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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と腐った聖人》
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八話

 目を覚ますと地面に寝かされていた。


 日差しは眩しくない。逆に暗くてほとんど見えない状態だ。どこか洞窟のような場所だろう。ジメッとしていて土臭い。


 ゴツゴツとした地面のせいか背中が若干痛い。なのに頭の下はとても柔らかかった。


 徐々に目が慣れてきてその理由がわかった。


「目を覚ましましたね」


 そっと頭を撫でられた。


 目の前にはタルトの顔があった。膝枕をしてくれているんだろう。とても心地いいのだが、さすがにこのままというわけにもいかない。


 上体を起こして周囲を見渡す。遠目に光が見えた。洞窟の中、入り口から少し離れた場所だ。


 と、胸を切られたことを思い出して視線を落とした。包帯が巻かれており、白い包帯にはだいぶ血が滲んでいた。不思議なのは、少しジンジンと熱いけれど痛みはそこまでではなかったことだ。


「お前がやってくれたのか」


 タルトを見てそう言った。


「止血と痛み止めはしておきました。包帯に滲んでいる血液で傷口に蓋をしましたが、傷が深すぎて止血くらいしかできませんでしたが……」

「いや、ありがたい。でも包帯なんてよく持ってたな」

「それはアンが持ってきてくれたんです」

「アンはどこに?」

「外で見回りをしてますよ。帰ってきたら褒めてあげてください。私たち魔法少女は魔力さえあれば傷は癒えます。包帯を持ってきたということは、ロウの身を案じてのことだと思いますから。持ってきていたのは包帯だけではありませんでしたけど」

「アンのことだ、普通に軟膏なり胃腸薬なり風邪薬なんかもあったんだろ?」

「ええ、ロウはよくわかってますね」

「バカ言うな。それくらいわかってる。それはそうとしてあれからどうなった?」

「逆に質問ですが、ロウはどこまで覚えていますか?」

「攻撃されて、森の中ふっ飛ばされて、水の中に落ちた。んで手を引かれた。お前とアンだったんだな」

「はい。ロウは吹き飛ばされて海に落ちたんです。できるだけ近くの浜辺まで運び、洞窟で治療させてもらいました。ですが、列車とはかなり距離がありますので、今から戻るのは難しいかと」

「メーメとルルは置いてきたのか?」

「シスターズの数が多いので道案内がいないとツーヴェル様のところまでたどり着けませんからね。ロウと距離が離れれば魔法少女化できなくはなってしまいますが、魔導書の状態で会話くらいならできますから」

「そりゃそうだな、魔導書と主人はそういう関係だ。俺は四人の魔導書と契約しているから、メーメとルルが死んでも俺は死なない。俺の魂が四分割されてるようなもんだからな。ただ、俺の寿命が縮まる。それに魔導書を失うのは痛手だ。できればレアに守ってもらいたいが……」


 ここで、タルトが少し悲しそうに眉根を寄せた。


「ロウは、私たちのことをただの魔導書としか見ていないのですね」


 ああ、そういうことか。


「俺は主人でお前たちは魔導書。これは揺るがない事実だろ?」

「それは、そうなのですが……」

「しかしまあ今のは言い方が悪かった。それは謝る。俺はお前たちのことをただの魔導書としてみているつもりはない。死ねば当然悲しい。ただ俺に影響があることも忘れないで欲しいんだよ」

「それは大丈夫だと思いますよ。皆、ロウのことは好きですから。でも言い方には気を付けた方がいいかもしれませんね。ルルなんかは精神的に少し弱いですから。あとアンも」

「そうだな。次からは気を付ける」


 立ち上がり、少しだけストレッチをした。


 痛み止めはしてくれているらしいが、それでも全身が軋むように痛かった。ここで攻撃してきたヤツが現れでもしたら終わりだろうな。


「起きたのね。調子はどう?」


 そこでアンが帰ってきた。手にはなにかの果物を何個か持っていた。


「調子はあまりよくないな」

「そう、じゃあこれで体力回復なさい」


 と、俺に果物を差し出してきた。見た目はリンゴと大差ない。


「それ食えるのか……?」

「大丈夫よ。図鑑で確認した」

「そんなもん持ってきてたのか?」

「スルヴァンの図書館で読んだのよ。ちょっとした時間でね」

「お前そんなことまでやってたのか」

「私くらいになるとそれくらいは普通にできるわよ。できる女ってやつ――」


 アンの頭に手を乗せて二度三度と撫でた。


「ありがとな」


 差し出された果物を受け取り、迷いなく口へと運んだ。リンゴよりも甘みがあり、その代わりに汁気が少なかった。


 アンが「大丈夫」と言ったら大丈夫なのだ。ちゃんとした知識があって、その上でちゃんと吟味したのだろう。そうでなかったら、たぶんアンは「大丈夫」と自信たっぷりに言わないだろう。


「わ、わわわ私の知識が間違ってたらどうするの?」

「お前がそんなヘマをやらかすとは思えない。お前は曖昧ならノーと言える女だ。基本的にギャンブルはしないし、たぶん俺の魔導書の中で一番臆病でリスクヘッジが上手い。信用できると思った。理由なんてそんなんでいいだろ」

「ま、ままままあ私くらいできる女なら当然よね!」

「そう、当然だ。だからこれからも頼むぞ」

「うん、わかった……」


 こういう素直なところがあるから憎めない。


 アンから残りの果物を受け取って出口の方へ。


 とりあえず一つ目の果物を食べ終わった。洞窟の外に出て種の部分を外に放った。


 後ろからアンとタルトがついてきた。同じように外を見ていた。


 アンが取ってきてくれた果物を全て食べ終えた頃、俺の腹はだいぶ満たされた。苦かったり辛かったりすることもなく、これもまた彼女が考えて取ってきたのだとわかる。


「タルト、俺が意識を失ってからどれくらいだ」

「二時間程度ですね」

「アン、周囲の様子は」

「大丈夫、魔力の反応もないわ。生体反応も動物だけだわ。列車までの距離は正直わからない。完全に分断された、と言ってもいいわ」

「早めに合流したいところだな。上着をくれ」

「しかしですね……」

「腹も満たしたし問題ない。このままレアたちと分断されている方がよほど問題だ。メーメとルルも心配だしな」

「そう言われるとなにも言い返せないじゃないですか」


 タルトがため息をついた。


「そうだ、洞窟を出て左の方に行くと集落があったわ。このへんの地理はよくわからないし、その集落で情報収集した方がいいんじゃない?」

「それもそうだな。集落の規模は?」

「結構大きいわよ。町以上、市以内って感じ」

「わかった。それじゃあ行くか」

「はい、上着です」

「すまんな」


 上着を来着てから胸に手を当てた。血は滲み出していない。このままならいけるだろう。タルトの治療なら信用もできる。

 

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