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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
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一話

「おいじいさん」


 滝壺から上がり、じいさんへと歩み寄る。ちなみに俺は滝に打たれていたのでずぶ濡れだ。


「せめて水気を取ってから来い……」

「そんなことどうでもいい。いつになったら終わるんだよ、この修業はよ」


 修行兼食事の確保をするために魔獣を倒す。これをかなりの時間やらされる。かと思えば、岩なんかを抱えてランニングさせられたり、森の中でじいさんの攻撃を避けるだけなんてのもある。その他にも、こんな感じで滝に打たれてみたり、魔導力を向上させるために限界まで魔導力を放出してみたり。


 修行自体は問題ない。一日が終わると食欲がなくなるくらボロボロになるが、強さにつながるのであれば、まあ許容できる範囲だ。


 問題なのはレアの方だ。


「日々勉強、日々鍛錬だ。終わりなどない」

「俺が魔導書と契約しないとレアを回復させることはできない。でもじいさんは魔導書と契約させようともしねーじゃねーか」

「さすがにまだ早すぎる。もう少し、お前の魔導力と精神力を鍛える必要がある」

「それだけ面倒な魔導書だってのはわかった。今の俺には、その魔導書を取得するには荷が勝ちすぎるって。でもそんな時間はもうないだろ」


 ここ数日でレアの体力はかなり落ちていた。一応修行には参加するものの、俺の半分の量もこなせぬまま、立ったまま気絶するなんてこともあった。今日だって、基礎体力作りの時点でダウンして寝込んでしまった。


「レアのことが心配なのはよくわかってる。だが、今のままではお前の身体が保たないんだ。あの魔導書は、これまでたくさんの人間を狂わせてきた」

「そういや、その魔導書に関しての話はまだ聞いてないぞ。すごい魔導書、くらいの知識しかない」

「そうだな、夕食の時にで話してやろう。今は集中しろ。レアのことを忘れろとは言わない。逆に、それをバネにして強くなれ」

「言われなくてもやってやるよ」


 もう一度滝壺へと戻っていく。これが終われば、じいさんの攻撃を避けるだけの修行が始まる。最後に、今日二度目の魔獣との戦闘。というが朝言われた内容だ。


 自分のため、最初はそれだけのためにやろうと思った。しかし今は違う。俺がやらなきゃレアが死ぬ。きっとじいさんはそれを織り込んだ上で、今回レアも連れてきたんだろう。そう考えれば策士もいいところだ。


 結局、最後の魔獣との戦闘が終わった頃にはボロボロだった。身体に疲労が溜まっているところでさらに戦闘が続く。なんというか、最後にはどうにでもなれという気持ちにさせられるほどだ。


 飯はじいさんが作ってくれる。しかも美味い。それがなんというか、腑に落ちない


「なんだその顔は、ワシの飯が食えんのか」

「もう食ってるだろ。美味いよ」

「なんだ、急に素直になりおって。なにを考えてるのか読めないな、お前は」

「普通に感想言っただけだろ」


 基本的には白米と肉とスープと山菜の炒めものだったりするのだが、どれもちゃんとしていて、ちゃんとしすぎていて怖い。


「料理は得意だから美味いのは当然だ」


 ずずっとスープを啜り「うん、美味い」と自画自賛している。


「で、昼間の話の続きだ」

「魔導書の話だったか。なにから話そうか……そうだな、魔導書を作った著者のことは知っているか?」

「九人の大賢者の話か? それならば一応。魔導書を作れるのはその九人だけだったという話だったな」

「そう。作者によって冊数は異なるが、それでも一人で何冊も魔導書を作ってきた。同じ作者の魔導書同士は面識があるというのもよく言われるな」

「メーメとアンだな」

「ああ、面識はあるが相性がいいかどうかはまた別ではあるが。作者である九人は著者であり、賢者であり、魔導師でもあった。魔導書はホムンクルスがないと生成できないからな。そして、九人は魔導書を作る過程で力をつけていった。九人が最後に作ったと言われる魔導書、それが上級魔導書にあたる」

