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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毒と雪

作者: 姫柊 時雨


昔の、偉い人が言った。


【この世界が回っているのは神の力だけではない。我々人間が、食物連鎖の上にいるからだ。即ち、我々が全生物上の神なのだ。】


と。



「どう思うよ、これ。」


『いや、別に?』


白雪しらゆき 鏡夜きょうやは素っ気なく知り合い(・・・・)の来條らいじょう 知泰ともやすに言葉を返す。


「ちょっと、知り合いって酷くない!?雪ちゃん!」


『雪ちゃんゆうな。酷くない、これが普通。』


むしろ話しかけてきたことに答えを返すことだけで、どれだけ白雪が来條のことを信頼しているかが分かる。ふつうの人が話しかけてもオールスルーが基本常備の彼は極度の人見知り、ってわけでもない。


至って簡単、自分に対する悪意が聞こえてくるのだ。




初めて来條と会ったのは高校生の時。古いアパートの1室。アパートと言っても学生寮でこのアパート内には学生しか住んでいなかった。五畳の一間の中で一つの小瓶を正座しながら眺めている俺は勇気を出して小瓶を手に取る。


『これを飲めば死ねる。』



特に辛いことがあったわけでもない。この体質が普通じゃないことも分かっていたけれど両親は普通だし3個上の兄貴も普通だ。だからこそ、つまらなかった。【俺】自身が体験したことはないのに頭の中にかすかに残るあの幸せな日々を、体が覚えている。



両親は知らない。だからこそ好き勝手に言えるんだろう。


「(鏡夜はなんであんなのだろう。お兄ちゃんは頭がいいのに。)」



「(鏡夜はなぜ本にばかり夢中になるんだ。男は外で遊ぶものだろう。)」



頭の中に入ってくる俺への失意、嫌悪。俺に対しての憎悪などを感じてなかったのは兄貴だけだった。兄貴だけが救いだった。それもすぐに消え去ったけど。


「(俺を誘う、イヤラシイ雌の顔した弟。俺がいつも頭の中でお前を犯していることを知らない愚かな弟。お前の愚かで淫乱な性格をわかってやれるのは俺だけだよ、鏡夜。)」


頭の中に入る、俺への欲望。寒気以上に虫唾が走った。男同士、とか以前に兄弟だ。正真正銘血の繋がっている。ありえない。そこからは急いで寮に入った。もう離れたかった。俺を嫌う両親にも、俺を蔑む兄貴の目も。



あれ、こうやって考えてみれば俺って結構不幸だな。



そんなことを考えていると俄然飲みたくなってきた毒を口元に近づけた。



でも、この毒が唇につくことが無いのを俺は知っていた。つまりは、そういうこと。死ぬ勇気もない男って言うことだ。


『はぁ。』


コロンとテーブルの上を転がったビンは何故かこっちを見てる気がした。気味が悪くなって瓶を掴むといつもの隠してる鍵付きの机の中に閉まった。



朝。学校に向かういつもの道を少し遠回りしようと反対の道に進む。見たことのない河原の見たことのない公園のベンチで寝転がってる人がいた。



昨日の夜の葛藤を嘲笑うかのような暑い日差しで、俺は不覚にも笑ってしまった。太陽ですら、俺が死ねるわけがないと思っていると解釈したからだ。


ベンチから垂れる黒い、絵の具で塗りつぶしたような、深い夜のような色の髪が何故か俺の胸を昂らせた。何故こんなところで眠っているのか、興味が湧いてベンチに近づいて、息を呑む。



_______まるで人形みたいだった。



とても綺麗でスッと通った鼻筋にキリッとした眉。長いまつ毛に閉じているため見えない瞳を見たくなった。そして見たことのない人なのに、何故か随分前から知っているような気がした。ドキドキと胸が高まる。息が苦しい。まるで、毒でも飲んだみたいだった。


それが、来條との出会いだった。




「なーに考えてんの?」


『お前と出会った日の事だ』


「あー、視線感じるなーと思ってたら絶世の美人がこっちを見つめてたからね。」


『誰が美人だ。』


「つれないなー、雪ちゃんは。」



今思えばなぜあの時俺は遠回りをしたのだろうか。まるで、なにかに引き寄せられるように向かった先に来條がいた事が何かとリンクする。その何かがわからないのだけれど。


「でも俺らってほんと運命だとおもうなー。あれから教室行ったらまた会うんだもん。」



そう、来條が目が覚めて髪の毛と同じ黒い瞳をみたら何故か急に自分が恥ずかしくなって逃げてしまったのだ。そして学校について教室に入ると何故かさっきベンチであった男が教室にいた。


『まぁでも、確かに何かの縁は感じるな。』



そういうと笑いながら俺の肩を抱く。


「珍しくデレたね、雪ちゃん」


『雪ちゃんゆうな。デレてない。』



あれから毎日遠回りして公園のベンチを通った。何故か毎日あそこで寝ているこいつに疑問は持ったけど俺はこいつの声が聞こえなかったため、別によかった。


だけどある日。いつものように見ていると何故かキスしたくなった。こいつに。そして、顔を近づけて_______





「あれ?なんでそんな顔真っ赤なの?」



『うるせぇ!』


「口悪っ!!?」



キスしてしまった。それを知ってるのは俺とあの時の太陽だけだろう。




たぶん俺は、こいつが好きなんだ。それを自覚したのが高2の春だった。そこからずっとこじらせ続けた俺の恋はアッサリと終わりを告げた。


「俺さ、雪ちゃんが好きなんだ。セックスしたいっていう意味で。」



頭が真っ白になる。欲望とかが聞こえてくるはずなのに全く聞こえない来條に本気か、と掠れる声で呟く。


「本気と書いてマジと読む。」


なんて言われてしまえば俺の返す言葉なんて決まってる。


『俺も、好きだ。』






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