五話
チェックインの時間まで情報収集を続けた。誰に声をかけても「昨日見た」や「二日前に見た」という情報ばかりだった。本来であれば「今日どこにいるのか」という情報がほしかったが、そう簡単にはいかなかった。
時間になって宿屋へと戻ってきた。部屋に案内されて荷物を置く。それから先程と同じように情報を集め始めた。
日が落ち始め、六時には宿に戻ってきた。夕食の時間が近いからだ。
「夕食は七時だったかしら」
「ああ。しかし、やることがないな。一時間ほどだが、やることがないと長く感じるもんだ」
「情報収集と言っても、こんな小さな町でできることなんて少ないものね」
「ほぼ全員に訊いたからな。それでも今日の情報はない。あったとしても、小さな町で俺たちが目撃していない時点で、ここにはいないのかもしれないな」
「町長にはまだ話を訊いていないと思うけど、どうする?」
「いや、今日はやめておこう。お前、気付いたか?」
「町民たちの目、かしら」
話を訊く前から、町民たちからの視線は痛かった。町民たちがどういう感情で自分たちを見ていたのか、そこまではわからなかった。だが歓迎されていないことだけは兄妹共に共通の認識だ。
「嫌なものを見る目だった。良くは思われてないだろうね。よそ者だからなんだろうが」
「集落の規模が小さくなれば小さくなるほど、他所から来る人間をよく思わない傾向が強いかもしれないわね」
「それだけじゃないかもしれないけどな」
「それだけじゃないって、どういう意味?」
「オズワルドについてなにか調べたことはあるか?」
「どういう人物かとか、元々の職業だったりとか、どういう人物だったとか、服役年数だとかそういうことなら調べたけど」
「それなら知らなくても仕方がない。だが覚えていくといい。ここトロスクは、オズワルドの出身地だ」
「出身地、ですって?」
「そうだ。だからかもしれないな。オズワルドことを嗅ぎ回っている俺たちに対して、敵対心のようなものを抱いているんだろう」
「でもオズワルドが生きていたのは二百年前のこと。それに写真を見せても、誰もオズワルドの名前を口にしなかった。仮にオズワルドを崇拝していたとしても、写真の人物に興味を示していない。同時にオズワルドが崇拝される理由がわからないわ」
「そうすると、俺たちはまだ全体の一割も情報を仕入れていないことになる」
「兄さんは、ここにオズワルドがいると考えているの?」
「可能性は十分にある。だがそれを調べるのは明日だ。今日は食事をとって、休息を取って、明日に備えよう」
時計に目をやると七時五分前。イスから立ち上がり、ドアへと向かった。
「さあ行こう。食事の時間だ」
「どんなものが出てくるのかしらね」
ロックスの後ろからナディアがついてくる。
部屋を出て食堂に向かった。
食堂と呼べるほどの大きさはなく、大きめな家のダイニング程度の広さしかない。テーブルは二つ。その一つに食事が並べられていた。
白米、スープ、サラダ、薄いステーキ。こんなものだろうと、ナイフとフォークを手に取った。
宿泊客はレイター兄妹だけ。静かな食堂で二人、静かに食事をとった。
風呂に入り、就寝の準備を整える頃には九時を回っていた。
「先に眠らせてもらうわ」
と、ナディアが布団に潜ってしまった。
普段ならば九時に眠るなんてことはないだろう。教職の仕事で遅くなることもあれば、魔操師としての依頼で遅くなることもある。
「慣れない土地で疲れたのか?」
そう言うロックスもまた眠気に苛まれつつあった。
頭が重くなってくる。
おかしいと気付くのが遅れた。
「遅効性の、睡眠薬か……!」
ベッドに倒れ込み、太腿をつねってみたり、拳を強く握りしめたりしてみるが効果はなかった。
落ちてくる瞼に抗えず、暗闇の中へと落ちていく。危険だと知りながらも抵抗することは許されなかった。




