①坂本三根の普通は理解されない。
「これはどう言うことだ?」
現代文教師の堂本聡先生は至って冷静に、しかしながら言葉をかけた相手へと向けられた目には静かな炎が燃えているのが見える様な声音で告げる。
どう言うことだ?....どう言うことだろうか。
まぁ改めて見返してみると自分の文章力の無さに赤面する思いではある、何だかそれっぽい単語を並べてあたかも論文風に仕立て上げればそれっぽく見えるだろう、と言う無意識ながらも浅はかな思考が働いていたのを見透かされている気分である。いやー。恥ずかしーなー。穴があったら入りたいなぁー.......。
ごめんなさい現実見ますだからそんな目で見つめなで.....。
俺が堂本先生の眼光によってもう少しでハニーフラッシュしそうなところだったので。一応弁解しておこうと思い、何とか口を開く。
「い、いや、これはですねーーー」
「お前は日頃の態度は悪くないんだがな。なぜこう言う時にだけ変に張り切るんだ、どうしてこうなったんだ......。」
そう言って俺の言葉を遮って質問してくる。
「い、いや、その、わ、若気の至りと言いますか.....。先生には分からないかも知れないですけど....、最近の若者はですねーーーーー」
息が止まった。
原因は堂本先生の目線による黙殺、もとい殺気による睨みつけるだった。
俺の防御力(メンタル)が下げられたせいで俺の行動選択の余地は最早謝りやり直すの一択になっていた。
「すみません書き直してきます....。」
「全く...。そろそろ鷲旨先生の身にもなって考えろ。可哀想って思わないのか....。」
堂本先生がそう言うと堂本先生の隣に座っていた数学教師の鷲旨明日香先生は冷や汗を流しつつ抑えめに口を開いた。
「い、いいえ、私は大丈夫ですから。それに、私は結構すごいと思いますよ?な、何と言うか、うーん、内容が濃くて見ててびっくりしちゃいました!」
そう言って肩にかかった髪とサイズが最早測定不能な胸を揺らしつつ励ましてくれていた
励ましてはくれてないか....要約すれば意味わかんなかった、て言うことだしなぁ.....でもお気持ちはよく分かりました。えぇ。
とっても分かりましたよ。えぇ。
そんなこんなしていると、もうそろそろいい時間だろうか、説教解放の兆しとなる時間確認を堂本先生がする。
俺も時計を見る、ふむ、本当にいい時間だな。こんな説教をされている俺だが、此れでも用事の時間が直ぐそこに迫っているのである。
「ま、今日はこれくらいでいいだろう。ぼちぼち集合時間だろうしな。坂本、もう言っていいぞ。あ、鷲旨先生ももう大丈夫ですよ。すみません時間取らせてしまって.....」
「いえいえ、私こそいつもいつも.........」
待ってましたとばかりに相手が言い終わる前に荷物をまとめて生徒指導室を出る、鷲旨先生の声がだんだん小さくなる。
さてと、行きますか。
× × ×
俺の通っているこの県立武蔵高等学校、縮めて武蔵高は正面から眺めてまず左側に職員室等がある職員棟。右側にあるのが食堂・売店が一階、体育館が二階にある体育館棟を始めとし、順に教室がある教室棟、実験室や講義室等があるのが特別棟、家庭科室やパソコン室などがあるのもこの特別棟である。
上から見ると特別棟が上に来て教室等、職員棟・体育館棟、とちょうど共と言う字の上の突起物をへし折って取り去れば俺の学校の見取り図に早変わり〜。である。
今さっきまでいた生徒指導室は職員室の隣、つまりは職員棟の二階にいたわけだが、俺が今目指しているのは教室等の三階の教室であるため、職員棟と教室棟をつなぐ連絡通路を歩いていた。
連絡通路の窓からはちょうど反対側に位置する体育館棟が見え、体育館棟の一階は少しスペースがあり、ピロティ...と言えばわかるだろうか。
そこは正しくリア充よろしく憩いの広場となっていて、正しく皆が皆、青春の真っ只中で自分の役割を演じている。
あっはっは、....粋がるな愚民どもが。
