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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
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三話〈ビューポイント:イズミ〉

「それじゃあ行ってらっしゃーい」


 イツカが楽しそうに手を振って、式守たちを見送っていた。


 東の魔女、イツカ=ランドリオン。三十あまりの魔導書を有し、魔女内においては魔導書所持数、使用数は抜きん出た存在である。


 膨大な魔導力を持ちながら、それを扱うための器用さがなかった。いきついた結論が「魔法少女を使役する」ことだった。


 魔女内では最弱。不器用で、魔導術をあまり使えない。それでも魔女になれたのは、その魔導力が故にたくさんの魔導書を所有できるからであった。


 そんなイツカが見送ったのは五人の式守。レイジをリーダーとして結成された五人組の式守集団である。


 ないものは数で補え、というのはイツカの教えであり、この式守集団もまたその教えに則って結成された。


 イツカの式守は二十人ほどいるが、その中でも今回の任務ではイツカ自身が五人を選抜した。


 見送られた五人は、全員が不安に満ちた表情をしていた。


「イツカ様はああ言っていたが、どうやっても不安しかないよな……」


 そう口にしたのはリーダーのレイジだった。長身であり皆から好かれる人の良さがある。しかし、なぜ自分がリーダーなのか未だにわからないと、自信なさげな発言をよくする。


「そんなこと言っても任されたんだからやらないわけにもいかないじゃない? 負かされるわけにはいかないってね」


 明るく言うのはアイリであった。あまり空気を読まず、おちゃらけて見せる場面が多い女性。好かれる人にはとことん好かれるが、嫌われる人にはとことん嫌われる、そういう人物だった。


「まあ俺たちならなんとかなるって!」


 豪快に言い放つキョウスケ。一番身長が高く、筋肉質でムードメーカーでもある。あまり考えて行動しない部分は目立つが、彼がいることで他の人間の気が引き締まるのは間違いない。


 しかし、口を開かない者が二人いた。


 ゼン=キュトラ。小柄で無口。それでも上からの命令には従い、無駄口を叩いたことは一度もない。影が薄いが、それだけに隠密に向いているとも言える。


 そしてイズミ=クインクである。


 レイジ以上に自信がなく、すぐに誰かの影に隠れたがる。十四歳という最年少でありながらも式守に抜擢された。なぜイズミが式守に抜擢されたのかは、イズミ自身も、式守の仲間も疑問に思っていた。


 身長は低く、黒く艷やかな髪の毛は長い。なによりも特徴的なのは左目を隠す眼帯であった。物心ついた時から左目は見えなかった。幼少期は眼帯をしていなかったが、十歳の頃にイツカに声をかけられ、イツカに言われて眼帯をするようになった。彼女いわく「そっちの方がかっこいいから」だとか。


「ゼンとイズミはもしかして具合悪い?」


 アイリが後方の二人へと振り返った。


「僕は疲れるから喋りたくないだけ」

「じゃあイズミは? お菓子食べる?」

「わ、わたしは、その、なんでわたしなのか考えてて……」

「そんなに気にすることないんじゃないかなー。イツカ様っていつも気まぐれなとこあるし。お菓子は?」

「でもわたしよりも優秀な人はたくさんいます。あと、お菓子はいいです」

「優秀かどうかなんてどうだっていいんだって。今回の任務に適任かどうかの方が大事でしょうが。ジュースは?」

「わたしが適任、なんでしょうか。あとジュースもいらないです」

「そのうちわかるって。なんでイツカ様がイズミを選んだのか。逆にその意味を見つけるくらいの気持ちで挑んでみなって。絶対損しないからさ」


 アイリが白い歯を見せて笑った。そんな笑顔を見ていると、知らず知らずのうちにイズミの頬も緩んだ。


 今回任された任務は「マリアールの捜索。及び捕獲、及び討伐」である。できれば捕獲し、それができなかった場合のみ討伐しろとの命令だった。


 マリアール=グルファント。十年前に姿を消したサルファ教のシスターであり、聖母と称される女性だった。


 慈悲深く、敬虔で、行動的でもあり、快活だった。教会のシスターとしてだけでなく、様々な町へ赴いてはボランティアのような活動もしていた。そのため、たくさんの人間に支持されるようになった。偶像として崇めるものもいれば、女性として魅力に取り憑かれる者もいた。


 その全てが、彼女の魅力であった。


 十年ほど前に失踪したが、自分の意思でいなくなったわけではないと誰もが思っている。失踪するような予兆はなく、当時は誘拐なども疑われた。


 だが、誘拐などの証拠は出ず、事件は少しずつ、少しずつ闇の中へと飲まれていった。


 イズミがマリアールの事情を知ったのは、この任務を受けてからだった。


 マリアールが失踪した時、イズミは四歳だった。知らなくても当然である。


 彼女のことを知れば知るほど、実際の彼女に会ってみたいという気持ちが日に日に強くなっていった。イズミもまたマリアールに惹かれつつあったのだ。


 人を思いやる気持ちはもちろんのこと、精力的に活動を続け、老若男女に好かれていた。なによりも彼女は「淑やかでなかった」のだ。


 敬語などほとんど使わず、媚びへつらうことなどなく、人の悪口は本人に直接言い、誰とでも仲良くなる。あるがまま、すべてを受け入れるように、それでいてすべてを受け流すように生きていた。


 結局のところ人伝に聞いた話しや文書でしか読んだことはない。だからこそ、少しだけ心が躍るようだった。


 マリアールの捜索とは言うが、居場所だけならばすでに掴んでいた。オズワルド同様、マリアールもまた目撃証言があったのだ。


 近くの町まで歩き、そこから車で二時間ほどの場所である。


 イツカはイズミたちに言っていた。「自分たちの位置をわざと知らせているフシがある」と。肝に免じておくようにとも言われていた。


 町に着き、車に乗り込む。運転はレイジ、助手席にはキョウスケが乗り込んだ。キョウスケの体躯が大きすぎるため、後部座席に詰め込むには無理があった。


 後部座席ではアイリ、ゼン、イズミの順で座った。アイリがゼンをいじって遊んでいた。そんな二人を横目に、イズミは重くなってきた目蓋を受け入れることにした。今日の任務が不安で昨日はあまり眠れなかったのだ。


 目蓋の裏では、マリアールの姿が浮かんでいた。数少ない写真の中のマリアールは、金色の髪の毛が印象的な、笑顔が似合う女性だった。自分とは似ても似つかない、大人の女性だった。

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