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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
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四話

 二時間あまり、運転手がレイジのまま車は走り続けた。


 到着したのは旧首都キョウレンであった。


「本当にこんなところにいるのかね」


 運転席から降りたレイジがそう言った。それもそのはずで、キョウレンは今となっては誰一人として寄り付かない、魔獣の巣窟と化しているからだ。


 といっても夜行性の魔獣が多いため、昼間は非常に穏やかで、浮浪者などが入り込むことは少なくない。少なくはないが、入り込んだ浮浪者たちが朝日を見られるかどうかはまた別の話であった。


「ちょ、ま、誰か」


 四人は難なく車から降りられたが、キョウスケだけは助手席にハマったままだった。


 全員で手足を引っ張り、五分かけて車から降ろす。全員、すでに息が上がっていた。


 見渡す限りの瓦礫。道は凹凸が目立ち、歩いていくことも苦労しそうなほどであった。建物の形は残っているが、今にも崩れそうなものばかりだ。それでいてだだっ広い、キョウレンという旧首都は荒れ果て、変わり果てていた。


 キョウレンが旧首都と言われるようになったのは十年ほど前で、それはマリアールの失踪とも関わりが深い。


「そう言えばゼンとかイズミはここがなんでこんなふうになっちゃったか知ってる?」


 アイリがこういう時、薀蓄を披露したい時だと皆わかっていた。


「僕は知ってるよ」

「私も知ってます。歴史の授業で習いましたから」

「そっかー、じゃあこのアイリお姉さんが説明してあげよう!」

「年上ぶりたいだけじゃないか。無視していいよ、イズミ」

「キョウレンが首都として機能しなくなったのは約十年前、キョウレン大乱によるものなんだ」

「あ、そういう方向なんだね」


 ゼンはため息をつき、アイリの説明を受け入れることにした。


「キョウレン大乱によってキョウレンは崩壊! こうなっちゃったんだ! 終わり!」

「せっかく受け入れようとしたのに……」

「結局キョウレン大乱ってなんなんだよ?」


 と、いつの間にかキョウスケが輪の中に入っていた。


「アンタ知らないの? その年で?」

「勉強は嫌いだからなぁ。で、キョウレン大乱でどんなことが起こったんだよ」

「大変なことが起こった」

「終わり?」

「終わりだけど?」

「なあイズミ、キョウレン大乱について教えてくれよ」


 キョウスケもアイリに見切りをつけたようだった。


「えっと、キョウレン大乱っていうのは、キョウレンにあった三つの宗教派閥の争いのことです。カイジュ教、ライスール教、そしてマリアール様が所属していたサルファ教の三つです。たしか、マリアール様が失踪した直後だったと思います」

「じゃあ大乱の最中にマリアールが失踪したわけじゃねーんだな」

「はい。そもそも大乱の引き金というのがマリアール様の失踪だったんですよ。誰がマリアール様を攫ったのか、というのが大きな要因だったはずです。三つの宗教はお互いに敵対視していて、サルファ教が他の二つの宗教に対して攻撃をしかけた。ちなみにサルファ教はそれまで、いろいろ情報収集をしていたらしいです。そのうえで攻撃を仕掛けた。ですが、三つの宗教はただ人々に「神の導き」を教える宗教ではなかったんですね。バックドアが存在していて、裏の組織との繋がりが太く存在していたと言われています」

「宗教という名前だが、実際は非常に強力な武力を持っていた?」

「正解です。特にライスール教には過激派が多く存在していました。中には戦争屋と呼ばれるような人たちが教徒として多く存在していました。一度始まってしまった諍いは、戦争という名前で呼んでもおかしくないほどの規模まで拡大しました。急いでかけつけたイツカ様でしたが、他の大陸への私事があったため、到着した時には手遅れだった、というのが大乱の内容ですね」

「キョウレンの人間はどうなった?」

「三分の二が死亡、生き残った人間の大半がどこかの宗教に所属していました。なので、必然的にキョウレンから人がいなくなったのです。総本山が別の場所にあったので、そこに帰っていったというのが正解でしょうか。同時に、キョウレンを守っていた魔法障壁生成装置も破壊されたので、一般人が残るのも非常に危険でした。その人たちはイツカ様が保護し、別の町に移動させました」

「もう一度キョウレンを復興させようって気はなかったんだな」

「一度魔法障壁がなくなったので、すぐに魔獣たちの巣窟になってしまったんです。魔獣の数が多かっただけでなく、都市を覆うほどの魔法障壁は簡単に張れません。イツカ様はそういうことには長けていないので」

「まあ、いろんな事情があったんだな。よくわかった」

「まとめ方が雑だなぁ」


 大きく頷くキョウスケ、ため息をつくゼン、それを見て微笑むイズミ。アイリは興味をなくしたのか、レイジと一緒に旧首都の中へと入っていってしまっていた。


 二人の後を追って、三人が首都の中へ入っていった。


 一人一つのバックパックを背負う。キョウスケだけは他の人間の五倍はあるだろうというリュックサックだった。野営の可能性なども考慮し、車の中に用意されていたものだ。


 レイジはリーダーに任命されたが、人を束ねるという性質は持ち合わせていなかった。年長者であり、この中では一番実力があるから選ばれた、というのが事実であった。そのため旧首都への進行も独断で行う。そういう人間だった。


 しかし、誰一人として「マリアールがここにいるという情報がどこからきたのか」を知らなかった。それはイツカも同じであり、今回の任務も調査という意味合いが非常に大きかった。それでもイツカは五人に言った。


『マリアールが現れるとすれば間違いなくキョウレンでしょう』と。


 マリアールには特殊な力があった。彼女の求心力の源でもあり、政府が畏怖するところとなった力。彼女の声であり、歌であった。非常に美しい声は、聴くものを魅了し続けた。


 別段魔導力を込めたということはない。彼女の声には最初から魔力が込められていたのだ。


 イツカはその声を使うとしたら、キョウレン以外にありえないと考えたのだ。


「俺たちの任務は覚えてるな」


 歩きながらレイジが言った。


「一応ね」


 と、アイリが返す。


「マリアールがスリエルの配下なら、魔獣を使役する可能性がある、だったか」


 キョウスケが腕を組みながら言う。


「マリアールがいなければそれでいい、別の場所に行くだけだ。でももしもマリアールがいるのであれば彼女を倒す。それができないなら、魔獣の使役を阻止する。逃げ帰るということは許されない」


 レイジは五人の中で、一番真面目な顔をしていた。責任感や義務感というものは、きっと彼には存在していない。あるのはイツカに対する忠義、忠誠心だけだった。


 そんな彼らの後ろ姿を見て、イズミは胸が締め付けられるようだった。


 瓦礫の中を歩き、けれど五人は息を上げることはなかった。それだけの訓練を積んでいるということであった。


 そこかしこに魔獣の痕跡があった。足跡であったり、爪痕であったり、噛み跡であったり。糞なども当然落ちていたが、それ以上に人間の死体の方に目がいった。


「浮浪者たちだね。知ってて来たのか、知らないで来たのか。まあ僕には関係ないけど」


 見た目はか弱く見えるゼンだが、それでも訓練のたまものか、顔色一つ変えずにあるき続けていた。


「知っていても、他に行く場所がなかったらここに来るしかないんだよ」


 イズミが物悲しそうに言った。

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