おっと、言葉が荒くなってしまったな。まぁ取り敢えずはそんな感じで青春という舞台の上はとても華やかで幻のような煌びやかさが在るのだがそんな所に俺の役所はなく、何なら必要すらないが、....強いていうならーーーーー
「坂本クーン、この前はありがと、助かったよーまた頼まねー。」
「はい、私でよければいつでも言ってくださいね。」
アルカイックスマイルで静かに優しく女子に返事する、俺。
「あ、坂本ーお前これ運ぶの手伝ってくんね?」
「すみません、これから用事でして....」
申し訳なさそうに声のトーンを落として男子に返事をする、俺。
「おー、そっかそっか、あ、そういや一年生の時のクラスのメンツでクラス会やるって話になってんだけど、お前もこねぇ?」
「残念ですが遠慮しておきます、最近は多忙でして、またの機会にお誘いください」
はにかみ笑いを浮かべて、正しく営業スマイルを浮かべて返事をする、俺。
そう言えば相手もそれ以上の追求はされずに男子生徒は去っていく.....。
そう、強いていうなら、俺の役所はこんな感じである。
話しかけられれば素直に返事。手伝い事も大掛かりでない限りは手伝う。プライベートは明かさず、出来るだけ大勢が集まるイベントごとはやんわり断り参加しない。
これが次世代高性能ボッチ、またの名を都合のいい人。
うわぁ...悲しいなぁ。
まぁ何はともあれ、そんな感じで俺は他人と接する時ガラスの仮面、いや鉄の仮面を身につけて接する。
なぜかと言われれば、単刀直入に言うと、俺は他人が苦手だ。
他人は何を考えているかわからない上に、都合の悪い時はすぐ様身の回りのさらなる他人を陥れ。蔑み。傷つける。
何より理論より感情論、もとい彼等彼女等の常識外のものは間違っていて、自分が基本的に絶対正義。
そんな幼稚な思考が少しばかり理解できないのだ。
強いていうなら理解しづらいのだ。考えることをやめ、自分の常識が間違っていることに気づこうとしない、そんな自殺的とも言える思考が理解できない。
だから精神的に距離を置く、己を晒さぬようにする。晒すという行為は、少なからず弱みを見せる、つまりは相手に攻撃の道具を与える様なものである。
触らぬ神に祟りなしというように、不吉で不可解な物には触らぬが吉なのが世の摂理である。
ーーーーそんなことを考えながら連絡通路をわたりきろうとした辺りで、少し軽快で忙しない足音が近づいて来るのに気付いた所でほんわかした控えめの声がかけられる。
「坂本くーん、ちょっと待って、わ、私も行くから。」
のんびりほんわかとした声に歩みが鈍り、止まる。
鷲旨先生が隣に来ると俺も歩くのを再開する。
「さっきはごめんね?私が堂本先生に相談しただけなんだけど、それがこんな事になるとは....」
そう言って分かりやすく肩を落とす。
ほんとですよ、全く気をつけて下さいね。
なんて言える訳がない、何せ俺が10割悪いんだから。
だからここはノータイムで否定しておく。
「いえいえ、悪いのは私ですよ、次からは気をつけます。私の方こそ申し訳ありませんでした」
そう、気をつけよう次からは漢字にルビ振って小学生の作文の様なレポートを書こう。小学生はレポート書かねぇな。
静かに決意を固めていると、再び鷲旨先生が口を開こうとする。
「いやいや、私は結構好きだよ?坂本くんみたいな作文を書く人は女子でも早々いないから、私、次からは堂本先生に頼らずに辞書とか使ってーーーーー。」
「あっ、鷲旨先生ー!すみませーん、ちょっと時間ーー」
鷲旨先生の言葉を遮って駆け寄る女子あれば。
「ワッシー、先生ッ!課題再提出しても良いっすかー?」
更に群がる男子生徒、有象無象、etc....。
かくして、一瞬で鷲旨先生は生徒たちに囲まれる。
鷲旨先生は比較的教師の中で人気があるのである。
日頃はとても温厚で優しく、包容力のあるお母さん属性を持ち。女性教師としては珍しいほど顔もスタイルも良い。
男子生徒をはじめとして、女子生徒からも絶大な支持を得ている。
「ちょっ、わ、私今から用事があって....。はぁ、仕方がないなぁ〜......。坂本くーーー」
