十五話
メーメは「周辺にこの規模の騎士団を有するような場所はない」と言っていましたが、顔が利くということは、この騎士団の統率者が有名人だということです。
「メーメ、ちょっと」
「なに、かしら」
メーメを見ると、額に汗を浮かべて苦しそうにしていました。
「ど、どうしたんですか?」
「そろそろ限界かもしれないわ」
ルルもまた苦しそうで、しまいにはしゃがみこんでしまいました。
「エルナトと私と一緒にメーメを。アルマ、シャウラでルルをお願いします。アトリアとミザールで他のシスターズを。ファスもお願い」
「わかった。任せるがいい」
ファスが自信満々に言いました。彼女ならば大丈夫でしょう。
「どこへ、行くの」
「お手洗いです。みんな、お願い」
お姉さまたちが頷きます。騎士団の方には見つからないように、いそいそとお手洗いに向かいました。先程までお手洗いは満員でしたが、今は列はできていません。タイミング的にはかなり運がいい。
何事もないようにお手洗いへ。騎士団の方に悟られると面倒なので、メーメとルルには頑張って平静を装ってもらいました。
エルトナとアルマに見張りを頼み、私とシャウラでメーメとルルを個室に入れました。もちろん、私たちも一緒に入ります。
「魔導書に、戻るのですね」
「ええ、あとはお願いね。喋ることはできるけど、長時間は無理だから。ちょっと喋ったら魔力を充電して、また喋って充電して、その繰り返し。充電中はしゃべれないから」
「わかりました」
「それじゃあ、私たちのこと、手放さないようにね」
彼女は最後まで笑っていました。
そして、彼女の身体が光になって消えていきます。残ったのは一冊の厚い本でした。真っ黒で、白い線で僅かに装飾されています。表題は「メームルファーズ」と書いてあるようでした。
私はそれを抱きかかえて個室を出ました。シャウラもまた、同じように本を抱えて出てきました。
「ここからは私たちでやらなければいけません。協力、よろしくお願いします」
深く、頭を下げました。
非常に危険な状況。列車を攻撃してきた者の招待もわからない。私たちの正体が知れれば大騒ぎにもなりかねない。
「大丈夫だよ」
と、シャウラが言いました。
「協力するのは当然だよ。エルトナとアルマも同じこと思ってるはずだよ」
彼女たちを見ると、柔和に微笑んで頷きました。
「そう、ですね。姉妹ですからね」
先頭に立ち「行きましょう」と言ってからトイレを出ました。経験豊富なメーメやルルがいない以上、ここでは私とファスが先導しなくてはなりません。気が気ではありませんが、そうも言っていられません。
トイレを出て姉妹たちと合流しました。事態はまったくと言っていいほど進行していませんでした。入り口を騎士団の方々が塞ぎ、人々が抗議をする図は健在です。
息を飲み、前へと進みます。話をしなければなにも始まらないと思ったからです。
「すいません、少しよろしいでしょうか」
入り口の前に立っていた騎士の方に話しかけました。彼は迷惑そうな顔をしながら「はい、なんでしょうか」と言いました。
「どうすればここから出られるんでしょうか。進展がないように思えるのですが」
「本部からの伝令があり次第、この状況は解除されるでしょう」
「それではまったくわかりません。どうしてこういう状況になったのか、それを説明して欲しいのです」
騎士の方はため息をつき、隣の方に耳打ちをしています。なにやら二人で話をしていると、奥の方から別の方が現れました。体格からして女性でしょうか。
「話は聞かせてもらいました。この状況は列車が襲撃されたこと、この周辺で怪しい魔導師集団が目撃されたことに起因します。ですので、こちらの調査が終わり次第解除されるでしょう」
「わかりました。ご丁寧に、どうもありがとうございます」
一礼し、私はまた姉妹の元へと戻りました。
聞いた話をそのまま伝え、ファスへと視線を送ります。
「つまり、今日中にはここを出られないということだな」
「どうしてそう思うのですか?」
「あの聖十字騎士団とかいうやつが、列車を真っ二つにしたやつと戦えるとは到底思えない。だから見つけたところで進展はない。列車を真っ二つにしたやつが怪しい魔導師の集団だとすれば尚更だ」
「なる、ほど」
「正直ワシらにできることなどないさ。あるとすれば、向こうが動き出したあとだな。すべて後手後手だが、待つ他にできることがないからな」
「そうですね。それでは、もしなにかが起きた時に備えて、事前に動きを決めておきましょう」
私を合わせて十四人の姉妹を三分割します。それぞれ姉たちを統率者として、避難などを行うというルールを設けました。私にはファスがいるので、幼い妹たちの引率を担当します。
なにかが起きるのを待つ、というのはあまり良い気がしません。なにかが起きるということは、戦闘を行えない人間にも被害が出るということです。決していいことではありません。
ですが、それを期待することしかできないのです。
その時、本当の無力を痛感するのです。
両手を合わせて天に祈りました。ロウ、早く、帰ってきてください、と。




