなこと言われても切らないよ! 絶対!」


男子の平均よりも些か低い身長と幼い顔立ちをコンプレックスに感じているようで、普段から目立たないようにしている節がある。



「なんだ勿体ない。俺も切ってこいって言われたけど形だけだろ。明日になったら忘れてるんじゃね?」

「そうかな? そうだと良いんだけどねぇ~」


 他愛もない話をしながら二人は自分たちのクラス、二年B組の教室へと向かった。

廊下を歩く二人の姿を何人かの生徒は横目に見ていた。


注目を浴びることを避ける春彦。

悪い意味で注目を浴びている藤四郎。


二人の姿は不釣り合いで、しかし上下関係があるわけでもない。

会話をするその姿は、気のおけない友人そのものだった。



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