「先に行ってますので、皆さんには遅れると伝えておきますね?」
鷲旨先生が冷や汗をかきながら伝えようとすることを先読みし、口を開く。伝え終わると会釈をして足早にその場を去る。引き止められはしない、というか出来ないのだろう。
足早な足取りのまま、目的の教室の前に到着する。
さてと扉を.....っと忘れてた。これを付けなきゃな。
ポケットから腕章を取り出し、冬服の袖に通して安全ピンで固定する。腕章には『生徒会執行部 書記』と記載されている。
そう。
俺の仕事と言うのは。今日から始まる生徒会執行部の書記としての仕事だ。
....と言っても皆さんは生徒会と聞いて何をするかなんてあまりわからないだろう。
断言しておく、特にめだかボックスとか読んでるやつ。
お前らに言っておこう。あと生徒会役員共、いや、これは論外だな。まぁいい。
まず始めに、生徒会なんてやる奴にまともな奴は早々いない。居たとしてもそいつは先生に強要されて無理やり入った部活動生徒が良いところ。ともかく生徒会になる奴は、俺みたくボッチで帰宅部の俺みたいなやつか。バカ真面目で人生の経験がどうたらーとか言う女子とか。内申点目当ての奴等ばかりだ。かく言うおれも内申点欲しいです。
そうして作られた生徒会執行部の仕事は、学校によってまちまちなのだが、中学生の生徒会の仕事はまぁ酷い。
まず始めに文化祭や体育祭、果ては始業式終業式までに至る行事ごとの司会進行は勿論、大きな行事ごとになると、議事録や進行予定台本の作成。学校によっては生徒会特有の何かプログラムを作れなども言われたりする。
一見楽しそうでクリエイティビティな仕事に見えるかもしれない。
だが違う、違うのだ。
司会進行は毎回同じような言葉を朗読の如く音読し。
議事録や進行予定台本は去年のものをコピペ安定。多少の変更はあるが、約8割は去年と同じことをする。
生徒会特有のプログラムを企画するが、大体生徒会がやる出し物なんて生徒にウケが良いはずがなく、恥ずかしい上にブーイングを受ける。あれ結構しんどいんだよ?
まぁともかくはそんな風に、生徒会がいつでも何処でもかっこいい仕事ができると思ったら大間違いだ、裏方で支えるやり甲斐のある仕事です!と言ってる割に、裏方でやるのは大体男子だ、中学時代の俺は最早奴隷かよってくらいものを走って運び重たいものを持ち上げ。それはもう地の国と錯覚するほど重労働でした。
更には男子には雑用が回る回る、飾り付けの小物の7割は俺がやったものだ。そのせいで夏休みのバイトは内職が8割を占めたほど手先が器用になった。ありがとうございます。
そう、つまり生徒会は下らなく、決して華やかなものではないのだと言うことを知って欲しい。
じゃあなぜお前は生徒会になっとんのじゃゴルァ!!
と言いたい方、ごもっともだ、が俺にも言い分がある。
先ほどにも言ったとおり、内申点に加点があるのだ、これは部活をして居ない俺にとって大学推薦の唯一の道のりなのだ。
かくして止む無く生徒会に入った俺だが、別に投げやりにやらわけじゃない。やるからにはそれなりに、ボーダーラインを越える仕事をやって定時帰宅するのが俺の信条の一つだ。
それに都合のいい人、を演じる俺としては仕事もそつなくこなす必要があるし、それなりに技術もそなわってしまっている。
まさに中途半端、目をつけられずに目立たないことに関してはボッチの理想像だと自負できる、自慢はできない。
さて、遅刻ももちろんNGであるので。さっさと入室することにしよう。
集合時間まではもう少し余裕がある。なぜかと言えば生徒会と言えども、一生徒である以上部活動生ももちろんいるため、一旦挨拶を入れる必要がある。
さらに言えばうちの学校は県立の割には部活で有名な為、部活動生には甘い傾向がある。
何なら部活動生じゃ無い生徒が数えられるほど少なく、部活が盛んなのだ。
だから今生徒会室に居るのはせいぜい帰宅部か先生くらいなものだろう。
扉を開く。思ったより思いその扉は力を込めると低い摩擦音とガタガタという小刻みな衝撃音をたて開く。
