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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
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五話

 大乱の後、職を無くし、家を無くし、そんな人間が全員元通りになるわけではない。結局仕事につくことが出来なかった者もいた。親族や恋人を亡くし、悲しみから立ち直れず、社会に取り残された者もいた。そうやって、あぶれた人間が増えてしまったのだ。十年経ってもそれは改善されなかった。


「レイジ、これからどうするの?」


 ゼンがそう言うと、レイジが顔だけを後方に向けた。


「都市を散策するだけでも数日かかる。雨風をしのげる場所を探して、そこを拠点にして調査範囲を広げる。イツカ様が言うには、中央部ならそういう場所があるって聞いた」

「その中央部ってどれくらいかかるのさ」

「あと二時間も歩けばつく」

「車で二時間、歩いて二時間、移動だけで四時間か……」

「魔力はできるだけ温存しておきたいからな。敵がマリアールだけとも限らない」

「そもそもスリエルについての情報がなさすぎるからね」

「スリエルについては、魔女四人が全力で収集するっていう話だ。俺たちは任務を果たすだけだ」


 ゼンは口を開いたが、言葉にするのはやめた。彼がなにを言おうとしていたのか、他の四人は気付いていた。


「情報もないのに任務を任せるのか」と。


 けれど、それをレイジに言っても仕方がない。口を噤んだ理由もまたわかっていた。


 足場が悪い道をひたすらあるき続けた。口を開いていたのはキョウスケとアイリで、他の三人は相槌をうつだけ。それでもキョウスケとアイリの二人だけで会話が成立するため、口をはさむ必要がなかった。


 イツカが言うように、中央部には屋根がある建物が一つだけ残っていた。円柱の低い建物で、普通の民家四つほどの大きな平屋であった。攻撃を受けた痕跡はあったが、その上でしっかりと建物の形を維持していた。


 中に入ると鉄の臭いが鼻を刺す。五人全員が重心を低くし、自分たちの武器を手にかけた。


「気配はないな」


 レイジが静かに歩みを進めた。


 入り口はロビーなのか、正面にカウンター。左右にドアがあった。ソファーが転がっており、なにかの営業所のような感じであった。


 カウンターにはおびただしく広がる血痕。けれど生物の死体などはない。


 カウンターの前で止まり、血痕を撫で、カウンターの上から裏側を覗く。

「なんかあったか?」

「なにもない。血痕も古い。腐臭がしないってことは、死体らしきものはないだろう。とにかく他の部屋を見てみるか」


 と、左の部屋へと向かっていく。


「じゃ、じゃあ私とゼンとキョウスケさんで右に行きますね。アイリさんはレイジさんをお願いします」

「おっけー、イズミのお願いなら仕方ないねえ」


 そう言いながら、イズミに向かってウインクした。


 アルカイックスマイルで受け流し、三人は右の部屋に入っていった。


 ドアの向こうは非常に暗く窓もない。魔導術で光の玉を作りだして部屋の内部を散策しはじめた。


「廊下、ですね」

「長いね。建物に沿ってずっと続いてるみたいだよ」

「なんつーか、妙な造りだなこの建物はよぉ」


 キョウスケの意見はもっともだった。


 廊下なのは一目瞭然。しかし窓が一つもなく、右側の壁にだけドアが設置されていた。まるで部屋を守るように廊下が走っているような、そんな造りだった。


「造りだけじゃないでしょ。この建物がなんなのかもわかってないんだし」

「看板みたいなのもなかったしなー」

「いやそういうことじゃないって。なんでこの建物だけ残ってるのかとか気にならないの? これだから脳筋は困るなあ」

「脳筋は脳筋でいいところあるからな! あんま馬鹿にすんじゃねーぞ! とにかく部屋に入ってみるぞ!」

「ちょっと! なんでもかんでもノリに任せればいいってもんじゃないから!」


 イズミは振り返り、二人のやり取りを見守っていた。


 微笑み、楽しそうだと思いながらも、どこか引け目を感じていた。


 自分はこういう立ち位置なんだと、誰かを後ろから見守るのが自分の役目であると思っているからだ。力がない、能力がない、そんな自分を恥じ、後ろめたく感じていた。


 キョウスケに続いてゼンが部屋の中に入ってしまい、仕方なくイズミも部屋の中に入った。その時、ドアノブに目がいった。部屋からドアノブが突き出ているのは当然としても、鍵の部分がやけに分厚くなっていた。それにドアもまた異様に厚く作られているような気がした。


