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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と腐った聖人》
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二十四話

 町についてすぐ、町の様子が変わっていることに気がついた。騎士団の数が増えていたのもそうだが、仮設テントの数も増えていた。反比例するように、町民がまったく見当たらない。


「戻ったか」


 出迎えてくれたのはウィロウだった。


「ヴェルはどこだ」

「あそこだ」


 ウィロウが指さしたのは、町の中央だった。ツーヴェル、フォーリア、見たことがない女が魔法陣の真ん中で話をしていた。見たことがない女は、東の国に伝わる「キモノ」という服を着ていた。動きづらそうな服装だった。きっとあれが東の魔女、イツカ=ランドリオンなのだろう。


 一直線にヴェルへと向かい、目の前に立った。


「スリエルがヴォルフの身体を乗っ取った。しかもなぜかヘリオードまでいる」

「ヘリオードがいたのに飛び出さなかったのは、昔より賢くなった証拠かな」

「オクトリアに止められただけだ。これからどうするつもりだ。アイツを追うのか」

「いや、スリエルの後を追う時間はない。ドーム状の呪術をなんとかする方が先だ」

「なんとかできるようになったのか? 速度を弱めるだけでも精一杯だったんじゃないのかよ」

「私一人では無理だ。だが、他の魔女がいればなんとかなるだろうさ。とりあえず、お前は魔法陣から出ていろ。これからは魔女の仕事だ」


 これ以上の会話が時間の無駄っていうことくらいは俺にもわかっている。


 俺が出ていくのと入れ替わりに、オクトリアがヴェルの元へと歩いていった。


 四人の魔女が魔法陣の中で向き合った。突如、魔法陣が光りだす。その光はまたたく間に光量を増して、四人の姿も見えなくなってしまった。


 その光が天へと上り、一定の位置で止まった。光が球体へと変化し、球体はじょじょに大きくなっていった。


「ロウ……」


 心配そうな顔をするレア。他のシスターズもまた、顔を曇らせていた。


「大丈夫とは言えないが、いい方向には傾くはずだ。そんな顔をするな」

「でももし、四人の魔女でもあの呪術を止められなかったらどうなるんでしょうか……」

「ああ見えても、この世界において最強の魔導師だ。アイツらがどうにかできないなら、誰にも止められないだろうしな」


 それでも心配そうな顔をしている。レアは目覚めたばかりだし、魔女がどれほどのものかを知らない。仕方がないとはいえ、ずっとこんな顔をさせているのもなんだか嫌な感じだ。


「おい」

「は、はい」

「どうすれば安心する」

「ど、どうすればと言われましても……」


 そう言いながらうつむき、かと思えば顔を上げた。


「あの、その、抱きしめて、もらえませんか?」

「そんなんでいいのか」

「人の体温は安心するので……」


 よくもまあそんな恥ずかしいことを、と思ったが、それで気が紛れるならいいか。


 腕を掴み、そのまま胸元に抱き寄せた。


「きゃっ」


 なんて声を上げたが、抵抗する様子はまったくなかった。それどころか背中に手を回してきた。顔を胸に擦り付けて、安心というよりも甘えていると言った方が正しいようだ。


 上空で大きくなっていく光球が、この町よりも大きくなった。そこで、光球が動き出す。ドーム状の呪術の方向に向け、前進を始めた。そして、球体が少しずつ速度を上げていく。


 ざわめく森の上を通過し、それは呪術へと突っ込んだ。距離があるというのに、衝突の衝撃がこちらにも伝わってきた。


 光球が呪術へとめり込んで、いつしか呪術に飲み込まれてしまった。


 失敗かと思われたが、呪術の内部から光が漏れ出した。ドームの外壁にヒビが走り、しだいに外壁が剥がれていった。


 外壁が全て剥がれると、そこには光球だけが残っていた。呪術の内部に入り込み、内側から大きくなっていったということだろう。


 やがてその光球も空気に溶け、なにごともなかったかのような静けさが残った。


 俺は、呪術があった場所を見続けていた。あれだけの呪術でも、魔女四人が集まれば消滅させることもできる。逆に、魔女四人でなければ消滅させられない呪術だったということそれを生み出したスリエルは、意気揚々と姿を消してしまった。なによりも、それが気がかりだった。


「おい、変態ボウズ」


 気づけば、ヴェルが近くに立っていた。


「変態ボウズってのは俺のことか」

「お前以外に誰がいるんだ?」

「なにが変態なんだよ」

「いつまで抱き合ってるつもりだ? 抱いてる女は嫌がってるみたいに見えるが?」


 そういえばなんかもぞもぞしてる。


「どうした?」と、レアに声をかけた。

「はず、はずかしい……」と返ってきた。


 なるほど、我に返ったわけか。


 腕を離すと、ゆっくりとレアの身体が離れていく。なんだろう、この感覚は。心なしか、少しだけ寂しいような、落ち着かないような、そんな感じがした。


「スリエルがどう動くのかはわからない。だが間違いなく、昔のように暴れまわるんだろうなというのが私らの考えだ。お前は、どうする?」


 ヴェルの目は真剣だった。後ろに立つ三人の魔女もまた、神妙な面持ちだった。


「スリエルはお前に任せる。俺ははなからヘリオードしか眼中にない」


 どうしてか、ヴェルの口端が上がった。


「いいよ、いい。お前はそれでいいんだ。もしもヘリオードがスリエルの部下であるなら、ヘリオードの相手をお前がしてくれればこちらの負担が減るからな。当初の予定通り、クローンちゃんたちは私が預かる。だが、お前はどうする?」


 今度はレアに向けての言葉だ。


「私は、ロウと一緒にいたいです」

「そうかい、なら頑張りな。そいつは気難しいが、裏切ることはしないだろうさ」

「ええ、わかっています」

「わかっているときたもんだ。妬けるじゃないか。それじゃあ、連絡があるまでこの町にいな。これからちょっとした話し合いだ」

「ああ、今日は休ませてもらう」


 こうして、とんでもない一日が終わりを告げた。


 レア以外のシスターズは、ヴェルと一緒に別の宿に向かった。レアだけは俺についてきて、同じ部屋に止まることになった。


 しかし、俺は風呂に入ることもなくベッドに飛び込む。気が抜けたのか、身体に力が入らない。傷口が熱く、すぐにでもその熱さを忘れたかった。眠れなくなるほどの痛みはなく、それだけが救いだった。


「おやすみなさい、ロウ」


 そっと、レアが頭を撫でてくれた。ああ、眠ってもいいんだなと、そう思った瞬間に身体が重くなっていった。


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