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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と癒やしの咎人》
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二話

 日が落ちてきた頃、ようやくじいさんの足が止まった。


「よし、ここでテントを張るぞ。基本的にここが拠点になるからな」

「なんだよ拠点って……」

「ここで修練をする、ということだ。やることは単純だが、目的はちゃんとある」

「さっき言ってた魔導書を扱えるようになれってことだろ?」

「いや、それだけではない。本気でヘリオードを倒そうと思ったら、それだけでは足りないだろうからな」

「足りないって、なにがだよ」

「お前の才能はたくさんの魔導書と契約ができること。それ以外は並だ。つまり、どういうことかわかるな?」

「魔導書と契約することしか取り柄がないって言いたいのか」

「そういうことだ」

「辛辣すぎるだろ。それにさっきはやりすぎには気をつけろって言わなかったか?」

「逆に聞くが、無理をせずにこのままでヘリオードを倒せると思うのか?」

「それを言われるとなにも言えない」

「わかればいい。さあ、完全に日が落ちる前にテントを張るぞ。今日は食事をとって風呂に入って就寝だ。テントはリュックの中に入ってるからな」

「さすがに今日はその言葉に甘えるか……」


 とは言ったものの、レアは仰向けのまま動かなくなってしまっている。目は開いているが、天を仰いだまま動かない。


「立てるか?」

「無理です」

「まあ、無理だわな。とりあえずリュックだけそのへんに置け。テントは俺が張る」

「さすがにそれは……」

「いいから休んでろ。体力がないのは仕方ない。だが、優しくするのはコレ限りだからな」

「はい、肝に銘じておきます」


 仰向けのまま、彼女が微笑んだ。


 正直俺も相当疲れているが、テントを張るくらいの気力は残っている。


 俺のリュックからテントを出して、じいさんの動きを真似ながらテントを張った。


 次にレアのリュックの中を見た。が、テントは入っていなかった。リュックの中身は服やらシャンプーやら、修行とかそういうのとは無縁の日用品ばかりだ。


「おいじいさん、レアのリュックの中にテントがねーんだが」

「なにを言ってるんだ。お前ら二人は同じテントだ」

「そういうのはいらないんだって。しかもなんでこんなに服が入ってんだよ。下着まで入ってるじゃねーか。誰が入れたんだよ」

「リュックを用意したのはシスターズだ。お前のリュックはワシが用意したがな、さすがに女性のリュックを用意するのには抵抗があった」

「ああもうそういう話はいい。テントが終わったらどうする」

「風呂を作るから手伝え」

「いつになったら修行とやらに入るんだよ……」

「明日からだ。まずは生活の基盤を作る。でなければ日常が成り立たないからな。旅行気分ではいかん。ワシが思ったように成長しなければ、お前はワシの元で一生鍛錬を続けることになる。覚悟しておけよ」

「わかった、わかったよ」


 そんなくだらないやり取りをしながらテントを張り、じいさんが持ってきた仮設シャワーを設置した。大きな容器に水を入れ、その容器を加熱してお湯を作るという簡単なものだ。まあ、レアもいるしないよりはましだろう。幸いにも近くに川が流れる音が聞こえている。水が不足することはなさそうだ。


 夕食はレアが作ってくれた。どこで料理を教わったかは知らないが、ちゃんとしたカレーが出てきた。一人で作ると言い出した時にはどうなるかと思ったが、このへんはちゃんと女の子してるんだな。


