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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と腐った聖人》
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十八話

 宿屋に入って部屋を取った。その場では金を払うが、後でウィロウに請求しよう。


「これからどうするつもり?」

「ベッドに飛び込みながら言うな。お前はもう休む気しかないだろ」

「二時間以上バスの中にいたのよ? そりゃ疲れてるわ」

「アンの言うことも一理ありますね。道が良くなかったせいで速度も出ませんでしたし」

「そうなのよ。もっと速く走っていれば、もっと早く着くでしょって思うのよ。まあ、無理なんだろうけど」

「とりあえず今は休むのが一番だ。呼ばれたら出ればいい」


 ドアがノックされて、タルトがドアを開けた。宿を取った時に頼んでおいたコーヒーが届いた。これでウィロウが来たら「一息くらいつかせろ」と言うところだった。


 コーヒーを手にとって窓際へ。宿屋に来たら窓際で外を見る、というのが様式美のようになってしまった。それもこれも状況が状況だから仕方がない。


「魔導師集団か」


 列車をぶっ壊したあの攻撃。あんな魔導術を使えるヤツが集団で襲ってくるなんて考えたくはない。あの魔導術は集団で放ったものではない。もしも集団で作り上げた魔導術であれば、魔力の反応があってからの速射は不可能だ。大多数の人間の魔力を統合させるのはなかなか難しい。


 外では騎士団が慌ただしく動き回っていた。町民はいつもと同じ生活ができないことに憤りを感じているのか、抗議している町民の姿も見られる。そう考えるとこの位置は状況確認するにはいい場所だ。


「レアの方は大丈夫でしょうか……」


 タルトが心配そうにつぶやく。


「ちょっと抜けているところはあるが、責任感が強くて抜け目がない。シスターズもそうだが魔力も高いから、この辺にいる騎士団くらいならなんの問題もないだろうよ」

「騎士団ならばよかったのですが……」

「問題はそこだな。この辺に潜んでるらしい魔導師集団と出くわさなきゃいいんだが」

「向こうの心配ばっかりしてても仕方ないでしょ? 今は自分たちのことを考えましょう」

「そう言われても考えることなんてないだろうに。なにもないことを願って待つことしかできん。できることなら――」


 そう言いかけた時、再びドアがノックされた。嫌な予感はしたが、タルトにドアを開けてもらった。


「来るの早くないか? もう少し休ませてくれよ」


 聖十字騎士団の鎧に身を包んだカレットとシェリアだった。


「そう言わないでよー。さ、うちの主人が呼んでるぞー


 カレットがこちらに歩いてきて、俺の手を取って引っ張ってくる。


「わかったから引っ張るなよ」

「うちの主人に馴れ馴れしく触らないでもらえる?」

 その手を払ったのはアンだった。

「おやおや嫉妬かなー? 大丈夫だって、別に横から掻っ攫おうってわけじゃないんだから」

「アンタたちのことを信用したわけじゃない。それなら主人を守るのは私たちの役目でしょ。アンタたちだってそうなんじゃないの?」

「言われると確かに」

「そういうやり取りは必要ないわ。行きましょう」


 シェリアに言われると、カレットは「うーい」と言いながらこちらに一礼した。力関係がなんとなくわかったような気がした。


 二人の幼女の後ろをついて歩いた。


 宿を出て町の中心部へ。大きめの仮設テントに入りきれないほどの団員たち。その中には当然ウィロウもいる。


「来たか」

「来たか、じゃねーだろ。呼ぶの早すぎんだよ」

「ウィロウ様、その方は?」


 団員の一人が言う。


「知り合いだ。今回の作戦に参加してくれる有志と言ったところだ」

「有志じゃねーよ、半強制だろ」

「そう言うな。早く終わればそれだけ早く町を出られるんだ。悪い話じゃないだろ」

「強行突破って手があるのを知ってるか?」

「口は悪いが賢いのも知っている。そんなことは絶対にしない」

「お前が俺のなにを知ってるっつーんだよ。まあいい。俺になにをさせたいんだ」

「この町を守ってもらいたい」

「そんなんお前らの仕事だろうが」

「今から言うことを良く聞け。バラーシャの町が落ちた。俺たちにとっての敵がこの町にやってくる。お前にはその指揮を任せたい」

「だから、なんで俺が指揮をとらなきゃならんのだ」

「お前のことは調べさせてもらった。魔女ツーヴェルの弟子だそうだな」

「どこから仕入れてくるんだよそんな情報……」

「そんなの私に決まってるじゃないか」


 上空から聞こえてくる声。聞き覚えがあるというレベルじゃない。


 トンっと軽い音をさせて俺の背後に降り立つ。俺が振り向いた瞬間、その人物に抱きしめられた。


「久しぶりだなー」


 頭を掴まれて無理矢理胸元に引き寄せられてしまう。大きめな乳房に顔面を押し付ける形になるが、何度もやられすぎてありがたみが全くない。というか苦しいので辞めて欲しい。


 考えてみれば、母親同然の女にやられて嬉しいと思える行為ではないのだ。きっとほとんどの男がそう思うはずだ。


「やめろ、苦しい」


 引き剥がして距離を取る。言わずもがな、俺の師匠であるツーヴェルだ。


「なんだよ、この胸がそんなに嫌いか? 町を歩けば男の視線は釘付けだというのに」

「その胸というかお前にやられても嬉しくないだけだ。そもそもなんでお前がここにいるんだ。なんでコイツらと一緒にいるんだ」

「なにから説明すればいいのかという感じだが、そのすべてはスリエルが原因だと言ってもいい」

「なんでそこで死罪の魔女が出て来るんだよ」

「バラーシャが死霊の町だというのはウィロウが説明したんだよな? それなら話が早い。その死霊の中にはスリエルの魂もあったということだ」

「でもその死霊たちを開放するためにヴォルフが浄化してたんだろ?」

「最強の魔女と呼ばれた女が、自分の魂に対してなにもしていないとでも?」

「もしかしてヴォルフが落ちたのか」

「そのもしかしてだ」


 俺たちの会話にウィロウが割って入ってきた。いつも通りの無表情ではあるが、心なしか眉間にシワが寄っているようにも見えた。


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