十二話
「どうぞこちらへ」
一人の兵士が先頭に立ち、教会の中に案内してくれた。
ドアを開けると、正面の壁に巨大なステンドグラスがあった。夜なのでよくわからないが、昼間はさぞ綺麗なんだろう。
教会の真ん中を進んで、一番前の列を右に曲がる。その正面にあるドアを開けると長い廊下が続いていた。長いだけじゃなく非常に広く高い。大人の男が五人以上並んでも問題なく歩けるくらい広い。壁も天井も白い。材質がなにかわからないほど、厚めにペンキが塗られていた。
長い廊下の左右にあるドアをいくつも通り過ぎる。ドアが並ぶ間隔的に、部屋そのものはあまり大きくなさそうだった。
正面のドアに到着した。他のドアの数倍ある大きなドア。そこにもまた兵士らしき人物が立っていた。
その兵士がドアを開けてくれた。ドアマンさせられてる兵士っていうのもまた、なんとも言えない悲しさがある。
ドアの先には長く豪華そうなテーブル。テーブルの上にはすでに料理が用意されていた。こちらもまた非常に豪華だった。天井にはいくつものシャンデリア。壁には絵画や壺が飾られていた。
「やあやあ、待っていたよ。さあ、こちらに座ってくれ」
祭司自らが出迎えてくれた。
案内されるがままにテーブルにつく。上座に司祭、司祭から見て右手に俺、左手に幼女二人。それ以外には誰も座っていない。一応、ドアの左右に兵士が一人ずついる。その程度だ。
「はい、じゃあいただきます」
「い、いただきます」
俺がここまで食事に躊躇するなんて初めてだ。いろいろとざっくりしすぎてて、いろいろとさらっといきすぎてる。
「なあ、食べる前に訊いていいか?」
「うん、なんだい?」
肉を切ろうとした手を止め、ナイフとフォークを置いた。
「俺の名はロウファン、アンタの名は?」
「貴様! 司祭様に失礼だぞ!」
「大丈夫ですよ。私の名前はヴォルフです。そちらのお姫様たちは?」
お姫さま、と言われてアンが少しだけ恥ずかしそうに頬を染めた。タルトは「ふふっ」と笑っていた。
「アンクレスカ、です」
「タルタロッサと申します」
「うん、可愛らしくていいですね。でも、ロウファン様は名前が訊きたいわけではないんですよね?」
「まあ、そうだな。他にも騎士団の人間がいると思ったんだが、いつもは一人で食事をしてるのか?」
「そうですね、基本は一人ですよ。騎士団の方々は、こちらとは反対側の通路の先、そこにある食堂で食事をするので。たまーに、ここで食事をする方もいらっしゃいますけどね。なかば、勝手にですが。ああ、お二人は食べていても大丈夫ですよ」
にこやかに、魔法少女たちに微笑んだ。
ヴォルフが号令を出したのでは、と思うほどにタイミングよくドタドタと足音が聞こえてきた。
「ヴォルフー! いるかー!」
盛大にドアが開けられて、一人の少女が入ってきた。
丸い顔だが可愛らしい顔立ち、長めのポニーテール、身長は非常に低く魔法少女と同じくらい。しかし服装は騎士団のものだ。兵士ではない。列車で出会った、青い刺繍の軍服だ。
「あー! また私をおいてご飯食べてる! あー!」
「来ると思っていたので用意させましたよ」
ヴォルフが手を叩くと、ヴォルフの背中側のドアからシスターが入ってきた。三人のシスターは、それぞれ別の料理を持っていた。俺たちと同じものが三つ。
「ヴォルフに迷惑かけるなって言ってるだろ」
「いつものことよ」
新たに、同じような軍服を着た男と少女が入ってきた。男の方は俺と同い年くらいか、身長は俺よりも高くすらっとしている。無駄な筋肉がない感じ。目は切れ長で顔もほっそりとしていた。
もう一人は、最初に入ってきた少女と同じくらいの身長。髪は前から後ろにかけて後ろ上がりなっているボブカット。ただしこちらは無表情で、その瞳は目に映るもの全てを見下しているみたいだった。
アンの横に料理が一組、俺の横に料理が二組置かれた。
「事後承諾になってしまいますが、お隣よろしいですか?」
「ああ、俺は別に構わないが……」
「ありがとう。それじゃあ三人共、席について」
俺の横に幼女が二人、魔法少女の横に青年が一人座った。
「はい、じゃあここで自己紹介。ウィロウからどうぞ」
「聖十字騎士団所属、ウィロウだ」
「同じく聖十字騎士団所属、カレットでーす!」
「同じくシュリアよ」
また同じ自己紹介をしなきゃいけないのか、と思った。が、そこはヴォルフが紹介してくれた。空気が読める良い奴じゃないか。
「で、この人は?」
ウィロウがヴォルフに訊いた。
「旅の方だよ。こういう交流も悪くないかなと思いまして」
「自分がこの組織のトップだって自覚があるのかね……」
やれやれ、といった感じで食事を口に運んでいた。おい、俺たちですらまだ食べてないんだが。
「それで他に訊きたいことはあるかな?」
「いや、特にはないな。あーいや、ちょっと待て。まだあった」
「はい、なんでもどうぞ」
「アンタがここのトップっていうのは、まあ、今の会話でわかった。でだ、なんでこんなところに騎士団を?」
俺がそう訊くとアンがむせた。すごく睨まれているが、まあ理由はわかるが。
「そうですね、いずれはもっと大きなところに出ようと思っていますよ。戦力を大きくして、貧しい人たちを助けるような大きな騎士団にするのが夢ですね」
この笑顔には嘘偽りはない。それは俺にもよくわかる。これでも胡散臭いヤツらと、顔だけはたくさん合わせてきたからだ。
「貧しい人たち、ね」
「ちなみに、この町の漁業や農業を発展させたのも私です。最初は大変でしたが上手くいってよかったです」
「なるほどな、そりゃすごい夢だ。叶うといいな」
「ええ、がんばりますよ」
よく笑うヤツだ。特に最後のは大人の笑顔じゃない、無邪気な子供の笑顔だった。
「んじゃ、食事でもするか。長引かせて悪かったな」
「いえ、問題ありませんよ」
ようやく食事らしくなってきた。
ナイフとフォークを使って肉を切る。力を込めなくてもナイフが肉に食い込む。かなりいい肉を使ってるんだな。
そんなことを考えながらも食べ進めた。タルトとアンも順調に食事を食べ続けていた。
つつがなく食事が終わった。いや、本当によかった、なにもなくて。




