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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と癒やしの咎人》
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六話

 目が覚めた時、目の前には床の板目があった。鼻腔を刺激する肥料の臭いも印象的であった。


 夜なのだろうか、外からも光が差し込んできていなかった。


 頭が割れるように痛む。同時に体の節々にも痛みが走った。


 手首と足首が縛られている。その体勢で床に転がされているものだから、体が痛むのも当然だった。


 頭が痛いのは睡眠薬のせいだとすぐにわかった。遅効性であるが故、体の中に残りやすいのだろうという結論が導き出された。


 人の気配はない。身じろぎをして、顔を動かして周囲を観察する。


 部屋自体は大きくない。むしろ小さめで、どこかの物置のような場所だ。ツルハシやスコップなどが壁に立てかけられていた。


 閉じ込められた場所、手足を縛られているこの状況。それ自体は問題ではない。問題なのは、この場にナディアがいないことだった。


 キツく縛られてはいるが、ただただ輪をかけて力を込めただけの縛り方だった。


「トリヤ、出てきてくれ」


 ロックスがそう言うと、背中側から光が漏れた。


「ようやく呼んでくれたのね」


 眼の前に、一人の少女が舞い降りた。ロックスの魔導書、トリヤエスカスであった。


 ふわりとしたクセのある髪の毛。柔らかな微笑み。口元に指を当てる仕草が、少女らしさを緩和しているようであった。


「縄を解いてくれ」

「お安い御用で」


 トリヤエスカスが指を鳴らすと、手と足の縄が一瞬にして燃えカスになった。


 属性は炎、クラスはクロスファイア。武器は盾である。盾として使うこともあれば、その盾を円盤のようにして投げることもあった。長剣を使うロックスにとって、この盾というのは非常に相性がよかった。


 立ち上がり、体の動きを確かめる。薬が残っているため、まだ上手く戦えないだろう。暴行された様子はないが、もし住民たちと戦うことになった場合、間違いなく手加減はできない。


「状況は?」

「薬で眠らされたあとはここに直行、丸一日寝てたって感じね。ナディアは別の場所に連れて行かれたみたいだけど」

「行き先まではわからない、か」

「ナディアにはサンクノーリオがついてる。大事になることはないでしょうけど、主人が起きてなければ魔法少女としての能力も半減してしまう。住民たちだけならば問題なくても、もし魔操師がいた場合はお察しだわ」


 口元を押さえて思考する。小屋の出口には見張りがいるとみて間違いない。そうなると、ここからすぐに出るのは不正解だった。まずは様子を伺うことが先決だと考えた。


「トリヤ、外に出られるか?」

「私一人で? 可能だと思うけど」

「それなら外の様子を探ってくれ。できればナディアの居場所がわかるといい」

「アナタはどうするの?」

「もう少しここにいる。考えたいこともあるんでな」

「わかったわ。それじゃあ肩車してもらえる?」


 トリヤはそう言いながら、小屋の上の方を見た。屋根にほど近い場所に小窓があった。錆びついているように見えるが、開閉可能な作りだ。


 ロックスはため息を吐きながら、トリヤを肩車して窓の方へ。


「ねえロックス」

「欲情はしない。さっさと行け」

「あらつれないのね」

 微笑みながら窓を開けたトリヤは、そのまま外へと出ていった。


 それを見届けたあと、ロックスはその場に座り込んだ。


 考えたいこと、とはこの状況のことである。


 どうしてこうなったのか。言わずもがな、オズワルドが原因だろう。厳密に言えばオズワルドについての聞き込みだろうと推測できた。ただ、オズワルド自身が指示を出したのかと言われると、それは難しい問題だった。


 オズワルドは頭がよく、要領がいい。医者であることも考慮すれば、目覚めるであろう時間も事細かく管理しているはずだ。それに魔導書が奪われなかったことも疑問の余地がある。


 オズワルドはスリエルと一緒にいた。それならば自分を調べている相手が魔操師であることくらいはわかっている。魔導書を取り上げない理由がないのだ。


「オズワルドは絡んでいないのか? するとこれは……」


 その時、小屋の外で物音がした。急いで入り口の横の壁にへばりつく。ドアが内側に開かれた歳、死角になる位置だ。


 ロックスが深呼吸をすると、同時にドアが開かれた。月は出ていないが、松明を持っているようだ。


「おい! いないぞ! どこにいきやがった!」


 男の声、足音から推測すると人数は三人。


「窓が開いてるぞ。あそこから出たのか?」


 躊躇せず、三人が小屋の中に入ってくる。三人共男性、しかも身なりは町の住民であった。なぜわかったのかといえば、聞き込みをした男性が二人、聞き込みはしていないが見たことがある後ろ姿が一人。


 もう一度深呼吸をした。


 右手に力を込め、一気にドアを閉めた。


 バタン、という大きな音。男たちがこちらを振り向く。しかし、ロックスはもう男たちの眼の前である。


 一人、また一人となぎ倒した。腹に一撃、顎に一撃、腹に一撃、合計三回の攻撃で男たちはダウンしてしまった。


「さて、話を訊かせてもらおうかな」


 手に魔力を集める。一筋の光の刃。それを首元に当てる。


「アンタ、なにものなんだよ」

「さあ、何者だろうね。と、そんなことはどうでもいいのさ。俺と妹を眠らせたのは誰の指示だ?」


 男たちが全員顔を伏せた。


「言いたくない、か。もしかしてオズワルドの指示なのか?」


 ロックスの言葉で、伏せたはずの顔を上げる男たち。


「オズワルド様がそんなことするわけないだろ!」

「おいバカ! 余計なことを言うんじゃない!」


 そしてまた顔を伏せる。


 これでわかったと、ロックスは右手で口元を隠した。


 首謀者はオズワルドではないこと。住民たちはオズワルドのことを信仰していること。なによりも、オズワルドが自分たちになんのアクションも起こそうとしていないこと。


「もう一度言おう。首謀者は誰だ?」


 男たちが口を割ろうとしないことはわかっていた。


 ため息を一つついて光の刃を消した。


 三人の男を気絶させ、ロックスは小屋を出た。入り口は魔導術で施錠。小屋自体の強度も上げたため、人力で壊すのは難しいだろう。


 家屋は数あれど、どの家からも光は漏れていなかった。


 夜で助かったと、心の底から思った。建物の陰から建物の陰へと移動するのもやりやすい。


 そうやって移動を続けながら、家屋の中を覗いていく。特に見せなどもない町であるため、外に出ている住民はいなかった。


 しかし、ロックスは「住民たちが寝ている」とは思わなかった。


 あの男たちが自分のことを見に来たところを踏まえ、他の住民がナディアの監視をしている可能性が高いからだ。時間はわからないが夜も深いはず。それでも様子を見に来た。つまりまだ起きている住民が多いということだ。


 雲が晴れ、月が出てきた。


「このままだと見つかる可能性が高くなるな」

「あら、大丈夫だと思うわよ」


 そこで、トリヤが隣に降り立つ。


「ちょっとびっくりしたぞ。急にはやめろ」

「ごめんなさいね。ロックスを見つけたものだから、つい」

「で、情報は?」

「ナディアはおそらく町長の家。ほかの住民が話していたのを聞いたわ」

「町長の家はどこだ?」

「ここから南西、町のはずれ。ちょっとだけ遠いわね。それに周囲に建物がない」

「住民が見張っていればすぐに見つかるな」

「そういうこと。どうする?」

「どうするって、行くに決まってるだろ」


 武器は押収されている。が、相手が魔操師や戦士でないのならば問題にはならないだろう。


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