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金髪の男は、藤四郎へ手を差し伸べてくる。
その行動と表情は、自信に満ちあふれていた。
こんな薄暗い路地裏にあっても、気品を滲ませる仕草は天使の血を引いた名家の人間なのだと思わせる。
だが、藤四郎の返事は最初から決まっていた。
「どうした? 早く返事を――!?」
近づいて来ていた金髪の男に、拘束していた男を押し付ける。
断られると思ってもいなかった金髪の男は、対応に遅れて体勢を崩した。
「いくら天使の血を引いてたってな、お前みたいな奴の仲間なんてお断りなんだよ。失せな」
「貴様ぁ!! 僕がせっかく誘ってやったってのに……何なんだよその態度!
どうせ何処にも行く当てなんてないはみ出し者の分際で、この僕に逆らうっていうのか!?」
憤慨した金髪の男が喚き散らしているのを無視して、藤四郎は未だに男達に捉えられている女の元へと向かった。
「おい! 僕を無視するのか!! ふざけるな……ふざけるなよ……!」
「いやっ……!」
金髪の男が駆け出し、藤四郎よりも先に女の元へと辿り着いた。
女の長い黒髪を引き寄せるように引っ張った。
「てめぇ……その子を離せ!」
「ハッ……フハハハッ!! 馬鹿な男だよ、全く。最初から大人しく従ってれば良かったのにさぁ! なあ、君もそう思うだろう?」
「うっ……あっ……」
力の加減などなく、金髪の男は女の首を締め上げる。
女は眼鏡を掛けているが、そのレンズの奥の瞳が苦痛に歪んでいる。
金髪の男は、その表情を見て満足げにしていた。
「苦しいだろう? そうだろう、全部あの男が悪いのさ。僕の機嫌を損ねたあの男がさぁ!」
「チッ……!」
藤四郎が掛けだし、金髪の男に迫る。
だが、その行く手を三人の男が立ちはだかってふさいだ。
「邪魔だっ!!」
「おっと、良いのかい?」
拳を振りかぶった藤四郎の挙動が、その声で止まる。
「殴りたければ殴ればいいさ。でも、君たちヤクザは手を出した次点で終わり。
知ってるんだよ、こっちはさぁ! 暴対法っていうのをさぁ!!」
「俺達、桜花組は暴力団じゃねぇ……そんなもの関係あるか!」
藤四郎は奥歯を噛み、金髪の男の言葉に反論した。
「そんなことこそ民衆には関係ないんだよ。皆が君たちをヤクザと呼べば、それはもうヤクザ。
判断するのは、この町の人間さ。君たちが、なんと言おうと無駄なのさ。――おい、やれ!」
金髪の男のかけ声で、三人の男が藤四郎を取り囲んだ。
その中には、棒状の得物を持っている男もいる。
反撃すら許されない身一つの藤四郎は、ジリジリと迫り来る男達に対して成す術がなかった。
「ヒャッハー! もう我慢できねぇ!! オラオラァ!!」
「さっきまでの威勢はどうしたぁ? あ゛ぁ?」
「さっさと膝をつけや。土下座だ、土下座ぁ!」
三方向から降り注ぐ暴力の雨。
辛うじて急所への打撃を受け流し、藤四郎その場で耐え続けた。
男達による袋だたきは、数十分と続いた。
ひたすら攻撃を続けていた彼らの顔にも疲れが見える。
「はぁ………はぁ……」
満身創痍ではあるが、藤四郎は辛うじて立ち続けていた。
――こんな男達の前に膝を着くなど許されない。
藤四郎のプライドがそれを許さなかった。
身を守るため酷使された腕は、痣と血で汚れている。
「どうだい? 僕の下につく気にはなったかい? 下僕だったら考えてあげないこともないさ。
任侠だか何だかくだらないものに縛られてこれ以上ボロボロにもなりたくないだろう?」
金髪の男が厭らしい笑みを浮かべ問いかけた。
勝ちを確信した顔だ。
藤四郎が手を出すことはない。
手を出した場合、暴対法を盾に桜花組を取り潰す口実に出来る。
「……死んでもご免だ」
「あぁ、そう。じゃあ、死ねば?」
吐き捨てた赤い唾液が、金髪の男の靴に掛かる。
金髪の男が取り巻きから警棒を受け取り、虚ろな瞳で振りかぶった。