「最後に作ったのか。全部の魔導書の中での最高傑作とかではなく?」

「最後の魔導書だ。なぜならば、上級魔導書には作者の魂が宿っているからだ」

「それってつまり……」

「作者が命と引き換えに作った魔導書だ。九人全員が、最終的に辿り着いた答えと言い換えても差し支えないだろう。人の肉体、人の魂こそが魔導書には一番必要であったのだ、と」

「上級魔導書は九冊あるってことか」

「その通り。しかし上級魔導書を複数所持することはまず不可能だ。上級魔導書を扱うには資格が必要だからな」

「その資格ってのもまだ聞いてなかったな」


 じいさんが木製の茶碗を地面に置いた。いつ食ったんだと思うが、茶碗の中は空っぽだった。


「お前の名前を言ってみろ」

「いきなりなんだよ」

「いいから」


 なにを考えてるんだこのじいさんは。でも、このじいさんが意味のないことをさせるとは思えない。


「ロウファン、ロウファン=ブラックだ」

「上級魔導書は、生成された後にある人物たちに渡った。作者の従者であったそのモノたちは、作者によって特殊な儀式を施されていたのだ。そしてお前の先祖であるブラックとは、上級魔導書を与えられた従者なんだよ」

「俺が?」

「黒の一族。元の名前はブラックセロウであり、人と魔導書の中間となる人間だ」

「中間ってどういうことだよ。俺は人間じゃないのか?」

「人間であることは間違いない。だが、お前の体内には魔導書としての血も流れている。作者が自分の従者にした儀式とは性交のことだ。自分が作った魔導書と人間の子供を作らせた。そして、それが黒の一族の最初だ」

「俺が、魔導書の子孫だってのか」

「簡潔にというか、そういうことになる。それが上級魔導書を扱うための資格だ」

「でもヴェルはなにも言わなかったぞ。ヴェルだって知ってたんだろ?」

「知らないはずがない。お前からは魔導書とも人間とも違う魔導力を感じるからな」

「じゃあヴェルが俺に黙ってた理由はなんだ? 嫌がらせか? 秘密にしてればいずれ俺が死ぬとでも思ってたからか?」

「きっと、そういうのじゃない。お前にはブラックとしての生き方をして欲しくなかったと、ワシは思っている。ツーヴェル様は優しいお方だ。お前には人として生きて欲しかったのだろう。こういうことにならなければ、お前が黒の一族であることなど関係ないからな」

「アイツがそこまで考えてるとは思えないんだが……」

「お前が思っているよりも遥かに聡明だよ、あの方は。まあ、お前が魔導書を所持することを許可したのも仕方なくだろう。お前の復讐心こそがお前の生きる理由だったからではないか、とワシは思っているがね。しかし、拾った子供が黒の一族とは、これも運命というやつか」

「アイツとは一度、ちゃんと話した方がいいのかもしれないな。それにしても、作者の分だけ上級魔導書があるってことはあと八冊あるんだよな? 他の所有者も探し出したのか?」

「全員ではないが、数名は探し出した。それでも四人だ。残りの四人をどうやって探しだそうかと悩むところではあるが、そもそも子孫が生きているかどうかも怪しい」

「そうか、千年も昔のことだから、その間に血が途絶えてる可能性もありうるのか」

「そういうことだな。そっちの方は別の人間がやってくれている、心配はいらないだろう。どちらにせよ上級魔導書は必要になる。扱える人間が多いにこしたことはない」

「上級魔導書の在り処までちゃんとわかってるんだな」

「当然だ。上級魔導書の保管場所を決めたのは魔女だからな」

「そこで魔女が出てくるのか」

「ちなみに言っておくが、過去にスリエルを退けたのは四人の魔女と九つの上級魔導書だ。戦いが終わり、上級魔導書を魔女が預かったのだ。そして、隠した。だから今回も、スリエルを倒すのであれば九つの上級魔導書が必要だったのだが……」

「そう上手くことは運ばない、と」


 腕を組み、じいさんが唸った。俺も唸ってしまいそうになる。

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