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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と腐った聖人》
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九話

 アンを先頭にして森の中を歩いていく。風に乗ってやってくる潮の匂いがなんとも言えない風情を感じさせた。こんな状況であるが、海の近くも悪くないと思わされる。


 魔力が完全に回復していないので進行速度は抑えた。ここで魔力を消費して、いざという時に戦えないと困るからだ。


 動物や魔獣はまったく出てこなかった。空に鳥が飛んでいるわけでもない。が、どこからか魔獣の鳴き声が聞こえる。聖十字騎士団が退けたドラゴンの鳴き声とそっくりだった。


 潮の匂いが強く、この森とはギャップがあるように感じた。どうしてそう感じたのかと言えば、それはきっと俺の固定概念の問題だろう。こういう場所に来たことがないから違和感を感じているだけだ。


 一時間ほど歩くと集落の入り口が見えてきた。歩みを進めると、その集落の大きさがよくわかる。


 周囲を木の壁で覆っているその集落は、アンが「集落」という表現をした意味が伝わるようだ。


 壁にはなにかの旗が刺さっていた。青い十字の旗だった。


 しかし集落の中は近代的で、藁で作った屋根の家なんかは一つもない。入り口から見える町並みは、それこそ町と言ってもいいほどだ。キチンと切り揃えた樹木を使い、二階建ての家もあるくらいだ。レンガの家もある。これもどこか違和感があった。


「おや、旅のお方ですかな」


 集落の入口に立っていると、中から人が出てきて声を掛けてくれた。もしゃもしゃと白いヒゲを生やした、背の低い老人だった。糸目であり、人の良さがにじみ出るようだ。


「まあ、近いものがあるな。ここはどういう町なんだ?」


 集落という言い方はよくないと思って言葉を変えた。


「バラーシャの町です。こんなところに旅の方が来るのは久しぶりです。どうぞどうぞ、遠慮なさらず中へ」

「じゃあ、失礼します」


 アンとタルトの方を見た。二人は小さく頷いた。


 町の中はやはり近代的だった。町を覆う木の壁とは温度差がある。


「失礼だが、ここの人はどうやって生計を立ててるんだ?」

「そうですな、主に漁業、農業になりますかな。バラーシャで育つ野菜の中には、他では手に入らない特殊なものもありますからな」

「なるほど、な」


 漁業と農業で生計を立てているとは思えないほど、この町は裕福層に見える。が、それは木にすることではないな。余計なことはせずにレアたちと合流することを優先しよう。


 町の中は賑やかで、行き交う人たちは皆笑顔だった。服もしっかりとしたものを着ていて、本当にちゃんとした町なのだなと思った。いや、こんなところにある町の人間がしっかりとした服を着ているのは若干疑問ではあるが。


「俺たちはエルクストに行きたいんだが、ここからだとどれくらいかかる?」

「エルクストですか。魔導車でも四時間はかかりますのう」

「この森で魔導車が通れるのか?」

「オフロード使用の車なので速度は出ません。でもなんとか走れますぞ」

「バスなんかはないのか?」

「ありますが、一日一本だけですな。お昼過ぎなので、今日はもうありませぬ」

「そうか。ちなみに今何時だ?」

「十六時過ぎですね。どこかに泊まられますかな?」

「そうするしかなさそうだ。宿に案内してもらえないか?」

「そう思って案内させてもらいました」


 老人の足が止まった。


「なるほど、それはありがたい」


 目の前には宿屋。この老人は予想以上にできる男のようだ。


「それでは、これで失礼します」


 老人は会釈してどこかに行ってしまった。


「仕方ない。今日はここに泊まろう」

「そうですね、それしかないでしょう」

「幸いと言っていいのか、財布なんかも落とさなかったしな」


 ツーヴェルと連絡を取る手段はなくなったが、財布があればなんとかなるだろう。


「それは落とさなかったんじゃないんですよ?」

「ちょっとタルト!」

「こういうのはちゃんと言わなきゃダメ。アンは自己主張が弱すぎるのよ」

「落とさなかったんじゃないってどういうことだ?」

「財布はアンが拾って来たんですよ。海の中に潜って。だからロウもアンに感謝してくださいね?」

「そういうことだったのか。ありがとうな、アン」

「べ、べべべべつにアンタの、ためだけど……」

「ああ、ありがとう」


 アンの頭に手を乗せてグイグイっと撫でた。


「撫でる、力が、強いのよ!」


 そんなことを言いながらも受け入れている。案外嫌いじゃない。っていうのは俺も知っているからこうする。


 宿屋の中に入った。電灯もシャンデリアだったり、フロントにソファーが並べられていたりと妙に小洒落ていた。


 帳簿に名前を書いて受付を済ませた。


 案内された部屋は一番狭い部屋だ。ベッドもダブルベッドが一つ。決して魔法少女たちとくっついて寝たいからではない。ここが一番安いのだ。なにがあるかわからないので極力出費は避けたい。


「アナタ変態なの? ロリ趣味なの?」

「ここが一番安いんだよ。仕方がないだろ」

「まあまあ、二人共落ち着いてください。私はロウと一緒に寝るの、嫌いじゃないですよ。アンはイヤなんですか?」

「イヤでは、ないけど」

「ロウは?」

「俺は好きだぞ。寝る時に人肌が近くにあるのはいい。安心できる」

「はい、この話は終わりですね」

「少々強引ではあるがとてつもなく合理的だ。ありがとう」

「どういたしまして。で、これからどうなさいますか? 町の様子でも見に行きますか?」

「そうだな。ちょっと気になることもあるしな」


 ため息をつくアン、ずっとニコニコしているタルト。案外この二人は相性がいいのかもしれない。


 その二人を連れて宿の外に出た。町の大きさを把握するため、一旦入り口に戻ってから散策を開始した。

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