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とある海沿いの街、宝来(ほうらい)


この地を治める領主であった宝来家の血族は緋色の瞳を持ち、天使の血を引いていると崇められてきた。

彼の末裔達により現代に至るまでの永い時、宝来の治安は護られてきたのだった。


 その陰には常に桜花(おうか)と呼ばれる者達が居た。

領主家、宝来に仕える家来であり用心棒でもあった。


彼らは荒事だけでなく、民衆の些細な悩みにも親身に関わり支持されてきた。

桜花は身を粉にして主家が治める町の平穏を護ってきたのだ。



 そんな事実も今は昔。 


現代ではその役割は警察に取って代わり、主家より暇を言い渡された桜花の一族は方々へ散り日陰で生きることとなった。   

そんな桜花の名を継ぐ少年が一人、今日もまた学校の校門を潜ろうとしていた。



「いや、マズいな。――よしっ!」


彼の名は、桜花藤四郎(とうしろう)

校門前で行われていた検問をかいくぐるため、別ルートからの進入を試みている。


校門から離れた場所で素早く周囲を確認すると鞄を投げ入れ、フェンスへと足を掛けて一息に乗り越えた。



「まあ、こんなもんだろっと」


「何が“こんなもん”なのですか」


 手に付いた汚れを払いながら、投げ入れた鞄を拾い歩き出そうとしたとき、女性の声が藤四郎を呼び止めた。



「……これは、風紀委員長様。こんな所で何をしてるんですか?」


「何をしてるんですか? では、ありません。それは此方の質問です」


「あー……まあ、なんだ、朝の運動みたいなもんだから。てことで、もう行くわ」



 藤四郎は、この風紀委員長に苦手意識を持っていた。


黒く艶やかな長髪を一本結びにし、凜とした佇まいから育ちの良さが窺える。

実際、彼女はこの地を治めていた領主の血筋で名家の令嬢だ。

その証とも言える緋色の瞳が目を惹き、彼女が風紀委員長であることを覚えていた。


彼女が嫌いという訳ではなく、彼女のような育ちの良いお嬢様は自分のような人間のことを嫌いだろうと敬遠していた。

下手に近づき絡まれるようなことがあれば面倒なことになると思ったからだ。



「待ちなさい、桜花藤四郎。まだ話は終わっていません」


「えーっと、まだ何か?」


「本日は風紀チェックの日です。その髪は何ですか? 切って下さい」


まさに予想した通り、現在進行形で面倒なことになっている。



「は? 髪? あー、分かった分かった。切ってくるって」


「その態度、信用できません。明日までに整えてきて下さい。――では」


藤四郎の適当に結い上げられた後ろ髪と整髪料でかき上げられている前髪を睨みながら言い放つと、用件は終わったとばかりに校門の方へと歩いて行った。



「今年の委員長様は厳しいなぁ……」


 この時はまだ藤四郎も怒った美人は怖いな等と軽い気持ちで考えていた。


前任の風紀委員は藤四郎の風貌と、とある噂が原因で見て見ぬ振りをしていた。

まだ名も知らぬ彼女もそのうち近付かなくなるだろう。

そう考えていたのだ。


宝来学園二年風紀委員長、宝来(かえで)


天使の末裔との邂逅。

これが桜花藤四郎の人生に大きな影響を与える転機となるとは、今はまだ誰も思いもしなかったのだ。




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