 夕食を食べ終えてシャワーを浴びた。その頃にはもう、瞼が落ち始めていた。俺もそうだが、主にレアがだ。


 三人で焚き火を囲う。特になにかをするわけでもない。休憩とか、寝る前の一時のような感じだった。夜空にはたくさんの星が散らかっていて、青いカーテンのようにも見えた。


「眠いか」

「そうですね、一日中歩いたので」

「先に寝てていいぞ。な、じいさん」

「ああ、テントに戻りなさい」

「それではお先に失礼しますね。そうだ、ロウ」

「んだよ」

「今日は眠いので、お相手なら明日にしておいてくださいね」

「毎日お前とよからぬことをしてるみたいに言うなよ。なにもしねーよ」


 彼女は「ふふっ」と言ってテントに入っていった。その間も眠そうだったので、テントに入ったら数秒で眠ってしまうだろう。


「お前、気付いてるか?」


 レアの背中を見送る俺にじいさんがそう言った。


「なんの話だ」

「まあそうなるわな。レアのことだ」

「なにかあるのか?」

「あるなんてレベルの話ではない。はっきり言うが、レアの体力が落ち始めている。不安定なクローン技術の副作用というやつだ」

「バカな、その副作用なら魔導書との契約でチャラじゃないのかよ」

「お前がしたのは、急激な魔力減少による死滅の恐れを回避したにすぎない。クローン体そのものが持つ結末は変わらない」

「そんなこと一言も言ってなかったじゃないか」


 立ち上がり、じいさんを見下ろす。じいさんは「座れ」と言いたげに手で合図した。


「だからワシはツーヴェル様にお伺いを立てた。そしたらツーヴェル様が自分が引き取ると。ツーヴェル様ならば顔が利くし、魔力を使うことにかけてはその辺の医療機関などとは比べ物にならないからな」

「つまりシスターズはなんとか大丈夫だと。じゃあレアはマズイのか」

「現状維持で、一ヶ月が限界だ。一ヶ月後には自分で歩くこともできなくなる」

「打開策は」

「当然ある。結局のところ、クローン体であるが故に欠けているものがある。それを補えばいい」

「欠けているものってなんだ」

「簡単に言えば、クローン体というのはその体を維持するために必要な栄養素を過剰に放出してしまうのだ。ビタミンで言えば、水溶性のビタミンなどは過剰に摂取しても尿から外へと排出され、脂溶性のビタミンは体に残って悪影響を及ぼす。それが普通の人間の場合。しかし彼女たちクローンは脂溶性のビタミンでさえ体外へと流れ出してしまうのだ」

「そんなもんどうやって治すんだよ。魔法医療で治るのか?」

「現在の魔法医療では無理だな」

「打開策なんてねーんじゃねーか。思わせぶりなことを言いやがって」

「あると言っているだろうが。つまるところ、今のレアは「人間としては正常な状態ではない」といことだ。では人として正常な状態に戻せるなにかがあれば救える、とは思わないか?」

「あんのか、その方法が」

「そのためにここに来た。ここにはある魔導書が眠っている。お前は、その魔導書を取りにいく」

「じいさんが取りにいけば解決だろ。じいさんじゃなくてもいい、魔女だっていいじゃないか。なんで誰も取りにいかないんだ」

「資格が、ないからだ」

「資格ってなんだよ。俺にはその資格があるってことかよ」

「お前にしかできないことだ。魔導書の中でも最上級の魔導書。世界でも数える人間しか手にできない魔導書。お前はそれを手にして、帰る。今回の最大の目的だと理解しておけ。ちなみにレアには言うなよ? あの子はきっと、無理をしてしまうからな」

「わかってるよ。わかってる」

「それならいい。ワシはもう寝るがお前は?」

「もうちょっとここにいる」

「火はちゃんと消せよ?」

「わかってるからはよ寝ろ。老人は早く寝て早く起きろ」

「そうさせてもらおうかな」


 じいさんは高笑いをしながらテントへと入っていった。


 結局、俺は一時間ほど一人で考え事をした。これからのこともそう、レアのこともそう、俺には考えることがやまほどある。資格とはなにか、じいさんに詳細を訊く必要もあった。


 そんなことを考えて、俺もテントに戻った。早く魔導書を手にしなければ。そんな気持ちが、たぶん、きっと一番強かった。


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