× × ×
そのまま静止した。
いや。
自分の見ていた景色の方が静止していようにすら見えた。
そこに居たのはたった一人の少女。
正しく清楚可憐。眉目秀麗。言葉の限りを尽くさなければ表現でき無い程に。そう。見惚れてしまったのだ。
いっときの静寂。
ここでようやく我に返った。
いかんいかん、不意をつかれたからって一目惚れとか洒落にならない。今のが波の男子なら運命とか感じてるんでしょうね。だが俺は違う。
自慢出来ることじゃないが。俺はその昔、女子からこれでもかと馬鹿にされ虐められていた小学生時代を経験したおかげで、女子に性格美人はほぼ皆無なのを知っている。
大体の女子には裏の面がある、勿論のことながらそれを隠して生活している。
別に女子が悪いわけじゃない。悪いのは女性は華奢で可憐でなければならない、という固定観念を待たせた社会が悪いと思う。大体いつも社会が悪い。
まぁそんな感じで、そうそう女子は信じない。ああも可愛い女子で性格いいやつはそうそういないし、彼氏が必ずいる。
つまりはリア充であり、俺とは平行線。つまりは交わらない。
そう心で言い聞かせながら冷静を装いつつ。自分の席を探す。
俺の役は書記の筈だから。ちょうど黒板前の.....
そうそう、あの女子の隣....。隣...。
そうですか、神はまたしても私に試練を寄越すのですか。
まぁうじうじしても始まらない。覚悟を決めろ。いつも通りで行けば無問題の筈だ。
先ずは必要最低限の確認を取る。
「あの、貴女は書記、であってますか?」
「ええ。」
静かに近寄り一言かける。
ふむ、二つ返事。悪くない反応だ。無関心というのが見て取れる。これは楽で助かる。
ならばあとは座って黙って時間を待つのみ。沈黙が平気なのはボッチの専売特許だ。
あ、俺沈黙効かない体質なんだよね。って言えるくらいは平気だ。伝わり難いなこのギャグ。
静かに隣の席に失礼して。どのくらい経っただろうか。
時間把握には自信がある方だが。今ばかりはどれだけ時間が経過したか考えられなくなっていた。
原因は隣から刺さる視線だ。その視線の元はどうやら先ほどの女子のから放たれているようである。と言うか他にこの部屋誰もいないしな。
流石に耐えかねて口を開いてしまう。
「えっと、な、何か?」
いたって優しい声音で。かつ笑顔で答えた。頬が引きつってら気がするが気のせいだ。
「いえ、少し意外だったので。」
おい、主語がどこにも見当たらないぞ。そう言う物言いしていいのは漫画のキャラだけだっつの。
全く内容を得ない返事だったので。
「えっと、な、何が?」
と、濁点だけが加わったリピート文を朗読してしまった。
すると彼女は読んでいたであろう文庫本を閉じて此方に目をやる。と言うかいつの間に出したのその文庫本...
「.....。こう言う状況になった時、大抵の男子は何か喋らないと、って口を開くのだけれど。貴方は黙ったままだったので、珍しいと思っただけ。死んでるのかと思いました。」
「あ、あはは...。ま、まぁ確かにそうかも知れませんね。いやぁ、面白いことを言う人だなぁ。えっと、私は坂本三根と言います。宜しければ名前を聞いても?」
我ながら名前を聞くのが下手すぎると思う。けどそれより問題なのはこの女子だ。
なんなのこの女子。開口一番がコレですか。裏表の問題じゃない。これはアレだ、表が既に黒い隠さない系女子だ。
これはこれで触れると怪我しかねない。此処は無難にやり過ごすのが吉だ。
「夜桜香織です。適当にお呼びください。それにしても....」
よかった、少なくとも嫌われてはいないようだ。普通に答えてくれ...。ん?それにしても?
言葉を待つ、すると静かに口から流れるような美しい声で。
「その薄笑いといい子ぶるの...やめて貰えるかしら?」
こんな感じで今回は筆を置かせて貰います。
サイトも小説も初心者ですが。どうぞご贔屓にお願いします。これからマイペースではございますが。いそいそと執筆していきたいとおもいます。
それではそれでは。また次回でお会いしましょう。
了