二十六話〈リターン:ロウファン〉
「くそっ! なんでそれで俺の部屋に転がりこんで来るんだよ!」
おかげで一晩ソファーで寝ることになってしまった。ベッドは女性陣で埋まり、俺が入るような隙間など存在しなかったからだ。
身体は痛いし、深夜に叩き起こされたせいですごく眠い。俺はめちゃくちゃ眠いのだが、女性陣はみな眠そうにしていない。これがベッドとソファーの違いか。
「まあまあ、弟子としては師匠のことを敬うのは当然だろ? それにシスターズの部屋はいっぱいだったし。ほら、とっとと朝飯食いに行くぞー」
背中を押されて部屋を出た。階下に下りると、すでにシスターズが朝食を食べていた。
これだけの人数がいると、宿の食堂もいっぱいいっぱいだ。
隅っこの方に腰掛け、運ばれてきたパンとシチューを口に入れた。咀嚼を素早く、一気に飲み込む。最後にコーヒーを飲んでから食堂を出た。
なぜ急いでいたのか。対面に座った魔女たちが全員俺の顔を見ていたからだ。食いづらいったらありゃしない。
誰もいなくなった部屋に戻り、ベッドへと飛び込んだ。昨日、一昨日といろいろありすぎた。それなのに俺だけソファー。疲れなど取れるはずがない。
ベッドにはヴェルの匂いが染み付いているようだった。クソみたいに役に立たない師匠だが、この匂いだけは妙に安心する。
「まだ眠い?」
声がした方に顔を向けるとレアが立っていた。朝食から戻るにはちょっと早い気がするのだが。
レアはこちらへ歩み寄り、ベッドにそっと腰掛けた。
「お前、飯食うの早かったか」
仰向けになってそう言った。
「気付きませんでしたか? 私は姉妹たちと一緒に早めに朝食をとらせてもらったんですよ」
「なるほど、そういうことか」
「ごめんなさい、私がソファーで寝ればよかったですね」
「バカ言うな。魔女の間でなんて寝られるわけないだろ。これでよかったんだよ」
「その返しはロウらしいですね」
レアが俺の頭を撫でた。右手の指先で髪の毛を弄び、左手の指で頬に触れた。
「なんだ、楽しいのか?」
「ええ、とっても」
「そりゃよかった。ちょっと眠らせてもらうぞ」
「はい、おやすみなさい」
仰向けのまま目を閉じると、レアが腹部をポンポンと優しく叩いてくれた。それが心地よく、どんどんとまどろみに引き込まれていくようだった。
「おーい! いちゃつくのもそこまでだぞー!」
俺の気持ちなどお構いなしに、クソ師匠が乱入してきた。
「なんなんだよもう……」
仕方なく起き上がった。レアがクスクスと笑っているのだが、こっちとしては笑い事ではない。
「なんなんだよって、当然これからについての話をしようと思ってきた」
ヴェルが部屋に入ってくると、他の魔女三人も入ってきた。同時に魔法少女たちも入ってきた。この女性率の高さよ。
イスは魔女に、ベッドは魔法少女に占領された。ベッドに座っていた俺はといえば、当然メーメに追い出された。
「こちらへどうぞ」
そんな俺を見てイツカがイスを差し出してくれた。微笑む彼女は非常に大人っぽく、妙に色っぽく見えた。
「いいのか?」
「私は立っていますので大丈夫ですよ。遠慮なさらずに」
「それじゃあ失礼して」
と思ったが、そのままイスをレアに渡した。
一瞬だけ面食らったような顔をしつつ「ありがとう」と言ってイスに座った。
「お優しいのですね」
イツカは笑っていた。なんというか、見透かされているような気がして若干気に食わない。
「そういうわけじゃないさ」
「イツカさん、わかりますか? ロウはとても優しいのですよ。誰にも渡したくないくらい、優しい人なんですよ」
「そういうのはいいから。ヴェルもニヤニヤしてないでさっさと話を始めろよ」
「うむ、そうだな。このままだと夜になってしまう」
「夜まで見てるつもりかよ、早く、早く」
「うるさいなあ、わかったよわかった」
やれやれ、といった感じでテーブルの上で指を組む。やれやれは俺の方だよ、やれやれ。
「それじゃあ、今後の方針について話をする。と言っても大体は昨日四人で話したわけだが、結論としては四人で別々の相手と戦うということになった。まあ居場所はわからないんだけどな」
「じゃあ意味ねーだろ。居場所もわかんねーのにどうやって戦うんだよ」
「たぶんそのうち出てくる」
「たぶんてなんだよ、曖昧すぎんだろ。それに出てきたとして、想定してないやつの相手をさせられることだってあるだろうに」
「スリエルは大昔から野心にあふれる魔女だった。はずだ。それに他者を傷つけることも厭わず、他人を虐げることを快楽とするような女だ。絶対に、あちらから顔を出す。で、相手をする敵に関してだが、おそらくスリエルの側近は四人だ。なぜ四人なのか。それは各大陸に据えるためだ」
「確証は?」
「あるわけないじゃん」
「笑ってんじゃねーよ。確証もねーのに行動させんなよ……」
「でもやるしかないんだな、これが。それに大体は見当がついている。理由は簡単だ。スリエルの側近は、各大陸から一人ずつ選出されているからだ」
「なるほど。じゃあ俺は当然、ヘリオードに当ててもらえるんだろうな」
「そのつもりではいる。が、今のままではダメだ。魔法少女が四人いるとは言え、お前自信が弱すぎる」
「じゃあ責任持って鍛えてくれ、それが手っ取り早い」
「無理だな。私のような天才が、お前のような凡人のことなどわかるはずかない」
「なんのための師匠かわかったもんじゃねーな」
「と、いうことでお前には新しい師匠を用意してある。入ってこい」
嫌な予感がする。




