十七話
朝起きて朝食をとり、昼間で町を見て回った。早く帰りたいという気持ちは当然ある。昨日の出来事があったから、というよりもいち早くレアと合流しなければならないと思ったからだ。
おそらくだが、もうすでにメーメもルルも魔導書に戻ってしまっているだろう。シスターズが戦えないというわけではないが、あの周辺には列車を攻撃してきたやつがいるはずだ。もしそいつと遭遇したら、一応戦える程度のシスターズでは歯が立たないだろう。
昼食を食べてからバス停に向かった。その時、ある人物と遭遇した。
「もう、発たれるのですね」
ヴォルフだった。
「一人で出てきていいのか? 護衛なんかは?」
「今日は一人ですね。むしろ護衛は必要ないくらいですよ。この町にいる以上、危険な者は騎士団が排除してくれますから」
「それもそうだな。まあ、たぶん今後会うこともないだろうし、そっちはそっちで頑張れよ」
「ええ、ロウファンもお気をつけて」
バスが来て、タルトとアンが乗り込む。最後に俺が乗り込んだ。席に座り、窓の外へと顔を向けた。
バスが走り出してもヴォルフはこちらに手を振り続けていた。アイツはアイツで大変だろうに、こんなことをしていていいんだろうか。
最後までヤツは笑顔だった。それがどうしてか、なにかの前触れのような気がしてならなかった。
このバスはこれから四つの町へと向かう。俺たちが行くのは四つ目の町。そこならば駅もあるし、ツーヴァルの家に行くのもそこまで遠くないはずだ。
「これで心配いらないわね」
アンが腕を突き上げて身体を伸ばしていた。
「本当にそう思うか?」
「違うの?」
「安心するのはこの森を抜けられたらだ。まだしばらくかかりそうだからな」
「なにか心配事でもあるのですか?」
タルトが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「死罪の魔女スリエルの呪縛を解き放つ。そんなことが簡単にできるとは思えない。同時に、スリエルが自分の魔導術を簡単に侵させるとも思えない」
「ロウファンはスリエルについてどこまでご存知なのですか?」
「一応魔女の弟子だからな、最低限は聞いてるよ。お前らはなんか知ってるか?」
「私たちは外に出たり出なかったりなので、知っていることもあれば知らないこともあるのです。それでも多少は知っていますが。非道な行いをして他の魔女に断罪された魔女。当時の魔女の中でも最高の力を持ち、最多の魔導術を保持していたと言われていますね。当時の魔女の中というよりも、歴代の魔女の中でも群を抜いていたとか」
「そうだ。魔女としては最高峰、誰が見ても世界最強の魔女だった。だが性格や人格は最低だったそうだ。一般人は皆家畜、魔女でさえ下等生物と見下していた。だがまあ、それだけ実力があったというのは事実だ」
「実際問題、スリエルってどれだけ強かったわけ? 私が外に出てた時って、ちょうどスリエルがいない時期だったのよね」
「そうだな、例えば今スリエルが現れたとしよう。んで、四人の魔女と戦ったとしよう。するとだ、間違いなく今の魔女たちは絶対負けるだろうな」
「それってアンタの推測?」
「ヴェルから直接聞いた。私たちではまず勝てないだろう、ってな。明確な理由はいくつかあって、まずは魔導書の所有数だ。実在していた頃のスリエルは、約五十もの魔導書を所持していたと言われている。しかし今の魔女は最大でも十冊だ。同時に魔力も、四人合わせてもスリエルには及ばない。それだけ強かったんだよ、死罪の魔女っていうのは」
「昔の魔女はスリエルを倒したんでしょう? 今の魔女って相当弱いってこと?」
「スリエル以外の魔女だけでスリエルを倒したわけじゃない。他の魔操師や式守や弟子にも手伝ってもらって、ようやく倒したんだ。歴史上では死罪の動乱と呼ばれる出来事だ。大陸の一部が消し飛び、戦闘に参加した者のほとんどは死亡した」
「その魔女、メチャクチャじゃないの……」
「そうだよ。だからだ。そんなヤツが作った魔導術だぞ、簡単に破れるとは思えないんだ」
「簡単じゃなかったって言ってなかった? 何年もかかったって」
「何年かかろうが、スリエルの魔導術に手を触れること自体がそもそも難しいんじゃないかって話だ」
「いやいや、スリエルの魔導術で町の人の魂が囚われてたんでしょ。だったら魔導術はもう発動してるし、発動し終わってるってことじゃない。それなら問題ないんじゃない?」
「さっきも言ったと思うが、性格的には最低だったんだ。魔力も高かったわけだし、そんなヤツが発動したらはい終わりなんて魔導術を作るとは思えない。なにか、どこかが引っかかってる」
「まあ考えても仕方ないじゃない。終わったことよ。町からも離れてるわけだしね」
「終わったことならいいんだが、な」
窓の外の景色は順調に変わっている。町から遠ざかっていることがいいことなのか悪いことなのか。考えることが減るのはいいことなんだろうが、面倒事に発展してからでは余計な手間がかかりそうではある。
そのまま、バスは何事もなく次の町に到着した。が、俺たちはなぜかバスを降ろされてしまった。
「申し訳ありません、今日はもうこれ以上運行できないんです」
運転手が乗客に説明している。その理由までは説明できておらず「上からの命令で」としか言わなかった。
「なにがあったんでしょうね」
「さあな。とにかく原因を突き止めた方がよさそうだ。じゃないといつまで経ってもここから動けない」
「もう面倒くさいから歩いて行ったらどうなの?」
「アレを見ろよ」
町の出入り口に向かって指をさす。騎士団の面々が出入り口を封鎖しているところだった。
「ちょっと、どうなってるのよ」
「俺に聞くなよ。とにかく話を訊いた方が良さそうだ」
騎士団の方に歩いていくと。その場を統率しているであろう騎士がこちらを向いた。
「お前、なんでここにいんだよ」
「俺にもいろいろあるんだ」
ウィロウだった。
「もしかして俺たちが来るよりも早くこの町に来てたのか?」
「そういうことだ。ヴォルフに言われて朝からな」
「なにがあった」
「列車を襲った魔導師集団の情報が入ってな。今バラーシャには最低限の人間しかいない。それくらい、バラーシャ周辺に警戒態勢を敷いている。バラーシャ周辺の町にも俺たち聖十字騎士団の存在は知れ渡っているからできることだな」
「で、その肝心の魔導師集団はどこだ?」
「わかったら苦労はしない。なにかあればお前も手伝え」
「は? ヤダよ面倒くせー」
「昨日の食事代の分だけでも働け」
「しかたねーな、そん時は助けてやるよ。この町からは出れないんだよな?」
「しばらくは誰の出入りもできない。厳戒態勢が終わるまではここにいてもらおう」
「なにを言っても無理そうだな。んじゃ、宿でもとって休んでるか」
「それならあの宿屋に泊まってくれ」
指差した先には一軒の宿屋があった。
「なんで指定されなきゃならんのだ」
「泊まってる場所がわかっていれば支援要請もしやすいからだ」
「はあ……わかった。料金は持てよ」
「半分だけだ。それ以上は持てない」
「あーあー、わかったわかったそれでいい」
ため息を一つついて、俺たちは宿屋に向かって歩き出した。これは完全にこき使われるやつだ、とわかってはいるのだが、町から出られない以上は仕方がない。




