十四話〈クロスオーバー:レア〉
分割された車両の前側は、そのまま走行して駅へと向かったようでした。私も騎士団の方がそう言っていたので、それを信じるしかありません。
止まった後ろ側の車両に乗っていた者は、聖十字騎士団に誘導されるまま、線路に沿って歩くことになりました。
「ロウは、大丈夫でしょうか……」
「心配ない、とは言えないわね。いつもは強気なことばっかり言ってるけれど、ロウは意外と脆いから。心身ともに」
「どっちもですか……」
「生命反応は消えてないし、タルトとアンが向かったからなんとかなるでしょう。問題はどちらかというとこっちよ」
「こっち、ですか?」
「歩きながら話しましょうか」
騎士団の方に促され、私たちも歩き出します。ここで逆らってもいいことがないからです。
「まずはこの人数を守るだけの手段がない。一応私とルルがいるけれど、今の時点ですでにかなり弱体化してしまっている。時間が経てば経つほどにロウと離れて、次第に魔法少女ですらいられなくなる。そうなれば魔導書状態の私とルルをアナタたちに持って移動してもらうしかない」
「魔導書は主人から離れると弱くなる、ですか」
「ええ、おじいさまくらいになれば問題ないのだけれど、ロウのような半人前にはまだ無理ね。なににせよ、これからアナタたちは間違いなく戦闘することになるわ。そして戦闘の指揮をとれるのがファスだけ。その状態でシスターズをまとめなければいけない。これがどれだけ面倒くさいか、わかってるわね?」
「まあ、なんとなく……」
「最悪は、逃げることだけ考えればいいわ。ファスはそういうの慣れているだろうし」
「慣れてるんですかね」
「慣れているというよりも向いているという言い方が正しい。氷というのは特性上攻撃も防御も卒なくこなせる。爆発的な攻撃力や細かい作業に向かないけれど、ね」
「言ってくれるじゃないかメームルファーズ」
「本当のことでしょう? 自覚、してるんじゃない?」
「そうね、言い得て妙だからこそ突っ込みたくなるというか、な」
「面倒な正確だこと。まあ、そういうことだから。ファスにかかるウエイトはなかなかのものだけれど、こればっかりはどうすることもできないわ」
「わかった。いざとなったら任されよう」
「いざとなったらというか、たぶんすぐに来ると思うわ。どんどんと距離は離れてる。今の私とルルの戦闘力はファスの三分の一程度しかないわ。レアも大変だと思うけれどなんとか乗り切ってほしいものね」
レア、と言われて嬉しくなります。ああ、これが私の名前なんだ、と。
「なんとかします。ロウと合流するまでは姉妹も守るし、生き延びてみせます」
「言い切れるのであれば問題なさそうね。ただ、騎士団の動向にだけは気をつけて」
「騎士団ですか?」
「あの騎士団はどこの国にも所属してない。この周辺の自治体で、あそこまでの規模を持つ騎士団を持てるような場所はない。あの騎士団が何者で、誰の差し金でなにをしようとしているのか。それがわかるまでは警戒した方がいいわ」
「わかりました。肝に銘じておきます」
「ええ、お願いね」
メーメが「ふふっ」と微笑みます。この笑みが一体なんなのか、私にはよくわかりませんでした。
メーメはよく笑います。声を出してゲラゲラとは笑わないけれど、事あるごとに、小さく笑顔を作るのです。冷酷にも見える時があり、妙に色っぽい時もあります。しかしこの笑顔だけは柔らかく、メーメのことがよくわからなくなるのです。
私の右手を誰かが握りました。ミラです。下を向いてはいますが、私の手を強く握っています。いえ、握ってくれているのです。
その時気づきました。自分でもわからないくらい細かく、私の手が震えていることに。
だから私はミラの頭を撫でるのです。
「ありがとう。行きましょうか」
ミラが顔をあげます。小さく微笑み、大きく頷くのです。
今度は左手を誰かが握りました。今度はウェズでした。ウェズはミラと違い、とても元気いっぱいに笑います。エルメロード姉妹の下二人。お姉ちゃんである私がここまで励まされてしまうとは。
「ありがとう、ウェズ」
「へへっ、みんな一緒だよ」
「そうですね」
二人に手を引かれて歩きます。姉妹という感覚を得るには、まだ少しだけ時間がかかるかもしれません。でも、血がつながっていて、お互いのことを思いやれるというのはとても素敵なことだと思います。だから、いつまでも大切にしたいなと、少しだけ強めに手を握りました。
先頭で人々を導く騎士が三人。いずれも男性です。体格は皆同じような感じで、身長が高く筋肉質です。金属製の鎧は着ていませんが、かなり厚めの生地で作られた布の鎧を着ています。布の鎧にも兜があり、フードのようになっています。あれでなにが守れるのかは正直わかりません。腰には剣、胸元には銃。これだけでも充分すぎるほど威嚇になるでしょう。
つまりそれは、一般人ならば格好だけでも従わせることが可能ということです。今の状況は「騎士団に先導される難民」のような扱いですが、本質は別の部分にあります。「従うしかない」状況なのです。武器を持った謎の騎士団が、一見すると親切心のようなもので民衆を導いている。見方を変えるだけで、武装によって民衆を連れ歩いているというようにも見えます。
私たちは最後尾を歩いています。その後ろには三人の騎士。二人は体格がいい男性ですが、一人だけ女性が混じっています。こちらは体格がいいとは言えません。身長も私と同じくらい、筋肉質という感じではない。装備などは他の騎士と一緒ですが、彼女だけは少し空気感が違って見えました。女性だから、というわけではないと思います。
しかしながら、その空気がなにを意味しているかまではさっぱりわかりませんでした。
線路を歩き続けて二時間あまり、ようやく駅が見えてきました。遠目ではありますが、そこにも騎士たちが待機しているようでした。おそらく、先行した列車に乗っていた騎士でしょう。
駅についてホームに上がります。しかし、出入り口を騎士団が塞いでいます。これでは誰も出られません。それは先行した列車の乗客も、歩いてたどり着いた乗客も同じようです。
近くにいた人に声をかけてみましょう。メーメが言っていたように、騎士団に気を付けるのであれば直接話しかけるのは避けたいところです。
「あの、どうされたのですか?」
優しそうな老夫婦、その奥様の方に訊いてみました。
「それがね、騎士団の方々が通してくれないのよ。列車に対しての攻撃が人為的な物である以上、乗客にそれを先導した者がいるかもしれないって」
気がつけば騎士の数が増えていました。見えるだけでも三十人はいるでしょうか。最初は十人くらいだとおもったのですが……。
駅員の方とも話をしているようです。駅員の方は苦い顔をしながらも頭を下げています。つまりこの聖十字騎士団という団体はそこそこ顔が利くということでしょう。




