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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と腐った聖人》
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二十一話

 身体に衝撃を感じて目を開けました。どうやら上半身がイスからずり落ちてしまったようです。


「早いお目覚めだな。少しは楽になったか?」


 横を見るとファスが微笑んでいます。


「私、どれくらい寝てましたか?」

「ほんの三十分てとこだ」

「それじゃあ、黒い物体はそこまで大きくなっていないのですね」

「見た感じはあんまり変わらないな。同時にいい知らせがある」

「いい知らせですか? こんな時にそんないい知らせがあるとは思えませんが……」

「少しずつだがロウが近付いてきている」

「ロウが?」

「少し時間がかかる。それまでに準備をしておいた方がいいだろう。主にシスターズをまとめる準備だが」


 一つ頷いて、エルトナ姉さまに声をかけます。そして他の姉さまにも声をかけ、ロウが近付いてきていることを知らせました。逃げる時に皆をまとめてもらうためです。


 列車を出て黒い物体を見ました。ファスが言う通り、見た目には変化があまりないようです。しかし、最初の時よりも魔力が大きくなっている。それくらいは私にもわかります。


 依然として騎士の人たちが道を塞いでいます。


 騎士たちで話をしている姿は見かけますが、この場所から動くつもりはまったくないようでした。


 それが不自然でなりません。情報の行き来がされているのであれば、民間人を連れて避難するのが最優先となるはずです。


 例えば、列車を攻撃した者たちが紛れていたとしても、です。少なくとも私ならそうします。黒い物体の正体がわからなくとも、有害なのか無害なのかは別の話です。問題なのは「民間人が触れて有害だと確定する」ことなのです。それは避けるべきなのです。


 待っていても情報はやってこない。それだけは間違いありません。


 駅の中を練り歩く騎士の前に立ち、呼吸を一つ。


「少し、よろしいですか?」

「なんでしょうか」


 抑揚のない男性の声。


「あの黒い物体についてお聞きしたいのですが。あれの正体は掴んでいるのですか?」

「いえ、こちらには情報がありません。どいていただけますか」


 前進を続けようとする騎士。でも私は進路を譲りません。


「あれが良いものか悪いものかはわかりませんが、悪いものであった場合のことを考えて逃げるべきではないのですか?」

「それは私が判断することではありません」

「では誰が判断することなのですか?」

「申し訳ありませんが、私にはわかりかねます」


 前進を続けるために私が邪魔なのでしょう、騎士の方が私に手を伸ばしてきました。そして、手が私の肩に触れました。


「――っ!」


 触れた瞬間に、強烈な電気が走りました。


 私が後ろへ飛び退いたように、彼もまた一歩退きました。


 強烈な魔力。それとほのかな腐臭。


「アナタは、何者ですか」


 腰に携えた短剣に手を添えます。服の上からでは見えない位置に細身の短剣を仕込んでおいて正解だったかもしれません。


 長い剣は使えないし、素手で戦えるほど拳も強くない。護身用にと持っていて正解だったかもしれません。と言っても、そう助言してくれたのはロウなのですが。


「私は聖十字騎士団」

「名前をお聞かせ願えますか」

「名前は、ない」


 カッと目が開かれたかと思えば、瞬く間に剣を抜いて攻撃してきました。


 短剣を抜き、騎士からの一撃を避けます。ここでようやくおかしいと気が付きました。いえ、おかしいのは最初からだったのです。それに目を背け続けていたのは私。


「ファス!」

「大丈夫だ、見ていたからな」

「姉妹のことをお願いします。ここは私が」

「いや、シスターズのことはヌシの姉君たちに任せてきた。ここはワシとヌシの二人でなんとかする。まあ、ワシは民間人の方にいかせてもうがな」

「それでお願いします」

「承知した」


 ファスが私から離れ、民間人の方へと走り去っていきました。不安ではありますが、私以外にはできないことでしょう。元々の乗客たちの中で戦えるものはいない。騎士の方々はきっとみなこんな感じなのでしょう。


 攻撃を避けつつ、騎士の方々が皆操られている状況を考えてみました。最悪としか、言いようがありませんでした。


 それがよくありませんでした。すでに、背後にもう一人回り込んでいたのです。


「助太刀する!」


 ですが、背後にいた騎士を切り伏せる方が現れました。


 厚い布の鎧。青い十字の刺繍。聖十字騎士団の方でした。列車内で見た女性の騎士でした。


「騎士の中でも無事な方がいたのですね」

「ミレーユ=アシュファルドだ。貴女は?」

「レアです。レア=エルメロードです」

「レアか。了解した。全員倒したら状況を説明する。それまでは襲ってくる騎士を排除してくれ。騎士の中では、私とあと二人程度しかまともな者がいない」

「わかりました」


 騎士の中では三人が無事。数十人いて三人だけ。思った以上に面倒なことになっていると、この時ようやく確信しました。


 ロウに教えを受けたと言っても、基本的には魔導術での戦闘訓練だけでした。武器を使った白兵戦はあまり得意ではありません。


 それでも今は戦わないわけにもいかない。それに操られているであろう騎士の方々に思考があるとも思えない。がむしゃらに武器を振るっているだけ、というのが私の見解でした。と言っても素早く力強いので、目を離すわけにはいきません。


 心臓や頭といった急所を外しつつ、極力魔導術で気絶させるようにと努めます。ですが、爆風で飛ばしても、電撃を流しても立ち上がってくるのです。


「レア、手加減は無用だ」


 ミレーユが私に言います。


「でも殺すわけにもいかないでしょう?」

「いいや、コイツらはすでに死んでいる。ほのかに漂う腐臭がその証拠だ。どこでどうやって殺されたかはわからないが、抜け殻である以上、手加減の必要はない」

「仕方、ないのですね」


 それならばと、短剣を逆手に持ち替えます。


 ロウが言っていました。私が腕力を鍛えても限界がある。それならば細く短い武器であっても、確実に急所を捉えるような戦い方を心がけろ、と。


 魔導術で風を巻き起こし、その風に乗って騎士に急接近。足払いを見舞い、下から切り上げるようにして首を骨ごと切断。腕力がないぶん、攻撃をするための助走も必要になります。


 ズルくても、狡くても、死ななければまた次がある。次があれば、もっとちゃんと戦えるようになるはずだ。正々堂々の真っ向勝負は、これからできるようになればいい。


 そうやって、地面を滑るように移動して騎士の方々を倒していきます。私には才能があるらしく、魔導術はそこそこいけるようです。光の刃を作り出したり、爆撃で頭を吹き飛ばしたり。

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