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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
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二話

 じいさんが事実を言っているのだとすれば、上級魔導書が揃わなければスリエルを倒せないことになる。いくら俺が頑張ったところ意味がないのでは、と思わされるのだ。


 それでも上級魔導書を所有できるまでにはならなきゃいけない。そうしなければレアは死ぬ。しかも、ここ数日のうちに、確実に死に至る。


「なあ、このままいいけば俺はどれくらいで上級魔導書と契約できるようになるんだ?」

「詳しくはわからないが、あと一週間はかかるだろうな」

「おい待て、それじゃあダメだ。三日、三日でなんとかならないか? 少しくらいの無茶ならなんとかなるぞ」

「三日か、かなり難しいとは思うが、できないことはないか」


 じいさんがニヤリと笑う。


「そこまで必死なお前を見るの、割と悪くないな」

「俺が頑張れば救える命があるんだろ。だったらやってやるさ」

「素直じゃないな。ここは素直に誰のために身体を張るのか言ってみたらいい」

「言うわけねーだろ。誰のためでもねーんだよ。全部俺のためだ」

「そういうとこ、女の子に嫌われちゃいますよ?」


 ビクッと、身体が跳ねた。恐る恐る後ろを振り向くと、ちょっと離れた場所でレアが座っていた。


「お前、いつからそこにいたんだよ」

「九人の作者がどうのってあたりですかね」


 近づいてきたかと思えば、当たり前のように隣に座ってくる。


「ほぼ最初からじゃねーか……」


 と、彼女の横顔を見た。明らかにやつれている。火の明かりなので詳細まではわからないが、顔色もあまりよくなさそうだ。


「寝てなくていいのか?」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。それに、ちょっとくらい無理したって問題ないです、たぶん」

「たぶんって、お前なぁ……」

「だって」


 ふわっと、風が吹いた。


 彼女に抱きしめられたことに気づくまで、少しだけ時間がかかった。


「アナタが、私を助けてくれるんでしょう?」

 弱々しかった。前のようなハキハキとした感じではなく、吐息混じりの声だ。耳の傍でそんなこと言われたら妙な気分になってしまう。


 だが、彼女の身体を引き剥がす気にはなれなかった。


 疲れているせいかと、今だけは自分に言い訳をした。


「なに言ってんだ。俺は俺のためにやるんだよ。別に、お前のためなんかじゃない」


 彼女の背中に腕を回した。


「あら、今日は積極的ですね」

「疲れてるから寄りかかる場所を探してたんだ」

「そういうことにしておいてあげます」


 ふふっと、彼女が力なく笑った。


 レアが必死に俺を抱きしめようとしているのがわかった。わかったが、たぶん力が入らないんだろう。腕が震え始めていた。


 じいさんには三日でなんとかしろと言ったが、早ければ早いほどいいかもしれない。これ以上、彼女が弱っていく姿を見ていられる自信がない。


「ひゅーひゅー、熱いなぁ」


 そういえばこのじいさんが近くにいるのを忘れてた。しかも「ひゅーひゅー」ってなんだよ、時代遅れかよ。


「見るなよ」

「嫌でも視界に入ってくる」

「黙れ、さっさと寝ろ」

「お前は本当に礼儀というものを知らんな……」

「レアは俺が運ぶから、頼むから先に寝ててくれ」

「あー、なるほど、そういうことか。わかった、床につこう。明日からガンガンいくからな、目標は二日だ。三日目には魔導書との契約に向かう。これでいいか?」

「すまんな、じいさん」

「いつもそれくらい素直ならいいのに……」


 なんて言いながら、じいさんが自分のテントに入っていった。


 あの丸まった背中を見ると、じいさんもいい年なんだなというのがよくわかる。


 俺はレアを抱きかかえてテントに戻る。じいさんが会話に加わるのと同時くらいに、抱き合った態勢のまま寝てしまったのだ。寝息が聞こえてきたからすぐにわかった。


 レアを寝かせ、その上からタオルケットをかけた。


「いいか、お前のためじゃ、ないからな」


 息は上がっていない。熱もない。タオルケット一枚で十分だな。


 それでももしかしたら容態がどうなるかはわからない。


 仕方ないと、レアの隣で横になる。


 そう、これはコイツのためじゃないんだ。ここで死なれたら後味が悪い。ただ、それだけだ。


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