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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と癒やしの咎人》
82/225

五話

 チェックインの時間まで情報収集を続けた。誰に声をかけても「昨日見た」や「二日前に見た」という情報ばかりだった。本来であれば「今日どこにいるのか」という情報がほしかったが、そう簡単にはいかなかった。


 時間になって宿屋へと戻ってきた。部屋に案内されて荷物を置く。それから先程と同じように情報を集め始めた。


 日が落ち始め、六時には宿に戻ってきた。夕食の時間が近いからだ。


「夕食は七時だったかしら」

「ああ。しかし、やることがないな。一時間ほどだが、やることがないと長く感じるもんだ」

「情報収集と言っても、こんな小さな町でできることなんて少ないものね」

「ほぼ全員に訊いたからな。それでも今日の情報はない。あったとしても、小さな町で俺たちが目撃していない時点で、ここにはいないのかもしれないな」

「町長にはまだ話を訊いていないと思うけど、どうする?」

「いや、今日はやめておこう。お前、気付いたか?」

「町民たちの目、かしら」


 話を訊く前から、町民たちからの視線は痛かった。町民たちがどういう感情で自分たちを見ていたのか、そこまではわからなかった。だが歓迎されていないことだけは兄妹共に共通の認識だ。


「嫌なものを見る目だった。良くは思われてないだろうね。よそ者だからなんだろうが」

「集落の規模が小さくなれば小さくなるほど、他所から来る人間をよく思わない傾向が強いかもしれないわね」

「それだけじゃないかもしれないけどな」

「それだけじゃないって、どういう意味?」

「オズワルドについてなにか調べたことはあるか?」

「どういう人物かとか、元々の職業だったりとか、どういう人物だったとか、服役年数だとかそういうことなら調べたけど」

「それなら知らなくても仕方がない。だが覚えていくといい。ここトロスクは、オズワルドの出身地だ」

「出身地、ですって?」

「そうだ。だからかもしれないな。オズワルドことを嗅ぎ回っている俺たちに対して、敵対心のようなものを抱いているんだろう」

「でもオズワルドが生きていたのは二百年前のこと。それに写真を見せても、誰もオズワルドの名前を口にしなかった。仮にオズワルドを崇拝していたとしても、写真の人物に興味を示していない。同時にオズワルドが崇拝される理由がわからないわ」

「そうすると、俺たちはまだ全体の一割も情報を仕入れていないことになる」

「兄さんは、ここにオズワルドがいると考えているの?」

「可能性は十分にある。だがそれを調べるのは明日だ。今日は食事をとって、休息を取って、明日に備えよう」


 時計に目をやると七時五分前。イスから立ち上がり、ドアへと向かった。


「さあ行こう。食事の時間だ」

「どんなものが出てくるのかしらね」


 ロックスの後ろからナディアがついてくる。


 部屋を出て食堂に向かった。


 食堂と呼べるほどの大きさはなく、大きめな家のダイニング程度の広さしかない。テーブルは二つ。その一つに食事が並べられていた。


 白米、スープ、サラダ、薄いステーキ。こんなものだろうと、ナイフとフォークを手に取った。


 宿泊客はレイター兄妹だけ。静かな食堂で二人、静かに食事をとった。


 風呂に入り、就寝の準備を整える頃には九時を回っていた。


「先に眠らせてもらうわ」


 と、ナディアが布団に潜ってしまった。


 普段ならば九時に眠るなんてことはないだろう。教職の仕事で遅くなることもあれば、魔操師としての依頼で遅くなることもある。


「慣れない土地で疲れたのか?」


 そう言うロックスもまた眠気に苛まれつつあった。


 頭が重くなってくる。


 おかしいと気付くのが遅れた。


「遅効性の、睡眠薬か……!」


 ベッドに倒れ込み、太腿をつねってみたり、拳を強く握りしめたりしてみるが効果はなかった。


 落ちてくる瞼に抗えず、暗闇の中へと落ちていく。危険だと知りながらも抵抗することは許されなかった。

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