 この部屋にも窓がない。建物の中央部なので窓がないのはなんとなくわかっていたが、天窓のようなものさえもついていなかった。


 光の玉で室内を照らす。正面には大きな鏡。汚れてはいたが、おそらく壁紙は真っ白だったのだろうと想像に難しくなかった。 ベッドと小さなタンスだけが置かれている部屋。別のドアが設置されていたので、その中も確認した。洗面所と脱衣所、それに風呂だった。


「ここ、宿屋かなんかだったのか?」

「宿屋って感じじゃないでしょ。あのドアもそうだけど、なんか別の用途で使われてたようにしか思えないよ」

「具体的には?」

「たまには自分で考えなよ」

「ゼンちゃーん」

「気持ち悪いな。わかったわかった。ドアが厚く、鍵の造りが強固だ。窓もなく、余計な家具なんかもない。収容所とか、そっちの方が近い気がするよ。とりあえず他の部屋も見てみよう」


 今度はゼンが先頭に立って散策が始まった。


 一つ一つ部屋を見ていくが、どれもこれも同じような構造をしていた。


 廊下の突き当りのドアをくぐると、執務室のような場所に出た。ここがカウンターがあったロビーの対面にあたる場所なのだろうが、妙に小奇麗で空気が違うように感じた。


 やがてレイジとアイリが反対のドアから姿を現した。


「そっちはどうだった?」


 レイジがゼンに問いかけた。


「内側に複数の部屋。同じような構造の簡素な部屋だったよ。この部屋に一番近い部屋だけ鏡がなかったくらいかな、違う部分って」

「こっちも同じだった。でもなんだろうな、この部屋だけは感じが違うな。複数の窓、大きな本棚、高級そうな机にイス。机やイスが何組もあるという部分から、複数の人間がいることを想定して作られた場所なんだろうな。正面のドアは調べたか?」


 歪曲する外側の壁にもう一つのドアがある。それを指しているのだろう


「それはまだ」

「わかった」


 そういって、レイジがドアへと向かっていった。


 静かにドアを開き、魔導術で内部を照らす。


 レイジが中に入り、続いて四人も入っていく。


 ここもまた廊下のようになっており、その先にも新たなドア。レイジのため息が、まるで響き渡るようだった。


 新たなドアの向こうは、部屋中タイル張りの粗悪なシャワー室のようだった。


 だが、そこがシャワー室でないことはすぐにわかった。壁にかけられた数多くの刃物、これがなにを意味しているのか、わからない者はいなかった。


「拷問部屋か、死体処理の部屋か、どっちかなんだろうな。戻るぞ」


 一旦ロビーまで戻ることになった。戻るまでに言葉を発する者は一人もいなかった。


 ロビーに戻ると、倒れているソファーやベンチを立て、そこに座る。


「気持ちがいい場所じゃないが、ここ以外に泊まれる場所はなさそうだな」

「そうなると部屋割りが必要よね? 私は鏡がある部屋がいいなぁ。イズミも女の子なんだし、鏡がある方がいいでしょ?」

「そ、そうですね」

「決まり! 私が右側の部屋の一番手前、その横がイズミ。左側の部屋は男性陣でいいわね?」


 異を唱える者はおらず、瞬く間に部屋割りが決まった。


 各自の荷物を部屋に置き、これからの行動を決めるための会議が始まった。ロビーでの話し合いのため、会議というには少しばかり締まらない感じである。


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