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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と癒やしの咎人》
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十一話

「ありがとうございます、フォーリア様」


 そう言いながら、ロックスがかしずいた。


 フォーリアのおかげで、オズワルドが生まれた町は、近くの都市と合併することが決まったのだ。


「契約というのであれば仕方ないわ。こうしなければオズワルドが動く。少しでも足止めができるというのであればこうするしかないでしょう?」

「すいません、勝手に契約なんて……」

「いや、アナタの行動は間違ってないわ。だが、アナタはこれでよかったの? 戦士としては不服なんじゃない?」

「強者と戦うのは戦士としては誉であり、嬉しいことに間違いはありません。しかし死にたいわけではないのです。オズワルドとの力量差は歴然、彼は強者というよりも化け物です。俺ではどうやっても勝てないでしょう」

「自分のことがちゃんと見えているわけ。我が式守、さすがよ」

「お褒めいただき、ありがたく思います」


 フォーリアが足を組み直す。人差し指で顎を支え、口端をやや釣り上げた。


「この話はここで終わり。ちゃんと合併も済ませた、町民も渋々だが居住区を移した」

「他に話が……? ああ、もしかしてあの腕の」

「そういうこと。アナタが持ってきた腕の話」

「なにかわかりましたか?」

「ええ、当然よ。私が直接調べたんだもの。まあ、結果的にはあれはホムンクルスの腕ね」

「ホムンクルスと言えば魔導書の素体ですよね?」

「そのホムンクルス。男型は非常に珍しいのだけど、理由はなんとなくわかってるわ」

「そういえば魔導書は女型のホムンクルスしかいませんね。作者の趣味なんだと思ってました」

「九人いる有名な著者全員が全員女型を使うのよ? 趣味なわけないじゃない。女型のホムンクルスを使うのは、女型のホムンクルスの方が魔導力の膨張率が高いからよ。魔導術を上手く扱えるという意味では、どうやっても男型では駄目だったのよ」

「なるほど。で、今回はなぜ男型だったんですか?」

「あのホムンクルスの腕には毛細血管がほとんど存在しなかった。毛細血管が不足しているということは、体内に送られる酸素やその他栄養素が不足するということ。長い間生きることもできず、戦闘をしたとしても短期間の戦闘しか行えない」

「なるほど、合点がいきました」


 と、ロックスが頷いた。


「たぶん私と見解は一緒。そう、あのホムンクルスは「自爆用に作られている」と考えるのが自然なのよ。だから栄養素もいらない。その代りに男型で作ってある。女型よりも筋力がつきやすい。毛細血管が少なくても、ね」

「腕の持ち主が言っていました。スリエルに従うとはこういうことだと。つまり最初から自爆するために作られた」

「でも作り方が異様に古めかしいの。かなり昔に作られた感じだった。長く生きられないのに、製造されたのはかなり昔。おそらく、自爆用のホムンクルスはかなり大量生産されたんじゃないかしら。そしてアナタの話とすり合わせると、その間にもいろいろとスリエルの命を受けて行動をしていた。考えられるのは、任務を与えて、終わったら延命処置をする。そういう運用をしてきたと私は考えた」

「あの自爆、相当な破壊力でした。事前に殺していなければ、町一つなんて簡単に吹っ飛ぶでしょう。これからあんなものがたくさん出てくるなんて、考えたくありませんね」

「町にでも紛れ込まれたらたまったもんじゃない。なにか、対策を考えなくてはいけないわ」


 フォーリアは再度足を組み直した。目を閉じ、口を横に結う。


 自分の任務がオズワルドと戦うことだと言われた時、正直生きては帰れないだろうと思っていた。しかし、オズワルドによって生かされた。これは運命、自分になにか別のことをさせようとしているようにも感じた。。


「その任務、俺がなんとかしましょう」

「なんとか、とは?」


 フォーリアは目を開け、ジッとロックスを凝視した。威圧感があり、思わず後ずさりそうになってしまう。


「あの腕の解析は済んでいるんですよね?」

「それなりにはな」

「ホムンクルス特有の魔導力とか、なにか指標になるものさえあれば対処できるかもしれません」

「わかったところでアナタ一人ではなにもできないでしょう?」

「指標さえあれば俺以外の人間でも探し出せると思います」

「まだそこまでの解析は済んでいないが……そうだな、腕の解析の方にアナタを回そうかしら」

「解析に、ですか? でも俺はそういうのは――」

「いいからいきなさい。解析が済み次第、ナディアと一緒に対策を講じなさい。後のことはアナタに任せるから」

「そんな無茶苦茶な」

「やりなさい」


 上から押し付けられると「はい」としか言いようがなかった。


「それでいいのよ。それに、アナタならなにかやってくれそうな気がするし」

「でもフォーリア様、これから俺はオズワルドと戦うことになります。そのための準備もしなければなりません」

「それもそうね。でもやってちょうだい。オズワルドとの戦闘に関しては、こちらでもなにか策を考えるから」

「ノープランなんですね」

「いいから今すぐ行きなさい!」


 睨めつけられ、ため息をついた。


「じゃあ、行ってきます」

「それでいいわ。一応進展があり次第報告して」


 フォーリアは立ち上がり、ロックスの横をすり抜けてドアへと向かっていった。


「どこへ行かれるのですか?」

「魔女会議よ。ツーヴェル以外の式守が任務を終えたみたいだし、ちょっとしたお茶会をしに行ってくるわ」

「ああ、なるほど。お茶会、ですか」


 ロックスが呆れている間に、フォーリアが部屋から出ていってしまった。


 優雅な立ち振舞と不遜な態度。美人ではあるが天真爛漫。ため息をつきながらも、こういうのも悪くないなと、ロックスは素直にそう思ってしまった。


 ナディアはまだ全快ではない。できればナディアが全快するまでには、ホムンクルスと人間の区別がつけられるようになっておきたい。


 そう思いながら、ロックスも広間をあとにした。研究に修練にとやることは山ほどある。普通の人間ならばかなり無理がかかる。それでも式守である彼は、フォーリアの言う無茶難題を今までこなしてきたから式守になれたのだ。


 ロックスは「俺ならやれる」と、妙な自信を胸にしながら、腕がある研究室へと向かうのだった。


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