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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と癒やしの咎人》
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三話〈ビューポイント:ロックス〉

「それで、私に話が回ってきたということですか」

「そういうこと。ナディアと協力してオズワルドを倒して欲しいの。信頼できる人間がいれば、その人間を使ってもらっても構わないわ」

「式守である以上、魔女の命令には逆らえません。わかりました、やりましょう」

「命令なんて言い方はやめてもらえる? 主従関係は悪くないけど、命令は良くないわ。気持ちよくないもの。それに命令した側が責任を取らなきゃいけなくなるでしょう? 良くないわ、そういうの」

「責任を取るのが面倒なだけじゃないですか……」


 古い城の玉座の間。魔女フォーリアが玉座に座り、距離を話して一人の男性が立っていた。


 名を、ロックス=レイターと言う。


 長身で、筋肉質ではあるが細身である。短めの金髪に甘いマスク。そして青い瞳はたくさんの女性を虜にしてきたことだろう。


 長剣を扱うことに長けているのだが、肉弾戦が苦手というわけではない。剣を持ち、鎧をまとうことが騎士の誇りであると考えているからだ。


「それでなんですが、そのオズワルドの居場所はわかっているんですか?」

「わかるわけないじゃない。でも一応目撃情報はあったわ」

「情報、あるんじゃないですか」

「西のトロスクでね。知り合いの魔導師、魔操師には写真を渡しておいたから間違いはないはずよ。身長は百八十ちょっと、貴方と同じくらいね。でもあなたよりもずっと細身。年齢的には七十歳くらいかしら」


 そう言いながら、胸の谷間から写真を取り出す。


「またどこから取り出してるんですか」

「いいから取りに来なさいよ」


 ロックスはため息をつき、やや面倒臭そうに歩み寄った。


 写真を受け取って視線を落とした。


 言われていたのと相違ない。面長でサングラスをかけている。額は広く、頭には薄っすらと髪の毛がある。白と黒が混じり灰色に見えた。細身でひ弱そうであるが、黒いスーツ姿は妙な威圧感があった。


「情報はいつのものですか?」

「昨日。今から向かえば間に合うと思うわ」

「それでは今すぐ向かいましょう。でもナディアの方がなんていうだろうな……」

「もう連絡してあるわ。表に車を用意させてあるから。ナディアもその中にいるから」

「そういうところだけは尊敬します」

「いずれ私のすべてを尊敬するようになるわ」

「十年以上貴女のお側にいて、そこまで尊敬するようなことはありませんでしたけどね」

「貴方が死ぬまでには尊敬させてあげるわ。さあ行きなさい、我が式守よ!」

「わかりました。行ってきます、我が主よ」


 フォーリアは満足そうに「うんうん」と何度も頷いていた。


 玉座の間をあとにして、その足で城を出た。


 フォーリアが言っていた通り、城の前には車が停まっていた。最大で十人ほどは入りそうな大きな車。フォーリアの使用人が後部席のドアを開けると、中ではナディアが座っていた。口には出さないが「うんざりしている」という態度が見てとれた。


「そういう顔をするなよ」


 車に乗り込んでから数秒後、車がゆっくりと動き出した。


「兄さんはいいとしても、私は教員なのよ? 学校を休んでトロスクに行けだなんてあんまりだわ」

「一応フォーリア様からの命令ってことで、学校には承諾を得てるんじゃないのか?」

「理事長も不在なのよ? 帰ったらどれだけの仕事が積まれてることやら……」

「まあまあ、そしたら俺も手伝うからさ」

「兄さんになにができるっていうの。教職のことなんてわからないくせに」

「それもそうだな」

「はっはっはっ」と笑うロックスを、ナディアは怪訝そうな目でみつめていた。

「それで、輪あたしはオズワルドのことをほとんど聞いていないのだけれど、兄さんの方はどうなの?」

「一応聞いてる。というか事前に調べられることは調べた。大きな刑務所を牛耳っていた男だ。だが突如刑務所を脱走して行方をくらました。そこから行方知れずだったが、ここにきてスリエルの配下になっていたというわけだ。経緯もわからないし、二百年もどう生きていたのかも不明だ」

「魔女スリエルの力、ということなのかしら」

「スリエルが再臨したのはここ数日だ。フォーリア様の話では、オズワルドはスリエルが現れるよりも前に現れていた。出現が同時だったとしても、スリエルがオズワルドを蘇らせるような時間はなかった」

「誰かが裏で手を引いている、とでも言いたいの?」

「その可能性は十分にある。もしくはなにか見落としているか、どちらかだ」


 ナディアが残念そうにため息を付いた。


「いずれにせよオズワルドを捕まえる必要がある、ということね」

「ああ」

「でもオズワルドはどうやって刑務所を掌握したの? この辺の大きな刑務所といえばマルノーク大監獄だけど、あそこを牛耳るなんて普通じゃないわ」

「刑務所は基本的に魔導術が使えない、もしくは魔導術の力がかなり弱くなる。そこでオズワルドはなにをしたのか。どうやら彼は腕利きの外科医だったようだ。外科医でありながらも様々な症状も診られる、相当優秀な医師だったと」

「それがなぜ刑務所なんかに?」

「冤罪だった、と言われている。当時は疫病を意図的に感染させただとか医療ミスだとか、いろいろと言われて捕まったようだよ。その後刑務所に入ったのだが、小さな怪我、大きな怪我、ちょっとした病気の治療、大病の早期発見などによって、力ではなく医療技術で牛耳ったんだとか。それに本人の戦闘力が高かった、とも言われているね。二百年前、しかも刑務所での出来事だからどこまでが本当かはわからないけどさ」

「それが事実ならかなりいい人そうだけど」

「冤罪で捕まったんだ。捕まえた警察や司法に対して恨みを持っていても仕方がないとは思う。ただ、脱走した理由や脱走後の足取りは今になってもわからない。結局謎が多い人物であることは変わらないさ」


 移り変わっていく景色を見ながら、まだ見ぬオズワルドのことを考えていた。


 オズワルドのことを調べれば調べるほど、彼のことがわからなくなるのだ。


 温和で物分りが良い。知らない子供が転べば誰よりも先に抱き起こすような人物であったと、どこかの記録で読んだ。名医であり戦闘もこなす。その時点で人物が見えて来ない。そんな人物が脱獄を図るというのも疑問だった。


 失踪してから二百年の間になにがあったのか。一番の疑問はそこであったが、これだけは本人に訊かなければわからない。


 そんなロックスの心境を知ってか知らずか、車は目的地に向かっていく。


 トロスクまでは約三時間。じっとしているのが苦手なロックスにとって、この三時間という時間は苦痛でしかなかった。


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